IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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Q.仮装障害物競走にて着せたい衣装を募集してるらしいですけど、ネタ要素なのも要望して宜しいでしょうか?
P.N.『親戚の子供とかくれんぼして本気で天井裏や床下に隠れたら、マジ泣きさせた』さんより

A
P.N.が長いうえに大人気ないなアンタ!?
(((((゜゜;)

募集はしていますが、ネタ要素も大丈夫ですよ。
既にある匿名希望の読者様からネタ要素として『裸エプロン』『手ブラジーンズ』『働かない、と記されたアイマスク』などが届いてたります。
ただ、要望が叶うかどうかは保証できませんので悪しからず。


獄雷冥魔 ~ 懐背 ~

Ichika View

 

簪をモノレール駅を送り届け、見送った翌日の朝だった。

 

~♪

 

ジョギングをしている最中、胸ポケットに入れていた端末が音と振動を放つのを感じ、俺は足を止めた。

着信相手は…

 

「…簪、どうしたんだ?」

 

つい昨日、見送ったばかりの簪だった。

休学している間は寂しい思いをさせてしまっていたのは判らないでもないが、まさか翌朝から電話を入れるほどに寂しいとか言うつもりなのだろうか?

まあ、それはそれで俺が悪いんだけどさ。

 

『えっと…その…また、モノレール駅に来てもらっていいかな?』

 

すっごい申し訳なさそうな頼み方をされてしまった。

まあ、すぐに行きますよ。

ジョギングを中止してバイクに跨がりエンジンを点火、進路方向をモノレール駅前へ向けてアクセルを踏んだ。

昨日も走った道ををそのままなぞってモノレール駅へと向かっていった。

少し冷えてきたし、先に温かいコーヒーでも先に買っとこうかな。

 

 

 

KanzashiView

 

「…そうか、あの愚弟は休学させているにも拘らず働き詰めか」

 

「あ、あはは…。

えっと…でも、働いてるばかりじゃなくて、ちゃんと修行とかもしてますから『働き詰め』とはあまり言えないかもですけど」

 

学園に戻ってすぐに千冬さんに出迎えられ、洗い浚い話すことになってしまっていた。

話すと…やっぱりというか何というか…頭を抱えていた。

気持ちは判らなくもないかな。

 

今朝の朝食の時も話をしたけど

 

「あの愚弟は、なんでいつもこうなんだか…」

 

怪我をしてまで刀を振るい続けたり、息が絶え絶えになっても動き続けたり。

何があっても一夏は立ち止まらない。

それは良い所でもあるけど、悪い所でもある。

千冬さんからは悪癖の一つと思われてるのかもしれないけど。

 

「やむを得ん、お目付け役を休学期間中同行させ続けたほうがいいだろう」

 

「お目付け役、ですか?」

 

私はこの二日間だけだったから他の人になるだろうけど、誰になるだろう?

鈴?お姉ちゃん?虚さん?それとも本音やマドカ?

 

「おい、何を首を傾げている?

お前以外の適任が居るわけないだろう」

 

いや、丸投げされましても…。

 

そんな理由で私は一夏と同じ期間の休学を言い渡された。

 

 

 

Chifuyu View

 

簪との話を終わらせた後、廊下に視線を向ける。

そこには正座を言い渡した更識姉が居た。

簪よりも先に呼び寄せておいたのだが、コイツの罪状を鑑みて、後から呼んだ簪よりもさらに後回しにして廊下に正座をして待機しておくように命じていたんだった。

正座をさせること既に30分、足が痺れて立ち上がれもしないのを確認し…

 

「それで、…何か言い訳はあるか?」

 

「…いえ、無いです…」

 

学生寮の床に直接正座させられた更識姉を見下ろし、容赦無しに拳骨を振り下ろした。

 

ゴツンッ!

 

「フギャァァァァッ!!」

 

悶絶しているようだが構いはしない。

さてと…簪から聞いた話では正気を疑うような行動をしでかしていたようだし、どこから説教をしてやるか。

まあ、両親からは説教をされ、簪からは氷点下の裁きを受けているようだから必要以上の事はしないでおこう。

過剰な処置は愚弟からストップを頼まれているからな。

 

 

Madoka View

 

虚先輩の采配で兄さんのスケジュール()の消化はかなり余裕が出てきた。

企業代表だとか、そのほかの一般生徒の中からの立候補者にもサポートをしてもらう事でより容易になっていた。

それでも毎日死にそうになるほどに働いてるけどさ。

疲れた後のお風呂だとか、食事が楽しみの一つになったけど、食事に関してはそんなことを言ってられなくなった。

むしろ、食堂よりも購買部のお弁当の売れ行きが右肩上がりになりすぎてるとかなんとか。

 

「お昼ご飯、できました~♪」

 

今日の食事当番はメルクか。

で、でてきたメニューはと言えば『ナポリタン』だった。

簡単なメニューだからと言って兄さんが作ってくれてた事があったっけ。

 

「美味しいね~♡」

 

早速本音が口周りをベタベタにしながら頬張っていた。

 

「本音、行儀が悪いわよ。

…いただきます」

 

そんな本音をたしなめながら虚先輩もナポリタンを口にする。

珍しく虚先輩の頬が緩んでる…気に入ったんだな。

 

「ラウラ、アンタも行儀が悪いわよ」

 

「んむ?そうふぁ()?」

 

ラウラも同じ感じだった。

 

まあ、こっちはこっちで放置しておこう。

あの鬼のような分刻みスケジュールの消化も今は落ち着き、こうやって昼食をゆっくりできるのは本当に久しぶりに感じられた。

兄さん、もうそろそろスケジュール整理術も習得してよ、お願いだから。

いや、整理した状態であれだったのかもしれないけどさ。

…そのうちに()刻みのスケジュールが、()刻みのスケジュールになりそうでそれはそれで怖い。

 

「うん、美味しい♪」

 

「そうね、ゆで加減もすっごいいい感じだし、粉チーズも合うわね」

 

鈴の場合、ここに唐辛子(タバスコ)は入れないんだよね。

ある一時を境に、『激辛』にはトラウマが出来てしまっているからとか。

 

「う、うむ…時には西洋の麺料理も悪くないな」

 

ここ最近は箒もすっかりトゲが抜け落ち丸くなってる。

夏休み前までは剣道部では白い目で見られていたらしいけど、いまではそれも無くなってるとか。

気持ちを一新するために髪を短く切りそろえたのも、一時には周囲を大きく驚かせていた。

髪型としては…ショートになるのかな?

頬に触れるか触れないか程度、私がナイフで斬ってすてたセシリアよりも更に短い。

セシリアは、ようやく髪が首半ば、肩にも届いていない。

まあ、この二人は今では私達の間でも平然と話をしてたりする。

 

「あ~、でもなんか懐かしさを感じる味だよねぇ」

 

「ですわねぇ…あ、わたくしも粉チーズを」

 

なんかナポリタンだけでここまで話題が広がるとか不自然にも思えるな…まあ、いいけど。

 

「それにしても…ここの風景も殺風景になったよね」

 

私たちが食事をしている食堂、今日は休みの日だからかなのか、生徒が全然居ないという殺風景な光景だった。

殆どの生徒が、購買部でお弁当を買って中庭だとか屋上で食べるのが当たり前になってる。

もしくは校内のカフェで軽食で終わらせたりだとか。

挙句の果てには調理実習室や自室で自炊するのが最近は学園内でブームになりつつある。

それもこれも兄さん…もとい学園長に原因があるとかなんとか。

その結果が閑古鳥が鳴く食堂という風景だ。

いや、食堂のスタッフにトドメを刺したのは私達だったけど。

 

「あ、姉さん、お疲れ様!」

 

「ん、ああ、ここで食事をしていたのか」

 

メルクからお皿を受け取り、ナポリタンを盛り付ける。

それを姉さんが座った場所へ持っていった。

 

「ほう、ナポリタンか」

 

「メルクが作ったんだ、食べてみて」

 

「お口に合えばいいですけど」

 

スプーンとフォークをもって姉さんが食べ始める。

気に入ったのかどんどんお皿の上のパスタが減っていく。

ものの1分半で

 

「ご馳走様だ。

誰から仕込まれたのかよく判る味だった」

 

「…姉さん、それ評価になってない」

 

「そう言ってくれるな、これでも誉めているほうなんだ。

さて、私はそろそろ行く、まだまだ仕事があるからな」

 

まるで嵐のように現れ、嵐の如く立ち去った。

まあ、仕事で忙しいなら仕方ないけどさ。

 

「ああ、言い忘れていた。

簪だが、これからしばらく休学することになった」

 

…え゛?

 

「まあ、理由は言わずともわかるだろう?」

 

ああ、兄さんのお目付け役、兼、簪の精神状態を見て、か…。

 

見渡してみると、皆も驚いていた。

まあ、仕方ないよね。

兄さん、それに簪もゆっくりと休んでおいてほしい。

…また今日からも忙しくなりそうだな…。

 

 

 

Ichika View

 

「えっと…簪もこれからしばらく…というか俺の休学期間にぴったり重なるように休学、と」

 

「う、うん…今朝になってから言い渡されて…」

 

…日本代表生が二人まとめて休学とかさすがに無茶な話じゃねぇの?

まあ、束さんあたりがその無理も無茶も押し通しそうではあるけどさ。

 

バイクを走らせ、海岸線が見える場所まできてから学園での千冬姉からの話を教えてもらった。

しっかし最後に『学園に戻ってきたら相応の覚悟をしておけ』は流石に()ぇだろ、完全に私刑宣告じゃねぇかよ、面倒臭ぇなぁ。

二年前の誕生日の翌日には一晩中追い掛け回され、クリスマスのしばらく後には三軒先のお宅にまで殴り飛ばされ、今年はアリーナのピットの天井に触れるまで殴り飛ばされ、アリーナの端から端まで殴り飛ばされ…。

…今回ばかりは水平線の向こう側まで殴り飛ばされそうだから対策を用意しておかないとな。

二度も死んだ俺だが三度目は御免被りたい、三度目の死者蘇生が都合よく発生するかどうかわかったもんじゃねぇし。

まあ、死んだら死んだでどうにもできないから無意味かもしれないけど、陽絡舞の体得と取り込みをこれまで以上に急がねば。

 

少しだけ冷めてしまった缶コーヒーを飲む。

なお、簪はミルクカフェオレだ。

 

「なんかゴメンな、巻き込むような形になっちまって」

 

「一夏が悪いってわけじゃないんだから謝らなくていいよ。

私としては一夏と二人きりになれる時間が増えてうれしいし」

 

俺の謝罪に対し、とんでもない爆弾発言が返ってきた。

数舜後、本人も何を口走ったのか理解したのか頬も顔も耳も首も真っ赤にしていた。

そんな簪をじっと見ているのも悪い気がして視線を上空に向けた。

 

「むう、一夏、笑ってる」

 

「…?俺、笑ってたか?」

 

「笑ってた」

 

非難めいた視線を俺に突き刺し、頬を膨らませる。

そんなつもりはないんだけどな。

『笑ってた』というよりも『喜んでいた』と言ったほうが表現としては正しい筈だったんだがな。

 

思い返してみれば二人きりになれる時間も結構制限されてたよな…。

恋人として交際し始めてからは、のほほんさんとかマドカとか楯無さん、虚さんに鈴も居た。

学園に編入してからは、ラウラにメルクもついて回るようになり、セシリアやシャルロットとも知り合った。

クラスメイトの皆からもいろいろと会話をしたり、ほかのクラスの人からも頼られるようになったりと…うん、二人きりになれる時間なんて、それこそ食事の時と寝る時間くらいだな。

あとは機体の調整時とかか。

 

だから昨晩のように寝床を同じにした日というのは実際には久しぶりだ。

う~ん、実際には休学の前日以来だな。

部屋が同じになってからは、毎日寝床は同じだったし、今となってはさして抵抗が無くなってきている気がする。

まあ、実家ではマドカがベッドに忍び込んで来たり堂々と入ってきたりしてるけど。

 

「そんなつもりは無かったんだけどな」

 

そのまま真っ青な空と海を見てたら背中からハンマーパンチでポカポカと叩いてくる、痛くも痒くもない。

8発目あたりで飽きたのか諦めたのか、肩に寄りかかってくる。

…今はもうすこしだけこのままでいても良いだろう。

折角の休学期間だ、少しだけ休んでもバチは下るまい。

 

「簪こそ笑ってないか?」

 

「そうかな…?

…うん、そうかも…。

普段から慌ただしいから、こうやってゆっくりできる時間が無かったからかな?

今は一緒に居られるだけでもなんだか嬉しくて」

 

「それに関しては、俺も同じだよ」

 

いまでこそこうやって二人きりでいるのも悪くないと思えているが、これからは、こういう時間も大切にしていきたい。

心内まで暖かになれる時間を、さ。

 

「さて、そろそろ行こうか」

 

残ったコーヒーはすっかり冷たくなっていた。

なんか本来の味から外れて甘く感じたのはきっと気のせい。

屑籠に放り込んでからバイクのエンジンを点火する。

簪もヘルメットを被り、慣れた手つきで顎紐を結ぶ。

…までは良かったのだが、なぜかサイドカーに乗り込まずに俺の後ろに乗り、抱き着いてくる。

俺が振り返ると同時に触れるだけにキスをしてきた。

唇がふ触れる瞬間、先程まで飲んでいたミルクカフェオレの薫りと味を感じた。

 

まったく、今日の簪は甘えてきてくれてるなぁ…。

悪い気はしない。

寧ろ男としては嬉しいくらいだ。

 

「楯無さんは居ないんだし、サイドカーに乗ると思ってたんだが…」

 

「此処が良いの!」

 

すでに両腕は俺の胴に回り、ガッチリとホールドしている。

これ以上拒むのは流石にナンセンスだろう。

まあ、二人きりの時間を大切にしたいと思うのは俺も同じ考えなんだし、これ以上言うのは野暮ってものだろう。

ってーわけでそのままエンジンに火を叩き込み、更識家に向けて出発した。

 

なお、付近をジョギングをしていたであろう近隣の学校の陸上部員だとかが街路樹にヘッドバットを繰り返していたり、通勤中のサラリーマンが標識だとかコンクリート壁にヘッドバットだとか壁パンを繰り返していたのは…まあ、蛇足か。

なんなんだお前ら?

『爆発しろ』とか呟いているが物騒な奴等だな、テロリスト予備軍かテメェら?

 

 

 

その日のお昼と夕飯は二人で一緒に作ることにした。

先日には、とある予定のために作るつもりでいた会席料理だったから…

 

「…今日は精進料理にするつもりだったな」

 

これもとある同じ予定でつくるつもりでいた。

学園に居たら二日前に作っていたはずの料理だ。

 

まずは白米を茶碗によそい

≪汁≫白味噌でつくった味噌汁

『麩』『湯葉』『椎茸』の炊き合わせ、

≪木皿≫には胡麻豆腐

もう一つの≪木皿≫には『紅葉麩』『蒟蒻』『栗』『牛蒡』の盛り合わせ

≪壺≫には『しめじ』と『青菜』のお浸し

最後に『香の物』の用意をしないとな。

 

これだけ作るのにも簪が色々と手伝ってくれた。

他の料理人?

相変わらず壁や柱にヘッドバットを繰り返してるよ。

もしくはアスキーアートのorz状態だ。

なんなんだアンタ達は?

 

なお、これをほかの使用人や師範たちに出したら絶句された。

なんかこの調子が今年はずっと続いてるからもういい加減に見飽きてきてたりする。

『慣れ』って嫌だな。

 

明日はイタリア料理の『アクアコッタ』でも作ってみよう。

 

食事も終わらせてから入浴したわけだが、今回はキッチリと時間を分けたから何も無かった。

流石に簪も今回は自重したらしい、楯無さんもこれくらいは見習ってほしい。

 

まあ、結局は寝床は同じなんだけどな。

寝るまでのあいだ、先日には話していなかった学園の様子を教えてもらった。

俺のスケジュールを代行していた早々と皆が目を回していただとか。

メルクと鈴は剣術の修練に励んでいたりとか。

篠ノ之は剣道部で奔走しているだとか。

虚先輩が俺のあのスケジュールをあちこち削ったり緩和したりだとか。

ラウラとシャルロットとセシリアの訓練監督が存外にもスパルタだとか。

続け様にスケジュールを叩き込んでいた生徒の一部はテロリスト集団『(ゴキ)天使』の間者であり、摘発されて退学になったりだとか。

話を聞いていただけでもずいぶんとお祭り騒ぎのようだ。

これはまた騒がしい事になっているみたいだな、ちょっと楽しそうだと思ってしまったじゃないか。

 

「昨晩だけでもこんな感じだったよ」

 

「あいつら、目を回してたんだな…学園に戻ったら何か盛大に料理でも作ってやらないと機嫌を悪くされそうだ」

 

特に鈴とシャルロットあたりが。

さぁて、献立は何にしようか。

 

毎日起床時間が4時だったのだが、簪に咎められ、監督されることになった。

なお、先代当主夫妻にも咎められた。

その為、明日からは起床時間は6時くらいにしよう、と相成った。

 

…まあ、いいか。

修行もその殆どが簪に見張られることになってしまったがそれに関しては妥協することになった。

 

そんな話をして珍しく夜更かしをしてしまった。

 

「そろそろ寝るか」

 

そ俺が布団に入るとさも当然とばかりに簪が隣に入ってくる。

 

「一緒に寝よう?ダメ?」

 

ンな言い方すんなっての、断れるわけもないだろう。

ってーわけで学園以来…じゃなくて昨日同様に同衾することになった。

二人の時間を大切にしようというのは二人での約束だ、なら…約束は守らないとな。

 

簪は俺の右腕を枕にして寝ている。

俺も同じように目を閉じた。

願わくば、これからも暖かな時間が続くようにと願いながら。

 

…これは余談だが、翌朝には夏休み以来のアレを経験する羽目になり、昼過ぎまで互いに顔を合わせられなかった。




近づく休暇の終わり

その時に備え

その日が来る

次回
IS 漆黒の雷龍
『獄雷冥魔 ~ 月皇 ~』

絶影流 終式…!

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