IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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夢想蓮華 ~ 白架 ~

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アリーナ全土に惜しみなく展開された刀剣かの中からブラッドサージを掴み取る。

チェーンソー状の刃が駆動し、ラファール・リヴァイブのブレード『ブラッドスライサー』を受け止める。

 

「本当に、クロスレンジでの戦闘は強いな、一夏は…!」

 

「まあな、これしか取り柄が無いんでね!」

 

ブラッドサージを左手に持ち替え、右手で蒼の長剣『クレメンサー』を地面から引き抜く。

シャルロットが左手に銃を展開しようとするその瞬間に、その銃を弾き飛ばす。

 

「『鏡月』!」

 

左右からの逆袈裟斬りで、ブラッドスライサーをも弾き飛ばす。

 

「まだまだ!」

 

左腕に搭載された『楯殺し(シールドピアース)』による刺突攻撃。

生身でやりあってるこっちの身にもなれ。

刹那、火薬の匂いが鼻をつき、嫌な記憶が蘇える。

あの女のことをいまだに引きずっているのかもしれないが、記憶の底に放り込む。

 

「『風月』!」

 

刺突攻撃を受け流す。

腕がしびれるほどの衝撃に身が一種な麻痺しそうになる。

堪え、刺突による衝撃を体をひねるエネルギーに変え

 

バシィッ!

 

全力での蹴りはシールドエネルギーに阻まれ、俺の体は弾き飛ばされる。

空中で体をひねり、姿勢を整える、だがそれを許すつもりも無いようで…

 

「まだまだいくよ!」

 

シャルロットがブレード『ブラッドスライサー』を持って突っ込んでくる。

 

「来い!」

 

已む無く俺も両手に握ったブラッドサージとクレメンサーにて対処をする。

刃が咬み合い、そのたびに火花が散る。

輝夜を展開していない状態では、開き切ったフィールドでのISとの戦闘はなかなかに苦しいものがある。

 

地に足をつけぬままに15合ほど打ち合うと、俺はようやく着地し、ブラッドサージを投擲する。

 

「うわっ!?」

 

驚愕し、一瞬姿勢が崩れたのを見過ごす筈もない。

左手で新たに真紅の長剣『アヴェンジャー』を引き抜く。

 

「こんの…!」

 

シャルロットの右手に再び新たな銃が展開される。

拡張領域に多くの銃器を収納しているんだろうけど、勘弁してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで生身でやってるのにそんなに強いのさ!?」

 

訓練を中断してから客席にて休憩することにしたが、やはり疲労がひどい。

そんな中、隣から響くこの絶叫が耳に響く。

 

「一応そういう訓練はしてきたんだよ。

簪にはストップを言い渡されてきてるんだが、最近千冬姉の許しが出てこの訓練を続けるようになったんだ。

まあ、まだまだ未完成の技術ではあるがな。

今回シャルロットを訓練相手にしたのは、専用機所有者ながらも、他とは違って汎用性に優れた機体の搭乗者だからってことなんだがな」

 

「そ、そうなんだ」

 

ドイツに滞在していた間は、ドイツ製第二世代機である『シュヴァルツ』相手にしてきたが、やはり機体が違うと勝手も違う。

 

だが、あのアホなアナウンサーのせいでCBFでの襲撃に於いて俺が生身でISとやりあっていた時の映像が世の中に出回ってしまった。

世の中に一度出回ってしまえば、世界に広がるのはそれこそ一朝一夕で充分すぎるほどの時間だ。

学園の中でも俺に異様な視線を向ける生徒も少なくはない。

現についこの前にはダリル・ケイシーのヘル・ハウンドの右腕装甲を叩っ斬ったばかりだ。

もう誤魔化し様もないため、俺の訓練内容のうちに組み込むことになし崩し的に許可が出てしまった始末だ。

CBFは黒翼天がやったことなんだが、世の中はそんなことは知ったことではないと見ている。

知られるわけにはいかない、の間違いではあるが。

 

つまらない現実逃避をしながらも、鈴が用意してくれたドリンクを一口

 

「まっず!何だコレ!?」

 

甘くて酸っぱくて苦くて、まるで味覚への暴力じゃねぇか!?

 

「あ、それって最近購買部近くの自販機で売られてるドリンクだよね?」

 

「げほっ!ごほっ!そ、そうなのか?」

 

ラベルを見てみる。

銘柄は『はつ○ジュース』。

まるで人が飲むものだとは思えないな。

 

「それってすごい味だよね」

 

「飲んだ経験があるのかよ」

 

「聞いた話だと、それを仕入れてる業者さんって、この学園の食堂の厨房で働いていたコックの人なんだってさ」

 

いいからクビにしろソイツら。

こんなシロモノをガキに飲ませようとしてんじゃねぇ。

 

「こんなモノ、それこそ度胸試しに使うぐらいしか使い道が無いんじゃねぇのか?」

 

「うん、そんな感じで使われてるってさ」

 

仕入れる奴がバカなら、購入する奴もバカかよ。

疑わずに飲んでしまった俺は例外だ、例外ったら例外だ。

鈴、お前は再び当面弁当抜きの刑だ。

 

「さて、続けるか」

 

「え!?まだやるの!?」

 

「これだけ剣を用意しているんだ、それぞれ体に馴染ませておきたいからな.

ああ、心配するな、『神狂い(マドネス)』や『大百足(おおむかで)』に『首削(くびそぎ)』は使わないから」

 

「いや、そっちの心配じゃなくて…」

 

シャルロットの視線がアリーナのフィールドに向けられ…絶句している。

その視線の先にはアリーナのフィールドに所狭しと乱立する刀剣に斧に槍と様々な刃達が控えている。

その場に乱立しているだけのハズなのだが、まるで『暴れさせろ』と言わんばかりでもある。

実際にはその通りなのだろう。

コイツらはすべて俺の心の内から生じたものだ。

俺が失った『怒り』やそれに近しい感情のなれの果てだ。

 

「次は…そうだな、『景秀(かげひで)』でも使ってみるか」

 

6振り1セットの刀を掴み取り、腰に携える。

その内の1振りを鞘から抜き、切っ先をシャルロットに突き付けた。

黒と白に染まる乱刃はさながら竜の爪のようにも見える。

 

「始めるぞ」

 

「は、はい…」

 

 

 

 

 

 

 

ESの開発に携わってからしばらく日が経過していた。

エネルギーそのものは開発されているが、分配率の問題に直面した。

ESエネルギーは非常に優れており、消費されたところで時間経過に伴って自然回復がされるがそのペースが非常に遅い。

俺が束さんからもらったバイクも、連日の稼働によってエネルギー消費をしてしまっていたが、エネルギーが回復まで三日間も要した。

早い話、エネルギーを再生させるのにエネルギーを食ってしまうらしい。

だが、エネルギーの分配率はともかく再生速度がノロマだったら宇宙空間では使えないし、エネルギーをチャージさせたバッテリーを大量導入しなければ使えないことになる。

そんな物があっては宇宙空間では邪魔になってしまうし、エネルギーをすっからかんにして廃棄していてはスペースデブリに早変わりだ。

今現在でもスペースデブリなんぞ掃いて捨てるどころか衛星の如く地球の周囲を飛び回っている。

これが人工衛星に衝突したりして問題になる事が幾度も報告されているらしい。

宇宙空間をごみ溜めにしていては元も子もないし、俺自身がそれを赦せそうにない。

 

「チャージバッテリー式は駄目なのかな?」

 

「無理でしょう、邪魔になるし逐一交換する工程が必要になります。

理想を語るのなら、離陸だけでなく大気圏突入にも使えるようにしたいですから」

 

「おおぅ、贅沢な悩み」

 

束さん(アンタ)にだけは言われたくないな、『非常識』の代名詞。

そもそも、実際に宇宙空間を飛び回るのだけならエネルギーは必要最低限度で構わない。

重力から逃げ出した空間では、空気抵抗もないため、船体なりスペースデブリを蹴っ飛ばすだけで自然と体が飛んでいく。

あとは姿勢制御と、遊泳する方向調整、さらにはパワードスーツに使用するエネルギーがあればいい。

無論、呼吸するためにも酸素は大量に必要になるけども。

 

「んで、ちーちゃんからES開発のヒントとして倉持に行ってみるのを薦められたんだよね?」

 

「ええ、そこに居る『篝火ヒカルノ』さん、でしたっけ?

比較的に束さんに協力的だとか言ってましたし」

 

「私とちーちゃんの昔の知り合いでもあるからね。

あっちはあっちで新しいタイプの宇宙服開発をしてるらしいし」

 

倉持技研といえば、俺と簪の記憶にこびりついている混沌とした記憶を思い出す。

輝夜と天羅がへそを曲げてしまったのが原因なんだがな…。

ISコアの人格ってなかなかに気難しいのかもしれない。

その中で一番気難しいのが…左手の相棒(黒翼天)なんだが。

 

「束さま、お兄様、お食事が出来ました」

 

「くーちゃんナイスタイミング!

束さんてばお腹ヘリヘリー!」

 

「ああ、悪いなクロエ。

ありがたくいただくよ」

 

お盆の上に並んでいるのは、トーナメントの少し前に俺がクロエに教えた料理そのものだった。

デカいエビがそのまま皿に乗っているが、その腹の部分はグラタンになっている。

ほかにもエビをふんだんに使ったドリアにカクテルだ。

ドイツで俺が学んだ料理だが、前回のトーナメント直後に教えることになった。

何故か知らんが食材を限定された、それも『ロブスター』に。

今回俺が教えた料理で何かをするつもりかは知らないが、まあ、今は見逃しておこう。

 

「お~いしぃ~!」

 

「うん、腕を上げたなクロエ」

 

「はい♡

お兄様に料理を教えてもらっていますし、お兄様が料理を作っているところを毎日見させていただいていますから」

 

…まだ隠しカメラがあるのかよ。

部屋のキッチンを隠し撮りするかのような隠しカメラは昨日に至るまでに175個発見し、そのすべてを壊しているわけだが、まだ残っているらしい。

簪もこれにはさすがに恐怖感を抱いているので、まだまだ隠しカメラ撤去作業が続くかもしれない。

それにしても『ウォロー』ですら見つけられないってどんだけ高性能なんだよ。

 

「隠しカメラは残り何個あるんだ、言ってみろ」

 

「そ、そんな事言えません!」

 

うるせぇよ、頬を染めて視線をそらすな。

恥じらう事でもないだろう、むしろ恥ずかしいのはこっちなんだよ!

 

「…冷蔵庫や冷凍庫の中も改めて…それから食器収納スペースに蛍光灯の辺りも確認してみるかな」

 

これ以上設置されていたら心当たりなんて無いぞ。

あ、クロエの奴まだまだ余裕のある表情してやがる。

この程度じゃ撤去完了までどんだけかかるやら。

こうなったら簪ともども部屋を引っ越してやろうか。

二人部屋をソロで使っているのほほんさんなら快諾してくれそうだし相談してみるかな。

臨海学校では束さんは人工衛星まで使って俺の入浴している現場を盗撮までしていた始末だ。

この盗撮兎親子をなんとかせねば…。

 

「お~いし~♪」

 

世界一の非常識親兎はロブスターを

 

ゴリゴリガリガリバキバキグチャグチャバリバリムシャムシャガツガツマグマグバクバクモグモグザクザクハグハグパクパクゴクン

 

殻やハサミに尻尾、更には触覚やら足も残さず余さず食べつくしていた。

…捨てる部位が少ないのは良い事かもしれんが食の事情まで非常識だった。

この人本当に人間か?

その内に『毒を食らわば皿まで』を実演して見せてくれるかもしれないと思った俺も非常識なのだろうか…?

 

「お兄様、もっとお料理を教えてほしいのですが」

 

「だったら部屋や自宅に設置した隠しカメラや盗聴器をすべて撤去してからだ」

 

「そ、そんな…!

なんて殺生な事を、お兄様…!」

 

そんな顔面蒼白させて絶望しきった顔してんじゃねぇよ。

その顔を見て俺が絶望しそうだよ。

そんなに撤去するのが嫌なのかお前は。

この親子はどうにも非常識が過ぎる、今更過ぎるが。

誰かどうにかしてくれこの迷惑兎親子。

 

 

 

「そんな事があったんだ…」

 

「ああ、どうにも脱力しちまったよ」

 

夕飯時、俺は簪と食堂にて食事をしていた。

どうにも食堂の味は落ちてきていたが、数日前に腕利きが学園側からスカウトされて仕事に入ってきているため、再び落ち着きを取り戻してきている。

本当に…何が原因で食堂のシェフがまとめて辞表を出してきたんだか。

心当たりが多すぎて判らないね。

 

俺と簪が現在突っついているのは季節野菜の天ぷら定食。

揚げたてでサクサクとした触感がなかなかに好ましい。

…85点!

 

「…それで、部屋に仕込まれてる隠しカメラや盗聴機は全部撤去させたの?」

 

「ああ、クロエも承知してくれてな」

 

料理のレシピと引き換えではあったけどな。

まあ、高い買い物をしたつもりになって誤魔化しておこう。

 

「それで、ES開発の為に倉持に行く件は?」

 

「篝火博士にもアポイントを入れたから大丈夫だ。

一週間後、俺が一人で出向く事になってる。

今度は輝夜が不貞腐れなければいいんだが」

 

輝夜は極端にリミッターを嫌い、平然とブチ破る。

ならば出力調整をしてやることで機動性を極端に強調してやることで妥協してくれている。

だが、あまり出力を下げてしまえばヘソをまげて不貞腐れて俺の言葉に耳を貸してくれないこともある。

まあ、大抵は繰り返し語りかけることによって答えてくれるようにはなるが、その場合は調整した数値がリセットされているので最初から調整をしてやらないといけなくなるのが玉に瑕だ。

奔放な娘を持った父親の気分というのはこういう感じなのかもしれない。

この齢でそれを経験をすることになるとは欠片も思わなかったけどな。

 

「そういえば、サファイア先輩がギリシャに帰ったらしいね」

 

「ああ、国家代表候補生から国家代表にランクアップするためにテストを受けてくるとか言ってたな」

 

それをダリル・ケイシーの供養にするとは、あの人も奇妙な感じではあるが。

目標を持つ人を笑う気にはなれない。

むしろ俺は頑張ってほしいと願うくらいだ。

 

「と、悪い」

 

不意に俺の携帯電話が鳴り、メールの着信を告げる。

差出人は…

 

「サファイア先輩?

いつの間にメルアドの交換をしたの?」

 

「ついこの前だ、あの人がギリシャに旅立つ数日前にな」

 

あのひと曰く『何かあれば相談してほしいッス、後輩の面倒を見るのは先達の仕事の一つッスから』とか殊勝な事を言ってたっけか。

…今度訓練にでも付き合ってもらおうかな?

 

「で、メールには何て?」

 

「えっと…」

 

内容は『訓練をしていた馴染みの人が居なくなったんで、そっちの都合がよければ訓練に付き合うッスよ』とそれだけだ。

…空を飛び越えた先から俺の内心読まれてるんじゃなかろうかとさえ思う。

 

「上級生の人で訓練に付き合ってくれる人といえば楯無さんしか居なかったわけだが、心強い人が訓練に付き合ってくれるもんだな」

 

これから先、訓練の幅が広がりそうだ。




少年は旅立つ

たった一日

ただそれだけであろうとも力など抜いていられない

本気を超えたその先へと踏み入れる

次回
IS 漆黒の雷龍
『夢現蓮華 ~ 隕光 ~』

あの…小娘共がぁっ!

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