IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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ストックが少ない…近々不定期更新に入るかも…。


獄雷冥魔 ~ 仮衣 ~

Ichika View

 

仮装障害物競争のデモンストレーションが終了し、俺への目隠しと、耳塞ぎもようやく終わった。

明暗差に数秒は視界がチカチカし、ピントが合わなかった。

視界の端にはいいろいろと映っていたが、気にしないでおくことにした。

 

顔の下半分を真っ赤に染め、上半分には足跡が残っている弾とか。

体育座りをして精神的に引きこもっている虚さんとか。

異様に凹んでいる地面と、散らばる繊維とか。

「鍵いぃ…」とか呻きながらフラフラとしている篠ノ之とか。

インタビューされまくっているいかがわしい姿の楯無さんとか。

うん、凄くどうでもいいな。

 

「んで、とうとう俺たちの出番か」

 

周囲の様子を見るに凄くやりたくない。

そして周囲の生徒の視線が突き刺さりまくっているとか。

物凄く逃げたい。

 

「デモンストレーションも終わり、本番に参りましょう!」

 

インタビューも一時中断をしたらしく、黛先輩の視線がグラウンドに向けられてきた。

完全にパパラッチの目をしているな。

 

俺とマドカをリーダーとした『蒼色』チーム

シャルロットとラウラをリーダーとした『緑色』チーム。

簪とメルクをリーダーとした『赤色』チーム。

セシリアと鈴がリーダーの『黄色』チーム。

 

だが、走る順番までは決めていないらしい。

二人一組のリレー方式ではあるが、それに関しては決めていてもいいだろうに。

 

「マドカ、後と先、どっちに回るんだ?」

 

「ん~…じゃあ私が先に走るね」

 

「いいのか?」

 

「どんな状況になっても兄さんがアンカーしてくれたほうが逆転しやすいじゃん!」

 

ああ、そう。

俺がアンカーならどんな状況でもトップに立てると。

それに関しては衣装の優劣にもよるだろうな。

着替えるのも面倒な衣装になれば、その時点で必要以上に時間がとられてしまうだろうし、障害物に引っかかる衣装の場合もあるだろう。

それくらいの想定も必要だ。

 

「ふむ…」

 

障害物はといえば『網くぐり』『平均台』『跳び箱』に『シーソー』『ケンケンパ』と更には垂直に立てられた網を上ってまた降りて、と面倒そうなものもあるようだ。

デモンストレーションの時には面倒がなかったのかどうかも気になってくるが、凄くどうでもよくなってくる。

今は他人の事よりも自分のことを考えるべきだろう。

ハズレ衣装を引き当てないことを切実に祈りたいね。

衣装が収められているロッカーは、未開封の収納スペースが90個を超えている。

解放された場所には『(あき)』とデカデカとステッカーが貼られているから判りやすい。

残るは94個か…外れ衣装はまだまだありそうな予感がする。

 

あれ?千冬姉の姿が…あ、居た。

何故か知らんがウサギの耳を模したカチューシャを持った束さんに追い掛け回されている。

あ、反撃に移った。

だが束さんも負けじとそれでも迫ってきている。

あの二人の反射神経は常人レベルから鑑みても尋常じゃねぇな。

くしくも束さんとはペアルック…じゃあないな、デザインが少しばかり違うようだ。

頭につけられたカチューシャを外そうとしている千冬姉、だが、どういう仕組みか外せないらしい。

そんな千冬姉を束さんがバシャバシャと撮影しまくってる。

その後、数秒おきに俺の携帯端末にメール着信を知らせる着信音がひっきりなしに鳴り続ける。

 

「………………」

 

ウサミミ千冬姉が写ったメールが送り続けられているようだ。

こんな形でイタズラに巻き込むなよな、殴り飛ばされたらどうすんだ、カウンターを叩き込むだけか。

 

「じゃあ兄さんのコスプレ、楽しみにしてるね」

 

「楽しみにすんなっての」

 

酷く迷惑だ。

 

各チームの順番が決まったらしい。

 

蒼組

織斑 マドカ

 

緑組

ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

赤組

メルク・ハース

 

黄組

セシリア・オルコット

 

の状態だ。

この中では…メルクが一番脚力が在りそうだが…。

 

「お兄様、カメラの準備が出来ました」

 

「…まあ、マドカの撮影はしてやるか」

 

おい、これ高級一眼レフカメラじゃねぇのか?

どっから持ってきた?

 

「新聞部から借りてきました。

予算関係でアレやコレなどの伝手が…」

 

「それは交渉とは言わないぞ、『脅迫』だ」

 

よくよく見ればクロエの手にも同じようなカメラが握られている。

ラウラの撮影をしまくるつもりだな。

 

「やれやれだ…おい、起きろ弾」

 

「んお?お、おお、おう!」

 

顔面の下半分を真っ赤に染めて、上半分には足跡を残しているといういたってキモい悪友を起こし、太鼓の撥を握らせる。

コイツの合図が無ければ競技が始められんだろうが。

 

「…お前、後で保健のテントに行ってこい。

ああ、それよりも前に顔を洗う必要がありそうだな」

 

「へいへい。

って保険のテントってあそこだよな?

あの体操服を着た人のいる…」

 

…ああ、そうだ。

体操服を着た山田先生の居る所だ。

ついでに言うと、非常に目に毒だ。

考えてるがバレでもしているのか、マドカに背を抓られた。

痛いっての!

 

 

Madoka View

 

兄さんの背を抓ってからスタートラインに並ぶ。

並ぶ順番はそれこそ適当で、実況席側から、私、メルク、セシリア、ラウラの順になった。

 

ドドン!

 

弾が太鼓を鳴らしてから四人一気に走り始める。

 

「メルク、速!」

 

物の数秒で3m差をつけて走ってる。

 

「お兄さんとの訓練は伊達じゃありません!」

 

「負けんぞ!」

 

「わたくしだって負けませんわ!」

 

そんなにコスプレをしたいのかコイツ等は。

 

私の後ろにいる二人も速度を上げてきている。

うわ、この二人も速いな。

結局はメルク、私、ラウラ、セシリアの順番だ。

でもそれは数秒で、すぐにくじ引きの前にやってきた。

この機械の前で悩むのはほぼほぼ無意味、悩むのなら後回しにすべき!

 

機械の中に手をツッコミ、偶然つかんだ紙を掴む。

 

「よし、これだ!」

 

中身は…17番?

さてと、ロッカーに何が入っているんだろうか?

…正直、あんまり楽しみじゃなかったりする。

 

 

Melk View

 

マドカさんが一番に籤を引き、続けて私も手につかんだ籤をそのまま掴みました。

えっと…私がつかんだ籤に記された番号は…59番。

これが良いものかどうかは、ロッカーから荷物を出して、更衣室に入ってみなければ判らないです。

 

「先に行きますわよ」

 

「私もお先に!」

 

考えている間にセシリアさんもラウラさんも走り出してました。

わわわ!?私もおいて行かれるわけにはいきませんん!

 

 

Laura View

 

マドカを見習って、私も悩むことなく紙を掴み取った。

ふむ…10番か、まあ、いいだろう。

マドカに続いてロッカーの前に到着し、紙に貼りつけられている番号のロッカーを開こうとするものの…

 

「と、届かない…!」

 

どこからこんな大型ロッカーを持ってきたのか、下一桁が『1』と『0』の番号の扉に届かない…!

 

「まだだ…!私にも矜持が…!譲れないものがあるんだぁ~…」

 

だが結局私の手と背では届かせる事も出来ず…届かない…!

 

「はいはい、手伝って差し上げますわよ」

 

セシリアに手伝ってもらった。

みぢ()めだ…!

 

セシリアが私の代わりに取り出してくれた段ボール箱を受け取る。

 

ドスン!!

 

そんな音がした。

 

むぐ…重い…!

なんなんだこの重量は…!

これだけでも充分にハズレじゃないのか…!?

重い…!

担いで行けそうにないから引きずったり押していくことにした。

 

みぢ()めだ…!

順番は…大差をつけられてビリになっていた…。

 

「ラウラ~、ちゃんと見てますからね~?」

 

「ヒィッ!?

さ、撮影なんかするなぁっ!」

 

お、おのれクロエ!後で、け、蹴っ飛ばしてやる!

 

 

 

Melk View

 

ラウラさんが息切れしながら箱を押したり引きずったりする間に、私もマドカちゃんに追いつき、箱を担ぎながら走る。

 

「メルク、そんな荷物担ぎながらでも速いな!」

 

「お兄さんとの訓練でも、常に両手に剣を持ちながらですから!

結構鍛えられるんですよ!」

 

お兄さんはスパルタですけど私たちのスタミナも見切ったりしてますから、休憩も適度に挟んでくれるんですよね。

最初はきつくて仕方なかったですけど、今ではあの頃の倍以上の時間を耐えられるようになってるのもお兄さんのおかげですよね。

走り込みだとかもキツくてキツくて、途中で転びそうになったのが懐かしいです。

 

更衣室に入って天幕を閉じた途端にいきなり足元からスポットライトが点灯し始める。

解説でもありましたけど、コレ、心臓に悪いですよね。

 

………。

恥ずかしいですから…わざとじゃありませんよ?

 

ガシャパリィン!

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁっっ!!

ライトが壊されたぁぁっっ!?」

 

て、手が滑って荷物を落としちゃいました。

 

『…わざとじゃないよな?』

 

テンペスタ・ライトニングの声も聞こえましたけど…。

 

「わ、態とじゃないですよ?」

 

ほ、本当です。

それに更衣中を見られるのって恥ずかしいんですからね?

 

『…まあ、それもそうだが…』

 

ライトニングからの納得の声に肩を休めながら段ボール箱を開いてみる。

箱は軽くて中身が少し不安になってましたけど…見てみると普通ですね。

 

「どこかの学校の制服…ですかね…、コレ?」

 

 

 

Madoka View

 

メルクとほぼ同時に私も更衣室に入る。

脚光がいきなり点灯し、いささか不愉快。

眩しくて着替え辛い。

それに兄さんや姉さん以外に着替え途中を見られるとか不愉快。

そこでナイフを展開し。

 

ガシャバリィンッ!!!!

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁっっ!!

ライトが壊されたぁぁっっ!?」

 

変態(覗き魔)()すべし、慈悲(容赦)は無い。

 

「さてと、荷物を見てみるか」

 

…これって、斧槍(ハルバード)

なんでこんなもんが入ってんの?

というかどこでこんなもの用意したんだか。

それ方面での部活は気合が入り過ぎじゃないの?

まあ、いいか。

 

 

Laura View

 

「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…」

 

マドカもメルクもセシリアも更衣室に入ったのを確認し、私はようやく距離の半分に至った。

箱が重すぎる…!

 

そしてその間に写真を何枚撮られたのかなど判らない。

今も周囲から姿も見えないのにバシャバシャと音が鳴り響いている。

その都度に兄上は携帯端末を見ては微妙な顔をしている。

十中八九、私の写真を撮影したクロエから送られてきているのだろう。

 

すごく嫌な感がする。

兄上がパパラッチやマスゴミを嫌っている理由が理解できた気がした。

 

「…む…」

 

一番に出て来たのはセシリアだった。

 

短くなった髪の代わりに鬘でも被っているのだろうか、メルクとほぼ同色。

トップスは布一枚。

ただ、波打つ形のそれが胸をブラのように半分程度を覆い、谷間は露出。

それが肩、背中に回る形だが固定されているようにも見えず、動くたびにブルンブルンと揺れ、私の胸の内には何かがもやもやする。

また、その布は肩から分かれ、まるで羽衣のように揺蕩い、右肩と左肩を繋いでいる。

そしてボトムは…魚だった。

髪と同色の桜色だった。

あの姿は…クラリッサの部屋で見たことがある。

人魚姫(プリンセスマーメイド)の『しら…』…何だったか思い出せない。

で、用紙に記されていたであろうセリフが

 

「タイプじゃないんです…!」

 

『そういう問題ぃっ!?』

 

周囲の叫び共々なんか色々と台無しな気がした。

付け加えて、今はモデル撮影ではなく競争の途中だ。

あんなボトムでは歩くことはできず、ビチビチと跳ねていった。

…走ることも歩く事も出来ずに跳ねていく様はまさに魚だ。

人魚というのは海にいるから神秘なんだろう、陸にいたところでただの珍行動だ。

 

さて、私は再びコレを押していかなくては

 

「ええい、なんで私はこんなハズレを引き当てたんだ…!」

 

 

Madoka View

 

よし、これでいいな。

着替えを終わらせてから天幕から出た。

それと同時にメルクも隣の天幕から出て来た。

 

メルクの衣装はかなりシンプルだな。

清潔感のある白のブラウスシャツの上から白に近いライトパープルのブレザー。

襟の隅には瑠璃色、ライトパープルの装飾が。

ボトムはグレーのプリーツスカート、足は黒のストッキングに包まれている。

でも、特に視線を向けてしまうのは、腰に携えられた『刀』だ。

普段の白兵戦訓練では、十字剣を使っているのに今は刀。

しかも三振りも。

その内の一振りを引き抜き

 

「刀○ 綺凛、参ります!」

 

『違和感が無さすぎ!?』

 

…普段の名乗りと然程に差が無いような…?

それだけに違和感が無かった。

 

 

…うん、妙に似合ってる。

 

 

 

Melk View

 

天幕から私から出ると同時にマドカちゃんも同じように出て来た。

手に持ってるのは…槍でしょうか?

いつもはナイフを振るうマドカちゃんにしては珍しい絵になってますね。

 

首元にフリルがあしらわれた黒のインナーシャツの上から白とピンクの上着、アクセントに首元にリボンが。

背中には文様が記された楯の刺繍。

両手には銀色のガントレット。

ボトムにはホットパンツ、ガーターベルトつきのストッキング、その上から頑丈そうなブーツを履いていた。

なんというか…ごつさとキュートさが一緒にされた『騎士姫』といった外見です。

 

「私は見てみたいんだ、穢れのない故郷を!」

 

『リアル騎士姫ぇっっ!?』

 

『導師の従士様ぁぁ!』

 

うわぁ、私もそうでしたけど、周囲の叫びが凄いです。

 

ちらりとみてるとマドカちゃんと視線が重なり

 

「この先はトップは譲らないぞ!メルク!」

 

「そのセリフそっくりそのままお返しします!『騎士姫』さん!」

 

「恥ずかしいその呼び方辞めて」


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