束、勝手知ったる人の家、千冬の部屋にて
束「ちーちゃん、焦ってるんだねぇ、婚活サイトにアクセスしてるじゃん…。
んー、でもプロフィールとか書いてないみたいだね。
よーし、束さんが親友として書いてあげよう!」
得意な事
剣術 ISを用いた格闘 筋トレ
特技
アイアンクロー
苦手な事
炊事、洗濯、掃除、裁縫など家事全般
その他
握力(両手)〇〇kg
好きな飲食物
酒、特に黒ビール
おつまみ
束
「…流石に人に見せらんないかも…。
よし、書き直そう」
ポチッ(データ送信と同時に登録完了)
束
「………あ………。
………束さん知~らない!!
ちーちゃん!掃除用ロボット作るから許してね!」
二年後
クロエ
「で、バレてないのですか」
束
「うん、バレてないの(汗)
それ以降、ちーちゃんもアクセスしてないみたいでさ(滝汗)」
クロエ
「じゃあなんであんな事ばかり言ってるんですか?」
束
「バレてないかの確認してるだけだよ」
クロエ
「確認の時点で命懸けですか」
束
「バレたらもっと凄い事になる筈だろうからね」
Tatenashi View
千冬さんによるお説教を受け、デコピンにて3回転してから戻ったころには次の訓練が始まっていた。
今度はメルクちゃんと箒ちゃんの試合だった。
ただし、今回は二人とも近接戦闘にのみ重視している。
「さあ、どうしますか?」
「まだだ!」
焦土の上を駆け抜けながら二人がぶつかる。
メルクちゃんはあの扱いにくそうなダブルセイバーを軽々と振り回し、箒ちゃんをいなしている。
箒ちゃんは打鉄の近接ブレード『葵』を振るい続けているけれど、一夏君直伝の神速の剣の前には到底及ばない。
箒ちゃんが斬りかかれば、メルクちゃんは真っ白なレーザーブレードにて弾く。
鍔迫り合いに持ち込もうと力んでいれば容易に受け流し、転倒させる。
まったく、一番弟子を名乗るのも納得が出来るわね。
「まだまだいくぞ!」
「こちらこそ!」
ダブルセイバーを分離、二刀流に切り替えて剣戟の応酬が始まる。
それでも圧倒的にメルクちゃんが優勢だった。
先手を奪い、後手を与えない。
速さと手数で圧倒する。
なるほど、一夏君の教え通りね。
千冬さんの剣術は、有無を言わさぬ剛腕による一刀必殺。
姉弟で振るう獲物は同じでも、振るう際の理念はまるで違う。
片やマドカちゃんになると射撃重視だし。
血筋は争えないというか、なんというか。
あの三人の中ではだれが一番強いのか少し興味が沸いてくる。
剣術だけなら千冬さんかしらね。
テクニックならマドカちゃん、火力なら一夏君ね。
こうやって考えただけでも本当に世界最強一家ね。
「これにて終わりです!」
「くぅっ!?」
舞うかのような動きで剣が振るわれ、メルクちゃんの圧勝に終わった。
コンソールを呼び出して確認してみるけど、メルクちゃんのSEは10%も削られていない。
閉ざされたフィールドではそれも制限されているから、さっきのマドカちゃんのフィールド制圧射撃でもろとも吹き飛ばすしか思いつかない。
まあ、そんなことしたら千冬さんのお説教が待っているのは言うまでもないだろうけど。
「さて、それじゃあ次は…」
シャルロットちゃんとセシリアちゃんの試合だった。
この二人も入学以降、実力は確かに伸びている。
「僕だけ第二世代機だけど、簡単に負けてあげないよ!」
「こちらこそ!
近接戦闘がいつまでも甘いと思われては心外ですわ!」
シャルロットちゃんは脚部装甲を『霞星』に換装、セシリアちゃんは両腕の装甲を『光星』へと換装させる。
霞星からは物理刀が、光星からはレーザーブレードが出力される。
だれの影響か知らないけれど、全員近接戦闘に、向いてきてるわね。
「本当に、だれの影響かしらね」
今はこの場に見えない大きな背中を思い出す。
今のあの子たちの実力があるのは、間違いなく一夏君のおかげだろう。
今頃何をしているんだか。
「まだまだぁっ!」
シャルロットちゃんの叫びが響いた直後だった。
背面装甲の一部が駆動する。
更に一対の腕が現れた。
ドガガガガガガガガ!
「今まで兵装の注文をしなかったのに、最近になって何を頼んだのかと思えば…」
デュノア社に強制捜査が入り、営業停止命令が下されてから早くも四ヵ月。
その間、ラファール・リヴァイブに搭載されているメイン兵装である火器や、弾薬は、学園に配備されているものから補充されていた。
けれど先日、突然に発注を依頼してきた。
「補助アーム『グレイシア』、さっそく使いこなしているわね」
腕部装甲が破損して使えなくなった場合でも、銃器をもって戦えるように改造されたそれは正に第二の腕だった。
イメージインターフェイスを経由して使っているわけではなく、定められた動きを前もってプログラミングされており、それのオン/オフを切り替えているだけ。
取り回しはそこまで優れたものではないけれど
「な、なんですのそれは!?」
初見殺しには持って来い。
その証拠にセシリアちゃんのビット操作が甘くなってきている。
「セシリアの負けかな、アレは」
「あら、マドカちゃん。
デコピンされてたけどもう大丈夫なの?」
「…三回転させられたけど、一応もう大丈夫。
あんな強いデコピン受けたの初めてだったから驚いたけど」
結局手加減されていたらしい。
人の事を言えた義理じゃないけど、千冬さんってシスコンなのよねぇ。
「意表をつくのなら調度良いかもしれないけど、所詮は猫だまし同然だ」
「え?」
「セシリアも自分のペースを取り戻してきてる」
マドカちゃんの声に振り向いてみる。
ビットの制御も射撃も元々のペースに戻っていた。
それどころか加速している。
先日習得したという
更には先日くみ上げたセシリアちゃん必殺
「
通常射撃と
「こんの!」
当然黙って受けるはずもなく、シャルロットちゃんは物理シールドを掲げてその場から一気に離れようと
「貰いましたわ!」
当然、その動きすら読んでいるセシリアちゃんも動く。
真正面から迎え撃つ。
「その楯ごと、撃ち抜きますわ!」
「させないよ!」
ドォンッ!
光星による高威力の砲撃。
砲撃を行った張本人すら反動でノックバックしているけれど、これならシャルロットちゃんも無事では…
「やるな、持ちこたえてる」
「無茶をするわね」
補助アーム『グレイシア』もまたシールドを構えていた。
それにしても、なんて無茶をするのかしら、皆。
「両腕、補助アーム、全ての腕でシールドを構え、ゼロ距離まで肉薄。
砲口に押し付けることで、あえて誘爆を狙ったのね」
「セシリアは反動で吹き飛ばされたんじゃない。
光星が暴発したせいで、吹き飛ばされたんだ」
セシリアちゃんは…気絶してるわね。
だけど、シャルロットちゃんも無事じゃなかった。
物理シールドが爆散し、その破片でほほを浅く切っている
「そこまで、勝者シャルロットちゃん!」
「や、やったぁっ!」
「ただし、すぐに傷の手当をする事!」
「は~い♪」
貴女、そんなキャラだったかしらね?
さて、次は私の番ね。
今度は負けてあげないわよ、簪ちゃん?
Kanzashi View
「シャルロット、凄い…」
お姉ちゃんとは反対側の観客席から見ていたけど、あんなダメージ覚悟の突進なんて見たことがなかった。
まさか、相手の兵装を逆手にとるだなんて。
「次、簪の出番でしょ?」
「うん、行ってくるね」
天羅を身にまとい、通路から飛び出す。
フィールドに降り立った先には
「はぁい♪簪ちゃん♡」
「負けないから」
「それは、こっちも同じよ」
私は大剣形態の黎明を構える。
お姉ちゃんは最初から本気なのか、蒼流旋と禊星を連結させ、大三叉槍を構えていた。
「あの時にはいろいろと出し惜しみしちゃったからね。
今度ばかりは負けてあげないわよ」
「私だって、絶対に負けない」
試合開始の合図が出される。
右手に黎明、新たに左手に祈星を展開する。
どがぁっ!
「器用な事をやってのけるわね。
右手に剣、左手に薙刀だなんてね!」
「お姉ちゃんに正攻法が通じるだなんて欠片も思ってないから!
だったら、立ち向かうには常に奇策で挑むしかない!」
『征くわよ、簪!』
最初から、手加減なんてしない。
余さずすべての本気を出し尽くす!
「『万有天羅』発動!」
大気が唸り出す。
フィールド全土に大気の嵐が降り注ぐ。
「ここは、私だけの世界!」
風がミステリアス・レイディの水をすべて吹き飛ばしていく…筈だった。
「そん、な…」
「甘いわよ簪ちゃん」
大気中の水が集まってくるのを感じた。
ありえない、フィールド内部の大気は私がすべて支配している筈なのに…!
「簪ちゃんがコントロールしているのはフィールド内部に限定しているみたいだけど、今の私はその程度の規模じゃ追いつけないわよ」
あの日よりも、各段に上だった。
「全ての海は、私の手の中」
アリーナの上空、東西南北から大量の水が飛来してきていた。
「みんな~♪危ないから逃げなさいね~♪」
なんでそんな能天気なことを!?
「なんて言ってる場合じゃない!」
単一仕様能力を全力で発動。
マルチロックオンシステム機動、0.1秒でロックオン完了。
辻風一斉掃射!
「凍り付け!」
ミサイル着弾と一緒に表面から凍っていく。
でも、表面だけだった。
一瞬で融解していく。
「そんな、なんで…!」
「風もそうだけど、水だって形にとらわれないのよ。
この試合が始まった直後には海水を上空に集めておいたのよ。
それも、ある形をかたどって、ね」
「…あ…」
見えてしまった。
上空には、巨大な水の塊が見えた。
そしてその形が作り出しているのは…
「水で作り出した、レンズ…!?」
「正解よ、水をレンズにし、太陽の熱を一転に集中、凍り付いたからと言って気を抜かないほうがいいわよ。
凍った瞬間に溶かし、そしてこのフィールド全体に水蒸気として霧散するわよ」
「しまった!」
「上空には逃げ場は無いわ。
私がすべて覆ったからね!」
単一仕様能力は依然稼働し続けている。
アリーナの上空は全て水に覆いつくされ、上空の水のレンズには干渉が出来ない。
水の障壁は凍らせた傍から融解し、フィールド全体に水蒸気が満ちていく。
完全に手が尽きた。
まさか、こんな手を用意していただなんて…!
「だったら、遠隔操作で」
「ごめんあそばせ♡
『
意識が白く染まった。
Lingyin View
「やりすぎでしょ、いくら何でも…」
「う、うん、やっちゃった張本人の私もそう思うわ…」
フィールド全体どころかアリーナ全土を覆う水による『
電磁シールドも失われた状態でそんなものを放てばどうなるか。
観客席も実況席もピットも吹き飛ぶのは目に見えてる。
「うあ~…、頭が痛いわ」
「こんなことをしでかしたら流石にね。
それに千冬さんの拳骨まで受けてたし」
「それだけじゃないのよ、あれだけ大量の水を一度に複数の操作してたら脳への反動も辛いのよ…」
あ、そっち…。
「簪ですけど、完全に目を回してましたよ」
「あっちゃ~、本気出しすぎちゃったわ」
「単一仕様能力を使ってなかったのに?」
それで本気と言われてもなぁ…。
以前はアタシはそれで仕留められたわけだし…。
「あれだけの規模の操作はキツいのよ。
仕様能力を使ってる余裕が無くなるくらいにね」
うわ、どんっだけ本気出してるのよ。
まあ、考えてみれば無理もないかもしれない。
上空150m程に水をレンズ状に形成、更にそれを浮遊させ続け、東西南北から数トンもの水を一気に運んでくるわけだから、それこそ常人にはできないレベルだわ。
「ふふん♪『学園最強』は伊達じゃないわよ♪」
「その割には兄貴との対戦で悲鳴あげながら逃げ回ってたみたいですけどね」
「あ、えっと…それは、その…」
まあ、仕方ないわよね。
無限の剣を見れば誰だって臆する。
超絶的なまでの大火力見れば足が竦む。
そして雷を操る能力、あれが楯無さんにとっての最大の脅威なんだろう。
不純物を含まない水、通称『理論純粋』であれば高い絶縁性を誇り雷を防げる。
だけど楯無さんの場合、多量の水を操る為に、それを上回る量のナノマシンを不純物として水の中に導入しているから、それが媒介となって雷を防げないらしい。
…天羅といい、輝夜といい、ミステリアス・レイディには天敵が多いわね。
これで『学園最強』ね…まあ、アタシは勝てなかったけどさ。
「ひとまず今日の訓練はお終いにしましょうか」
「賛成、アタシは白兵戦やり続けて疲れてたし」
絶影流を習得し始めてから強くなれた実感はある。
だけど、結構筋肉とか引き締まってる気がする。
でもバストサイズは以前と全然変わらないから、簪のサイズとか憎く感じてしまう。
女のあこがれというか嫉妬というか…。
まあ、その代わりとばかりにウエストサイズが細くなるからあんまり文句は無いけども。
「痛たた…やっぱり千冬さんの拳骨はもう勘弁願いたいわね」
「だったらアリーナを吹っ飛ばすなんてやらなきゃいいのに…」
今年一年間だけで壊れたアリーナの数を見れば教師陣はもっと頭が痛くなるでしょうけどね。
目指すのは夢の場所
蒼穹の果てを越える
その為に地上で足掻く
例え、夢物語と言われようとも
次回
IS 漆黒の雷龍
『夢想蓮華 ~ 篝火 ~』
どうでもいいけど、間違いなく殺されるな