IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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くっ…!昨日は投稿が出来なかった…!
楽しみにされていた方々、申し訳ない。
その代わりに今日は2話投稿しますので


無謀

 

Ichika View

 

そして時間も時間になり、俺はマドカと一緒に食堂に行った。

簪とも途中で合流し、同じ卓で食事をすることになる。

1025号室での出来事を話すと、マドカは呆れ、簪は苦笑い、のほほんさんは大笑いしていた。

そして部屋に戻ると、頭に大きなコブを作っていた箒が居た。

相当痛いだろうけど、今後は振る舞いを自重する事だろう。

 

「なあ、一夏」

 

「何だ?」

 

「本当に剣道を辞めたのか?」

 

なんだ、まだその話を引きずっているのか?

 

「ああ、辞めた。もうする事は無いだろうな」

 

「お、屋上に来い!剣道を勝手に辞めるだなんて腑抜けた性根を叩き直してやる!」

 

…お前、何のつもりだ?

腑抜けた、だと?剣道を捨てたのには相応の理由が有った。

苦悩もしたさ、だがそれを腑抜けているだと?

 

「剣道をするつもりで俺に挑むのはやめておけよ

俺が今、振るっているのは完全に我流の剣だ。

剣道だけじゃ対処はできないぞ。

お前、ガキの頃からは剣道ばかりで『剣術』は会得してるのか?」

 

「私を甘く見るな」

 

「いいだろう、屋上だったな。

時間も遅いし、一本勝負だ。

ただし、立会人もつけさせてもらうぞ」

 

「私はそれで構わない」

 

立会人はマドカに頼んだが…そこで問題が起きた。

どこから話が漏れたのか、のほほんさんに簪、更にはクラスの生徒が数人程屋上に集まった。

理由を聞いてみたところ、1026号室にて初日から女子会が開かれていたらしい。

そこで俺からの電話に、全員が興味を持ち、今に至る。

 

「面白半分で集まったのかよ、この人数…」

 

寮監なんて居たら全員説教されるのは間違いないだろう。

そうならないように早々に終わらせよう。

俺は心にそう決めた。

 

「一夏、私が勝てばお前にはまた剣道を叩き込む!

剣道を勝手に辞めるような性根を叩き直してやる!

そして剣道部にも所属してもらうぞ!」

 

「俺は俺の意思で剣道を辞めたんだ、別に腑抜けたつもりは無い。

付け加えて言うと、今は何処の部活にも所属する気はない」

 

箒は俺の言葉に耳を貸さないかのように竹刀を構えている。

その様子にマドカが額に青筋を浮かべる。

 

「一夏!防具をつけろ!」

 

「必要ない、三人の師から剣と武を叩き込まれ、それを合わせた我流で鍛えてきたんだ。

それを行うには、防具なんか邪魔だ」

 

俺が持っているのいるのは竹刀一振りのみ。

それも右手だけで持ち、左半身を前にして竹刀を体で隠す。

完全に俺の我流の構え…とはいかない。

まだ手の内を全て曝け出すつもりもない。

 

「その言葉、後悔するなよ一夏!」

 

まっすぐに突っ込んでくる箒。

お前、それじゃあただの猪武者だぞ。

 

 

 

Kanzashi  view

 

篠ノ之さんが真っ直ぐ突っ込んでいく。

一夏は半眼でそれを見ていた。

あんなのに一夏が負けるわけがなかった。

大上段から振り下ろされた竹刀を半歩横に動いただけで完全に躱した。

そして、一夏の竹刀が激しい音を起てながら篠ノ之さんの防具に叩き込まれた。

 

「勝負あり!」

 

マドカの声が響いた。

たった2秒だった。

これでも、一夏は本気を出していない。

そもそも、一夏の本気は、あんな構えじゃない。

多分、力の半分も出していなかった。

 

「…凄い…」

 

「篠ノ之さんって、剣道全国大会優勝者、だよね?」

 

「それをあんなにも簡単にいなすだなんて、織斑君ってどれだけ凄いの…?」

 

皆、一夏の事を称賛していた。

本当は伝えたい。

一夏が本気を出してもいないって事を。

でも、秘密にしておこう。

私が一夏と交際をしているのを皆にはまだ知られたくない。

…本当のことを言えば、私が恥ずかしがっているからだけど。

 

「ま、まだだ、油断していただけだ。

一夏、もう一本だ」

 

「それは認められない」

 

私が言おうとしていたことをマドカが先に言った。

ちょっと悔しいな。

 

「この勝負は一本勝負と先に言われていた筈だ。

なのにお前の勝手な独り善がりで無かったことになどさせはしない」

 

「う、五月蠅い!部外者が勝手なことを――」

 

私も言っておこう。一夏の為に。

 

「部外者なんかじゃない、マドカは一夏の妹よ。

それに、一夏が今の剣を編み出すのに、どれだけ努力をしていたか貴女は理解しているの?」

 

「な…!?だがそれと剣道を辞めた事とは」

 

「そうね、一夏が今の剣を編み出したのは剣道を捨てた後の事。

その理由を知らない人が、一夏の努力を否定しないで」

 

私は真っ直ぐに篠ノ之さんの目を見て言い放った。

 

「い、一夏、お前も何か…一夏…?」

 

一夏の目は完全に別の方向を見ていた。

一夏の視線の先には…この屋上へと続く階段がある。

誰かが近づいてきているのが聞こえたらしい。

 

「お、織斑先生…」

 

「お前達、そこで何をしている…?」

 

や、やばいかも…!

こんな時間にこんなところで集まっているのがバレたら…。

 

「やべ、逃げるぞ!ついてこいマドカ!」

 

「ふきゃっ!?」

 

「ちょ、兄さんまさか!?」

 

私の背中と膝裏に一夏の手が回りこむのが感じられた。

 

「ちょと、待っ…!?」

 

一夏は私を抱えたままの状態で屋上の端から飛び降りた。

下には大きな木が何本も見えている。

まさか、その枝をクッションにして落下速度を緩めるとか…!?

 

「よっと!」

 

その予想は外れた。

枝から枝へと飛び移り、徐々に下へと飛び降りていく。

思い出した言葉が一つ。

『フリーランニング』、道無き道を移動する技術。

そういえばドイツでの訓練でやったとか言ってたっけ。

でも、私担いでそれをするなんて…。

 

「よし、到着」

 

到着したのは、1025号室。

一夏の部屋だった。

もしかして、こうなることを見越して窓を開けていたのかな?

一夏って凄い…。

そしてそれについてきていたマドカも…

 

「二人ともお疲れさん」

 

お疲れ、なんて言われても

 

「はう~…」

 

「あ、あんなの初めてやったから疲れた…」

 

私もマドカも完全に目を回してしまっていた。

完全に意識を失っていたらどれだけ楽だっただろうか。

一夏はあれでも加減とかしてくれていたのかもしれないけれど、私たちには刺激が強すぎた。

 

「…ちょっと無茶しちまったかな…?

加減はしたんだけどな…次からはもう少しばかり気を付けるか」

 

次があるの!?…もう堪忍して…。

 

心の中でそう呟いて私は気を失った。

 

 

 

Ichika view

 

簪とマドカが揃って気を失ってしまったが…どうしたものか。

屋上での事に関しては、千冬姉に姿を見られるよりも前に飛び降りたから、間一髪で逃げ切ったと思う。

竹刀はそのまま放置したが…箒が説教を食らってるかもしれない。

同情はするべきか否か…。

それよりも、だ。

 

「…部屋に運んでおくか」

 

今は二人そろって壁に背中を預けて目を閉じている。

簪は気絶しているだけだが。

各自背負って部屋に運んで寝かせ、布団をかけておいた。

俺は今日は椅子にでも座って寝るか。

 

改めて部屋の中を見てみる。

PCは初日から御釈迦になり、俺が気に入っていた湯呑は砕かれ…。

とことん厄日だな…。

 

「はぁ…」

 

今日何度目になるのか判らない、そして今日最後の溜息を盛大に吐き出したのだった。

 

シャワーを浴びてから着替える。

ガチャリと音がして扉が開かれる。

入ってきたのはルームメイトの箒だった。

屋上で見た時よりも少しやつれて見える。

それに気付いたが、敢えて触れずに俺はとっとと眠ることにした。

 

 

 

 

 

翌朝

 

「まあ、結局いつもの時間に目が覚めるんだよな」

 

早朝の新聞配達に間に合わせるような時間。

AM4:30

…学園の規則により、長期休暇期間以外はバイトが出来ないのに、この起床時間とは…。

まあ、いいか、修練場に行こうか。

ベッドを見てみると箒は未だに熟睡している。

このまま眠らせておこう。起こすと面倒だ。

 

 

 

修習練場に行くと

 

「はぁい、一夏君♪」

 

楯無さんがそこに居た。

開いた扇子には『ただいまAM4:41です』と達筆で書かれている。

以前から思ってはいたが、あの扇子は何なんだ?

 

「あら、どうしたの?あんまり気分が良さそうじゃないけど?」

 

「昨日だけでいろいろとありましてね」

 

「このIS学園に男子生徒が入学したんだもの、珍しがられても仕方ないわよ」

 

そう言いながら楯無さんは棍を手に持つ。

槍だなんて実物をこんな所で人を相手に振り回すわけにもいかないから、その代わりだろう。

俺は壁に掛けられている竹刀を手に持ち、昨晩と同じ構えをとる。

左半身を前にし、右手に持った竹刀が体に隠れるように…。

 

「じゃあ、始めましょうか」

 

「ええ、そうですね」

 

棍の使い方は大体二つに限られる。

『突く』か『振るう』かの二つ。

言わば、全体が武器になる。

だけど楯無さんが最も得意とするのは槍だ。

 

「はぁっ!」

 

渾身の力の突きが最初の一手だった。

槍や棍を使う場合、この『突き』が脅威だ。

先端は幅が小さく、また、槍や棍からの攻撃を受ける場合、その間合いが掴みにくい。

見切れば問題ないのだろうが、その間に突かれてしまえばジ エンドだ。

でもまあ、楯無さんのこの突きは俺としては見慣れてしまっているのもまた事実だ。

 

「よっと!」

 

半歩横に動き、その突きを回避。

 

その一瞬後に竹刀を振り上げ

 

ガギィッ!

 

互いの武器がぶつかり、派手な音が響く。

そして棍の先端は天井に向く。

こうなればほとんど無力。

 

「まあ、こんなもんですか」

 

「剣を握ると強いわねぇ、一夏君は。

しかも本気を出していないと来てるもの」

 

また扇子を開くとそこには『強いわね』と。

だから何なんだ、その扇子は。

 

「それよりも知ってるかしら?

この学園の生徒会長のもう一つの呼び名が何なのか?」

 

学園の生徒会長のもう一つの呼び名、か。

生徒の長たる者の風格が必要になるのだから…それも此処は女子高なわけだから…。

 

「容姿端麗、ですか?」

 

「残念、不正解」

 

容姿じゃない?なら成績か?テストの出来?

人望?友愛?いや、冷静になって考え…

 

「って何でそんなにも詰め寄っているんですか!?」

 

気付けば楯無さんの体がほとんど密着するまでに近寄っていた。

いつの間に詰め寄ったんだこの人は!?

油断も隙もあったもんじゃない!

 

「あら、残念」

 

何がだ!?

開いた扇子には『既成事実作成失敗』…。

何をする気だったんだ、この人は!?

 

「答えは、『学園最強』よ」

 

つまり、楯無さんはこの学園で最強を謳っているらしい。

学園最強、ねえ。

その言葉を名乗るのであれば、早速ではあるが疑問が一つ浮上してくる。

それも至極当然の話ではあるんだが。

 

「それってつまり、『教職員を含めて』の最強を名乗っているってことですか?」

 

「…え…?」

 

「簡単に言うと、『千冬姉を超える強さ』を持っているのか、って事ですよ」

 

意地の悪い切り返しであることは自覚している。

だが、千冬姉が俺の誇りであることは変わらない。

だからこそのこの問いだ。

 

「さ、流石に織斑先生を超えるのは壁が高すぎるわよ…」

 

「じゃあ学園最強を改めて『生徒最強』か『学園最強(笑)』ですね」

 

「い~ち~か~く~ん?」

 

…やべ、からかい過ぎたか…?

顔は笑っているが、目が笑っていなかった。

どうやら俺は同じ二の轍を踏んでしまったらしい。

学習しろよ俺!

 

「今日の朝食、スペシャル和膳セットをお願いね」

 

ぐああぁぁぁ…2500円の超高級コースですか…。

どうやら今日も厄日になりそうだ…。

 

 

そして朝食時

簪、マドカ、楯無さん、のほほんさんとの朝食を摂る。

俺の右隣には簪、左隣にはマドカだ。

一緒に食事をとるときにはこの二人が俺の両隣に来るのは俺としても早くも日常になっていた。

 

「それで一夏君、今日の予定は判っているのよね?」

 

「判っています」

 

今日の放課後からは簪の専用機である『打鉄弐式』の組み上げ、そして楯無さんによるISの訓練が入っている。

とはいえ、俺は専用機なんて持っていないから学園の訓練機である『打鉄』か『ラファール・リヴァイヴ』で行うことになる。

訓練機を使用する際にも事前申請が必要不可欠だが、当然ながらその申請が大量に詰め込まれているから、訓練機をで訓練ができない場合もあるらしい。

だが、俺の場合、楯無さんが事前に申請しておいたらしい。

『らしい』と言っても、俺が入学するよりも前に申請をしておいたからだそうだ。

しかも一週間先までその申請許可が下りている。

『生徒会長権限』だそうだが、『職権乱用』の間違いじゃないのか、などと思ったが口には出さない。

二の轍どころか三の轍を踏むのは御免だ。

下手な対応をしようものなら、今度は何を奢らされる羽目になるのやら

 

「それと、知っているかしら?

一夏君には専用機が与えられる事になっているのよ」

 

「俺に専用機?性能はどんな感じのものなんですか?」

 

「高機動な格闘型だって情報が入っているわ」

 

流石は更識家、一般生徒じゃ入手できそうにない情報をこんなにも早く手に入れるとは。

しかし、高機動、か。つまり訓練の内容は

 

「なら、兄さんが今日から行う訓練の内容は『飛行訓練』と一緒に『機動訓練』になるんだな」

 

「正解よマドカちゃん♪

その上での操縦技術と、マニュアル操作と…そうね、上級機動訓練も教えておきましょうか」

 

いきなり上級ですか。

これは今日から大変になりそうだ。

 

食事が終わり、俺は簪とマドカと一緒に学習棟に移動を始めた。

その間に『上級機動訓練』の内容をかみ砕いて教えてもらった。

それは『瞬間加速』、通称『イグニッションブースト』。

スラスターを最大出力にまで引き上げ、相手の懐に一気に飛び込む一種の奇襲攻撃との事。

俺に与えられる専用機は高機動性らしいので、『瞬時加速(イグニッションブースト)』は必須の技術だ。

 

上級機動訓練には更に別の内容も存在するらしい。

瞬時加速(イグニッションブースト)』が間合いを詰めるのなら、間合いから一気に引き離れる『後退加速(バックイグニッション)』。

文字通り、後方に一気に加速して離れるものだとか。

 

瞬時加速(イグニッションブースト)をしている時には、進路変更するのは危険だよ。

をしている時には、進路変更するのは危険だよ。

シールドエネルギーや絶対防御で守られているとは言え、骨折だとか内臓負傷の可能性もあるから」

 

「そりゃあ怖いな」

 

簪の説明を聞きながら、『瞬時加速(イグニッションブースト)』と『後退加速(バックイグニッション)』をイメージしてみる。

早く習得しておくに越したことはないな。

他にも加速を使った内容があるらしいのだが、それに関しては図書館のデータで見てみよう。

 

覚えることはまだまだ多くあるんだな…頑張ろう、俺




今回は初日の放課後から夜にかけてのお話でした。
一夏君無双でしたね。そして夜に屋上から飛び降りるとか危険ですのでやめましょう。
何故一夏君が飛び降りる場所に背丈の高い木々がそこにあるのか。
それは気にしたらダメですよ。
それでは次回は今日のお昼ごろにでも投稿します。
さて、次回には一夏君が失ってしまった感情の一部が何なのかハッキリとするかもしれません。
今までにもヒントには至らないですが、その感情を極力出さないようにしてきましたから、サッシの良い方は気づいてくれているかもしれませんが。
そのヒントとは何か?それはドイツ編に出ている…もとい出てないかもしれません。
それではまた次回にお会いしましょう!

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