IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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Q.前回の武器ってSAOやGEシリーズっすか?
P.M.『鮫肌なのに鳥肌が止まらない』さんより

A.そうですよ
他にも色々と今まで登場させて来ましたが

『解明者』『闇祓者』
SAO AC編 キリト

『燐光』
SAO AC編 アスナ

『ブラックメイル』
SAO FD編 キリト

『マクアフィテル』
SAO MR編 ユウキ

『ニバンボシ』
TOV ユーリ・ローウェル


『ブラッドサージ』
GE/GEB/GER 雨宮竜胆

『アヴェンジャー』
同上 アリサ・イリーニチナ・アミエーラ

『クレメンサー』
同上 神薙ユウ

『リベリオン』
同上 空木 蓮華

『イーブルワン』
同上 ソーマ・シックザール

『ヘリテージス』
GE2/GE2RB ギルバート・マクレイン

『ヴォリーショナル』
同上 ジュリウス・ヴィスコンティ

『デファイヨン』
同上 シエル・アランソン

『サーラゲイト』
同上 リヴィ・コレット

『コラップラー』
同上 上月ナナ

『ヴェリミアーチ』
同上 ロミオ・レオーニ

『クロガネ』『シロガネ』
同上 神威ヒロ

『虚空ノ双牙』
.hack //G.U. 蒼炎のカイト

『芥骨』『大百足』『首削』
同上 ハセヲ

『観音掌』
同上 欅

『石動配』
戦国BASARA 武田信玄

『景秀』
同上 伊達政宗

『朱羅』
同上 真田幸村

『シュベルト・ゲベール』
機動戦士ガンダムSEED キラ・ヤマト

『アロンダイト』
機動戦士ガンダムSEED DESTINY シン・アスカ

『神狂い』
D.Grayman ウィンターズ・ソカロ

『斬月』
BREACH 黒崎 一護

等々があります。
なお、GEシリーズの兵装ですが、銃身も装甲も持たない、100%近接特化の設定です。
ホント、BNGI様にはこんな所でもお世話になってます。

Q.ブラックバイトをしていた一夏君ですけど、あれって中学二年がしていい量だとは…。
P.N.『匿名希望』さんより

A,誕生日には千冬さんに一晩中追いかけ回されたのに懲りなかった彼ですが、今回ばかりは更識夫妻からお説教を受けたそうです。
無論、教官を終えた後に帰省した千冬さんに殴り飛ばされ、自宅から3軒先のお宅にまで吹っ飛んだとかなんとか…



今年最後の投稿になります。
みなさん良いお年を。
不定期更新はまだまだ続きますので悪しからず


夢想蓮華 ~ 夢散 ~

Ichika View

 

キリが無い。

正直、ウンザリさせられていた。

女尊男卑、利権団体の中でも過激派ともされている『凜天使』はここに来る途中、猛禽を思わせる機体の搭乗者に任せた。

あの機体も尋常ではなかったのは見て取れたが、IS10機以上を任せたのはまずかったともしれない。

所属する組織は違ったとしても、利害の一致で手を組むことは想像に難くない。

だが、彼女は信用する代わりに亡国企業(ファントム・タスク)の内情ともいえるような情報を俺に無償提供してきた。

媚び諂うような人種ではないにせよ、初対面であそこまですり寄って切る人間はどうにも初めてでやりにくい。

 

――――ッ!!

 

「…何だ…!?」

 

この地下にも響いてくる轟音。

音源は地上からだろうか。

 

『織斑君、至急地上に戻ってください!』

 

「…はぁっ!?

地下に潜行している部隊はどうするんですか!?」

 

でなくてもただでさえ地下が慌ただしくなっているってのに!

 

『地上に敵の増援部隊です!』

 

っ!

先ほど尋問をしておいた歩兵はただのキレッパシでしかなかったか!

あの男から聞き出した情報としてはこうだ。

・あの男が所属していた部隊が本隊。

・増援は無し

・テロ組織である凜天使とは利害一致により手を組んだに過ぎない。

 

「やっぱ敵の話は容易に信じるもんじゃないな…!」

 

輝夜を急停止、旋回し、突入してきた方向へと再び飛翔する。

滲みあがってくるのは後悔。

地上の部隊は一度は鎮圧したとは言え、油断していた。

 

「敵の増援の数、場所は!?」

 

『第二アリーナ上空です!

数は…嘘…250!』

 

多すぎる。

敵さんもどうやら今回ばかりは本気のようだな。

 

『織斑先生も現在地下で交戦中。

動けるのは織斑君しか居ないんです!』

 

「了解!すぐに向かう!」

 

もう少しで合流できる。

そう思った矢先にまた別の要件だとはな。

だが、事態が事態だ。

泣き言など言っていられない。

簪達が何をしているのかはわからないが、動けない状態なのだろう。

 

「システム側は陽動。

ISは足止め、歩兵が本隊かと思えば、そいつらは囮、ここからが本番か!」

 

整備室へ飛び出し、機密区画への通路にロックを施す。

整備室から飛び出した後、第二アリーナへと疾駆する。

 

「おいおい、マジかよ…」

 

CBFで見かけたタイプの無人機か…?

かと思ったが…いや、外見は少し違うな。

 

『生命反応があるようだ、だがISじゃないな。

さしずめ戦闘用に開発した兵装の塊だ。

飛行もできないのは判るだろう』

 

奇妙な降下部隊はパラシュートまで使って降りてきている。

どうやら自力での飛行はできないらしい。

 

「だったら的同然だろうが!」

 

輝夜を展開し、すぐさま飛翔。

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!

 

降下部隊は俺を視認したのか銃撃をしてくる。

だが輝夜にそんな鉛弾など通じるはずもない。

すべてシールドで弾かれ、潰され、砕かれる。

こういう時にはどうしても思う。

ISは最強の兵器なのだと。

 

「悪く思うなよ」

 

右腕の咢を開く。

発射されたのは、紫紺に染められた広域拡散型レーザー『スプレッドパルサー』。

幾つもの光条が駆け抜け降下部隊の手足を蒸発させ、パラシュートを射抜き、兵装を爆散させる。

 

「管制室、こちら織斑。

降下部隊の鎮圧に成功。

このまま上空の敵機を撃墜させる」

 

『助かりますお兄様。

ですが政府側から命令です、すべて生け捕りにしろ、と。

それが確約できなければ支援部隊を学園には向けられないと!』

 

どこまで他人の足を引っ張るんだ政府は…。

当事者の意思はすべて蔑ろ、現場の判断の優先度を下げるというわけか。

 

「…クロエ、政府の阿婆擦れに伝えてくれ…」

 

この国の上層部にかつて在籍していた女尊派はすでに一掃されていた筈だが、裏でコソコソしているのが居るらしい。

残った議員の中には、そういった連中とつるんで汚職(サンズイ)にふけっているのが居そうだな。

 

『何と?』

 

「『クソ喰らえ』ってな」

 

偶然か必然か、黒翼天と、通信が繋がった千冬姉、さらには俺の声が重なった。

 

その飛行艇、上空数千メートルにその姿があった。

だが、すぐにでも届く距離だ。

 

「抜刀、『シュゲルト・ゲベール』『アロンダイト』」

 

二振りの対艦刀を引き抜く。

飛行艇からミサイルが発射される。

両腕に握る巨刀を振るい、ことごとくを切り刻む。

かと思えば次は焼夷弾だ。

あんなものが学園に落とされたら敷地は火の海だ。

金色の龍『レイシオ』がレーザーを発射し、撃墜させる。

 

かと思えば今度は鉛弾だ。

 

「もうウンザリなんだよ、お前らのやり方は」

 

大型飛行艇の左翼を掻っ捌く。

続けざまに右翼を斬って捨てる。

地上へ落下していくその鋼の翼すら『インフェルノ』で爆散させ、学園への落下を防ぐ。

両手の巨刀を収納。

新たに呼び出すは

 

「いや、形なんか無くて良い…!」

 

腕を振り下ろす。

 

ドガアアァァァァァァァァァァンッッ!

 

白雷だった。

飛行艇への落雷。

 

『…悲しそうね、一夏』

 

「仕方ないだろう。

俺が得たいと思っているのは、みんなを守る力だった。

けど、力は力だ、『守る』ということは、それ以外を守らないこと。

結局俺は、力を振るうだけの存在になっているんだ…」

 

『確かにテメェは力に恵まれているかもしれない。

だが、それだけだ。

力は力、振るうものの意思によって左右されるだろう。

今はそれに善悪の判断を付け加えようとするな。

それを判断するのは過去になってからだ』

 

『貴方はまだ終わってなんかいない。

だって、これから未来を作りだそうとしているんだから』

 

『テメェのやりたいことがこの国で出来ねぇのなら、ほかの国にでも縋っちまえ。

顔も名も変えて生きていくの悪くねぇんじゃねぇのか?』

 

生憎、俺はそれをやる気はない。

一度手を出したのなら、完成させないとな。

 

「その時が来るとは思ってないけどな」

 

まったく、頼りになりすぎる相棒達だ。

 

ISは世界最強クラスの兵器だ。

俺の目指す宇宙航行用汎用型パワ-ドスーツであるE(エタニティ)S(スフィア)はそれに負けない何かとして作り出さなくてはならない。

ESを開発している場所は、女尊派閥やテロリストによって襲撃されて研究が水泡に帰してしまっていることも少なくない。

襲撃を受け、壊滅したES開発に乗り出した研究所は3割を超えている。

なら、そういった猛威からも守れるような何かにしなくてはいけないのだろう。

文字通り、次元を超えなくてはならないかのような課題がもう一つ出来たな…。

 

「いや、そういう事か…?」

 

一つ、妙案が浮かぶ。

なら、それを実現しなくてはならないな。

 

 

 

右翼も左翼も斬って捨て、落雷を迸らせて空中分解していく飛行艇を見下ろす。

残る生命反応はコックピットだけ。

 

「じゃあ、仕上げに入るか」

 

新たな対艦刀『エクスカリバー』を引き抜く。

一対二振りの巨刀を握り、右腕の剣を力任せに振り回し、尾翼を斬り落とす。

さらに右翼、左翼の順番で掻っ捌き、両手の剣を連結、巨大な双頭刃(ダブルセイバー)へと姿を変える。

 

「まだまだぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

胴体部分だけになった飛行艇を連結させた『エクスカリバー』で掻っ捌き、輪切りにしていく。

内部にどんな武器を用意しているのかはわからない。

だからこそ

 

ドガアァッッ!!

 

ズガァァッ!!

 

ズギャァッ!!!!

 

尾翼に近い部位から順に従って切り裂いていく。

案の定、爆薬弾薬、燃料でも積み込んでいたのだろう、掻っ捌いた場所の幾つかで爆発をしていく。

 

「これで、最後ォッ!」

 

最後に胴体部分からコックピットブロックを切り離す。

いや、斬り離した。

 

 

生け捕りにしろというのだからコレで満足か、政府のお歴々?

おっと、残った飛行艇の残骸も処分しとかないとな。

 

全部の処理を押し付けられるのも面倒だからな。

あちらさんの沽券を崩すくらいはしとこうか。

 

「じゃあ、処理は頼んだぜ。

『災厄招雷』発動」

 

輝夜全体に雷が迸る、それと同時に出力が一気に上昇していく。

落下中のその残骸のい一つを

 

「絶影流中伝『端月(ハヅキ)』」

 

ドッガァァンッ!

 

全力での回し蹴りをブチ込み、全力で蹴っ飛ばす。

照準は…永田町、国会議事堂だ。

 

これくらいの仕返し程度は許されるだろう。

どのみちテロリストの仕業にでもしておけばいいだろう。

なお、他の輪切りにした部位は、『スプレッドパルサー』で一掃しておく。

 

「こちら織斑、敵飛行艇を鹵獲完了。

これより帰投する」

 

『は、早いですねお兄様』

 

「多少の面倒はあったがな。

それより、そっちの方は片付いたのか?」

 

『はい、皆さま現実世界へと戻られました。

千冬さんも、山田先生も帰還されました。

楯無さんも敵勢力を鎮圧、今回はこれで何とか終わりました』

 

「学園にクラッキングを仕掛けた相手は特定出来たのか?」

 

そう、そちらも気がかりで仕方がない。

この学園のプログラミングを解析、さらにはファイアウォールまで突破し、セキュリティまでをも狂わせた輩だ。

どこの誰なのかが気がかりで仕方がない。

 

『国外のサーバーをいくつも経由、フェイクまで仕込まれていて、その…』

 

特定にまでは至らなかった、か。

 

『束様も、クラッキングされたプログラムの破棄、再構築、セキュリティの再調整にかられ、私も全力でバックアップしていたのですが…。

申し訳ございません』

 

あの束さんと同等以上に…いや、凌駕して見せたというわけか。

今回、喧嘩を売ってきた相手は誰だったか判らないけど、ずいぶんと迷惑な野郎だ。

いや、男だとは限らないが。

 

「一般生徒は地下シェルターに移動させておいたはずだが、そっちはどうなってる?」

 

『全校生徒の安全確認は出来ています』

 

まあ、それに関しては上出来だ。

 

『ですが、空調システムも狂わされていたので、若干蒸し風呂状態になっていますが…』

 

…大所帯でサウナに入っていたようなものだと思ってもらうしかないだろうな。

 

「まだしばらく開放しないでくれ。

後片付けだとか政府に身柄引き取りを行う必要がある。

一般生徒に見られるわけにはいかないからな」

 

『承知しました。

政府に連絡完了です、およそ一時間は必要かと』

 

「OK、なら空調を整えてくれ。

蒸し風呂は流石にこれ以上は酷に尽きる」

 

『はい、わかりました』

 

後片付けやら処理にも時間はかかる。

最低でも二時間はこのまま蒸し風呂にすし詰め状態になるが、我慢してもらおう。

 

「じゃあ、この鹵獲したのは第8アリーナ跡に持っていっておくぞ」

 

『お願いします』

 

進路を第八アリーナ跡地へとむける。

学園祭以降、観客席が一部分だけ辛うじて残されたそこへと放り込む。

コックピットブロックが落下する途中、巨刀をコールし、投擲

 

ズガァンッ!

 

「…よし、一丁あがり」

 

コックピットブロックを串刺しにして空中に固定しておいた。

これで中から飛び降りるようなこともあるまい。

 

「クソッ!

このままで終われるか!」

 

「馬鹿野郎!

もう武器も残ってないんだぞ!

抵抗なんか…出来る訳無ぇだろう!」

 

「クッソォッ!

なんだってこんな目に遭わなきゃならねぇんだよぉっ!」

 

なにやらコックピットブロックから声が聞こえてくる。

生命反応は二つ、どちらも男のようだ。

 

「女子供しか居ないって聞いたから楽勝だったと思ったのによぉっ!」

 

「諦めろ、もうどうしようも無ぇ…!」

 

どうやらこっちも観念したようだな。

だが、油断大敵、油断一秒怪我一生だ。

念には念を入れて捕縛をしておきたいが、あいにく手持ちのものにそれが無い。

威圧しておくくらいはできるだろうか。

 

「おい、突撃銃(アサルトライフル)くらいは積み込んでるだろ!?

それで人質の一人でもとれりゃぁ…」

 

右腕に『大百足』を展開。

刃を駆動させ、コックピットブロックに向けて振り下ろす。

 

ドガギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!!!

 

駆動刃がコックピットブロックの表面装甲を抉り内部にまで貫通する。

そのまま左腕には大鎌『首削』を展開、同じく振り下ろし、刃を貫通させる。

更に双剣『芥骨』を展開し、切っ先をフロントのガラスをブチ抜く。

 

「そのままじっとしていろ、抵抗をすれば…」

 

鋸状の大剣『イーブルワン』を展開し、その峰が背に触れるまでに振るう。

刀身が紫色の高エネルギーに包まれる。

振り下ろせば直線状にいる相手を問答無用に叩っ斬るのは明白だった。

 

「斬るぞ」

 

そのまま周囲に多くの刃達を呼び寄せ、その切先をコックピットブロックに向ける。

ここまですれば威圧には充分だったようでコックピットブロックの二人の男は凍り付いた。

 

「管制室、こちらは鎮圧完了だ」

 

『そのまま30分待機しておいてください。

現在、政府の車両が学園に向けて発進しましたので』

 

やれやれ暇になりそうだ。

それにしても政府め、かなりの鈍足というか、愚鈍というか。

全員生け捕りにしろなどとは無茶を言ってくれる。

そもそも自爆道連れ上等とばかりに自走式兵装を使った挙句に死んだ奴が出た後に行ってくるとか。

おっと、もう一つの気がかりは、と。

 

 

 

 

Kanzashi View

 

「ご苦労だったな、皆」

 

電脳世界での戦いは…ううん、あれは戦いなんて言えない。

 

『あらあら、現実側では決着が着いてしまったみたいだわ。

思っていたより粘ったようだけど…まあ、今回はこのくらいでいいでしょう。

それじゃあ、サヨナラ』

 

私達など、それこそ眼中になかった。

悔しかった。

腹立たしかった。

 

一方的なまでに蹂躙されていた。

どちらかが負傷したわけじゃない。

どちらも物理的な負傷は無い。

けど、精神的なダメージは計り知れなかった。

シャルロットとセシリアにも知られてしまった、一夏の過去。

血に染められた記憶。

そして一夏が抱え、心とともに抉り取った怒りと絶望。

 

「あの…千冬さん、少し、お話しが…」

 

「…ああ、判った」

 

 

 

 

機密区画の一角に設けられた休憩室。

私と千冬さんは、その部屋に来ていた。

 

「…そうか、あの二人にも知られてしまったのだな」

 

「…すみません」

 

「お前が謝ることではない。

それよりも、敵の顔を見たのだな?」

 

その問いに、私は素直に頷いた。

見た…見てしまった。

見せつけられた一夏の過去、そして素顔をさらしてまで現れたあの人は…。

 

「千冬さん、それに、マドカにもそっくりでした…」

 

「……そうか……」

 

千冬さんが右手で顔を覆った。

何か…何か、言ってはならない事を口にしてしまったのだろうか。

 

「今回のことは全員に箝口令を敷く。

一夏にも他言は無用だ」

 

「一夏にも、ですか…?」

 

「あいつにだけは知られてはならないからだ。

再び奴が現れようものなら、私が処理する」

 

…私達は以前と同じように、一夏に嘘をつかなくてはならないという事らしい。

本当のことを知っている、だけど、知られるわけにはいかなかった。

けど、それは私だって理解していた。

一夏はあの日、自分の心が壊れてしまうのを防ぐために、自ら心を抉りとった。

再びあの人物と邂逅しようものならどうなってしまうのかは判らない、危険度は未知数だ。

 

「…判りました」

 

けど、黒翼天なら、とも考えてしまう。

黒翼天にはあの人の正体を知っている可能性が高いとされている。

けど、彼の復讐はあまりにも見境が無い。

その力が絶大過ぎて、周囲の被害も尋常じゃないかもしれなかった。

その力は文字通りの脅威で、誰もコントロールができない。

搭乗者、という事になっている一夏でさえも対話をするだけで限界みたいで、制御など、はるかに及ばない状態だし…。

輝夜に与えられている黒翼天の力は、半分だけでも制御が完璧じゃないらしい。

本当に脅威というかイレギュラーだなぁ…。

 

 

 

Ichika View

 

「へっくしっ!」

 

唐突にクシャミが出た。

襲撃犯どもの身柄の引き渡しが終わり、事後処理も終え、ようやく一般生徒が解放されたようだが…やはり蒸し風呂に入っていたような状況だったからだろう、シェルターに避難していた一般生徒達は、軽い脱水症状に陥っていた。

 

「織斑く~ん、こっちにも~!」

 

「ああ、判ってるよ」

 

そんなわけで、学園祭以来の『食事処 織斑』の臨時営業だ。

一年一組の中でも、マトモに動ける多少の生徒に力を借りて、短時間営業をしている。

だが、今回は出せる品は一つ限り。

そしてその品を出す目的は、水分補給と、緊張を解きほぐす事。

 

まずは大きな鍋に水をくべ、火にかける。

湯が沸いたら生姜とマサラを入れて混ぜ、溶かす。

此処に更に抹茶を入れて混ぜてよく溶かす。

最後に飲みやすくするために蜂蜜を入れる。

これにてマサラチャイ風栄養ドリンクの出来上がりだ。

実は簪に教えてもらった料理なんだが。

 

マサラには緊張の緩和、生姜には血行を良くし、体を温める効果がある。

抹茶に含まれるカフェインには疲労回復、中枢神経回復、覚醒作用、強心作用のなどの効果。

最後の蜂蜜の糖分は、主にブドウ糖は脳の栄養源であり、脳の疲労回復や活性化にもなる。

付け加え、短時間で体内に吸収でき、即座に体を動かす力にもなる。

長時間、シェルターに放り込まれた緊張状態、空調停止による蒸し風呂状態になっていたんだ。

これ以上に最適なメニューは無いだろう。

 

「とは言え、調理実習室にここまでそろってるとは好都合だったな」

 

料理研究とかしてる部活が用意したものだろうか?

まあ、今回は勝手に使ったのだから後々に請求されたら支払っておくべきだろうな。

 

改めて調理実習室と被服室を順番に覗いてみる。

やはり緊張していたからだろう、栄養ドリンクを飲んで誰もが落ち着いてきている。

 

「一先ず、全員に行き渡ったみたいだな。

じゃあ、俺も休むか」

 

中庭に出て、ベンチに腰掛けて空を見上げる。

今だけは気分を落ち着けたい。

 

「お疲れさま、一夏」

 

「ああ、ありがとうな、簪」

 

俺も今日は疲労が酷い。

出かけたと思ったらテロリストに遭遇して駆け抜けざまに成敗。

倉持にて研究に勤しんでいたらテロリストが襲ってきて、戦艦、潜水艦を片っ端から粉砕。

謎の支援者に任せて学園に直行。

テロリストの一人とタイマン勝負の後に、地下にて敵勢力と交戦。

最後は上空からの降下部隊を一掃、上空にいた飛行艇を撃墜。

こんなハードスケジュールはほかに類を見ないだろう。

ゴタゴタが片付いてからは、篠ノ之のおいかけっこの仲裁ときたもんだ。

勘弁してくれよ。

一介の高校生のスケジュールじゃねぇよ…。

しかもこのハードスケジュールは半日未満ときたもんだ。

 

「研究は途中辞めになってたし、また明日は倉持に行かないとな…」

 

バイクも回収しておかないとな。

研究所とは既に連絡は取っている。

どうやら研究所も研究員も全員無事らしい。

敵艦隊は殲滅、乗組員、歩兵部隊、IS部隊の人間は全員を四肢欠損状態にて引き渡しがされている。

だが、機体に使われたとされるコアはそこには無く、持ち去られたようだった。

 

だが、気にかかる。

あの猛禽のようなISの搭乗者だ。

何のメリットも無いのにも拘らず俺の支援をし、敵勢力を殲滅せしめたようだが…何者だ…?

そして…まだ誰にも見せてはいないが、某国企業(ファントム・タスク)の内情という貴重な拠点情報の一つまで俺に渡してきた。

 

…あれは…彼女は、何者なのだろうか…?

そして、学園に戻るまでの僅かな時間に拝謁しておいたが、亡国企業(ファントム・タスク)の拠点の一つ。

それは京都府に存在ししているとのこと。

こればかりは更識家と協力して情報の裏付けをしておいたほうがいい。

まあ、あの支援者である彼女は、流石に逢う事も無いだろうし気にするだけ野暮か。

 

「それなら、私も一緒に行くよ。

私も研究を手伝いたいから」

 

「ああ、助かるよ」

 

開発に於ける重要なヒントは既に得ている。

コアネットワークとは別に存在する、次元を超えた上位ネットワークシステム。

そして、束さんが授けた『星』シリーズ。

 

ISをステルスモードにしているとコアネットワークからは断絶させられた状態になる。

当然、コアネットワーク越しに情報の譲渡など出来よう筈も無い。

だが、コアネットワークを超えた上位ネットワークシステムから、ステルス状態なっているコアに語り掛けるようなことが可能になれば…。

いや、まだまだ夢物語に近い。

俺のような小僧では、世界をひっくり返した狂人にはまだまだ届くまい。

けれど、唯一(イレギュラー)の存在としては、何かを成し遂げたい。

篝火博士も言っていた、『人類皆イレギュラー』なのだと。

誰もが世界を変える要素であり因子でもある。

 

研究者然り、テロリスト然り、狂人然り。

 

ただ、束さんはその因子としては大きすぎたというだけだろう。

 

なら、俺はそれを超える因子の一つとなろう。

 

時代の転換期は、

 

「もう、目の前、か…」

 

E(エタニティ)S(スフィア)

『永久に続く星空』と銘が刻まれたソレが完成したなら、世界に分散しているコアはどうなるのだろうか。

もしも…もしも、存在するとされている彼らは…もしくは彼女たちはどうなるのだろうか。

輝夜や黒翼天は一方的に会話をしてくるから、その話もしておきたい。

そして、世界中のコア達もだ。

出来る事なら、それこそ可能であればコア達とも対話をしてみたい。

そのうえで語り合ってみたいとも思う。

輝夜や黒翼天の事も。

地上と青い空に縛られた状態の事も。

いつの日か、空を越えた先にある星の海の事も。

このまま兵器として存在し続けるままでいいのか、と。

 

ESが完成した後にISをどうするのかは束さんも語ってはいない。

…俺に一任しようとか画策していたりして…。

いや、そんなまさかな…。

 

だが、それを任されたとしてもあまり気分は悪くなかった。

完成したのなら、過去の清算くらいはしてもいいだろう。

 

「一夏、どうしたの?」

 

「いや、…研究はまだまだ大変だと思ってさ。

先が見えないし、完成した姿も想像ができないのが現状なんだ」

 

研究は大変だ。

だけど、面白くもなってきていた。

やりがいがある、この試行錯誤も今では一つの楽しみだった。

 

「でも、あまり無理はしすぎないでね」

 

「ああ、判ってるよ」

 

「じゃあ、また配膳に戻るね」

 

そう言って栄養ドリンクをしこたま乗せたトレイを運んでいく簪の背中を見送った。

調理実習室から被服室の間をISを展開した状態だったから、些か珍妙な光景だったけど。

 

「さて、俺ももう少し頑張るか」

 

この時、俺は気づかなかった。

輝夜の拡張領域の中、新たな兵装(一張りの弓)が作り出された事に。




一つの戦いは収束に向かう

だが、謎は残る

そして謎は増える

尽きる事も無く

次回
IS 漆黒の雷龍
『夢想蓮華 ~ 辿道 ~』

学習しろよ、俺

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