IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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Q.次回作品や、別の作品の投稿予定とか在りますか?
P.N.『空腹MAX』さんより

A.今は未定ですかね。
現在執筆中のこの作品に比べれば、クオリティは大きく下がるでしょうし、足掻いても福音編で完結させてしまうでしょうから。

Q.次回作品ではアンチは維持させてほしいっす。
P.N.『腹八分目』さんより

A.ふ~む、どうしましょう。
叩けばコメント増加、などという考え方をしてるわけではないですが。
その辺については推敲を続けてみます。
また、逆に救済をしては半端になる、とのコメントも過去には有りましたから殊更に難しいですね。

なお、私としての現在の考え方は『万人が等しく納得する内容など存在しない』です。


獄雷冥魔 ~ 月皇 ~

Kanzashi View

 

休学期間ももう少しで終えるという頃、一夏の修行は大詰めに至っていた。

1対1での訓練ではなく、護衛部隊全員を相手にした乱取…すなわち、1対150。

暴走しているんじゃないのかと思えるような圧倒的劣勢、圧倒的なまでの数の差。

それをものともせず、走り続けている。

疲労しているのも見て取れる。

なのに…なのに、それにも拘わらず走り続ける。

訓練を始めてからすでに二時間。

その間、足を止めていたのはその内の10秒程度、それ以降は休憩も無い。

隣を見てみれば、父さんも母さんも目を厳しくしていた。

懸命になっているのは見てもわかる。

でも、一夏は何か急ぎすぎているような…?

 

「む…!」

 

護衛部隊の人が、一度に三人吹き飛ばされた。

 

一夏が続けざまに木刀を振るう…、だけでなく、一気に踏み込む。

 

「凄い…」

 

組討術、柔術、体術、居合、剣術、蹴撃、そのすべてを複合させ、併用させ、応用し、次々と人を吹き飛ばしていく。

 

「まだまだぁっ!」

 

護衛部隊の人の足が止まった。

その瞬間に背後に回り、木刀で薙ぐ。

一瞬後には駆け抜けていく。

 

「父さん…今のは…」

 

「…『陽絡舞』、それを無意識に使っているようだな…。

いや、意識して使っている瞬間も見受けられる。

それらを切り替えている…?

見事なものだ、さらにそこに『臆裏陽』をも併用、いや、ドイツ軍式の歩法に、千冬君直伝の剣術のそれをも併せている」

 

多くのものを絡ませ、新しい技を構築。

継ぎ接ぎのものであったとしても、隙をなくすことで完全なものに仕上げていく。

今までと同じように。

 

「完成させたみたいね、一夏君なりに考え、試行を繰り返した新たな奥伝を」

 

「言うなれば…『絶影流 終式(ついしき)』」

 

新たな…そして求めた最後の剣技の完成された瞬間だった。

 

 

 

「だぁぁっ…!疲れた…!」

 

護衛部隊の人を一気に熨してから一夏はとうとう倒れた。

以前のように意識を失ったんじゃないのかと思うとヒヤヒヤしたけれど、今回はそうはならなかった。

ただ単に疲労で倒れて平然と空を見上げていた。

 

「お疲れさま、スポーツドリンク持ってきたけど、飲める?」

 

「もらうよ」

 

ペットボトルを渡すと、よほど疲れてしまっていたのか、どんどん飲んでいく。

 

「ふぅ…ごちそうさま」

 

「一気に飲んだら体に悪いよ」

 

「それもそうだな」

 

そんなことを言いながらお互いに笑いあう。

先ほどまで夜叉のように駆け抜けていた人とはまるで別人。

相手をしてくれていた人たちは既に死屍累々だけど、ひとまずお疲れさま。

 

「お昼ご飯は私が作っておくね」

 

「すまないな、任せるよ」

 

そう言って頭の中ではお昼のメニューを考える。

最近は体の疲労なんてそっちのけで動き続けていたはずだし、ここは一度、しっかりとスタミナを補充したほうがいいかも。

 

「冷蔵庫には確か、玉葱に…あ、豚バラ肉もあった筈、そうだな…じゃあ…」

 

生姜焼きにしよう。

 

厨房に入り、さっそく冷蔵庫の中を確認してみる。

うん、材料は残ってる。

 

「えっと…豚バラ肉をタレに付け込んでから…」

 

一夏と知り合ってから厨房に入ることが極端に多くなった。

一夏が料理が好きだったからか、その影響なのは理由としては現金過ぎるかな。

キャベツの千切りも今では 特に危なげもない。

半玉くらいなら30秒程度で仕上がるくらいは出来ていた。

抹茶を使ったカップケーキを作るくらいでしか厨房には用向きもなかった昔の自分が見たら驚愕してるかもしれないなぁ。

そんな事を考えながら視線を横に向ける。

この豚バラ肉を付け込んでいるタレも、先日に一夏に教えてもらって作ったものだった。

 

「さてと、キャベツを切って終わったら」

 

ほどよくタレを絡ませたお肉をフライパンに入れて焼いていく。

ジュウジュウと焼ける音と、この匂いだけで、私もお腹がすいてきたのは、皆にも秘密にしておこう。

 

お皿を取り出し、キャベツの千切りと一緒に盛り付けていく。

今回ばかりは一夏もしっかり食べるだろうから、量は多めで!

 

「よし、出来た」

 

父さんや母さん、それに自分の分も一緒に盛り付けてから道場横の廊下に走る。

 

「…あれ?」

 

父さんと一夏が真剣な顔で話し合っていた。

 

「あの、師範、またですか…?」

 

「当然だとも、父親としてはやはり、な」

 

「御気持ちは判らない事も無いですけど、このカメラの数は流石に…」

 

…カメラ?

写真撮影でもするのかな?

それとも、何か重要な話?

 

「それにほら、見てくれ、このアルバムを!

毎年体育祭には私も駆けつけて撮影をしているんだ!

だが、今年からは違う!

外部者は簡単に入れぬIS学園!

今年は何のかんので学園内部でのイベントでも身内すら入れない状態になってしまっている!

今年からは体育祭で頑張っている娘たちの撮影にも入れないのだよ!」

 

…つまらない話だった。

 

「あの…師範、この写真ですけど…簪や楯無さんに並走して撮影したんですか?」

 

そうそう、毎年並走してまで写真撮影してくるから恥ずかしくて仕方なかった。

辞めてって言っても聞いてくれないし、友達にもからかわれたりとかでウンザリしてる。

昨年もそうだったし、その前の年も…。

IS学園に入学すれば大丈夫だったとお姉ちゃんから聞いて安心していたけど、私も入学したら、と思ってたんだけど大丈夫じゃなかったらしい。

セキュリティ強化に対し、一夏に撮影させるつもり満々らしい。

 

「ああ、勿論だとも!

毎年二人に遅れないように足腰も鍛えていてね!

今年もそれが出来る様に…」

 

「出来る様に…なんですか?」

 

とうとう母さんが姿を現した。

あの後ろ姿だけで判る。

すっごい怒ってた。

 

「それをして昨年、痴漢だの、不審者だのと思われて、疑われて、怪しまれて、取り押さえられたのを、もう忘れたんですか?」

 

「あの、絹江…その、この事なんだがな、その、一夏君にだな…」

 

ミシミシ、ビキ、ズシャリ、ゾブ…

 

人の頭部から聞こえてはならない音と、野太い絶叫が聞こえたのは、その数秒後だった。

 

 

 

 

 

暫く御待ちください

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあお昼にしましょうね」

 

その一言を境に私達はお昼ご飯を食べ始める事になった。

廊下で食事とかちょっと行儀が悪いけど、日差しを浴びながらのお昼ご飯は、それを気にしないほどに気分がいい。

母さんの細い指先が赤黒く染まっていたのはきっと大好物の苺大福を食べてたから、父さんの顔の上半分が同じ色に染まっていたのは…きっと気のせい。

その数分後、廊下にモザイクに覆われた何かが転がっていたのも気のせい、見間違い、幻覚、蜃気楼。

 

「うん、美味い!」

 

思った通り、一夏はしっかり食べてくれた。

お昼御飯が出来た途端にどこかに出かけたらしい父さんの分まで、都合上合計二人分をしっかり味わいながら食べてくれていた。

キャベツをお肉に巻いて大口に食べ、ザクザクと噛み、そのすぐ後にはご飯をかき込む。

『美味い』って言ってくれるだけでもとても嬉しい。

一夏の食べっぷりを見ながらも私も食事を続ける。

うん、練習した甲斐があったと思える味!

 

「本当に、美味しいですねぇ。

これが食べられない厳馬さんに同情します」

 

母さんもニコニコしながら食べてくれていた。

本当に、お昼時に急に出ていくとか、父さんはいったいどうしたんだろう。

 

食事をしながら語り合ったのは、この休学期間の事。

私は基本、いつも一夏と一緒に居た。

今のように食事の時も、時には修行相手としても、休学期間中の勉強の時も。

それに夜眠る時も同じ布団で過ごした。

現金な言い方かもしれないけど、皆が居なかったから、普段以上に一緒に居られた。

流石に、お風呂は別々だけど。

 

「お皿洗いも私がしておくね」

 

「ああ、ありがとな。

じゃあ俺はさっそく修行に戻るよ」

 

食後のお茶を飲んで落ち着いたのか、一夏は再び廊下から外に飛び出して野外の演習場に走っていく。

もう、もう少しは休めばいいのに。

 

「彼の体力には底がないみたいですね。

修行、苦難、艱難辛苦をも乗り越えようとしている彼の前に、『限界』なんて在って無いようなものかもしれません」

 

「母さん?」

 

「そうですね…あの技に銘をつけるとしたら…絶影(たちかげ)終式(ついしき)無影(むえい) 月皇(げっこう)』」

 

一夏本人はといえば…相変わらず足捌きで護衛部隊の人を相手に立ちまわっていた。

そういえば…学園の方、大丈夫かな…?

 

そんなことを考えながら私は最後の生姜焼きを口に入れた。

夕飯は鶏肉を使ってみようかな…?

 

なお、父さんだけど、翌朝になって見つかった。

簀巻きにされ、木から逆さ吊りにされている状態で。

何があったのかは…気にしないでおこう。

 

 

 

一夏の訓練は相変わらず続いていた。

私も負けてられず、道場で薙刀を振るい続けていた。

一夏も私も目指す頂きに手を伸ばし続けているからこそ。

 

『頑張るわねぇ、二人とも』

 

「なに?天羅?」

 

『頑張ってるお二人さんを応援したくなってね』

 

「私も一夏も、サボってるわけにはいかないから。

修行や訓練は、やり過ぎたって足りないくらいだよ」

 

そう、まだまだ届かない。

お姉ちゃんを本当の意味で超えるまでは!

 

休んでなんていられない!

それに悔しいけど、一夏にも一度も勝てた試しが無い。

ダメ元で先ほど挑んでみたけど、一瞬で負けた…悔しい!

 

「それにしても…あの動き…」

 

一瞬、一夏が消えたように見えた。

見えた瞬間には刀が振るわれる最中で、それに気づいた時点で刀を突きつけられていた。

…やっぱり悔しい!

 

一夏は速い。

脚力も、刀を振るう速度も、何より成長スピードが速い。

そのスピードに置いて行かれるわけにもいかない。

だから私も、もっと早く

速く!

(はや)く!

もっと(はや)く!

 

刺突、薙ぎ払い、振るい、それを幾度も繰り返していたら、あっというまに夕方になっていた。

よくよく見降ろせば、胴着の中…インナーも汗でびっしょりになっていた。

 

「お風呂に入ってこよう」

 

胴着が汗で透けて、下着が見えかけてる。

…恥ずかしいからバスタオルを羽織って廊下を走り抜けた。

少しだけ時間が早いけどけど、大浴場へと向かう。

お姉ちゃんを氷漬けにしたのは母さんから叱られたばかりだから反省はしてる。

でも、あれはお姉ちゃんが悪いと思う。

 

「さてと」

 

脱衣場に入り、適当な場所を見繕ってから脱衣を始めた。

羽織っていたバスタオルを籠に入れ、胴着にインナーも全部同じ籠に放り込む。

タオルを持って浴室に行こうと思っていたけど…

 

「あの時のようなことがあっても困るし…」

 

一人での入浴になるのだろうけれど、念には念を入れてバスタオルを巻いてから行くことにした。

 

カランで座椅子に腰かけてから体を入念に洗う。

一週間以上離れ離れになっていたからか、このところはずっと一夏に甘え、同じ布団の中で寝ていた。

だから、体臭には普段以上に気を使ってしまっている。

同じように髪も入念に洗う。

納得できるまで洗ってから私は湯船につかった。

 

「ふぅ…落ち着く…」

 

お風呂は好き。

とても落ち着くから。

こうやってお湯に浸かっているだけで体から疲れが滲み出していく気がした。

でも、どうにもサウナはあまり好きになれなかった。

健康には良いらしいとか聞いたけど、私はどちらかというと苦手。

だから夏休みが終わって以降に大浴場の隅に増設されたサウナには私は入った事が無い。

 

そういえば此処で先日、一夏に抱き着いた。

それを思い出すだけで顔が熱くなるのを感じた。

本当に、自分でもなんて大胆なことをしてしまったんだろうと思う。

迷惑をかけようと思ったわけじゃないけど、あの時には体が勝手に動いてしまった。

 

後ろから抱き着いたりしたけど、一夏の背中って大きかったな…。

でも、あの時の一夏の反応は面白かったかも。

…迷惑にならない範囲ならいいかな…。

 

「何考えてるんだろう、私…」

 

きっと頭の中までのぼせてるから。

そう思い込むことにした。

そうでなければ普段の私じゃこんな事とか考えられないだろうし。

 

「そろそろあがろう…」

 

このままだと頭の中が今まで以上にのぼせそうな気がする。

 

 

 

寝間着に着替えてから廊下を歩いていると、演習場の方向がまだ騒がしい。

 

「一夏、まだ修行してるんだ…」

 

 

 

 

Ichika View

 

『陽絡舞』

更識家に伝わる影踊(かげろう)流の奥伝。

だが、それは一つの歩法だった。

『臆裏陽』が一直線状のものであれば、『陽絡舞』は軌道が無い。

だが、それは絶えず続く奇襲を想定する動きだった。

 

人は、視界に入っているすべてを、情報として脳に送信しているわけではない。

視界からの情報を処理するにも限界がある。

無理に情報を取り入れようとするのなら人間の脳はオーバーヒートを起こしてしまう。

要は、人間は最大限210゚にも広がる視界から、必要最低限度の情報しか脳に送信していない。

噛み砕いて言えば、『視界の中にも死角が存在する』というわけだ。

そしてそれを行う歩法は別名が存在する。

その銘は『抜き足』だったか。

 

それを俺は自分なりに改良して絶影流に取り込んだ。

『視界の中』『視界の中の死角』『物理的な死角』それらを続けざまに移動し続けることによって奇襲を超連続で続ける形にして。

恥ずかしながらも絹江さんによって勝手に技銘をつけられた。

終式(ついしき)無影(むえい) 月皇(げっこう)』と。

あの人、こういうのが好きそうだし…まあ、いいか。

 

 

技の構成は出来上がり、まずは少人数を相手にして、それからどんどん人数を増やして駆け抜け続ける。

 

「よし、どんどん来い!」

 

あとは、納得できる形にし、より速く繰り出せるように…!

あの時のような感覚を自在に引き出せればいいんだが。

 

あの時の感覚。

視界が白黒に染まり、周囲の動きが非常にスローに見えたアレだが…時間間隔の延長ともいえるものらしい。

プロのレーサーにも度々発生することがあり、言葉の通り、一瞬の出来事が数秒単位にも感じられるものだそうだ。

それが発生した際には、間合い…というか距離がミリ単位で把握できる場合も在るとか無いとか。

 

初めて経験したのは、先の学園襲撃事件の時だったか。

まあ、あの感覚が途絶えたときには軽い頭痛を起こしたから、コントロールできるようになればいいんだがな…。

絹江さんを相手にした際にも発生したが、あの時にも頭痛が起きた。

頭痛といっても、一時的に失った色彩情報が再び脳に叩き込まれたことによる反動なのだが。

気にならないほどにまで至るか、自在のコントロールできるようになるのが次の目標だな。

 

「『無影 月皇』」

 

今は、この技を完全に使えるようにならないと、な。




終わる安息の日々

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ただただ慌ただしく

次回
IS 漆黒の雷龍
『獄雷冥魔 ~ 剣舞 ~』

煮込みハンバーグ!

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