IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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獄雷冥魔 ~ 推籤 ~

Ichika View

 

昼休憩も終わり、ようやく午後の競技が始まるわけだが…。

 

「腹減った…」

 

昨日の夕飯以降に本当に飲食の一つもしていない。

眠る時間は確保できたがすきっ腹のまま競技に出るのは致命的だと思う。

それもこれも食堂のスタッフと千冬姉が悪い。

いや、言ってしまえば全校生徒共通で共犯なわけなのだから言い出したら文字通りにキリが無いわけだ。

この学園の生徒共、いい加減に自炊をしてくれ、学園祭以降忙しいぞ。

次からは料金を収拾する販売制びでもしてみるか?

あ、メルクから聞いた話では、学園の中でも自炊が流行してるんだっけか。

だったら弁当くらい自分で作れよ。

 

…虚さんからスケジュール管理技術を殊更に、より詳細に、密度を増して、より深く、詳しく学ぼう。

そうすればさらにスケジュールを滞りなく回したうえで予定を入れることも出来るだろう、秒刻みのスケジュールになろうが構うものか。

 

「さあさあ始まりましたIS学園、秋の祭典、体育の部!

お昼休憩をはさんで午後の競技も頑張っていきまっしょい!」

 

 

黛先輩って本当は体育会系だろうな。

今日は何故か『広報』の腕章だけでなく『体育委員会委員長』の腕章までつけてる始末だ。

この学園の黒い部位を垣間見た気がする。

 

「ちょっと黛ちゃん!

実況は私でしょう!」

 

広報(マスゴミ)魂が叫ぶのよ!

二年生の部や三年生の部よりも一年生の部でこそ楽しめるってね!」

 

呼吸するかのように嘘を言ってそうだよな、この人。

『楽しめる』というよりも『面白いものが見られそう』だとか言い出しそうで嫌になる。

というかマスゴミなのな、パパラッチには俺も迷惑させられたのを思い出して胃が空っぽの状態にも拘わらず吐き気がする。

 

「まあ、解説席の椅子に座り続けていた俺が言うのも今更か」

 

「寝てたけどね」

 

まあ、そうだな、マドカともども午前中は寝ていたが、白騎士と黒翼天とさんざんやりあったから精神的的スタミナをかなり使ったような気分ではある。

言ってる意味が矛盾してるな。

 

ああ、それにしても実況席が喧しいな。

あ、千冬姉に殴られてやんの。

 

「ええ、それでは体育委員会委員長が実況を続けていきま~す!」

 

楯無さんは地面に正座だった、ご愁傷さま。

最近何かにつけて不憫な目に遭ってるなあの人、まあ大半が自業自得だが。

 

「午後の部の最初の競技はチーム対抗『仮装障害物競争!』」

 

スクリーンにもでかでかとその文字が映る。

なんというか…もう嫌な予感しかしない、可能ならば逃げ出したいのだが、俺の腕やら肩をチームメイトがガッシリと掴んできていてるわけだ。

そのコンビネーションは別の方面で使ってくれないか?

おい誰だズボンを掴んできてるのは?

 

「ええ、それでは競技の説明に入っていきます!」

 

1.各チーム二名で行われるリレー方式。

2.グラウンドの1/4地点に設置されているボックスから100枚入っている中から紙を一枚だけ取る。

3.そこには数字が記されているだけであり、鍵が一つ同封されている。

4.そこから50m先のロッカーから紙に記されている番号から箱を取り出す。

5.箱を持ったまま30m走り、グラウンド上の即席更衣室(脚光在り)にて着替える。

6.即席更衣室で着替えた後に、衣装に付属された用紙に記されたセリフを叫んでからゴール(残存距離300m)を目指し、次のランナーにバトンタッチ。

7.第二走者も同様に行う。

8.走者同士での妨害などは一切禁止、観客も同様に。

9.ハズレ衣装もあればアタリ衣装もあり。

 

…聞いてるだけで胸糞悪くなってきた。

最後の情報が物騒すぎるだろうに、ハズレ衣装だなんて引き当ててたまるか。

よく考えてみてくれよ、俺を除けば女子高のIS学園だぞ、下手すりゃ黒歴史として後世に語り継がれる可能性も無きにしも非ずだろうに。

鈴や簪を通じて、弾や数馬に黒歴史だなんて知られたその日には俺は切腹か身投げか入水か首吊りを慣行するぞ。

一番やらかしそうなのは楯無さんだがな。

 

「織斑君、頑張ってね」

 

「マドカちゃんも!

勝てばポイントの入る量が大きいから!」

 

ガス抜きの体育祭で大袈裟だなぁ…。

クラス対抗戦であればデザートフリーパスだとかが発行されたりしていたけど、食堂スタッフの大部分が学園から立ち去ったせいで、それも出来なくなってしまったらしい。

理由は…知らん、断じて俺のせいじゃねぇ。

味が落ちたとかどうとか言われても「知らん」の一言で言いぬいてやる。

料理勝負の結果?知るか。

 

「さて、生徒の皆さんにこれらのルールを言っただけでもいまいち理解できていない人も居るかもしれないので、先ずはデモンストレーションとして生徒の中からランダムに、さらには教職員の方々の中からランダムで選んで実演してもらいましょう!」

 

「ちょっと、黛ちゃん?訊いてないんだけど?」

 

「ごっめ~ん♪楯にゃんが不在の日に急遽決まったの♪」

 

「あの日に!?」

 

あ、なんか楯無さんが震え上がり始めたぞ?

なんかあったっけか?あ、簪の手によって半冷凍された日だったか。

 

「あの日の風呂掃除は大変だったな…」

 

「織斑君、急にどしたの?」

 

「いや、なんでもない、気にしないでくれ」

 

「は、はぁ…?」

 

雪と氷を斬って割って砕いて溶かして…我ながら一時間でよく片付けたもんだと思う。

…絶対に風呂掃除で使う表現ではないと思うが。

 

 

 

Chifuyu View

 

…一般生徒からデモンストレーションにランダムで起用したいという案は聞き流していたが、本当に採用しようとはな…。

しかもよりにもよって

 

「はいは~い♪束さんが抽選しちゃうぞ♡」

 

束がボックスの名から生徒の名が記された紙を福引感覚で引き当てるらしい。

 

「では生徒会(・・・)からは枠からは私が♡」

 

そうか、そちらはクロエか。

ちょっと待て、この場に於いて生徒会所属は数が至極限られるだろう。

 

「教師枠はちーちゃんが引き当ててね」

 

「はぁ…判った…」

 

仕方なく摩耶が申し訳なさそうに持ってきたボックスの中に手を突っ込んだ。

もしこれで自分の名を引き当てたら束が何を言い出すやら。

 

「はいは~い♪

束さんが引き当てたのは~!

わが愛しの妹!箒ちゃん!」

 

「………んなぁっ!?」

 

「もう一人はぁ!『布仏 本音』ちゃん!」

 

「にゃははぁ、頑張ろうねぇ、しのの~ん!」

 

一人は絶望的な表情、もう一人は面白そうに笑っていた。

反応が対照的だな。

 

さて、私は誰を引き当てることになるのか。

 

「これにするか」

 

適当にかき混ぜ続けるようにしていた用紙の中から一枚を適当に掴み、引っ張り出した。

もしも自分を引き当ててしまったらマドカを無視してでも酒に入り浸ってやる、黒歴史なんざ作ってなるものか!

 

「………………なんでだ」

 

引き当てたのは

 

『織斑 千冬』とデカデカと記された用紙のそれだった。

周囲には気づかれていない、急いで引き直して…

 

「織斑先生?」

 

…クロエに見られていた。

 

「…やり直させろ、流石にコレは…」

 

「お兄様だってやりたくてやってるわけじゃないんですから我慢しましょう?

女々しいですよ」

 

…ぐ…!?

 

 

 

Houki View

 

千冬さんがクロエに言い負かされている中、私は布仏に引っ張られながらスタートラインに立たされていた。

あの後、メンバーが決まって…

 

一般生徒枠

『布仏 本音』

『篠ノ之 箒』

 

生徒会枠

『更識 楯無』

『布仏 虚』

 

教師枠

『織斑 千冬』

『クロエ・クロニクル』

 

という枠になった…というか絶対に何か仕組まれているだろう!?

とはいえ、あの氏名入りの用紙が入った箱は姉さんの手で焼き捨てられているから不正を疑おうにも疑えないわけだ…。

 

「なんでこんな事になったんだ」

 

「同感です、私は午後の競技は通常通りに三年生の部に参加する筈でしたのに、黛さんに引っ張ってこられて…」

 

本音の姉らしい眼鏡の女子生徒がため息をしながら項垂れていた。

 

「もしも弾さんに知られたと思うと」

 

…ん?震え始めた?どうしたんだろうか?

とは言え…なんと言葉をかけるべきかも私には判らない。

え、えっと…どうするべきだ?

 

 

 

Tatenashi View

 

「なんでこんな事になったのよ…」

 

解説席を追い出されるかのようにグラウンドに出て来た私は項垂れていた。

簪ちゃんや一夏くんやマドカちゃんの面白おかしい姿を見たかったのはあるけれど、まさかのまさかで私がデモンストレーションで参加させられることになるだなんて欠片も思わなかった。

中には私が用意したハズレ衣装だってあるのに…それを引き当ててしまう確率は1/100、つまりは1パーセントだけど、ラウラちゃんやシャルロットちゃんも干渉しているから、今ではハズレ衣装がどれだけあるのか私にも判らない。

 

「人を呪わば穴二つとはよく言ったものね…」

 

ハズレ衣装を引き当てないのを祈るばかりだわ…

 

 

 

Dan View

 

「…んで、なんでお前が居るんだ、弾?」

 

いや、いきなりソレかよ親友!?

 

「言っとくけど不正で入って来てるわけじゃねぇからな。

『黛 馨子』って人から急にメールが来たもんでな」

 

ありゃぁ一週間とちょっと前だったか…黛って人からメールとライセンスカードが送られてきた。

カードはその日限定で使用可能なほぼほぼ使い捨て式で学園の限られた場所だけ行けるようになっていた。

んで、山田先生って人に案内されてここに来たんだけど、最初に見たときは驚いたぜ、廊下の途中で一夏と千冬さんがガチンコ勝負してるんだもんな。

一夏の修行バカっぽいとこは知ってるけど尋常じゃなかったぜ。

まあ、驚いて声かけることも出来なかったんだけどさ。

 

「まあ、長々と説明したらそんな感じだ」

 

「この時期に何やってんだあの人は…!?」

 

なんでか知らんが解説席に座っている一夏が本気で頭を抱えていた。

え?俺何も悪いことしてないよな?

 

いや、それにしても虚さん、いつ見ても綺麗だなぁ…。

あの人、俺の彼女です。

俺、あの人の彼氏です。

 

蘭に言ってのけたら蹴っ飛ばされたが後悔はしてない。

数馬に言ってのけたら張っ倒されたが悔いは無い。

爺ちゃんに自慢したらド突き倒されたが痛みなんて無かった。

虚さんの両親に紹介されたが、凄ぇ睨まれたが『娘をよろしく頼む』とか言われたっけ。

本音ちゃんには頬を引っ張られまくったが幸せ絶頂期の俺には通じなかったぜ。

 

俺、今後のためにもバイトしまくるんだ、近々京都に行って出稼ぎするんだ。

 

「おい、現実に帰ってこい」

 

「おう、そうだな、虚さんがいるだけで現実がバラ色だ…」

 

どぐぅっ!

 

「てめっ…!鳩尾を蹴るとか無しだろ…」

 

「現実に戻ってこいっつったろ」

 

へいへい…まあ、今日は俺は此処に達磨のように座ってるだけだし撮影くらいはさせてもらおう。

めったに入れるところでもないんだし、それくらいはいいだろう。

まあ、写真の内容は、虚さんが多くなるかもしれないけどそれはそれだ。

 

もののついでに数馬、一人わびしく留守番なんてご愁傷さまだ。

 

「お兄様~、この姿似合いますか~?」

 

なんか銀髪の女の子がブルマ姿で一夏に笑いかけていた。

 

「何?お前女の子に『お兄様』呼ばわりさせて侍らせてんの?」

 

「侍らせた覚えは無い、っつーか、そんな環境は俺は望んだ覚えも無い」

 

「じゃあ何この現実?お前こそ現実に戻って来いよ!?」

 

「知らねぇよ、俺のあずかり知らない所でいつの間にか増えているんだよ」

 

なにその羨ましい状態!?

簪ちゃん一筋な事を言ってたくせに実はマドカちゃんにこの銀髪な女の子に学園で完全にハーレム状態じゃねぇか!

羨まし――

 

「アダダダダダダダ!?」

 

「弾さん、両親の前で誓ってくださいましたよね?

浮気や不倫なんて不誠実な事はしない、と」

 

「は、はい!」

 

俺は虚さん一筋です!はい!本気(マジ)で!

あの、ですからその指離してください、肩がミシミシ悲鳴あげてますから!

脱臼とかマジで勘弁してください!

なんでこんなめに遭わなきゃなんないんだぁっ!

ちぃっくしょおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっ!

 

「それと、恥ずかしいのでこのカメラはお預かりさせていただきますね」

 

魂の叫びぁっっ!

チィックショォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!


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