IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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例の日の数日後

「姉さぁん!
絹江さんから届け物だよ」

「お、ようやく来たか。
絹江さんから連絡が入るまで師範を学園に留めておくだけでこんな上物が手に入るとはな♪
さて、今日の夜に頂くとしようか」

「…もしかして、それお酒?」

「ああ、そうだ。
聞いた話では秘蔵されていた、かなりの上物だぞ」

「ふ~ん…それで姉さん、部屋の片づけはしたの?」

「…明日にでもするさ」

「そう言って部屋の片づけしたことなかったよね?」

「…」

「このお酒はやっぱり没収!
姉さんは部屋の片づけと掃除が終わるまで禁酒だからね!」

「ぐぅっ!?」


orz状態の千冬を放置して数分後

「さてと、この『ロマネコンティ』と『サングリア』は…そうだ、山田先生にあげようっと」


獄雷冥魔 ~ 目逸 ~

Ichika View

 

学園と倉持への襲撃があってから一週間半が経過した。

クラックされたシステムも束さんとクロエの奮闘により一週間で復旧し、破損した壁面もアースガルズが建築業者顔負けの勢いで修復していた。

だが、第4アリーナに作られた傷跡ばかりはどうしようもなく、未だにアリーナの大きさそのままのクレーター湖状態だった。

まあ、主犯格は誰なのかは判りきっているわけだが。

 

「本当に今年だけで色々と起きすぎだろ…」

 

二月

俺が世界最初の男性IS搭乗者として世界中に情報が広がった。

 

三月

藍越学園への受験は取り消され、IS学園への編入が決定した。

 

四月

IS学園に編入し、専用機『白式』を預かる。

圧倒的なまでの不利な状況下に於いて英国代表候補『セシリア・オルコット』と決闘名義の公開リンチにて逆転勝利。

 

五月

鈴が編入してくる。

クラス対抗戦の際、鈴との対戦途中、学園全土を覆うシールドをブチ抜かれて無人機が侵入してきた。

そして黒翼天の顕現と時を同じくして、俺は感情を喪失。

 

六月

ラウラとシャルロットが編入してくる。

ほぼ同時期にフランスのデュノア社に強制捜査が入り、半年間の営業停止。

女尊男卑主義団体の幹部である婦人が逮捕。

なお、代表取締役である、親父さんは長期療養になり、現在もまだ入院中。

 

七月

米国の軍事無人IS『銀の福音(シルヴァリオ・ゴスペル)』が暴走し、討伐任務が編成される。

そこで俺は二度目の死を経験し、輝夜と黒翼天の治療により蘇生。

いかなる世代にも属さぬ『創世世代機』の誕生。

それに伴い、俺は喪失していた感情を取り戻す。

福音の搭乗者である『ナターシャ・ファイルス』は束さんの手により保護。

 

その直後、米国の国際IS委員会に束さんが殴り込み。

会長の座を奪取、組織は生まれ変わることになり、その拠点をアメリカから日本へと移された。

内部に巣くっていた汚物を一掃し、組織を一新させる。

 

八月

豪国と独国へと渡り、修行に明け暮れる。

千冬姉と決闘し、紛い物の勝利を得る。

 

九月

学園祭にて不測の事態が発生。

俺は記憶がほとんど残っていないから省略。

 

CBFにて襲撃、これも同じく。

俺はその日を境に行方をくらませようとしたが、楯無さんの説得に折れて諦めた。

 

その日の夜にはダリル・ケイシーが夜襲。

辛うじて返り討ちにするも逃亡を許してしまう。

 

翌日、朝っぱらから国際テロシンジケート『凜天使』の襲撃を受ける。

その悉くを拿捕するが、その爪痕は都市部に残り続けている。

 

 

十月

専用機所有者限定トーナメント開催。

だが予想していた通りに襲撃が発生。

教師部隊の半数が裏切り、学園の防衛力が著しくダウン。

それと同時に『ダリル・ケイシー』の拿捕を命じられるも任務失敗、後日にその亡骸が発見される。

 

『凜天使』による倉持技研への襲撃。

同時に所属不明の軍隊により学園が急襲される。

そんな中、正体不明の男(アンノウン)量産複製模倣兵(クローンソルジャー)通称『ジャック』を知ることになる。

 

毎月不測の事態が起きている。

比較的マトモだったのは六月だけというのがまた、ため息が出てくる。

とは言っても、放課後に簪やラウラと話をしている途中から記憶が飛んでいるわけだが、どうやら黒翼天が俺の体を乗っ取っていたらしいが。

同じ事がCBFの時だとか、専用機トーナメントでも起きていたらしい。

 

さあて、次は何が起きるのやら。

もう何が出てきても驚かない気がしてきた。

どんな事態に陥ろうとため息一つこぼすだけで対処を始めてしまう気がした…というか確信だ。

というよりも、今年だけで何度ため息をこぼしたのかなんてもう数えたくもない。

今まで不測の事態が起きるたびにため息を幾度もついてきたんだ、これ以上ため息を零そうものならば一生涯のすべての運を吐き出してしまう気がした、というよりもこちらも確信だったりする。

 

「さてと、そろそろ休憩にするか」

 

ES開発は、未だに雲をつかむような開発途上だ。

だが、いくつか開発のキーとも言えるものを発見していた。

ISコアネットワークをも上回る上位ネットワークシステムの存在。

束さんから『星』シリーズを受け取った一同は、それに一度ダイブしている。

コアが内包している世界とはまた別次元らしい。

俺はそのネットワークシステムにダイブした経験こそ無いが、コアが内包している世界には深層同調(ディープシンクロ)現象にてダイブした。

 

輝夜が内包する世界は、無限の蒼穹と鏡の大地だった。

そこに輝夜の主人格であろう白い少女と、白騎士が佇んでいる。

 

黒翼天が内包している世界は、俺が失った感情をも内包していた。

黒雷と闇色の雷雲、そして無限の刃が墓標のように佇む寂寥の荒野。

 

そのいずれの世界にも、どこか孤独を感じさせた。

無限に広がりながらも、誰もいない、何も無い。

無限に広がる自由は、どうしようもなく孤独なのかもしれない。

もしも…もしも、その世界から、俺たちの世界に連れ出すことができたのなら、彼女たちの孤独は癒されるのだろうか…?

普段の生活をしている中でも語り掛けてくることがあるのは、そんな孤独を少しでも癒したいからなのかもしれない。

…なら…無限の宇宙へ連れ出そうとしているのは間違いなのだろうか…?

 

『そんな事は無いと思うな』

 

「…輝夜…?」

 

『私は宇宙を見てみたい、一人でじゃ無理だろうから、パパと一緒に』

 

…もうパパと呼ぶことに迷いも無くなってるらしいし、俺も少しは慣れてきてしまっていいるようだ。

これに関しても溜息が出てくる。

 

『でも、それができない子も居る。

目覚めを拒絶されているわ』

 

「…強制凍結処理されている、ということか?」

 

『違うわ、コアの人格を強制的に眠らされて、別の何かで覆われてしまっているの』

 

『狂気、憤怒、憎悪、自尊、陶酔。

そんな醜い感情を剥き出しにすることで、コア人格を威圧することもある』

 

へぇ、そんな現象があるのか。

確かに、人間誰しも感情を制御しなければ、本能を剥き出しにしているのと同じだ。

そして剥き出しにしていれば、他者を威圧する。

だが、それは人としての振る舞いではなく、獣の境地だ。

まあ、確かにその類の感情は人を委縮させるわな。

 

「なら、その委縮された心を解き放つことができれば…」

 

すべてのISコアを回収すればテロリスト扱い、ならばコアネットワークに入り込めばいいかもしれないが、ステルス状態にされてしまっていては、接触も対話もできないだろう。

やはり、輝夜と黒翼天のような上位ネットワーク側からの干渉しかないのだろう。

二次元の存在が三次元の存在に干渉できぬように、三次元の存在が二次元の存在に対し、自ら意図的にレベル祖下げねば干渉できないように、か。

だが手掛かりは少しだけ見えている。

今までと何も変わらない。

道がないのなら作るだけ。

たとえ誰も歩んだことのない道だったとしても、踏みしめたその場所は確かに道筋になるはずだ。

コアに内包されている孤独な存在のためにも道を作りたい。

たとえ傲慢だとしてもな。

 

 

休憩をするためにも一旦自室に戻る。

その途中に偶然メルクに出会う。

気軽に普段通りに挨拶を交わす。

廊下を歩いていく様子を見てみる。

時折独り言を呟くような様子が見える。

そんな最中に急に背筋をピンと伸ばしたり、頭を掻いたり、クスクスと笑ってたり。

あれは恐らく…

 

『あの娘、対話してるんだね』

 

「なるほど、俺と輝夜と似たような感じか」

 

対話をしながら一喜一憂、本当に…目に見えない存在との対話だから幽霊と会話しているんじゃないかとも思われそうな光景だ。

だけど、形のない存在が相手だとしても、ああやって分かり合うことはできるのだと確信した。

人間も同じだ、力を振るわずとも、対話すれば、分かり合う事は出来るはずだ。

…まあ、凛天使のようなテロリストは話が別なのだろうが。

 

そのあとも廊下を歩いている最中に、簪や鈴、ラウラにマドカとも会った。

あいつらも歩いている最中にもISコアの人格と話をしているようだった。

簪が顔を真っ赤にしているのは少しばかり気になったが、今はおいておこう。

 

「…対話、か…」

 

思えば、俺が今まで戦ってきた相手とも対話が出来たのだろうか…?

例えば…白銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)

臨海学校の際に国際IS委員会から討伐命令が出されたあの機体。

今は搭乗者とともに束さんの管轄下に入っており、ES開発にもいろいろと口出しをしてくれている。

昨日は昨日で開発をしている最中、背後からジッと見てきていて落ち着かなかった。

まあ、開発には協力的だから構わないけどさ。

 

…少しだけ道が見えてきた気がした。

もしも、もしもコアに内包されている人格がコアそのものから抜け出したらどうなるのだろうか…?

 

『コアは完全に機能しなくなるよ』

 

「へぇ、やっぱりそうなるのか」

 

ESが完成したのならその時点だけであればまだいいだろう。

467と上限が定められているコアとは違って、俺はESを最終的には量産にまで漕ぎ着けたいと思っている。

だが、それが兵器転用されたらどうなる?

時代に合わさった兵器がISからESに切り替わるだけだ。

 

兵器転用だけは駄目だ。

ただただ時代が繰り返されるだけでしかない。

宇宙を目指すものであれば、それだけの翼にしたい。

 

「いや、それなら…」

 

ESを求める国家には、ISを放棄させる条件ならどうだ?

…却下だな。

交渉には力も必要になるが、国家丸ごと弱体化させ、兵器転用できないものを明け渡せるわけもない。

兵器転用させないのは当然だが…いや、そもそもESに兵器転用できないように最初からリミッターを搭載させるか?

だが、リミッターを解除させる輩も少なくとも出て来るはずだ、なら最初期から兵器を拒むようなシステムを大前提にするか?

…やっぱり道はまだまだ長いな…。

ESに進化…いや、成長したという輝夜ははっちゃけたがりの娘みたいな感じだし

 

『あ、ひっど~い!』

 

黒翼天はそれに輪をひっかけて攻撃的だし

 

『………』

 

っつーか二人まとめて攻撃的すぎるんだよな…。

世間に知られちゃならないES-001だが、世間にはISとしてごまかしているんだ。

こっちもこっちで問題山積みな気がするぜ…。

 

 

 

 

Chifuyu View

 

「ちーちゃんもお疲れだね」

 

「ああ、まったくだ。

教職員の仕事も楽ではないぞ、ときにあの愚弟は何を考えているのか判らん時もある」

 

私が席に着くとクロエが即座に現れ、肩を揉んでくれる。

うむ、なかなか気が利くな、だが力加減のそれには一夏には遠く及ばんがな。

 

「で、あの女はまだ生かしているのか?」

 

地下区画の一角に幽閉している女、コードネーム『オータム』。

一夏に右目を奪われ、黒翼天に両腕と両足を生きたまま引き裂かれた。

痛みに気を失いそうになりながらも、痛みにより気を失うことも出来無かった。

そしてあれからもその悪夢を繰り返し、意識があるときも、意識を失った時も魘され、喚き続けている。

薬剤で生かしているが、奴の喉は悲鳴に耐え切れず、声帯が破損している。

声を失ったにも拘らず、眼下の女は絶叫し、痙攣を続けている。

いや、もはや生きているとは言えないだろう。

 

「死なせてやるのも情け、か…?」

 

「まあ、ここまで来てたら私もその一つの手段だと思うよ。

でも、外交には…脅迫も必要だよ」

 

そう言って束はコンソールを開く。

そこには、眼下の女の戸籍が表示されていた。

 

「出身地、アメリカとされてたっけ。

元空軍特殊部隊所属、出身地はアリゾナ州。

本名は…『レイコ・O・ミーズ』」

 

ミドルネームに…『O』だと…?

…まさか…!

 

「ミーズ家には養子として入ってる。

元々は日系みたいだからね、特定するのには手間取ったよ」

 

新たにコンソールが開かれる。

どうやら幼少のころの写真だった。

あの女が幼かった頃の…だが、その隣には…私も写っている…?

 

「育ちはアメリカ、でも、生まれは日本。

日本人だったころの名前は…『織部(おりべ) 礼子』」

 

ズガン!

キレた。

それも本気で…!

なにもかも計算のうちだったというのか、あの二人からすれば!?

いまだに私はあの二人の掌の上で踊らされていただけだったというのか…!?

 

「いっくんが渡してくれた情報の中には組織内の情報も入ってた。

あの組織は二人組の研究者によって牛耳られている。

そしてその二人は日本人で、コードネームは『000(エンドレス・ゼロ)』」

 

確信はしていた。

だが、間違いであってほしかった。

幾度もそう願っていた。

 

「この女、オータムはちーちゃんからすれば親戚。

過去には捜索願が出された記録も残ってる。

でもDNA鑑定もしたし、間違いない。

織部(おりべ)礼子はちーちゃんの遠縁の親戚」

 

「やめろ…!」

 

「ある人物達に家から連れ出された後、行方不明。

どこかで聞いた話だよね」

 

「やめてくれ、束…!」

 

「そしてその二人は共同研究をしてる夫婦でもある。

研究内容は人間の肉体の限界突破」

 

「やめろ束!」

 

ああそうさ、判っていたんだ!

私は…!

いや、私も、だな…。

私もマドカも判っていたんだ。

 

「ちーちゃんは真実を知っていたんでしょ?

でも、どこかで認めたくないって思ってる、そう思って私に依頼してきた。

でも、悲しいよね…違うんだって思えば思うほど、その悪夢のような真実に近づいていく」

 

いくつものコンソールが私の周囲に開かれる。

見覚えのある人物が幾つもの写真の中に写っていた。

時には慕った、だが、ある一時を境に殺してやりたいと憎むようにもなった。

だけど、一夏がいるから私はその思いを押し殺した。

親代わりを務めなければならない私がそんな殺意をむき出しにしては一夏も歪んでしまう。

いつの日か会えると信じていたマドカをも怖がらせてしまう。

だから復讐を捨てた。

にも拘わらず…なんでまた私たちの前に現れるんだ!!!!

忘れるんだと誓ったのに…!

 

「ああ、気づいていたさ…!

あの二人は……私たちの両親だ…!」




少しだけ羽を休めよう

それでも刃は手離さず

もう少しだけ

今の先へと

次回
IS 漆黒の雷龍
『獄雷冥魔 ~ 残影 ~』

どいつもこいつもorz状態って、どういうこった

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