Ichika View
「ふう、疲れた…」
入学初日からの授業を全て終え、俺は校舎から出てそんな一言をため息とともに漏らした。
なにせ入学式を早朝に終わらせ、それから1コマ目からIS関連の授業だ。
普通科の授業も無いことも無いが、そちらに関しては大学レベルを短く終わらせ、IS関連のことに繋げると来ている。
世間の普通科高校から見れば異常だろう。
なにせ国際IS委員会からは『より多くの時間をISの事に使うように』とのお達しが学園開設当初から届けられているらしい。
だから専門分野…というかISの授業オンリーと言っても構わないだろう。
「兄さんはそれでも授業についていけていたじゃないか」
「マドカや簪達のおかげでな」
本当に頭が上がらない、その内においしい弁当でも作ってあげないとな…。
とはいえ、今日のところは授業も終わり、これから家に帰るだけだ。
簪は入寮らしいが、俺とマドカの二人は一週間は自宅からの通学が政府から言い渡されている。
その為、バイク二人乗りで30分で行ったり来たりだ。
そういえば、今日は近所のスーパーで特売してたな。
急がないと間に合わない。
駐輪場に置いていたバイクを用意する。
シートに跨ると、マドカは俺の後ろに座り、これまた自然に腕を俺の胴に回してくる。
簪もやっていたことをマドカは何の躊躇いもせずにしてくる。
俺としては構わないが。
「じゃあ、出発するぞ」
「うん、いつでもいいよ」
IS学園へは、直通のモノレールもあるが、橋を直接わたるコースもある。
こっちを使う生徒は極端に少ない。
なにせ日本本土まで結構な距離があり、自分の足でわたっていくのが面倒だからだ。
それにこちらの橋は物資運搬がメインになっている。
それを行う大型車両の出入りも結構目立つ。
まあ、この時間帯ならそれも目立たないけど。
バイクに関しても、これはバイト代を叩いて購入した。
入学から一週間は自宅からの通学になるが、いかんせん結構な距離がある。
自転車を使ってモノレール駅に向かうのも手間だったのだが、千冬姉からバイクでの通学を勧められた。
俺が居ればモノレールに生徒が乗り切れなくなる、だとか。
なので、自宅から学園までコイツで往復だ。
とはいえ、バイクの運転のためにも教習所にも確りと通ってきた。
そこの料金は千冬姉とマドカも負担してくれたから、俺はこの借金を返さないとな。
「兄さん、あそこ」
「ん?」
マドカが指差す方向を見てみる。
それはほとんど真上の何処かだ。
そこに見えたのは、フランスで開発された第二世代機、『ラファール・リヴァイヴ』だ。
「ああ、ISの訓練をしているのか」
飛行訓練をしているのか、なかなかのスピードで飛んでいた。
「俺もあんな風に飛ぶ日が来るのかな」
「実技授業も近いと思うよ。
それに兄さんなら誰よりも上手く飛べると思う」
だと良いけどな、ちょっと不安だ。
国家代表候補生として訓練を受けているマドカに比べたら俺なんて素人だ。
検査で動かしても歩行訓練だけだったからな。
それも2時間未満だ。
国家代表候補生には遥かに届かない。
「マドカのように専用機を持つだなんて俺には、夢のまた夢だろうな」
「それを言われると私にもフォローができない…」
現実だから仕方ないさ。
楯無さんの『ミステリアス・レイディ』
簪の『打鉄弐式』
マドカの『サイレント・ゼフィルス』
千冬姉の『暮桜』
ラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』
俺が知っている専用機はこれくらいか、俺が知らないだけで上級生の専用機所有者は居るのかもしれないが、その人と会うのはまだまだ先のことになるのかもしれない。
「気分を入れ替えるか。
えっと、今日の特売は、と」
ほうれん草を主体とした野菜全般が大安売りか、野菜料理をいろいろと作ってみるか。
来週からは寮で暮らすようになるから、それに備え、引っ越しの準備は万全にしている。
PRRRRRRR!
モノレールが出ている駅を通り過ぎた頃だった。
俺のポケットから無機質な着信音が聞こえたのは。
バイクを止め、ポケットから携帯電話を取り出す。
相手は…千冬姉に事前に言われて登録しておいた『IS学園職員室』だ。
なぜ千冬姉がそんな場所の電話番号を知っているのかが疑問だったが、それに関しては今朝解決した。
千冬姉はこの学園の教職員だったようだ。
え?俺、初日から職員室に呼び出されるようなことしてたか?
思い返してみるが心当たりがまるでない。
クラスメイトには自己紹介と挨拶、そして休憩時間は隣のクラスだけでなく上級生までもが見物に来る。
さながら動物園のパンダだ。
溜息ばかりこぼしていた気もするが、それだけで呼び出される理由にはならないだろう。
理由なんてそれこそ本当にわからないんだ、応答するしかないだろう。
「…はい…」
『お、織斑くんですか!?今は何処に居るんですか?
もしかして迷子ですか!?
お、落ち着いてくださいね!、周りには何が見えますか!?
先生たちで迎えに行きますから!』
相手は副担任の山田先生のようだった。
そして聞いているだけでも判る、この人、半泣きになってるよ…。
先ずは貴女が落ち着いてください。
「何処って…大橋を渡って今はモノレールの駅前ですよ」
『え、ええ!?なんでそんな所に居るんですか!?』
「なんでって…政府からは『一週間は自宅通学するように』とまで言われていますから。
今は妹のマドカも一緒に居ますよ」
『そ、そうなんですか…あの、織斑君、あの…気分を悪くされるかもしれませんが…一旦学園に戻ってきてくれませんか?』
…は?
「あの?いきなり何故ですか?」
『あの、それなんですが…フギャッ!?』
何か鈍い音が聞こえ、山田先生の声が急に途絶えた。
そして続けて聞こえてきたのは
『一夏、聞こえるか?』
「千冬姉?」
『どうやら山田先生が政府からの命令をお前達二人に伝えるのを忘れていたそうでな。
一週間自宅からの通学を改め、即日入寮するように、との事だそうだ』
即日入寮って…
「俺達、引っ越しの準備とか家に置きっぱなしなんだけど…」
『何のために私が今日半日程学園から居なくなっていたと思うんだ?』
つまり、半日程学園の仕事を山田先生に任せて俺とマドカの荷物を自宅にまで取りに行っていたということか。
『用意はしておいたようだから大丈夫だろう?念のために荷物も確認はしておいたが…足りないものがあれば週末に取りに行け』
ちょっ…荷物の確認ってもしかしなくても
『お前の肌着なんぞ見慣れている』
「それはお互い様だろ。
家では千冬姉の服から下着まで俺が洗濯してたんだからな」
電話口の向こう側からゴシャッ!と鈍い音がした。
…山田先生が千冬姉をからかおうとして殴られたのだろう。
まあ、それはともかくとして、必要なもの、か。
それならアレが俺にしてみれば必需品なんだが…
「包丁のセットは?」
『心配するな、それも一緒にして寮の部屋に運んでいる』
なら、ひとつは安心だ。
後は
「『ダブル』は?」
俺が訓練で、マドカと一緒に振るっていた刀とナイフ。
二刀流の事も含めて考え、いつの間にか俺はその二振りを合わせ『ダブル(双刃)』と呼ぶようになっていた。
訓練はそれこそかなりの時間積み重ねていたが、それでもまだ千冬姉には届いていない。
届いてはいないが『近づいて』いるのは自覚できていた。
『ああ、それもある』
なお、マドカのナイフ二振りに関しては、『サイレント・ゼフィルス』の拡張領域に放り込んでいるとか。
『大した質量ではないから』との事らしいが、お前はISの拡張領域を小物入れと同じように考えているのか?
「判った、これからまた学園に戻るよ」
そこで通話を終わらせ、後ろを振り向いた。
「兄さん?」
「学園からの呼び出しだ、すぐに学園に戻って来いってさ」
「スーパーのセールが…」
ああ、間に合わないな。
とりわけマドカはスーパーの従業員にも気に入られ、同行してくれているだけで値段を割引してくれていたりする。
セールの品もさらに割引されている場合も少なくないので、財布の中身に優しい買い物だって出来る。。
落ち込むマドカを横目に、俺はアクセルを踏み込む。
ハンドルを傾け、進路を再びIS学園に向けた。
「まあ、落ち着けって、また弁当を作ってやるから」
「約束だぞ、兄さん」
「ああ、約束だ」
それから来た道を戻り、IS学園の正面玄関に到着した。
そこには千冬姉と頭に大きなコブを作った山田先生が居た。
…予想通り、山田先生は殴られて半泣き状態になっていたらしく、目元が赤い。
まあ、それは無視しておこう。
「来た道をそのまま引き返させて済まない、だが朝から政府の命令が届いていたらしく山田先生がそれを伝えるのを忘れていたそうだ」
「な、なるほど…織斑先生がそれを知ったのは?」
「学園を離れる直前だ、お前とマドカに電話をしたのだが、校内では電源を切っていたようだったからな」
そりゃあまあ、マナーの一環だと思うから。
授業中とかに着信音が鳴り響いたら気まずいなんてレベルじゃない。
千冬姉だったら躊躇せずに廊下に放り出し、正座をさせることだろう。
で、山田先生は千冬姉にそれを教えてもらい、学園を離れ、山田先生から俺とマドカに情報が伝えられると思っていたらしい。
これは純粋に山田先生の失態だな。
その償いとばかりに山田先生は規定事項を次から次へと伝えてくる。
大浴場の使用制限なんて言われても、男の俺がそこを使えるわけでもなし、道草を食うなと言われても、そんな場所なんてある筈も無い…と思ったが実は有った。
購買があるらしい、そこには生鮮食品だの、女子生徒が求めるような化粧品に調理道具に弁当箱まで売っているらしい。
弁当を作るのにも苦労はせずに済みそうだ。
IS学園って凄ぇ…。
そしてその『道草』の言葉に千冬姉が山田先生に「誰のせいだ」などと言いたそうな視線を突き刺していた。
そしてそれに気づき、山田先生はさらに半泣き状態との悪循環。
「それではこれがお二人の部屋のカードキーになります」
俺は1025号室、マドカは1026号室との事。
兄妹同じ部屋でも良かったんだがな。
「織斑君の部屋についてですが、男子生徒の入学という想定範囲外の事態に伴い、部屋が用意できていません。
ですので…」
「暫定処置として女子生徒とルームシェアをしてもらう、と」
だったら殊更にマドカとルームシェアをさせておくべき、とか考えなかったのか、この人は?
「はい、気まずいかもしれませんが、しばらく我慢してくださいね」
仕方ない、か
「はぁ…」
今日何度目になるのかわからない溜息を零す男が其処に居た。
っていうか、それは俺だった。
「兄さん、浮気は駄目だぞ。
兄さんには簪が居るんだから」
「ああ、判ってる、判ってるさ」
そして更に出る溜息。
憂鬱だ、せめて簪がルームメイトであることを祈っておこう。
寮の中は国が金をかけているだけ過剰に豪華だった。
下駄箱にスニーカーを入れ、寮内で使用するシューズに履き替える。
「えっと…1026号室は、と」
俺の部屋よりも先にマドカの部屋を探すことにした。
いずれにしても部屋は隣なんだし、それにマドカのルームメイトにも挨拶をしておかなくてはいけないだろう。
それにしても…見渡す限り女子女子女子、しかも日本以外にも世界各地の国の女子が居る。
改めてここが世界を股にかけた女子高なんだと理解した。
その証拠、と言うべきだろうか、女子ばかりの環境に慣れてしまっているからだろう、あられもない姿で居る女子がちらほらと。
極力スルーするが、
「痛い痛い痛い痛い、マドカ、黙って背中を抓るのを辞めてくれ」
この仕打ち、理不尽である。
「あった、ここが私の部屋みたいだ」
そしてたどり着いた1026号室、ここがマドカの部屋になる。
隣には俺が暮らすことになる1025号室。
まあ、俺の部屋の確認はともかくとして、先にマドカのルームメイトに挨拶をしておこう。
コンコン
マドカが部屋のドアをノックする。
「は~い、今開けま~す!」
部屋の中から元気な声が聞こえた。
聞き覚えがある、確か俺と同じ1組の
「どなたですか~?って織斑君!?
え!?もしかして私とルームシェアなの!?」
相川さんだったか、ハンドボール部に入部予定と言っていたな。
この通り、元気が取り柄らしい。
「いや、俺じゃないよ。
相川さんとルームシェアをするのは」
「私だ」
そしてマドカが俺の前に出てくる。
後姿でも判るんだが…こいつ、なんで腕を組んで仁王立ちをしているんだか。
「織斑マドカだ、これからよろしく頼む」
マドカも相川さんの事を気に入っているのかもしれない。
クラスでも仲よさそうに話している時があった。
「って、事なんだ、妹のことを頼むよ」
「は~い、任されました。
これからよろしくねマドカちゃん!」
さっそく女子高生らしく、女子限定の話題に移っていく。
俺は挨拶が済んだので、部屋へ戻る事を伝え、1026号室を後にした。
相川さんにも、俺の部屋が隣室であることを伝えておいた。
もののついでに、簪に電話を入れ、俺の部屋が決まったこと、1025号室であることを伝えた。
どうやら簪とは別の部屋だったらしい。
そして…ルームシェアがされていることを伝えた。
途端に不機嫌になってしまっていたが、俺は悪くないだろう!?
そもそも寮の事に関してはノータッチだったんだ。
付け加えて言えば、簪かマドカとルームシェアされると思っていたんだ。
それに…山田先生の連絡が遅かったのも理由の一つだ。
そこまで言うと、簪も機嫌を直してくれた。
その代わりに
「今週末か来週末にお買い物に付き合ってもらうからね」
とまで言われた。
だったらそれを断る理由も無いだろうな。
「判った、予定を開けておくよ」
『約束だよ、一夏♪』
きっと電話口の向こう側に居るであろう簪は笑顔になっているだろう。
そう思うだけで俺の気分も明るくなっていた。
あの儚い印象を持っている簪には、出来ることなら、いつも笑顔でいてほしいから。
『それと、もう一つ約束をしてほしいの』
「ん?何だ?俺に出来ることなら何だって…」
『私の専用機、『打鉄弐式』の組み上げを手伝ってほしいの』
簪の専用機、『打鉄弐式』は俺も見せてもらったことがある。
『倉持技研』でみた、打鉄の発展型の機体だった。
でも、あれは倉持技研で作られている筈じゃなかったのか…?
『事情があって、機体の組み上げがストップしたの。
緊急で政府からの命令で別の機体を緊急で組み上げるようにって指示が入ったらしくて…。
それで打鉄弐式は私が引き取って、組み上げることにしたの』
「釈然としないよな、そういうのって…。
判ったよ、放課後とかには俺も付き合うよ」
『ありがとう、一夏』
やっぱり、簪には笑顔が一番似合う。
だから、俺は簪を守ろう。
交際をするようになってから…いや、あの日、空港で出会ってからずっと思っていたことだ。
思えば、俺には大切なものが増えていっていた。
最初は千冬姉に守られるだけなのが嫌で、千冬姉に剣術、居合を教えてもらった。
ラウラとヴィラルドさんには軍隊格闘を。
楯無さんにも、厳馬さんにも散々鍛え上げてもらっている。
そして大切なものが増えていったのに気づく。
千冬姉、ラウラ、鈴、弾に数馬、マドカ、そして簪…。
俺の剣で、その全てを守って見せる…!
「マドカのルームメイトにも挨拶は済ませたし、俺は俺の部屋の確認をしておこうか」
マドカの隣室である1025号室のドアの前に立つ。
コン!コン!
ノックはしておく。
コン!コン!
念には念を入れてもう一度。
返事は…無いな、よし、入室するか。
ドアに設けられているカードリーダーにカードキーを通し、ロックを外す。
しばらくの間、俺が寝泊まりする部屋の確認をしてみるとしようか。
気分を少しでも明るくし、俺は部屋のドアを開いた。
「うわ、凄ぇな、やっぱり」
マドカの部屋もそうだったが、部屋は豪華だった。
何処の高級ホテルだと言わんばかりの家具が一通り揃っている。
キッチンやトイレなどの完備されているらしく、この部屋で生活を続けるのは問題なさそうだ。
廊下側のベッド脇には、千冬姉が用意してくれたらしい荷物が置かれていた。
包丁のセットは、ある。
それに…『ダブル』もある。
訓練に使っていた靴もある。
更に段ボール箱の中には…確かに着替えだとか携帯電話の充電器だとか洗面器具だとか、俺が普段から使っている湯呑とかも入っている。
ん、お茶の葉も入れてくれてる、これには感謝しておこう。
キッチンに入り、湯沸しポットを確認する。うん、温度は丁度良い。。
急須を食器棚から用意しお茶の葉を適量放り込み、ポットから湯を出し、急須に注ぐ。
そして湯呑にお茶を注いだ。
そして一口
「うん、美味い」
千冬姉はコーヒー派、マドカは紅茶派、そして俺は緑茶派だ。
最近は玄米茶を飲んでることが多いかな。
俺は鞄から参考書を取り出し、PC前に座った。
お茶が入っている湯呑を傍らに置き、楯無さんに叩き込まれた参考書の中身を思い返す。
マドカや簪にもいろいろと教わったよな。
さてと、その総復習をしようか。
明日からは楯無さんとの特訓の約束と、簪の機体の組み上げの手伝いも約束をしているんだ。
しっかりと覚えないと、実技訓練に追いつけないぞ。
だけど、まずは備え付けのPCでラウラにメールを送ってみるかな。
冒頭は…『信愛なるラウラへ』これでいいだろう。
『久しぶりに手紙…の代わりにメールを出す。
知っているかもしれないが、男でありながらISの稼働が可能であるイレギュラーとしてIS学園に入学することになった。
検査は受けたが、理由は相も変わらず不明なままだ。
オマケとばかりに、即日入寮までさせられている。
学園では見渡す限り、クラスの中では振り返る限り本当に女子生徒ばかりで結構居心地がよくない。
まあ、仕方ないけどな。
とはいえ、現実を確認しながら授業を受けていく所存だ』
えっと…それから何を書こうか。
そうそう、誰かが飛行訓練をしているのを偶然見かけたことだとかを
そんな折りだった。
部屋の一角からガチャリと音が聞こえた。
廊下側の扉からじゃない、部屋の奥からだ。
微かに甘い香りがする、…その匂いから察するにバスルームか。
…って、ちょっと待て、ここは元来女子高なんだぞ、そして女子寮だぞ。
この部屋を共有する相手はルームメイトが俺であることを知らない可能性だってある。
頼むから、ちゃんと服を着ておいてくれよ、視線は向けないでおくから。
「ルームメイトが居たのか、こんな姿で済まない、私は…」
ズズズ…
視線は一切向けずに俺は茶を啜った。
気配で判る、絶句しているらしい。
そして声で察する、どうやらルームメイトは篠ノ之 箒 か。
まあ、知らない相手よりはマシかもしれないが、問題はある。
今日の休憩時間の事を察すればな。
「こ、こ、この不埒者があああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
あーあ、やっぱりこうなるのか。
早急に立ち上がり、頭上から振り下ろされた木刀を避ける。
ガチャァンッ!
…あ、俺が使っていた湯呑が割られた。
更に言えばPCもHDDごとお釈迦だ。
当然、メールも書いている途中で吹っ飛んだだろう。
「………………」
「……あ………」
あ、じゃねーよ。
いきなり木刀を振り回すわ、人のものを壊すわ、ついでに学園の備品(パソコンと机)を壊して言うべきことはそれか?
正直呆れたな。
「なんでお前が此処に居るんだ!?」
「政府からの命令だ、一週間自宅からの通学から、即日入寮の命令に変わったんだ。
で、支給された部屋が此処だったんだよ」
「な、男女が同じ部屋にされるなど許されるわけはないだろう!」
「それについては同感だ、早急に部屋の変更をしてもらえるように山田先生に依頼してある。
もしかしたら近日中に俺は何処かの一人部屋になるか、マドカと同じ部屋になるかもしれないな。
言っておくが、部屋割りに関しては俺はノータッチだ、俺と同じ部屋になって激昂するのは勝手だけど、俺に八つ当たりをするのは筋違いだからな」
「せめて部屋に入るのならノックをしろ!」
「したぞ、それも結構派手な音で、何回もな」
「…う…く…」
まだ何か言いたいことがあるのか?
更に論破しておいてやるが。
楯無さんにからかわれ続け、一通りの対処方法は身についている。
こいつの言葉くらいなら簡単にあしらえる自信がある。
「そうだ箒」
「な、なんだ」
「これ、お前の手で何とかしとけよ」
俺が指差す先は、派手に凹んだ机と、粉砕された備え付けのPCだ。
言うまでもないが学園の備品だ。
「な、なんで私が!?」
「壊したのはお前だからだ、それと、この湯呑もな。
こっちは俺の私物だ、これはお前が弁償しとけよ。
俺は一旦部屋を出る、この部屋じゃあおちおち息を休めていられそうにもないからな」
修理申請はアイツに任せておこう。
俺は参考書とカードキーを持って部屋を出る。
向かう先は…何処にしようか。
簪の部屋は…号室訊いてなかったな、じゃあ食堂にしようか。
いや、この際隣室のマドカのところに行かせてもらおう。
「む、織斑、どうした」
部屋を出た途端に、千冬姉に遭遇した。
巡回の仕事でもやっているのか?
「千冬ね…じゃなくて織斑先生」
プライベートと公の場くらいは別けておかないとな。
「部屋じゃ落ち着けないんで、どこか別の場所に行っておこうかと」
「…何があった?」
一通りの説明をすると
「話は相分かった、私から説教をしておこう」
千冬姉の言う所の
箒、自業自得だ、これで悔い改めろ、同情はしない。
おはようございます。今回は初日の放課後からの投稿になりました。
一夏君はバイクを購入、それにマドカや簪ちゃんと二人乗りです。
…即ち…一夏君の背中に(以下中略)
ルームメイトはやはりあの人でした。
顔を見るなりの木刀を振り回すのは原作からも変わっていませんでした。
皆さん、危ないので真似はしないように。
観光名所には木刀が売られているのは何故だろう…今更ながらの疑問でした。