IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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明日は投稿できるか不安なので2話投稿します。
可能でしたら明日も2話投稿しようかな…


訓練開始  ~ 誰よりも速く ~

Ichika View

 

昼休み時間も終わりに近づき、教室に戻る。

簪は四組だから一組の前で別れた。どうにもこの瞬間だけは少し淋しく思える。

同じクラスになれたら良かったんだけどな…それは来年に期待するしかなさそうだ。

 

「織斑兄妹、席に戻れ、授業は近いぞ」

 

「はぁい」

 

「了解です」

 

千冬姉の忠告に応えるようにマドカ、俺の順に返答し、そそくさと席に着く。

 

「なあ、一夏」

 

「なんだ、箒?」

 

「話に出ていた模擬戦、本当にするつもりなのか?

ISの稼働時間が短いんだろう?」

 

確かに稼働時間は極端に短い、検査の時に歩行訓練をさせてもらっただけだ。

とてもじゃないが戦闘訓練なんてさせてもらっていない。

 

「まあ、確かにな。

俺はともかく、マドカだったら…えっと…なんて言ったっけ…思い出した、セシリア・オルコットに余裕で勝つだろうけどな」

 

楯無さんから情報は貰っている。

セシリア・オルコットとマドカの機体は所謂『姉妹機』だ。

BT1号試作とBT2号機発展型。

マドカは自分の機体がどのようなものかを告知していないので、試合当日までは隠すことになる。

だが、あの二人が戦ってもマドカが勝つと俺は信じている。

まあ、問題は確かに俺にあるんだけどな。

 

「ISの訓練が必要なんだろう、なら」

 

「時間だ、着席しろ篠ノ之」

 

「むう…」

 

不機嫌そうな顔をして箒は着席した。

 

 

 

 

そして放課後。

 

「ではこれで今日の授業を終了する!」

 

待ってました!

 

俺は教材を片っ端から鞄に詰め込む。

向かうは第3アリーナだ。

ISスーツが入った手提げ袋を急いで準備する。

 

「一夏、昼休みの話なんだが」

 

「悪い、急用が入ってるんだ。のほほんさん、後でまたな!」

 

「おりむ~、行ってらっしゃ~い!

また後でね~♪」

 

のほほんさんの返事を聞き、俺は再びマドカを肩に担ぐ。

 

「ちょっ、兄さん!?まさか!?」

 

「時間に間に合わないと何を言われるかわからないからな、ショートカットするぞ!」

 

換気の為に開けられていた窓に向かって走る。

 

「ひあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!??」

 

全力で走り、強く床を蹴り跳躍、窓淵に足を乗せ、ジャンプした。

窓から飛び降り、近くの木の枝に飛び移る。そしてさらに別の木へ。

それを繰り返しながら地面の近くにまで移動していく。

そして下駄箱の付近に着地する。

 

「なんて無茶をするの兄さん!?」

 

「ほら、第3アリーナに急ぐぞ」

 

時間に間に合わなかったら楯無さんが何を言ってくるのやら。

大概の人の小言は受け流せる自信があるが、あの人になると話は別、というか別格だ。

切り抜けられる自信はあまり無い。

なのでマドカを肩から下ろしてから全速力だ。

第3アリーナの更衣室に飛び込み、支給されたISスーツに着替え…

 

「…引っ掛かる」

 

「何が引っ掛かるの兄さん?」

 

「いや、何でもない」

 

俺のスーツは倉持技研の特注品だ。

男性用スーツなんて過去に例が無かったからか、特注品だ。

イングリッド社の『ストレートアームモデル』ベースの改良版を薦められた時には全力で断らせてもらった。

腹部露出は断じて俺の趣味じゃないし、傷痕を見られるわけにもいかない。

なので同社の『ダイバーモデル』のカスタム品を注文した。

露出しているのは手首から先と首から上だけだ。

 

「着替えは終わったかマドカ?」

 

「いつでも行けるよ」

 

スーツを着替え終わり、ロッカーに施錠して、アリーナへと向かう。

 

「あら、一夏君。

時間には間に合ったみたいね」

 

その通路の途中で楯無さんに遭遇した。

楯無さんもISスーツに着替え終わっているようだが…正直に言えば、目のやり場に困る。

女子がISスーツに着替えると、外見としてはスクール水着に近い。

更にはハイニーソにブーツを組合せているかのような外見だ。

 

「…マドカ、足を踏むな、かなり痛いぞ」

 

「兄さん、浮気はダメだぞ」

 

しないから。

 

「あら~?

一夏君ってばお姉さんのプロポーションに魅了されたのかしら~?」

 

違います、目のやり場に困ってるだけです。

だからマドカ、足を踏まないでくれ、痛いから。

俺は簪しか見ていないから。

 

「そうそう、一夏君に渡しておくものがあるのよ」

 

そう言って楯無さんが取り出したものは、一つのブレスレットだった。

ただのアクセサリーなわけは無いだろう、渡す理由も無いだろうし。

 

「…コレは?」

 

「一つの保険だと思いなさい。

もしも…こんな言い方は嫌だけれど、一夏君が発作を起こした場合に、すぐにでも判るようにするためのものよ」

 

…言ってしまえば犬の首輪か。

 

「このブレスレットに組み込まれているセンサーが反応すれば、私や織斑先生が持っている通信機に即座に連絡が入るようになっているわ。

当然、場所もすぐわかるようになってるわ」

 

「…兄さんの場所も…」

 

不安要素が一つ出てくる。場所が分かるになっているのであれば

 

「常に場所を探知されているってわけですか?」

 

「プライバシー侵害になったりしないように座標情報は、センサーが発作を探知した時だけ作用するようなっているから安心して」

 

なら、一先ずは安心か。

 

「楯無先輩、私にもその通信機が欲しい!」

 

「もちろんマドカちゃんにもあげちゃうわ。

あ、簪ちゃんにも渡してあるからね♪」

 

そしてまた何処からか小さい端末を取り出して…って、ちょっと待て。

この人の服装はISスーツとブーツだぞ。

 

「…このブレスレット、何処から取り出したんですか?」

 

「………あは♪」

 

………気にしないでおこう。

俺はくだらない思考をそこら辺のゴミ箱に叩き込み、左手にブレスレットを着けるのだった。

 

 

 

 

 

俺が訓練で使うようになったのは、日本製第二世代量産機『打鉄』だった。

汎用性の高いフランス製第二世代量産機『ラファール・リヴァイヴ』よりも、先ずは安全性を重視しての訓練を行うとの事。

 

「装着完了、と」

 

視界が360゜に広がる。

ハイパーセンサーは問題無し。

マニピュレーターも問題はなさそうだ。

 

「なら、最初は歩行訓練からよ。

マドカちゃんは…30m程離れた場所で待機。

一夏君、そこまで歩いてみて」

 

「了解」

 

ゆっくりと足を動かしてみる。

重みはあまり感じられない。

PICは異常無く起動している。

右足で踏み出し、地面を踏む。

次に左足、更に右足を。

それを幾度も繰り返してマドカの居る場所に到着する。

 

「マドカちゃんはこっちに戻ってきて。

歩行は問題無いから、次は機動訓練に入るわよ」

 

マドカが楯無さんの場所に戻る。

今度はスラスターを利用しての移動になる。

 

「最初はゆっくりよ。

歩くようなペースで移動をしてみて」

 

「判りました」

 

ISを操縦するのにもイメージ力が必要だ。

歩くのではなく、前に進むのに必要なイメージ。

前にへと滑り出すようにイメージを固め、前へと動き出す。

なかなかに心地良い。

 

「次はどうすれば?」

 

「そうね…加速しながら正確な制御ね。

その動きのまま、アリーナの壁に沿って動きなさい。

念のためにマドカちゃんもお姉さんと一緒に同行よ!」

 

視界の片隅でマドカの『サイレント・ゼフィルス』、楯無さんの『ミステリアス・レイディ』が起動する。

濃紺と空色の機体がスラスターを吹かせ、俺が搭乗する『打鉄』の左右についてきた。

 

「兄さん、もう慣れた?」

 

「いや、まだだな。

まだ体に違和感を感じるよ。

これは俺の体じゃない、そんな感覚だ」

 

「その感覚にも早い内に慣れておきなさい。

ISを受け入れるのも、訓練の一つよ」

 

「判りました」

 

『受け入れる』、か。

それも重要だな。

授業でも出ていたな。

ISには、人間の『人格』に近い何かが存在する、と。

搭乗を繰り返す事でシンクロし、より高いパフォーマンスが可能になる、と。

 

「これで3周したわね。

じゃあ、次は逆回転よ」

 

「了解!」

 

スラスターを弱め、充分な減速をしてから、向きを変える。

再度スラスターを吹かせ、加速をする。

 

「減速や加速は充分に出来てる。

次は飛行訓練に移るべきじゃないのか?」

「お姉さんもマドカちゃんに賛成よ。

じゃあ、飛んでみましょうか」

 

此処からが本番だな。

全てのISは飛行が可能だ。

飛んでいるからこそ、ISは世界最強の兵器として君臨しているんだから。

 

「えっと…飛行に必要なイメージは…」

 

授業では『三角錐の展開をイメージ』と言っていたな。

だが必要なイメージなんて個人によって違うだろう。

俺が抱くイメージは…『手を延ばす』。

それに尽きる。

未だに届きえない高さへと辿り着く為に。

 

 

打鉄の両足が大地から離れる。

俺は…確かに空を飛んでいる…!

 

「これは…凄いな…」

 

「喜ぶのはまだ後にしなさい。

訓練はまだまだ続くのよ!

そのまま加速しなさい」

 

言われるままに加速してみる。

最初は徐々に、次第にスピードを上昇させていく。

訓練機でも、結構なスピードが発生する。

二人が傍から離れ、続けて、上昇、下降、更に着地も行う。

最初は着地が上手くいかずに地面に激突したが、数回繰り返して、ようやく何とかなった。

続けて完全停止訓練。

最初は目標を50cmから。

次第に数値を小さくしていく。

最後は目標数値は5cmに。

これもなかなかに難しい。

加速と下降を行い、一定距離まで下降すると姿勢制御と減速を同時に行う。

地面スレスレで速度をゼロにしてやらないとダメだ。

 

「一夏君、次は目標3cmで完全停止」

 

「了解」

 

高さ30mから加速と下降を行う。

減速…よし、このタイミング!

 

足を地上に向け、脚部スラスターを吹かす。

それを細かく幾度も繰り返す。

同時に背部のスラスターを弱め、脚部のスラスターを強める。

若干の土埃を起て、打鉄は完全停止した。

 

「惜しいわね、目標まで1cm足りないわ」

 

「ぐっ…」

 

「でも、最初に比べると、ずっと上手くなってる」

 

マドカのフォローが痛い。

そりゃあな、最初は派手に穴を空けたからな…。

減速訓練をしてなかったら、深さ3m以上はアリーナを刔っていただろうな。

 

「完全停止も充分だし、次は上級機動訓練ね。

『瞬間加速』と『マニュアル制御』を習得してもらうわよ」

 

さあ、此処からは、また一段と難しくなるぞ。

 

瞬時加速(イグニッションブースト)

一気に相手の懐に入り込む、奇襲攻撃。

ただし、通じるのは一回のみ。

それ以降は相手に警戒されてしまうとか。

 

「楯無先輩、兄さんは銃が…」

 

「うん、それは知っているわ。

その欠点を抱えている以上、近接格闘しか出来ないわね」

 

これに関しては面目ない。

俺の決定的な欠点だ。

銃は使えない、それどころか視認しただけで錯乱する。

ISでの戦闘を行う上で、致命的な欠点だ。

昨今のIS戦闘では、銃撃、砲撃などが主流になっている。

近接格闘メインの選手は少ない方だ。

 

俺に支給される機体は高機動が想定されている。

なのでここからの訓練では後付武装としてスラスターが搭載された高機動パックを打鉄に装備させて行われることになった

 

「兄さん、打鉄の最大速度でアリーナの端から端まで移動をしてみて」

 

「判った」

 

言われるがままに、移動を開始してみる。

最初は緩やかな速度で、4分の1程移動してから最大速度に達し…

 

「遅いわ、もっと早い段階で最大速度にしなさい」

 

「了解!」

 

もっと…もっと速く

 

「まだ遅い!」

 

「はい!」

 

まだだ…もっと速く…

 

「打鉄でもまだ速度は出せるわよ!高機動パックも併用しなさい!」

 

「はい!」

 

誰も到達出来ない程の速さを…

 

人では到達出来ない速さ。

思い描くのは…天を駆けるあの存在のような…

 

「もう一度!」

 

「はい!」

 

「もう一度!」

 

「はい!」

 

「更に速く!」

 

「はい!」

 

想像以上に楯無さんの指導はスパルタだ。

打鉄での訓練も慣れてきたが…これはキツい。

 

「そうね…次は…」

 

高いポールに乗せられたターゲットを中心にしての旋回だった。

マニュアル制御をしながら、ターゲットをロックし続ける。

銃は使えないので、備品庫に有った投擲用の槍を借りている。

刀に比べて扱いにくいな…

 

「この訓練の内容は、正確に間合いを図る為でもあるわ。

相手が射撃攻撃をしていれば、殊更にね。

一夏君が対戦する相手、セシリア・オルコットさんは射撃攻撃を行うわ。

技量はマドカちゃんに劣るけどね。

でも射撃攻撃は正確よ。

よく見れば回避も難しくないかもしれないわ。

でも、『相手が射撃メインというだけで、一夏君からすれば天敵』とも言えるわね」

 

「それは…自覚しています」

 

「だから…『銃を弓』だと思い、『弾丸を矢』だと置き換えなさい」

 

銃を弓、弾丸は矢。

そうすれば発作も制御出来るのか…?

 

「そこで『瞬時加速(イグニッションブースト)』!

槍で撃ち抜きなさい!」

 

「…!」

 

やべ、制御を誤った…!

 

直後、俺と打鉄は外壁に突っ込んだ。

痛みはそんなに無い。

シールドの存在に今は本気で感謝だ。

 

「兄さん!?」

 

「大丈夫だ、一度で諦めるかよ」

 

再びマニュアル制御を行う。

近接しての旋回、徐々に速度を上昇。

ターゲットをロックし、投擲の構え。

その全てに意識を割く。

 

「そこで投擲!」

 

槍を投擲する。

打鉄のシステムアシストは今回は無い。

その為、慣れない投擲は当たらなかった。

そのまま落下していく槍をマドカが空中で回収し、渡してくれる。

そのままマニュアル制御を繰り返す。

槍が正確に命中するようになったのは8回目からだった。

旋回からの瞬間加速にしても、成功したのも似たような回数からだ。

失敗する都度、外壁に突っ込んだ。

打鉄もあちこち傷だらけだ。

その癖に俺はシールドに守られて、悪くても擦り傷位だ。

 

「よし、じゃあ今日は此処までね。

後で第4整備室に集合よ。

簪ちゃんの機体組み上げをするわよ」

 

「はい…第4整備室…」

 

「整備課には私から話を通しているから、早くに組み上げが出来ると思うわよ。

それじゃあ解散!」

 

「ご指導、ありがとうございました!」

 

「明日は『後退加速(バックイグニッション)』と『射撃対策訓練(アンチ シューティング)

を行うわ。

遅れないように!」




おはようございます。
レインスカイです。
入学二日目の放課後から訓練開始です。
一夏君への特訓内容は最初からなかなかのスパルタコースの様子。
原作でも楯無お嬢様による訓練は過酷でしたね。
ルーキーにいきなりの上級訓練は過酷ですよお嬢様。

そして今回、箒が完全にモブでした。
セリフが少なっ!?

そして一夏君は窓から飛び降り。
皆さんはマネしないように!(誰もしないから)
人を担いで窓から飛び降りないように(誰もしないって)

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