IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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先ずは一言
オルコッ党の皆様、本当にごめんなさい


挑発と欠けた感情

 

 

Ichika View

 

そして、朝のSHRが始まる直前。

PRRRRRR!

俺の携帯電話が鳴り響いた。

それと同時に

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「悪いが無理だ」

 

「まあ!何ですのその口の訊き方は」

 

「もしもし、織斑だ」

 

高飛車な喋り方をする人物に驚きつつも俺は電話相手に応答した。

マドカがナイフを抜きそうになっていたのを、落ち着かせながら。

 

『よう一夏!俺だ』

 

「弾か、どうした?」

 

『一夏が本当にIS学園に入学したって聞いたからさ、そっちの様子が気になったんだよ。

で実際にはどうだ?

選り取り見取り、華の女子高に男一人で入学した気分は?

ハーレム築きたい放題じゃねぇかよ!』

 

コイツは…。こんな事だから蘭や鈴に殴られたり蹴られたりが止まらなかったんだろうが。

 

『一夏の事だ、簪ちゃん以外の女の子にもいろいろと声をかけたりしてるんだろう!?』

 

「…今回のこの通話の件だが蘭と数馬に通告して良いんだよな?」

 

『お前、何を怖いことを言ってるんだよ!?」

 

いや、お前の言動を考えるとな…。『悪友』とはよく言ったものだと思う。

俺がいない期間は数馬と蘭の手でシバキ倒してもらおうか。

 

「まあ、実際にはまだ一日しか過ごして居ない訳だから評価なんて出来はしないさ。

今後の生活で、どう思うのかなんて、いくらでも変わる。

こういう事を言うのは卒業前後だ」

 

『お前、あの一か月間で本当に変わったよな。

いや、成長したって言うか、大人びたって言うか』

 

どうだろうな。

俺としては『変わった』のではなく『成長』したものだと思いたい。

『大人びた』と言えるかは判らないけどさ。

 

「俺自身はあんまり自覚は無いんだけどな。

でも、お前は変わらないよな…そういうテンションとか」

 

『それって全然褒めてないよな!?』

 

だけどまあ、それを保っていてくれよ。

それがお前の持ち味って奴なんだからさ。

 

『なんか釈然としねぇな…まあ、いいか。

じゃあまた連絡入れるぜ』

 

「ああ、またな」

 

そこで通話を終えた。

傍らを見ると

 

「悪いけど、話はまた別の時にしてもらえないか?」

 

「な、貴方、わたくしが誰だかわかっていての発言ですの!?」

 

「時間を見てくれってことだ」

 

時計の秒針がカチリと音を発てて、そしてそれと同時にチャイムが鳴り響く。

その瞬間には俺もマドカも着席していた。

これで千冬姉の拳骨を受けることはない。

 

「くっ!また来ますわ、逃げるんじゃありませんわよ!」

 

…去り際の捨て台詞が三下だった。

 

 

 

「では、授業を始める」

 

教室に入ってくるなり、黙って俺の頭を出席簿で豪快に殴りクラス全体へ視線を向ける。

殴られた理由は理解している、昨晩、寮の屋上での件を密告されたのだろう。

これでも情状酌量してくれているのかもしれない。

千冬姉は人前ではキリッとしているが自宅では…おっと、変な事は考えないでおこう。

すでに鋭い視線が俺に突き刺さってきている。

また殴られるとかお断りだ。

 

「おっと、その前にクラス代表を決めなくてはいかんな」

 

クラス代表、それは言葉通りクラスの代表との事だ。

それぞれのクラス代表となる生徒同士で対戦をしたりするらしい。

また、クラス代表としての会議に出席することもあるとか。

言わば学級委員、クラスのまとめ役になる人間の事だ。

 

「自薦、他薦は問わない。誰か居ないか」

 

「は~い、織斑君がいいと思います!」

 

「俺!?」

 

「マドカちゃんに一票!」

 

「な、私に!?」

 

「私も~、おりむ~とマドマドに一票ずつ入れちゃおう~」

 

一応言っておこうか。

 

「俺はIS操縦技術は素人以下だぞ。

検査は受けたが、そこでやったのは歩行だけ、戦闘訓練は一切していない。

このクラスの誰よりも劣っているんだ」

 

それと…のほほんさん、選挙では一人につき一票までだから。

それくらいは知っているよね?

 

「だから俺は辞退を」

 

「他薦された側に拒否権は認められんぞ」

 

横暴だ。だったら俺も他薦するだけだ。

 

「じゃあ、マドカにやってもらうか。

先程も言ったように俺はISの事に関しては極端に経験も無い。

そんな俺よりは稼働時間が多いマドカが適任だ」

 

「に、兄さんがそう言うのなら。

本当なら兄さんにやってほしいけど…」

 

マドカはいまいち煮え切らないみたいだ。

周囲からは「マドカちゃんってブラコンだな~」とか「織斑君はシスコン?」などつぶやきが聞こえてくるが、極力スルーした。

こういうスキルに関しては楯無さんにからかわれ続けて鍛えられているのかもしれない。

こういう時には楯無さんに感謝だ。

だが俺はシスコンではない。それだけは断言する。

 

「ではクラス代表は織斑妹、補佐として織斑兄が行う」

 

「納得できませんわ!」

 

そこで不満そうな大声を出したのはさっきの金髪の女子生徒だった。

 

「何故イギリス代表であるわたくし!セシリア・オルコットではなく!

そんなISを満足にも扱えない男がクラス代表だなんて恥さらしもいい所ですわよ!?

私にそんな恥を一年間も耐えろだなんて屈辱ですわよ!」

 

クラス全体の空気が一気に冷えていくのが何となく感じられた。

それは、俺だけでないのは確かな話だろう。

 

「そもそも!実力から言えばこのわたくしがクラス代表となるのが必然!

それを物珍しいからだなんて理由でクラス代表やその補佐に極東のサルが就任だなんて困りますわ!

わたくしがこの極東の島国に我慢してまで来ているのはISの訓練を行うためであり、サーカスをする為ではありませんわ!

それに文化として後退的な国でクラスことすら苦痛ですわ!

なのにこの学園のクラスを代表するものが日本人の精神障害者だなんて―――」

 

随分と酷い言われようだ。

だけど、後悔する事になるぞ。

お前は今、絶対に口にしてはならない事を口にしたんだからな。

 

「ヒィッ!?」

 

銀閃一筋。

その正体はマドカが投擲したナイフだ。

『サイレント・ゼフィルス』の拡張領域に入れていたソレを瞬時に展開、そして一瞬で投擲した。

それにより、金髪少女の髪を一筋切り裂いた。

 

「ちっ、外したか」

 

マドカの目は完全に据わっていた。

そしてキレたのはマドカだけではなかった。

 

「いい加減にしろよ小娘ぇっ!」

 

千冬姉も同様だ。

胸倉を掴んで持ち上げている。

あ~あ、俺はもう知らない。

 

PTSD

心的外傷後ストレス障害

強い衝撃を受けると、精神機能はショック状態に陥り、パニックを起こす一種の精神障害だ。

俺の場合は銃器を見るだけで錯乱する。

撃たれた傷が未だに両肩と腹部に残り続けている。

その時の記憶が俺には無いから、ハッキリとは言えないが、あの日誘拐されたときにでも撃たれたのかもしれない。

当たり前な話だが、こんな病気を好き好んで罹患したわけじゃない。

中学に在学していた期間だってモデルガンを悪戯半分で突きつけられただけで錯乱したり嘔吐したりと自分でも手が付けられなかった。

体育の授業でも上空に向けられるピストルを視認しただけで錯乱をしていた。

なので、体育の授業、そして体育祭でもピストルは使われずにホイッスルを使ってもらっていた程だった。

あの頃には弾や数馬や鈴、簪、蘭には本当に助けられた。

勿論、千冬姉にも、マドカにもだ。

 

だからこそ、この場に居る千冬姉とマドカは先ほどの発言を絶対に赦さない。

そして、俺の代わりに激怒する。

俺が患っている病を知っているからこそ。

 

「先程から黙って聞いていれば随分と回る舌を持っているようだな」

 

「兄さんを侮辱する奴は絶対に赦さない」

 

「貴様の発言を世間へ公表してやればどうなるのか理解出来ているんだろうな」

 

「その罪、命を持って贖え」

 

千冬姉とマドカのコンビネーションは絶妙…だよな?

 

とは言え、オルコットに非があるのは確かな話だ。

『国家差別』『性別差別』更には『障害者差別』。

世間的にも絶対に赦されない言動だ。

ましてや『世界最強』の名を手に入れた織斑 千冬の弟がその病なんだ。

その本人を千冬姉の真正面にてそんな振る舞いをすればどうなるか。

それが今の1年1組の状況だ。

千冬姉が胸倉を掴み、そのまま『片手』で持ち上げている。

凄ぇ光景だよな…。

 

なお、あの金髪少女の発言は全て間違いだ。

日本を『極東の島国』呼ばわりしているが、イギリスも島国だ。

日本を後退的と言うが、日本は全世界から見ても先進国の扱いになっている。

なお、イギリスは日本と比べても技術は遅れているとされている。

更にはIS技術に関しても、全世界で日本の科学技術はトップクラスに躍り出ており、他国からは大きく引き離している。

未だに世界のどこにも存在しない『マルチロックオンシステム』『荷電粒子砲』もその一つだ。

更に言えばISを開発したのは日本人だ。

宇宙進出技術を幾つもの国が軍事転用を考えたのは今では常識だが、軍事転用を唱え始めた国家の一つがイギリスだ。

 

先程の発言を世間に、そして国際IS委員会に通達すればどうなるか。

結果は火を見るよりも明らかだ。

イギリスは全世界から糾弾され、IS学園に通っているイギリス人生徒、イギリスの国家代表候補生、並びに国家代表生、企業代表生はイギリスに強制送還。

イギリスからはISの技術を全て提出させられ、今後はその技術開発研究は不可能にさせられる。

当然だが、機体もコアもすべて没収だ。

そうなればイギリス全土は大混乱に陥る。株価だって大暴落だ。

当たり前な話ではあるが、馬鹿な発言をした国家代表候補生一人が裁かれるだけでは処分は終わらない。

国際IS委員会による審問、国際裁判所での裁判も待っている。

子供の発言、なんてものでは決して赦されない。

『国家代表候補』『国家代表生』『企業代表生』の称号を与えられたものは、それだけ危うい場所に居るのと同義なんだ。

 

 

「そこまでにしとけって」

 

この場に血の雨が降るのは俺としても望まない。なので形だけでも二人を止めておいた。

 

「兄さんがそう言うのなら」

 

「…まあ、致し方あるまい。だが、どうやって決をとるつもりだ」

 

千冬姉の手から解放された女子生徒は派手な音を立てながら尻から着陸…もとい床に落下した。

千冬姉に恐怖したのか、顔は青く、手も足も震えている。

 

「け、決闘ですわ!」

 

「声が震えてるぞ、迫力が微塵も感じられないぞ」

 

「う、うるさいですわよ、男の癖に!」

 

「それと、お前の言う決闘は断る」

 

「ふん、臆病風に吹かれましたのね!これだから男は」

 

「俺は誰よりも経験が浅い。聞こえていなかったわけじゃないだろう。

そんな相手に決闘?違うだろう。お前は八つ当たりをしたいだけだ。

結果を見せれば周囲を黙らせることも容易いと思うか?ただ孤立するだけだ」

 

「…な…」

 

「そのイヤーカフスがお前の専用機だな。

イギリスの専用機ともなればBTシリーズだな。

専用機を持っているほどだ、技量は見事なんだろうな。

素人に手出しができないほどに」

 

「当たり前ですわ!素人以下の貴方なんかに負ける通りなんて!」

 

「それは認める、模擬戦をすればお前の一方的な勝ちに終わる。

俺自身の都合も含めてな。

だが最初から出来ゲームの模擬戦を誰が決闘として見るんだ?」

 

マドカがナイフを仕舞うの確認し、俺は未だに床にへたっているオルコットを見下ろす。

 

 

あ~あ、頭が痛い。

やっぱり頭痛薬と胃薬は常備しておくべきだな。

だが、一応言っておこう。

 

「お前の為を思って言っておく。

そういう言動は辞めた方がいい、今では胸倉掴まれるだけで済んでいるが、その言動を続けていれば取り返しのつかないことになる。

だから、『辞めておけ』。

国家代表候補生の称号は安いものじゃないんだからな」

 

「貴方のような男なんかに言われたくはありませんわよ!

妹は国家代表候補性なのにその兄は随分と劣化しているようですわね!」

 

「随分と他人を見下すのが好みのようだな」

 

この短い時間の間に千冬姉の逆鱗に二度も触れてしまったらしい。

今度は顔面を掴まれて床に組み伏せられている。

千冬姉の必殺『アイアンクロー』だ。

 

「近年のイギリスは余程の人材不足のようだ。

なら、更に人材不足にしてやろうか」

 

「だから織斑先生、そこまでにしとけって。

俺の代わりに怒ってくれるのは構わない。

でも俺は別に何とも思ってないから」

 

「……まあ、良かろう」

 

今の間は何だよ?まあ、いいか。

それだけ言って俺は教科書に視線を戻した。

後ろからは未だに金切声が聞こえてきたがまたもやスルーしておく。

箒が妙な視線を向けてくるが、それすらもスルーする。

 

「決闘ですわ!わたくしが勝てば、貴方を一生奴隷にヒィッ!?」

 

…学習しろよ。

そうしてその女子生徒、セシリア・オルコットの髪がまた一筋吹き飛んだ。

 

そしてクラス代表の座は決闘によって決められる事になった。

いや、俺としては辞退したかったんだけど、マドカにまで「クラス代表は兄さんがいい!」とまで言われたら断れなかった。

…俺、シスコンじゃないよな…?

ああ…どうせ勝てるわけもないのにな…

 

 

 

そして昼休み

 

「ふ~ん、そんな事があったのね」

 

食堂にて松茸のお吸い物を味わいながら楯無さんは呟いた。

今朝に続き、特上和膳セット(2500円、しかも俺の奢り)をさも美味しそうに味わっているその姿は正に名家のお嬢様だ。

実際にその通りなんだけど。

 

「まあ、千冬姉とマドカに同時に喧嘩を売るだなんて無謀だと思いますけどね」

 

俺はお握りを齧りながら緑茶を飲む。

弁当を作るには食材を買わなきゃいけないけど、それはまた週末だ。

放課後には訓練とかがあるから買い物もできない。

だが、米だけはコシヒカリが全ての部屋に完備されているので、お握りくらいの準備ができたのは嬉しかったな。

 

「一夏をそんな風に侮辱するだなんて…絶対に許せない!」

 

簪もこのペースだ。

ちょっと俺としては驚いている。

 

「確かに、あれは絶対に言い過ぎだよね~」

 

「のほほんさん、食べながらしゃべるのは行儀が悪いぞ」

 

簪はかき揚げ饂飩、のほほんさんは鮭の切り身が乗せられたお茶漬けだ。なんつー豪快さだ。

それをジュルジュルと啜りながらしゃべっているのだから周囲に飛び散っている。

女子高生の食事風景とは思えない。

 

「簪もマドカも落ち着けって」

 

簪からは何やら黒いオーラが出てきているし、マドカはほっとくとナイフが飛び出しそうだ。

ISの拡張領域に入れているんだから、ナイフを出す場所は選ばない。

だがTPOは弁えてくれ、頼むから。

 

「それにしても決闘ね、派手なことになりそうねぇ」

 

「勝てる見込みなんて無いでしょうけど、訓練の方、よろしくお願いします」

 

「簪ちゃんの機体の組み上げも頼んだからね♪」

 

そして開かれた扇子には『御馳走様♪』

…このまま晩飯までたかられたらどうしよう…。




朝に続けて更なる投稿。
冒頭でも記しましたが、オルコッ党の皆様、本当にごめんなさい。

それは置いといて、これにて一夏君が失っている感情が何なのか皆様も察していただけたと思います。尤も、一つだけではなく、二つなわけですが。

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