P.N.『捩じり鉢巻き』さんより
A.ええ、外れましたね。
2017/1/25と予想していたのですが、予告されていた『エクスカリバー』編がみられるのは、まだまだ先になりそうです。(もう少し先とは言わない)
Ichika View
「寒ぃ~ッ!」
世の中はクリスマスイブだの、クリスマスだのと騒いでいるが、あいにくと勤労中学生の俺にはほぼほぼ関係など無かった。
最近は、新聞配達のバイトの次に、製菓を行っている店にてバイトをしていた。
そしてクリスマスが近づくと、注文が殺到する。
その分、勤労学生としては報酬が美味しいので、文句など言わない。
鶏卵を割ったり、ケーキスポンジを焼き上げたり、デコレーションで飾ったり、正直に言うと、朝から夜まできりきり舞いだ。
そしてそれを配達したりとか。
運んでいるものがケーキだから、配達する際には結構用心しなくてはいけない。
配達先で崩れてしまっていたら、運ぶ側も注文した側も涙目だ。
まあ、バイクも持ってない俺が配達させてはもらえないので見送るだけになってる。
本業は調理する側だけど。
だけど、これにてバイト代がしこたま入ってくるから文句など在る筈がない。
「じゃあ、お疲れ様でした~!」
今日の分の仕事も終了し、あとは帰るだけ。
まあ、帰宅したところで、千冬姉は未だにドイツに滞在中。
鈴は家族ぐるみで出かけるのが通例、弾も今日は朝から夜まで食堂の手伝い、簪は…毎年、布仏家とどんちゃん騒ぎをしているらしい。
写真で見せてもらったが、師範の騒ぎ具合が酷いとか、奥方の絹江さんに写真を見せてもらったが、アレは悪酔いしているな。
だから簀巻きにされて庭の木に吊るされている写真が混じっていたんだろうな。
鈴や弾に誘われる年もあったが、家族での水入らずを邪魔するわけにもいかないので断り続けている。
千冬姉も国家代表選手として合宿だとか訓練に飛び出しているわけで、仕方ない。
しかも今年は俺のせいでドイツに滞在中ときている。
なので、この数年間のクリスマスはジングルベルならぬ
夕食も、ケーキなどは無く、寒さを凌ぐために、暖かなものにしている。
「明日の夕飯は何にするかな。
…冷蔵庫にキャベツや豚肉があったし、豚汁でも作ってみるかな」
…考えが一人暮らしのサラリーマンのように思えたが、そんなもの考えた時点で負けだ。
勤労学生らしい考えだと考えて片付けておく。
時間は10時30分、マドカも眠ってる頃合いだ。
クリスマス当日のためのプレゼントは既に購入し、部屋に隠している。
ケーキも購入して冷蔵庫に入れていたから喜んで食べてくれているだろう。
まあ、その日も俺はバイトで帰りが遅くなるから、夜に枕元にプレゼントをそっと置いておこう。
かんざしたちのプレゼントも郵送するための準備もできているから問題無いな。
「うひぃっ、寒ぃっ!
とっとと帰ろう!」
Madoka View
「みんなに相談があるんだ」
クリスマスの一週間前、というよりも終業式直後、私は兄さんには秘密で更識家に来ていた。
もうじきクリスマス、学校の終業式も終わり、明日から冬休み。
けど、兄さんはバイトに修行に家事全般に精を出して休む間もない。
バイトにしたって、態々この時期には大忙しになるところを選んで働いてる始末。
朝早くから夜遅くまで働くだなんて、それこそ働き盛りのサラリーマンじゃないんだから。
兄さんのスケジュール帳を見て顔を真っ青にしてしまったのはつい先日、まるで休みが無いのには鳥肌が立った。
それも去年のスケジュール帳だって予定ぎっしりで真っ黒だった。
世の中のブラック企業だって休みがあるはずなのに、兄さんは休みを全部返上してるから殊更にタチが悪い。
「兄さん、今度の休みの予定は?」
と問うてみて
「おう、朝から晩までバイト三昧だ!」
と笑って返されたのはいい思い出。
いや、嫌な記憶だった。
ほんの少しだけ休みはあるけど、それは簪や私に料理をふるまったりとか、簪とのデートだとかに削っているから、それこそ自分の時間というものが兄さんには存在していない。
だからこそ、妹である私が一肌脱いで、労わってあげたかった。
そしてそれは簪も同じだったらしい。
今回の冬休みこそは兄さんを、充分に休ませる。
そう計画した。
まあ、私も簪も昨年までの兄さんの様子は知らないけど、スケジュール帳を見て即座に手を組んだ。
「おりむ~、働きすぎだよね~」
「だよね、これは流石に見過ごせない」
料理は兄さんの自慢の特技の一つ。
もう趣味の領域を飛び越えてた、更識家の料理人の人たちに教えてたりするほどだからね…。
まあ、そんな話は置いといて、話を戻さないと。
どうやって兄さんを休ませるか。
「こういうのはどうかな~?」
本音の提案その一
・バイトをしてる店を国家権力で潰す。
「「却下!」」
バッシンッ!
「痛い~…」
私と簪の二人同時にハリセンで頭を叩いておいた。
自分でやっときながら、こんなもの、どこから出したのかは覚えてない。
そしてそれは簪も同じだった。
「でもどうしよっか?
お店に頼むにしても臨時休業してもらうわけにはいかないし」
そう、簪の言う通りだ、ケーキ作りをしているお店にしてみれば、絶好の書き入れ時で、臨時休業なんてそれこそやってられない。
そしてバイト代も相応に出るらしく、兄さんもバイトを休んでいられない。
自分以外の人の健康に気を使って料理とかも作ってるくせに、自分の体の疲労を顧みない。
あの働き癖は見習うところなのは確かかもしれないけど大概にしてほしい。
倒れたら元も子もない無いのに。
「じゃ~、こんなのはどうかな?」
本音の提案その二
・臨時休業だと兄さんに嘘をつく
「「却下!」」
バシン!バシン!
二つのハリセンがそれぞれ一往復。
「それはただの一時凌ぎでしかないから!」
「サボリ癖のある本音と違って兄さんの働き振りを甘く見るな!
バイト先が一か所休みになったらすぐさま別のバイト先を探すほどの働き振りなんだぞ!」
「マドマドはおりむ~を休ませる気があるのか怪しくなってきてるよ~?」
む、言われてみれば兄さんの自慢話になってる気がする。
むむ、簪も呆れたかのような視線になってる、これは非常にマズい。
「じゃあじゃあ、こういうのはどうかな~?」
本音の提案その三
・疲れて帰ってきた時にお出迎え
む、珍しくまともな意見。
でも問題が一つ浮上。
「本音、一夏が帰ってくるのは夜の十時を過ぎるけど、起きてられるの?」
「無理なのだ~!」
バシン!バシン!バシン!バシン!
合計二往復。
「も~、二人とも私の提案を否定してるだけじゃ~ん!
自分たちでも考えてみてよ~!」
むむ、そう言われてもな~。
「まあ、アンタ達じゃそうなると思ってたわよ」
私たちが即席コントをしている間に呆れたかのような目をした鈴が来ていた。
「アンタ達ねぇ、どうやって労わるかばかり考えてるけど、根本的な方向に目を向けて見せなさいよ。
つまり、疲れて帰ってきたのを出迎えるよりも、どうやって負担を減らすのか、そっちに目を向けなさいっての」
…はっ!言われてみればそうだ!
というわけで、兄さんの料理のレパートリー表にあるレシピをお手本にして料理修行を開始した。
私と簪と鈴のさんにんで一からケーキを作ってみる。
これが結構大変だった。
パイだとかタルトだとか、果てはケーキだとかも簡単に作って見せる。
もう兄さんのレパートリーはどこまで広がっていくのかもわからない。
なお、作ったそれを兄さんに食べてもらうわけにもいかず、また、自分で食べて自画自賛しても仕方ないので、評価してもらうのは。
「うぷ、もう食べられない」
楯無先輩だった。
ロシア国家代表候補試験をなんなくパスした人で、この時期はやっぱり退屈していたらしく、兄さんをからかい倒そうと計画していた。
まあ、それが原因で兄さんを過労+精神的疲労で倒れられるわけにもいかないので事前に釘を刺しておいた。
そしてより美味しいケーキを作れるための料理修行に連れ込む、名義でケーキ食い倒れだ。
「まだまだあるぞ、イチゴのショートケーキにチョコケーキ、フルーツケーキにタルトもパイもクレープも」
「マドカちゃん、もう限界。
これ以上食べたらお姉さん…太っちゃうから…!」
数時間後、楯無先輩がノビた。
一番評価が高かったのは、フルーツをふんだんに使い、更にはイチゴをクリームの上にトッピングしたデコレーションケーキだった。
これにて兄さんの負担を減らすには程よい訓練にもなっただろう。
「よし、兄さんがバイトする店に面接に行くぞ!」
「「「お~!」」」
なお、楯無先輩が倒れる直前に『フルーツ
むしろ仕事をサボろうと画策していたらしいのがバレた程で、虚さんに感謝される始末だった。
ちなみに、本音も連行されていった。
どれだけサボろうとしているんだ、あの二人。
…虚さんにもショートケーキをおすそ分けしたらすごく喜ばれてたのは別だとしても。
面接はほぼほぼスルーパスでOKをもらえた。
中学生だというのもまとめてパスだった。
そんなわけで厨房を見せてもらったら…
「うわ…凄い…」
十数名のパティシエと一緒に兄さんがあちこち走り回ってる。
何というか…うん、『主戦力』を担っている感じ。
「新入り!生地を頼む!」
「はい!ただいま!」
「おい新入り!どんどん運んでくれ!」
「は~い!今行きます!」
コキ使われてるわけじゃない。
むしろ頼りにされている。
デコレーション作成だとか 、チョコにクリームで『メリークリスマス』と印字したりと大忙し。
私と簪と鈴の三人がかりで手伝っても邪魔になったりしないように気を付けないと!
Kanzashi View
その日の仕事が終わった夜10時過ぎ、一夏が更衣室で着替え終えてから出てきた。
それを見越して私たちも隣の更衣室から飛び出した。
「ふぅ~、今日もよく働いたな」
「本当だよね、誰よりも一番働いてたんじゃないかな?」
ピタリ、と一夏の歩みが止まった。
…働き過ぎてて私たちの存在も目に入ってなかったらしい、それはそれでショックだけど。
「か、簪?それにマドカと鈴も?
こんなところでなにしてるんだ?」
「アンタが多忙すぎるから手伝って負担を減らそうとしたに決まってるでしょ」
「そうそう、兄さんは働きすぎなんだよ。
私もパティシエの仕事を手伝ってみたけど、兄さんってば二人か三人分の仕事振り、どころじゃなくて7~8人前の仕事してるらしいじゃん」
「だから、そんな一夏のお手伝いをして負担を和らげてあげたくて」
「なるほどな、途中で仕事量が減ったのは、そういうことか」
私たちの頑張りはちゃんと形になってたらしい。
これも全部、一夏の負担を減らしたかったから。
「そっか、ありがとな」
一夏も微笑みながらお礼を言ってくる。
でも、目の下にクマを作っての笑顔は少し怖かったけど。
「織斑く~ん、それとそこの女の子達も一緒に来て~!」
と、何だろう。
私たち四人が店長さんに呼び出された。
店長さんは、20代半ばの女性で、なにやら書類に目を通した後、私たちに視線を向けてきた。
「えっと、そちらのお嬢さんたちはともかくとして、織斑くん」
「はい」
「君の予定をお嬢さん達に教えてもらったわ」
そうだった。
私は一夏の負担を店長さんに伝えた。
たとえ長期休暇でも、そのスケジュールは朝から夜までバイト三昧。
それが終わっても勉強だとか修行だとかで埋め尽くされ、スケジュール帳は真っ黒。
そこで、店長さんにも協力してもらうことを考え付いた。
ちなみに、この店でのバイトの契約期間はクリスマス当日の夜までだった。
こんな世の中で協力してもらえるかどうかは賭けではあったけど、幸いにも店長さんは風潮に流されてはいなかったから助かった。
「先々月からケーキの予約は入っていたけど、織斑君のおかげで、その全て捌けているし、売り上げは黒字でホクホク。
それこそ味が良くなってるって噂がSNSからも拡散してて、先々月から合計していても一年分の収入が入っているのよ」
…明らかに一夏がバイトに入ってるからだと思う。
「これも織斑君のおかげなんだけど、明らかなまでに働き過ぎなのよね。
もう中学生が働く量じゃないわ、社会人顔負けの仕事量よ」
「は、はぁ…」
「そこで、織斑君には休暇を出すことにしました」
「…うぇい!?」
一夏が妙な返事を返していた。
こんな反応もするんだと新発見。
「ああ、安心して、有給休暇って事にしといてあげるから」
「あの、俺…正社員じゃないんですけど…」
「正社員を超える働きをしてる人が言う事じゃないでしょうに」
鈴のツッコミがすごく鋭かった。
「今日の夕方に言っていた天気予報ではクリスマスイブもクリスマスも雪の予報が出ていたわね。
年に一度の聖夜よ、ご家族だけでなく友人や恋人を楽しませてあげなさいな。
お嬢さん達、連行してあげて」
「「「は~い!」」」
元気な返事を返し、虚さんに頼んでおいた車に一夏を連行する。
もう一夏は状況に追いつけていなかったようで存外にも運ぶのは簡単だった。
「んで、俺のスケジュール帳をコピーした挙句に店長に渡した、と」
車の中で一夏は呆れながらも苦笑していた。
でも、マドカと鈴の突き刺すような視線に負けたのか、目を閉じた。
「俺の中では『休日=バイト』っていう公式が成り立っていたからな。
まあ、それに関しては悪かったよ」
「もうあんな目茶苦茶なスケジュールは止してね」
「ああ、そうするよ。
それと…着いたら起こしてくれ、少しだけ寝る」
その言葉を最後に一夏は眠ってしまった。
本当に大変だったらしい。
…そのまま三日も眠ってしまったのは予想外にもほどがあったけど、明らかなまでの過労だった。
そして目覚めたのはクリスマス当日だった。
お店や、ほかのバイト先にはマドカが連絡を入れて無断欠勤扱いになるのは防ぐことができた。
と言うよりも…明らかなまでのオーバーワークをしていたことが露見して体をいたわるようにと、しばらくの休暇を貰えることにもなったけど。
「おはよう、一夏」
「ああ、ずいぶんと長く眠ってしまってみたいだな。
体がなまってるのを感じるよ」
「でも、折角のクリスマスだよ、今日は張りつめないで楽しもうよ」
「…そんなにも寝てたのか、俺は…。
しめて合計三日、バイト先には謝っておかないとな。」
もう、また自分の心配よりも仕事の心配してる。
一夏らしいけど、少しは自分の体を労わってほしい。
そう思いながら咎めるような視線を向けると
「まあ、それもそうだな。
今日くらいは料理は任せてもいいか?」
アッサリと折れてくれた。
「もう準備出来てるから、行こう♪」
今現在の時間は既に夕方、それまでの間、一夏は眠り続けていた。
起きてからシャワーを軽く浴び、肩提げのカバンを持って私と一緒に車に乗った。
車の中では鈴もマドカも待ってくれていた。
「…で、なんでそんな恰好なんだ?」
一夏の視線が私たちに突き刺さる。
指摘されてから少しだけ恥ずかしくなった。
私たちが着ているものといえば、デパートなんかで使われているのと同じようなサンタクロース風の衣装だった。
つまり、その…ミニスカサンタ…。
「クリスマスだから、サンタ!」
「…丈が短すぎやしないか?」
ため息交じりに言った。
ま、まあ、確かに太ももの半ばから見えてるから少しだけ恥ずかしい。
「アンタ、相変わらずデリカシーが無いわね、こっちがどんだけ気合入れてバイトに行ったりとかこの衣装を選んだのか、とか気遣いできないの?」
「わ、悪かったよ…」
更識家に到着すると、父さんに母さん、それに鈴のご両親も揃っていた。
もちろん虚さんや、本音も居るし、目の下にクマを作ったお姉ちゃんも居た。
「さぁさぁ、今日は無礼講だぁ!」
お座敷のテーブルの真ん中には私たちが作ったクリスマスケーキが鎮座している。
ほかにも、料理人の人たちが用意してくれた七面鳥に、お菓子にそれ以外にも色々と。
クリスマスの雰囲気があふれていた。
「じゃあ一夏、一緒に楽しもう?」
「ああ、そうだな。
こんなクリスマスも悪くなさそうだ」
数時間後、全員が騒ぎつかれて眠ってしまった。
マドカと鈴も丸くなって眠ってしまい、下着が丸見えになってしまっていたのは流石に慌てたけど。
本音は…なんでトナカイの着ぐるみなんだろう。
「お、雪も降ってきたな」
「ホワイトクリスマス、だね」
明日になれば見渡す限りの銀世界になっているかもしれない。
雪掻きとかも経験出来るかも、そんな風に考えてる私も今を思いっきり楽しんでるんだろう。
「と、忘れないうちに渡しておかないとな。
メリークリスマス&ハッピーバースデー」
祖言って渡してくれたのは、30cm四方のケースだった。
開いてみる。
トルコ石があしらわれたペンダントだった。
「綺麗…」
「それを購入する為にも結構頑張ってたんだよ」
このプレゼントのために頑張っていたのに、私たちはそれを咎めてしまっていたらしい。
なんだろ、罪悪感が酷い…。
「も、もらっても、…いいのかな…」
「簪に贈りたかったから、さ」
ケースから取り出してみる。
なれないペンダントを通してみた。
「ん、よく似合ってる」
「あ、ありがとう一夏、それと…ゴメン…」
「気にしてないって、気遣ってくれていたの嬉しいよ。
多少の無茶をしてるのは俺も自覚してたからさ」
…多少じゃないんだけどなぁ…。
「さてと、クリスマスを過ぎたらあの店のバイトも打ち切りにしてたし、新しいバイト先を探さないとな」
「今度は無茶禁止だからね」
「肝に銘じておくよ」
相変わらず雪は降り続いている。
これからは一夏に無理をさせないように私もしっかり監督しよう、そう決めた。
LingYin View
昨晩のパーティーの最中から眠ってしまったらしく頬に畳の跡をつけた状態でアタシは目覚めた。
「よーし、いくぞー」
「こっちも負けないから!えい!」
…一夏と簪が二人きりの雪合戦をしていた。
…雪解けしそうなほどに熱く感じたのは…アタシの気のせいだろう、よし、夢を見てるんだと思ってもう一度寝よう。
四年後
例のケーキ店の話…というよりも兄貴の話がSNSにも拡散していたらしく、今日は調理実習室にて『食事処 織斑』が予定外の臨時営業をしていた。
ちなみにこれにて三年連続。
「もう!折角のクリスマスなのに働かされるだなんて~!」
「今日は雑誌に出てたコートを買いに行くつもりだったのに~!」
「10番テーブルにフルーツケーキの注文が入りました~!」
「は~い!今行きま~す!」
「もう!一昨年も去年も今年もクリスマスが灰色だわぁっ!」
売り上げはやっぱりというか何というか毎年絶好調な様子、リピート客も後を絶たない。
今年も生徒だけでなく教師も学園長も買いに来てる始末だし。
よくよく見れば隅の席で千冬さんもコーヒーと一緒にショートケーキに舌鼓を打っている。
そのおかげで調理実習室ではハイカラ衣装の女子生徒が走り回っている。
3-2の生徒一同、というか兄貴のクラスメイト全員だった。
そして箒も売り子として現在はきりきり舞いで目を回してる。
兄貴本人はといえば、事前にケーキ作成を間に合わせていたらしく、クリスマスイブもクリスマスも簪と一緒に暑苦しく過ごしていた。
中庭で寄り添いあってたり、寮の前で一緒に雪掻きしてたり。
おかげで中庭どころか学園全体の雪でも溶けるんじゃないのかと思っていたけど、流石にそんな非科学的なことは起きてなかった。
だけど
「ドリンク!コーヒー頂戴!」
「私も!ブラックコーヒーをお願い!」
「おかしいわよ!砂糖もミルクも入れてないのになんでコーヒーも紅茶も甘いのよ!?」
そんな阿鼻叫喚が食堂や調理実習室から響き渡っていた。
まあ、あの二人の雰囲気に慣れてしまっているアタシとマドカ、メルクにラウラはといえば、普段通りの感じで過ごしていた。
というよりも食堂ではなぜかあの激辛外道麻婆が売られていて、なぜか、あの外道麻婆店の店長が居て、背筋に寒気が走ってアタシ達はこっちに逃げ出してきたわけだけど。
男子生徒が面白半分で挑戦して、倒れた状態で口の中に『激辛外道麻婆』を超えた『愉悦麻婆』が流し込まれている光景は夢だったと思いたい。
「何というか、阿鼻叫喚というか、その…」
「地獄絵図でしょ、抹茶を注文してる人もいるし…」
「兄貴も遠慮がなくなってきたわね。
そういえばラウラは?」
「ラウラならクロエと一緒に窓際の席で」
相変わらず一方的なまでのじゃれあいをしていた。
…放置しとこう。
「ねえ、この後で部屋に戻ったらプレゼント交換してみない?」
アタシの提案に反対をする人なんて誰もいなかった。
調理実習室と食堂は相変わらず阿鼻叫喚と地獄絵図。
二人にとっては思い出の日にでもなっていたのか、暑苦しいけど邪魔する気にはならない。
まあ、そんな騒がしさが続いてるけど、とりあえず、メリークリスマスってことで。