P.N.『匿名希望』さんより
A.怪我等をした生徒の為に『応急処置』などを請け負う『救護所』にて座ってました。
生徒の怪我を見るのに涙目になってて些か頼り無いようですが。
それと、生徒と同じように体操服を着ているそうで、色々とパツンパツンになってます。
Q. 『ブルマ』を探してさまよってた鈴ちゃんですが、お題の代物はゲットしてゴール出来たのでしょうか?
A. 競技は中断されたそうですが、ゴールは出来たそうです。
理由は今回にて判明します。
Ichika View
昼まで寝てよう。
そんな自堕落ズボラなヒキニートの穀潰しめいたことを最初は考えていたが、メルクに起こされたのをきっかけに、起きておくことにしたのだが…結局修練に力を入れすぎていた。
訓練の他にも理由は在るけど。
テントの下に居た時には、俺の後ろではマドカが静かに寝息を立てていたが、そちらに関しては簪と、事情があって楯無さんに任せておいた。
とはいえマドカ、俺の背中に涎を垂らすのは止めてくれないか?
流石に兄さんもドン引きだぞ。
楯無さんはといえば、時折競技に乱入していたからか、汗を流している。
珍しい光景だな、だが心に響くものはないのは当然といえば当然か。
もののついである出来事によって怒りか羞恥かで顏を真っ赤ししてたが。
俺は悪くねぇ。
「お兄さん!
先ほどはロングコートありがとうございました!」
昼休憩直前にアリーナ戻ればメルクがニコニコとしながらコートを差し出してくる。
声と一緒にパタパタと足音をさせるメルクが猫のように見えてきた。
こういう光景にも、俺は慣れてきているのかもしれないな。
「おう、わざわざ届けに来てくれたのか」
「えっと…クリーニングに出してからのほうが良かったですかね?」
「…何があった?」
「えっと…その…」
思い返してみれば、借り物競争のリレーが終了してから20分以上経過している。
…うん、返しに来るまでがなんか遅い気がする。
いや、俺が帰ってくるのが遅かっただけだが。
チームの中で何かあったんだろうな。
「安心しろ、俺は怒ったりはしない。
何があったのか説明してみろ」
「は、はい、その…」
Melk View
あれは、お兄さんのロングコートを…というか、制服の上着を借りてからの事でした。
「ふう、ほかの人に抜かれなくてよかったです…」
次の人にバトンタッチをした後、私はグラウンドの中央に戻る。
そこには走り終えた人や、出番を待つランナーが控えているわけで。
「あ、あの…どうしました…?」
なぜかは判らないいですけど、私に幾つもの視線が突き刺さってきてますけども…。
私、何かしましたっけ…?
いえ、お兄さんの目の前で恥ずかしい事を大声で叫んじゃいましたけど…。
「ハースさんもお題が衣類だったんだなぁって思ってさ」
「ええと…皆さんも、ですか?」
そういって見せてくれたお題の用紙には『スクール水着』や『セクシーランジェリー』や『B85以上のブラ』だとか『コルセット』だとか…。
あの…お題が異常だと思うんですよね?私の思い過ごしじゃないですよね?
「ハースさんは『ロングコート』だったよね。
すぐに見つけられて運が良いと思うよ」
「けどまあ、結局恥ずかしいことを言っちゃいましたけど」
今から思うと私としても恥ずかしいです。
公衆の面前にも係わらず、お兄さんに「脱いでください」とシャウトしてしまったのは。
ああ、穴があったら入りたいです…。
視線が手元に向かう、当然そこにはお兄さんのコートが。
は、羽織ってみてもいいですよね?
今は顔を見られるのが少し恥ずかしいので…早速羽織ってみる。
う…やっぱり身長差の影響もあってブカブカ…。
でも、ちょっとだけ安心感が…。
「競技が終了するまで、競技が終了するまでなら…」
「メルル~ン、それ、おりむ~のコート~?」
「あ、本音さん。
ええ、そうですよ、ちょっと羽織ってみました。
ブカブカですけど」
「じゃあ~、私も羽織ってみた~い」
その言葉が皮切りになりました。
次から次へと同じことを言う人が際限なく溢れてきて…。
「次!次は私!」
「ちょっと!横入り無しでしょ!?」
「へっへ~ん!抜け駆け上等!」
「今は更識さんも居ないからバレなきゃ大丈夫!」
「あ、あの、もうそろそろ返してくださ~い!」
とまあそんなことが延々と続いて25分と少々…。
こうやって返却に来たんですけども…
「ご、ごめんなさいです」
「いや、謝らなくていい、好奇心旺盛な年ごろなんだろうしな」
えっと…凄い子供に見られてる気がしますけども…。
「制服は確かに返してもらったよ。
…どうにも香水臭いけど…」
や、やっぱりクリーニングしてから返したほうが…あ、い、今から進言して…!
「オレンジを使用した香水に…これはローズマリー…。
それに鈴蘭に百合…。
げっ、コロンの匂いまで染み着いてんのかよ…!」
あ、お兄さんってコロンは毛嫌いしてましたっけ。
よく嗅ぎ分けられますね…。
「後は…うん?酒のにおいまでするな。
これは…サングリアだな」
え?お酒の匂いまでわかるんですか?
「どこの誰だよ、学園の中で酒なんて飲んでるのは?
ああ、千冬姉か」
織斑先生にとんでもない濡れ衣が…。
「まあ、この制服は自分でクリーニングに出しとくから、帰っていいぞ」
「は、はぁ…ごめんなさいです」
「謝らなくていいっての。
次に参加する競技も頑張れよ」
「は!はい!」
一先ず、お説教とかはなかったですけど、悪いことしちゃいました、反省です。
Ichika View
制服の返却はされたけど、これだけ複数の匂いが染み着いた状態で返却されるとは思いもしなかった。
実に匂う、今日中にクリーニング行き決定だな、ああ臭い。
「あの、その蔑むかのような視線辞めてもらえませんか?」
そう、近くで額に青筋立てた楯無さんだった。
その視線が普段以上に冷たく感じるのは、俺の気のせいではなさそうだった。
とはいえこの人、ある理由、腰にはバスタオルを巻き、スカートの代わりにしている。
原因は半分は俺だが。
「一夏君、女の子の匂いを嗅ぎまわるのは良くないわよ?」
「『嗅ぎまわる』とは失敬な、俺の制服なんですけど?」
「なんでそこまで匂いの元まで判るのかしら?
一夏君って香水とは縁が無さそうに思えるのだけれど」
「バイトをしていた料理店のお隣が花屋だったりした時もありましてね。
それと、居酒屋のバイトをしていた時もあります、これくらいの匂いならそれで推測くらいは立てることができるでしょう?」
「…呆れたわ、そんな場所のバイトまでしてただなんて…お父さん達に知られたらどうなるやら…」
「一応言っておきますけど、居酒屋のバイトを斡旋してくれたのは師範ですよ」
「……」
本気で楯無さんが頭を抱えていた。
まあ、無理もないだろう。
なお、師範が秘蔵していた酒蔵の中身は俺がバイトをしていた居酒屋に土産としてもらったものも幾つも混じっていたんだが、今頃は地面に染み込んでいることだろう、合掌。
俺としてはバイト代が入ったり、時折に料理に使えそうなワインとかをもらえたので文句は無い。
千冬姉が時折自宅に帰ってきてまで飲酒する際もオツマミを作れるようになったり、アルコール分解を促せる料理を作れるようになったりとかで万々歳だったしな。
あまりにも牛飲馬食が過ぎればオツマミも料理も出さずに二日酔いの刑に処したけどな。
俺は翌日もバイトがあって朝が早かったから、言い訳にはちょうどいいだろう。
「もう少しばかり寝させてもらっても構いませんか?」
「お昼も近いんだから起きてなさい」
んあ?もうそんな時間だったか。
そういえば組体操とかも項目に加えられていたと思ったけど、完全に見逃したついでに寝過ごしたか、まあいいや。
通常の高校の体育祭の競技項目はといえば、玉入れだとか騎馬戦だとか、リレーだとかだが、そういう体育祭の花形競技もこの学園は取り入れている。
普通科高校のように『保護者の見物』だとか『観客参加型競技』だとかも今回のこの学園祭には存在しないからな。
「…ん?」
「あら?どうしたの一夏君?」
視界の端に何かが映る。
輝夜のコンソールを展開し、望遠システムを使う。
「…カメラ搭載型のドローン?」
「え?何処に?」
Aピット側の上空を指さす。
それに気づいてたのか楯無さんも双眼鏡をを覗き込む。
「このアリーナのAピットの上空に。
型式は…ずいぶんと古いな、規制されるよりも前の一般式のドローンだな」
「一夏君、撃墜して。
たとえ所有者が民間人でも、この学園に覗き行為だなんて許されないわ」
その台詞、三回目のチーム対抗リレーにて疾走中の簪が聞いたらどう思うやら。
「なら、ほかのアリーナにも連絡を。
そちらにも覗き行為だなんて非常に不埒な行為を行っている輩が居るかもしれませんから。
それと撃墜、鹵獲の許可も」
「ええ、もちろん判ってるわ」
マドカを起こさぬように話を切り上げて、移動する。
近くのパイプ椅子を並べ、即席のベッドにしておけばいいだろう。
さてあのドローンだが…あの距離なら、弓が良いだろう。
そう思った直後に手に弓が握られる。
輝夜が勝手に展開させたようだ。
何故かは知らないが、両腰には二刀小太刀までもが携えられている。
握り手を守る籠鍔付きの大弓と、白と黒の二刀小太刀。
それら三つがセットになった『
名前が大仰すぎるだろうに。
なんで『六条氷華』じゃなくてこれなんだ?
まあ、いいけどさ。
「んじゃ、
さっそく矢を番え、弦を引き絞る。
六条氷華での肯定もあり、これにも慣れてしまっている。
限界近くまで弦を引き絞り、狙いをすます。
そして、そのまま指を離す。
風切りの音をたてながら矢が飛んでいき…
「まあ、こんなもんだな」
ドローンの6枚のジャイロの内、半分を破損させ、地面へと落下させる。
アリーナの外に落下していくを確認し、それから現物の確認だな。
ガシャァンッ!
お、そんなことを考えている内に落ちたみたいだ。
さぁて、シリアルナンバーくらいは刻まれているだろうし、どこぞの輩なのか確認してみようか。
「弓のセンス、上ったわね…」
「おかげさまでね」
その数分後、天災兎が所有者を洗い出して告訴の準備に入ったとか。
なお、予想していた通り、ほかの学年でも同様なことが起きていたのだとか。
暇な奴が居るもんだ、今日から後は暇だなんて言葉を忘れてしまうほどに追い込まれることになるだろうけどさ。
なお、所有者は本当に一般人だった。あ、『弩変態の』というワードが頭につくか。
「一夏、何があったの?」
競技を終えたらしい簪が首をかしげながらテントに入ってくる。
俺は肩をすくめながら。
「いつぞやの模倣犯さ」
とだけ答えることにした。
これなら楯無さんにいらぬ嫌疑もかかるまい。
さて、もうそろそろ昼時らしいし起きていようか。
もう少しばかりアリーナから離れて修練に勤しみたいと思っていたんだが、時間も時間だ。
残る時間はアリーナで待機しとくか。
「くぁ…まあ、もう少しばかりで昼だし、何とか起きていようか」
「すぅ…」
マドカの寝息が眠気を催しているのかもしれないな…いや責任転嫁はすまい。
予め用意していたペットボトルの緑茶を少しだけ飲んでみる。
うん、少しは眠気がさめてくる…かな?
「それで、午後からの競技なんだけど」
「ん?どれどれ?
…なんだ?この仮装障害物競走ってのは?」
「まあ、それは午後になったらわかるんじゃないのかな?
私も一夏も参加が決定してるっぽいけども…」
おいおい、事前相談も無しかよ。
いや、休学していた俺が悪いのか?
いやいやいや、休学
相変わらず幸先が悪いったらないぜ。
「んで、楯無さん。
なんでいつまでバスタオルなんて巻き付けているんですか?
着替えてくればいいのに」
「半ば一夏君が原因でしょう」
自覚してるから進言したのにこの言い種。
鈴がお題のものを得る為に、寝ているマドカをターゲットにしたが、その手を受け流したら…。
この人に矛先が向かったんだよなぁ。
酷い言い方をすれば、公衆の面前で追い剥ぎに遭ったんだよな。
下半身限定の。
そのまま鈴はゴールインしたわけだが。
言っておくが、楯無さんが剥かれた後の様子は見ていないから、大っぴらに俺を有罪には出来ない筈だからな。
「なんで鈴ちゃんの反応速度があそこまで上がってるのかしら?」
…俺が特訓してやったからだろうな…。
後は本人の素質だ。
今回もドローンを使っての覗き行為といい、毎度の事だが想定外事象が起きすぎだろう。
暇な時間が無くなっていい、どころじゃないな。
巻き込まれる側にもなってくれ。