IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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物語の始まりです。
原作スタートには、まだまだほど遠いですが。


運命が壊れたとき

動けなかった

 

自由があるのは指先だけだった

 

体の全体を革ベルトで固定され、どこか硬い場所に横たわっている。

俺が望んだ事じゃない。

 

光射し込む最後の記憶を思い出す。

 

そうだ…俺は千冬姉が出場するIS世界大会『モンド・グロッソ』での応援に向かおうとして…それから…駄目だ、記憶が無い…!

 

「は…な…せ…!」

 

此処が何処だか知らないが、こんな場所にいる場合じゃねぇんだ…!

 

ダァンダァン!

 

「が…っ!?」

 

両肩に激痛。

それにこの音…まさか拳銃!?

 

「抵抗したら駄目だろう、一夏?」

 

目を覆っていた布が取り払われる。

そこに居たのは…

 

「千冬姉…?」

 

…じゃない!

どこか似てるけど別人だ!

 

ダァンッ!

 

「…~~~~~~~~ッ!」

 

続けて腹に撃たれた!?

 

「…!はぁっ…!はぁ…っ!」

 

「あらあら、これで悲鳴もあげないだなんて、千冬ったらどんな教育をしてきてたのかしら」

 

「こらこら辞めないか」

 

暗闇の向こう側から今度は男が一人。

誰なんだよ…なんなんだよお前らは!?

 

「声はあげていないが…もう充分に『恐怖』しているだろう。

その証拠に…震えているじゃないか」

 

震えている…俺が…?

 

 

そう言われて初めて気づく。

手が震えている。

歯が嚙み合わずにカチカチと音を立てている。

俺は…『恐怖』している…?

 

「さあ、実験をするには調度良い『恐怖』感だ。

始めようか」

 

「やめろ…」

 

誰か…!

 

「やめてくれ…!」

 

助けてくれ…!

 

「や、やめ――――――」

 

この瞬間、俺の意識は完全に失われた。

ただ、覚えているのは…身を引き裂くような壮絶な痛みと…黒い雷だけだった

 

 

 

 

another view

 

 

「おい!此処で間違いないんだろうな!?」

 

「はい!情報では此処です」

 

見渡す限りの荒野だった。

建物など一つも見当たらない。

そんな場所を私はドイツ軍とともにISを使って高速飛行をしていた。

こんな場所、好き好んで飛び回りたいわけでもない。

それでも、今の私はこんな場所をを翔けている。

 

たった一人の家族の為に…!

 

「見えた、あそこです!」

 

「あそこに…一夏が…!」

 

装備『雪片』を抜刀する。

そして構える。

視線の先には鋼の扉、だがこの刀の前には紙も同然だ!

 

「はああああああああっっ!」

 

十文字に切り裂く。

続けて渾身の力をこめての突き!

轟音を立てて鋼の扉はただの鉄屑と成り果て崩れ落ちた。

 

「一夏!何処だ!」

 

「我々は奥を捜索します。

全部隊!制圧にかかれ!織斑一夏と思われる少年を捜索、保護しろ!」

 

「了解!」

彼女等に続き、私は下層へと降りていく。

邪魔になる扉を切り裂き、奥へと突き進む!

だが…あまりにもこの施設は不自然だ。

どれだけ奥へ突き進もうとも、『誰も居ない』。

奥に、下層に突き進み、最下層の地下20階。

何の目的で作られた場所かは判らんが…頼む…此処に居てくれ…!

 

そして最深部の扉を叩き壊す

 

「…ひ…!?」

 

その場所の光景を目にして悲鳴をあげそうになったのは誰だったのだろうか。

だとしても仕方の無いことだ。

この…血の海の惨状を目にしてしまえば…。

 

「生命反応は…一つだけです」

 

「ああ、その様だ…」

 

周囲は血の海、壁や天井には何かが燃えたような焦げ付いた痕跡。

そして…その血の海の真ん中には…一夏が横たわっていた。

 

「一夏、起きろ、目を覚ませ!」

 

だが一夏の様子もどこか不自然だった。

この血の海の惨状にも関わらず、両肩と腹以外は血に汚れていない。

まるで…いや、ただの思い過ごしだ、こんなもの…。

 

「心拍に異常は見受けられませんが、脳波が若干弱くなっています。

更には両肩と腹に被弾しています。

ですがわが軍の医療施設に運べば三日で完治します」

 

「すまん…頼む」

 

「了解しました」

 

「だが…一夏は私が運ぶ、いいな」

 

「承知しました」

それから私達はドイツ軍の駐屯地に向かった。

 

聞いた話によると、あの施設には一夏以外には生存者は誰一人として居なかったとの事。

一夏を利用して人体実験が施されていたようだが、その詳細は一切不明。データの全てが破損して復元も不可能だった。

更には…国際指名手配されているマッドサイエンティストどもばかりがあの場所に居たようだった。

何をするつもりだったのかは知らないが…絶対に許さない。

一夏を利用するなどと…!

 

 

 

あれから何時間が経過しただろうか。

手術室の扉が開いた

 

「織斑殿、弟さんの治療が終わりました」

 

「それで、一夏は…?」

 

「銃で撃たれた傷の手術は大丈夫です。

体内にとどまっていた弾丸の摘出も終わり、治療用ナノマシンによる自動治療により三日で動けるようになります。

ただ…至近距離で打たれた影響によるものか、傷跡は残り続けることになるでしょう」

 

「そう、か…だが無事ならよかった」

 

「ですが…」

 

「まだ、何かあるのか?」

 

「はい、実は―――――」

 

 

 

 

Ichika view

 

ゆっくりと…ゆっくりと眠りから目覚めていく。

 

まるで泥の中に沈んでいたかのような眠りだった。

 

「此処は…?」

 

見たことの無い天井が先ず最初に目に入ってきた。

嗅いだことの無い匂い。

窓から見える風景は知らない場所。

流れてくる風も、俺の知っている風とは違う。

 

そもそも此処は日本なのか?

たしか俺は…千冬姉の応援に行こうとして…誰かに誘拐されて…【そこから俺はどうしたんだ】?

まるで思い出せない。

 

「一夏、目が覚めたのか」

 

「千冬姉…此処はどこなんだ?」

 

「ドイツ軍の駐屯地だ」

 

なんでまたそんな所に?

俺は海外になんて出たこともないし、まだパスポートだって作ってないんだぞ?

 

「俺、モンド・グロッソの大会会場に向かう途中で誰かに連れ去られて…」

 

駄目だ…何も思い出せない!

 

「どうした?」

 

「何があったのか、そこから先を思い出せないんだ…」

 

「…無理に思い出さなくて良い。

お前の身が無事だった、ただそれだけでいい」

 

そう、なのかな…?

 

左手で額に浮いた汗を拭う。

何か妙に硬いものが額に触れた気がした。

左手を下ろし、手の甲に視線を向けた。

そこには

 

「なんだよ…これ…」

 

闇色に艶めく十字架があった。

それが手の甲に乗っていたのならまだ可愛げのある話だ。

ただ、その十字架は…『俺の手の甲に埋め込まれ』ていた。

 

「なんだよ…なんなんだよ…これ…」

 

不気味なそれに寒気が走った。

咄嗟にそれを剥がそうとするが、それだけでも身を引き裂かれるような痛みを感じ、俺は悶絶させられた。

 

「辞めておけ…それは、お前の神経に深く侵食している。

世界最高峰のドイツ最先端医療でも剥がすのは無理だそうだ」

 

それじゃあ俺は…こんなものを一生つけてなきゃいけないのか…。

 

「何故、お前にそんなものが埋め込まれたのかはわからない。

お前からすれば見たくも無いものだろう。

だから…」

 

千冬姉は俺に革手袋を渡してきた。

指は自由に動かせるオープンフィンガーグローブだ。

 

「それで隠しておけ」

 

「…ああ、そうするよ」

 

今、この左手は見たくない。

そう思い、俺は左手を手袋で隠した。

脱げないように、手首をベルトで締める。

左手にはかすかな違和感を感じるが、直に慣れるだろう。

 

「そうだ、モンド・グロッソはどうなったんだ?」

 

「私の不戦敗で終わった」

 

「…俺の…せいで…ゴメン…」

 

「謝るな、お前が悪いわけではない。

私はすでに名誉を一度手にしている。

それを浅ましく幾度も欲したりはしない。

家族を捨ててまで欲さんさ」

 

それでも…千冬姉の目標だったじゃないか…!

 

「さて、目も覚めたんだ。

明日か明後日には日本につけるように手配をしておこう」

 

「千冬姉はどうするんだ?」

 

「ドイツ軍には大きすぎる借りが出来たんだ。

此処で一年間、教官指導をするようになっている。

悪いがお前だけで」

 

「帰らないよ」

 

もう、弱いままの俺は嫌だ…!

こんなの、俺の我儘だってのは理解してる!百も承知だ!だけど!それでも!俺は…!

 

「頼む、千冬姉…俺を鍛えてくれ…!」

 

「…良かろう、だが私にも仕事がある。

一ヶ月間だけだ。

その期間でお前に徹底的に剣術を叩き込む。

だが剣術と剣道は別物だ…辛い話になるが…剣道を捨てる覚悟でいろ」

 

「ありがとう、千冬姉…」

 

強く…強くなるんだ…俺は…今度は俺が千冬姉を守れるほどに!

 




視点が途中から入れ替わったりしてますね。
それを分かりやすくする為にも、開業が目立ってしまうのが悩みどころです。
これでまた『文字数稼ぎ』に見られたりしないかが不安だったり…。
それではまた次回にてお会いしましょう

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