IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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Q.一夏君って、どんなバイトしてたのさ?

A.
一夏
「料理が好きだから、料理店とかスーパーで裏方の仕事をするのが多かったかな。
まあ、二日で辞表を提出した料理店もあるけどさ…。
他には家庭教師とか、新聞配達とかもやってたよ。
それから、簪が登下校するときには送迎もやってたよ。
簪の自転車を楯無さんが壊したからママチャリに二人乗りだったけど」


夢想蓮華 ~ 想光 ~

Lingyin View

 

簪が目を回してダウンした時点で全員アリーナのフィールドに飛び込んで一対多数の訓練を始めることにした。

早い話、自分以外は全員敵と判断したうえでの殲滅戦だった。

 

「うっふふふ~、『学園最強』はだてじゃないのよ♪」

 

その言葉は確かに伊達じゃなかった。

禊星で操る水の量が尋常ではなくなっているため、ものの数秒で全員まとめて洗濯機の中に放り込まれたかのように水中メリーゴーランド状態にされてグロッキーになった時点で勝負がついた。

あんなの反則でしょ…。

 

「うぇ…まだ気持ち悪い…」

 

なんとか食堂に着いた皆を見渡してみると…

 

ラウラもメルクもマドカも簪もセシリアもシャルロットもグロッキーになっていた。

全員がタチの悪い酔い方をしてしまったらしい。

特にセシリアなんて試合が終わって目が覚めてから、すぐにトイレに駆け込んでたし…。

 

『まあ、あの回転は尋常じゃなかったし仕方ないでしょ』

 

「そりゃ仕方ないけどね」

 

シンクロ値が上昇し、神龍(ジェロン)とも対話できるようになってきたけど、相棒はどうにも楽天家のきらいがある。

そんな性格だからか、悪いことだとは言わないけど、名前負けしている気がしないでもない。

 

『一発力強くたたけば治るんじゃないかな?』

 

(壊れたラジオ)と一緒にすんなっての。

なんで発想がそんなに古いのよアンタは…」

 

対話をしてみてもこんな感じだからか、緊張感がなくなってくる。

ムードメーカー的なのは別に構わないけどさぁ、なんでこんな性格なんだか。

 

正直、皆がコア人格と暇つぶしとばかりに対話しているのを見かけて羨ましいと思うことがあったけど、神龍が目覚めてみればこんな性格だから幾分か肩透かしを食らったような気分だった。

まあ、黒翼天のような過激すぎるような人格だったらどうしようもなかったから幾分かは救いになってるけど。

 

「兄貴から酔い覚ましには味噌汁が良いとか聞いたっけ。

しじみたっぷり入れて作っとこうかしら」

 

『発想お袋魂全開だね』

 

「そんなに歳くってないわよ、次に言ったら殴るからね」

 

勝手に厨房に入り、さっそく味噌汁を作ることにした。

 

「まずはお湯沸かして、その間に具になるシジミを用意。

それに豆腐を切って、わかめも水に浸して戻して、と」

 

これくらいの手順はアタシにも容易な事だった。

伊達に小学生のころから家庭科の成績を『5』で維持してきたわけじゃない。

 

「って、簪」

 

「早速お味噌汁作ってるんだね、鈴」

 

「まあね、全員そろってグロッキーだし、動けるのはほかに居ないっしょ。

だからよ。

まあ、料理の腕を磨いたのはほかに理由があってだけどね」

 

アタシは以前、アイツに惚れていた。

フラれたけど、それは一つの思い出にしている。

アタシはアイツと親友としてやっていける。

残酷かもしれないけど、頼もしい希望でもある。

まあ、今じゃすっかりアタシも妹分の一人になっちゃったわけだけど。

 

「味の確認頼んでもいい?」

 

「うん、いいよ」

 

小皿に作ったばかりの味噌汁を注ぎ、簪による味見検査。

兄貴同様に簪もかなりの味覚センスを持ってるから侮れない。

 

「うん、合格!」

 

「うはぁ、相変わらず厳しい…将来の織斑家って普通に料理店でも開いてそうだから怖いわぁ…」

 

兄貴の場合だったらこの前食べてた天ぷらとかでも辛口な85点評価だったし…。

まあ、千冬さんは食べれたらなんでもいいって感じだからそれこそ口に入れられたら、それ以外は気にしそうになのよねぇ…。

そもそも千冬さんはブラコンもシスコンも拗らせているから尚の事。

 

「は~い、みんな~。

凰印の味噌汁持ってきたからコレでも飲んで気分落ち着けなさ~い!」

 

メルクもマドカもチビチビと味噌汁を飲んでいく。

シャルロットも同じ様子を見せながら味わってる。

…いまだに起き上がれないセシリアには…。

 

「まあ、これしかないわね」

 

「がふぇっ!?ごぶっ!?ガボボボボボボボッッ!?」

 

お椀を口に着け、文字通りに流し込む。

アサリは殻をむいて身だけを入れているからそんなに問題はない。

たとえそれを味わう暇もなく喉の奥へと流し込み、飲み込ませても問題はない…筈、多分、メイビー、ハーフアンドハーフで。

 

んで、半分ほど飲んだところでガバッと起き上がり

 

「なにをしますのっ!?

味噌汁でおぼれるところでしたわよっ!」

 

「良かったわね!

『セシリア・オルコット 味噌汁に溺れる』ってな感じで歴史に名を遺すわよ!」

 

「残したくありませんわよ!」

 

「ん~じゃ、残さず飲みなさいね♪」

 

再びセシリアの後頭部を鷲掴みにしてお椀に口をつけさせて

 

「ガフェッ!?ガッボボボボボボボボボボ…!?」

 

一気に流し込む。

 

ん、残さず飲んだ(流し込んだ)わね。

これで少しは安静にしてれば容体も落ち着くでしょ。

トドメになったなんて誰にも言わせない、言わせないったら言わせない。

さっきよりもセシリアの顔が青ざめ居てるように見えるのは気のせい。

気のせいったら気のせい。

 

「これで全員飲んで終わったかしら」

 

しかもドサクサに紛れ込んで楯無さんも味噌汁を飲んでるし。

相変わらず神出鬼没だなぁ…。

 

「あ、ここにいたのか皆」

 

「ん、箒じゃん、どったの?」

 

全員味噌汁で気分を落ち着けているその最中、箒がやってきた。

しかも手に茶封筒を抱えて。

…なぜかわからないけど、嫌な予感がした。

 

「千冬さんからこの封筒を預かってきたんだ。

きっと食堂にいるだろうからということでな。

で、一人につき封筒を一つ渡してほしい、と」

 

「ふ、ふ~ん…」

 

全員がしかめ面になりながら茶封筒の中身を確認してみる。

正直、見たくないんだけど、見なかったら見なかったで碌でもない目に遭いそうな気がしてならなかった。

 

「あぅ…やっぱり…」

 

中身には一枚のコピー用紙、そこにはこう綴られていた。

 

≪凰 鈴音

上記の者は学園設備破壊により、校則に基づき反省文30枚提出を命じるものとする。

提出期限は今週末

織斑に提出するように≫

 

見渡してみると、アタシと同じようなしかめ面をしている人がゴロゴロと。

…アタシら全員が共犯と思われているらしい。

 

「マドカは?」

 

「反省文30枚…ちなみにメルクもラウラも…」

 

…やっぱり共犯扱い…

 

「あらヤダ、私もだわ」

 

楯無さんにも反省文の命令が下されたらしい。

ここにいる全員が一斉に対戦したらとんでもないことになりそうだわ。

 

「じゃあ、味噌汁飲んだら皆で一緒に生徒会室で反省文を片付けますか」

 

「お兄さんが戻ってくるまでに片付けておきたいですね」

 

「そうよね…コレ知られたらどんな視線向けられるか…」

 

「呆れられるんじゃないかな」

 

「姉上、姉上も同じ処罰なのだからそんな他人事みたいに言わずとも…」

 

「アンタもでしょ、ラウラ…」

 

「な、なんだか悪いことをしたみたいだな 、私は…」

 

あ、あはは…以前よりは丸くなってるとはいえ、空気読めないのは相変わらずってところかしらね…。

…今週の放課後は教室と自室だけで過ごす羽目になりそう…。

いや、自業自得なのは理解してるけどさ…。

 

「安らぎの瞬間は今だけかぁ…」

 

「そうみたいですわね…」

 

「なんで僕まで…」

 

セシリアもシャルロットも反省文提出の命令を受けて完全に意気消沈していた。

まあ、こんな状態の皆を見てるとこう思っちゃうのよね…。

 

「はぁ…時間が止まってくれればいいのに…」

 

どうしようもないのに、そんな言葉が口から零れ落ちた。

ただの現実逃避なのは判ってるけどさ…

 

「…ちょっとなによ、皆してその視線は。

その異様なものを見るような視線やめてくんない?」

 

「いや、意外すぎる言葉を口にしたものだからな」

 

と箒

 

「そんな詩的な事を言うなんて本当に鈴さんですの!?」

 

とセシリア

 

「あまり似つかわしくないというか」

 

とラウラ

 

「もっとヤケクソな勢いになると思ってた」

 

とシャルロット

 

「素敵な言葉だとは思うんですけど」

 

とメルク

 

「あまりにも似つかわしくない」

 

とマドカ

 

「ま、ぶっちゃけ不釣り合いって事で」

 

と楯無さん

 

ブチィッ!

 

「ウガアアァァァァァァァァッッッ!!!!!

言いたい放題言ってんじゃないわよ!!!!!!!」

 

神龍がアタシの絶叫に反応してくれたのか双星(ふたごぼし)を抜刀。

それを即座に握る。

 

「全員この場で叩っ斬る!」

 

「落ち着いてくださいってば鈴さん!」

 

まるでアタシに反応したかのようにメルクまで両手に剣を握ってふるってくる。

全力で両手の剣をふるうのに、その悉くを受け止められる。

あ~もう!

剣の実力じゃメルクにも届かないか!

 

プツン

 

視界が暗転する。

いや、違う…明かりが急に消えた?

 

「…あれ?…停電…?」

 

「大丈夫ですわよね、すぐに非常電源が…?」

 

その筈だった。

すぐに…それこそ通常なら非常電源が5秒もたたずに切り替わるはず。

なのに…一向に電源が入らない。

周囲を確認してみればホログラムの類も…厨房も電気が動かないのか困惑の声が上がってきている。

 

コンソールが急に開かれ、通信回線が開く。

でも、それは音声限定通信だった。

 

『専用機所有者全員に告げる。

至急、指定した座標の場所に集合しろ。

多少であれば壁面の破壊も許可する。

これは訓練ではない、実戦だ』

 

その千冬さんの言葉を最後に通信は途切れる。

けど、この言葉だけでさっきまでの空気は吹っ飛んでいた。

 

「箒ちゃん、きみは早く避難しなさい。

ここからは私たちの領分よ」

 

「は、はい。

ってちょっと待てマドカ、なんだその手は!?」

 

マドカが箒の衣服を掴んで引っ張っている。

でも、その場所が問題だった。

 

「え?知らないの?

この食堂にも地下シェルターへ通じてる秘密の通路があるんだ。

今回のような非常事態にしか使えないような仕組みになってるらしいけど」

 

「だからってなんでスカートを掴むんだ!

ってちょっと待て!どこへ引っ張る!?

そっちはダストシュートいやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~…………」

 

まあ、確かにダストシュートも非常事態の時には地下シェルターに通じる仕組みらしいけどさ…。

あー…一応合掌くらいしとこう。

 

「うわぁ、箒ってば非常用スライダーに顔面から突っ込むだなんて勇者だねぇ」

 

「突っ込ませたのはアンタでしょうがぁっ!」

 

棒読みで言ってのけるマドカに思わず全力でツッコミをしていた。

そんな即席コントをやってのけていたけど冷静な声が響く。

 

「さあ、指定された座標の場所に急いで向かうわよ!

お姉さんに着いてきなさい」

 

…ついて行っていいのかはたはた疑問に思えたのはアタシだけじゃないと思う。

 

「まあ、仕方ないし行きますか」

 

双星を肩に担ぎ、アタシは急いで後を追うことにした。

それでも、気になるのは千冬さんが指定したこの座標。

ここって完全に地下シェルターよりも下層になるはずなんだけど…?

 

 

 

Chifuyu View

 

「束、システム復旧の方はどうなっている!?」

 

「ダメ、間に合わない!

ファイアウォール寸前で食い止めるのが精一杯だよ!?

なんなのコイツ!?

ありえない…IS学園の防備システムにセキュリティ関連のシステムは私が一新させたのに…!

なのに、なんでコイツらは私よりも上を…クソッ!

武器庫を奪われた!

このっ!

くーちゃん!」

 

「ダメです!

リアルタイムシステムで更新させ続けてますが、それでも間に合いません!

ありえない…!

コンピューターウイルス感知!

システムをジャックされています!」

 

私もコンソールに指を走らせるが、このシステム対処にはあまりにも膨大すぎて追いつかない!

それどころか、頼みの綱でもある束でも対処が追いつかないなど…!

どうなっているんだ!

 

「くーちゃん!感染したシステムは即座に破棄!

バックアップに切り替えて!

ナーちゃん!」

 

「こっちもこっちで手が一杯です!

ハッキング元の割り出しも間に合いません!」

 

「警備システムダウン!」

 

「非常電源もジャックされました!」

 

「監視カメラすべてダウン!」

 

「隔壁を下ろせ!

絶対に侵入者を通すな!」

 

「ダメです!間に合いません!

海上より武装集団侵入!」

 

「やむを得ん、私が出る!」

 

「ただいま到着しました!」

 

地下システムコンソールルームにようやく専用機所有者が集う。

更識から前もって教えられていたのか、全員ISスーツを着用している。

 

「こんな地下施設があっただなんて」

 

「こんな設備、軍にも無いぞ」

 

「当然の話だが、ここで見たことは口外禁止だ。

ここは学園内部でも重要な施設だ、各国に知られれば面倒な話になる」

 

「は、はい!」

 

 

全員を整列させながらも私の後ろでは束やクロエがシステムを奪われないように必死にもがいている。

早く、一刻も早くこの事態を片付けなくては…!

 

「現在、この学園のほぼすべてのシステムが奪われた状態だ。

セキュリティ、空調、電源などありとあらゆるシステムが、だ。

生徒の避難は完了しているが、空調システムも奪われほぼ密室への監禁状態。

このままでは侵入者によって隔壁なども物理破壊され、甚大な被害が広がる。

そこで、お前たちにはこれからシステムに直接飛び込んでもらい、システムジャックに対応してもらいたい」

 

あまりにも突拍子も無い話に全員意識がついてこないようだった。

 

「あの…先生、質問が」

 

「なんだオルコット」

 

その中で挙手をしたのはオルコット一人だけだった。

 

「システムに直接飛び込むというのは…!?」

 

「ここにあるシステムの大半は、元来束が開発したものだ。

意識を肉体から引き離し、サイバーダイブさせるというものだ。

リスクが無いわけではない、だが、システム復旧と侵入者撃退に対し、もはや手段が無い。

強制はしない、むろんこれは我々教師陣も想定していない想定外事象だ。

我々も全力を尽くそう。

そのうえで協力してもらいたい」

 

 

 

 

 

 

私の頼みに応じ、全員が承知してくれた。

一年生専用機所有者全員がサイバーダイブの準備に入っている。

過去、全員がコアネットワークにダイブした経験を持つと聞いている。

だからだろうか、全員が快諾してくれた。

 

「更識、お前は侵入者を発見次第撃退を。

無傷での捕獲が無理だと思えば手足を切り落としても構わん」

 

「了解です。

一夏君に今回の事は?」

 

「すでに伝えてある、だが奴らは狡猾だ。

倉持にも同時に襲撃を仕掛けている。

だが、心配は無用だ、アイツには守護者が居るからな」

 

黒翼天、貴様はいささかやりすぎのきらいがあるが、頼れる一面もある。

今回は…頼らせてもらうぞ。

 

「織斑先生、サイバーダイブ準備完了です」

 

「始めろ」

 

「了解、サイバーダイブ、スタート!」

 

小娘達が現実世界から離れたのを確認してから私は更識を連れてその部屋を出る。

ISスーツに着替え、束ねていた髪をほどき、再度まとめなおす。

 

「この髪型にするのも久しぶりだな」

 

普段とは違う髪型に…ついぞしていなかったポニーテールへとまとめなおした。

更にはこの場所に用意しておいた刀を握る。

一夏と手合わせしている際には決して使わなかった、対装甲刀。

これを両腰に3刀、合計6刀を提げる。

その状態で両手に2刀を握る。

 

「さあ、出向こうか…」

 

この学園もまた、私が守ろうとしているものの一つだ。

決して手出しはさせん。




飛び込んだのは、現実ならざる場所

常闇に包まれた虚空

されど、それをも越える極闇が待ち受ける

少年の前に現れる更なる復讐者

異様と異常、そして狂気


次回
IS 漆黒の雷龍
『夢想蓮華 ~ 夢荒 ~』

また、右腕を

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