IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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Q.群青の長剣『リベリオン』に「覆してやる」の台詞…もしかしたら『空木レンカ』君からの拝借っすか?
P.N.『鰹武士』さんより

A.そうですよ。
執筆時には、GEシリーズの曲をながしてるのですよ。

あ、不定期更新に入ります。


夢想蓮華 ~ 真言 ~

Ichika View

 

「は~い、いっくんまだまだダメだね~♡」

 

「頑張ってくださいお兄様」

 

「今度はこっちの出力が落ちてるよ?

これじゃあ宇宙に出た途端に事故死しちゃうよ」

 

「えっと…それじゃあこちら側の出力回路からエネルギーを充填させて、と」

 

「ほうほう、そのやり方は束さんでも試した事が無かったね」

 

「束様、先ほどまでのエネルギー不調が緩和どころか解決されています」

 

「流石だねいっくん!」

 

何を以ってして『流石』と言わしめているのか…。

 

「それにしても、やっぱり難しいですね、『ES』の開発は」

 

将来の課題を見つけた俺としては、技術の完成を急ぐほかになかった。

カリキュラムで組まれた授業を受け、放課後は訓練。

訓練の内容は、通常通りの戦闘訓練に、白兵戦闘訓練も含まれている。

訓練が終わったら、束さん指揮下でのES開発に着手している。

宇宙進出技術開発に携わることになるのだから、妥協も許されないだろう。

しかも汎用型開発を目指す身の上、それこそ些細な妥協も許されない。

無論、それをよく思わない人間も居る。

俺の将来課題を不用意にしゃべったりした覚えもないのだが、どこから話が漏れたか、殺気を込めた視線をいくつか感じ取っていた。

 

「やっぱり難しい物ですね、来年から整備課も掛け持ちになるのに躊躇いが出てくる…」

 

「そんな技術を使って私はISを作り上げたんだよ。

誰の力も借りずに、ね♡」

 

『頼る相手がいなかった』の間違いだろう。

まあ、口には出さないが。

 

「それで、いっくんはこのESをどんな風に作り上げたいの?」

 

「大前提としては搭乗者を選ばないパワードスーツにしたいですね。

ISとは違い、今度は戦いの場に出される事のない仕様というのが当面の課題ですかね」

 

ISはその性能があまりにも高すぎた。

故に兵器にされた。

道具を兵器にするのは人間の業だ。

なら、その業にあらがえる何かにしなくてはならない。

形はいまだに不鮮明だ、簪が言うには「解けない氷をつくっているみたい」だとか言われたのはいい思い出だ。

 

「宇宙進出、束さんはまだ諦めていないんですよね?」

 

「当然!」

 

この人のこれは夢の邁進なのだろうが、他人からの理解を求めぬ邁進だった。

俺はどうなるのやら。

 

「一夏、差し入れ持ってきたよ」

 

「お、サンキュ-簪」

 

ドアの向こう側から現れたのは簪だった。

その手のトレイには簪お得意のカップケーキが乗せられている。

焦げた砂糖の匂いと抹茶の香りが気持ちを落ち着けてくれる。

 

「あ、それと…お客さん…」

 

簪の後ろ。ドアの向こう側から姿を見せたのは…。

 

「お、お久しぶり…っす…」

 

「サファイア先輩…」

 

ギリシャ国家代表候補生、ギリシャ製第三世代機『コールド・ブラッド』の搭乗者、フォルテ・サファイア先輩だった。

 

 

 

 

「んで、何の御用ですか?」

 

手や腕、顔に塗れたオイルをふき取ってから俺達は休憩代わりに食堂の卓を囲んでいた。

各々好みのメニューを卓に置いてからというものの、沈黙が続いていた。

味が落ちているのは否めないが。

 

「先日の事件の以降、ダリル先輩の御遺体が発見されたっす。

アタシは親しいものとして遺体の確認に駆り出されたっすけど…本人に間違いなかったっす」

 

そのニュースなら俺も知っている、地図にも載っていない無人島にて、猟奇殺人宜しくズタズタに引き裂かれた死体になっていたらしい。

生きたまま引き裂かれたのか、殺してから引き裂かれたのかはわからない。

書類を見た限りじゃずいぶんと悪趣味だと思わされた。

 

「織斑君は…ダリル先輩がテロリストの一員だったってことをいつ知ったんすか?」

 

「トーナメントの数日前です。

証拠は…先日申し開きした通りですよ」

 

コンソールを開き、その証拠を見せる。

あの日の夜間襲撃、その時に発見した襲撃者の右腕の指。

そこから採取した指紋とDNAパターンと、ダリル・ケイシーのDNAパターンの完全一致。

それと同時に指紋照合の結果を見せる。

 

「国際IS委員会から依頼された『ダリル・ケイシー逮捕請求』もこの通り。

それと、各国からのISコア強奪の際の監視カメラに映った人相の解析も回されていましてね」

 

「こんなにも…証拠が…」

 

各国のサーバーに束さんがハッキングしたんだろうが、どこの国もコイツを表沙汰には出来なかった筈だ。

表沙汰にすれば、コアの保管管理の甘さを指摘され、アラスカ条約に基づいて国家単位での経済制裁を受けるのも明らかだ。

他国のコアを一つでも多くくすねとる、それは各国が腹の中で抱えている黒い部分ではあるが、さらに裏側にはそんな事情があるのだろう。

最終的にはテロリストの餌食になっているのも関わらず、助けの一つも呼べない始末なのだろう。

 

「でも、ダリル先輩は何で織斑君を殺害しようとしたっすか?」

 

「知りませんよ、そんなもの」

 

可能性はいくつかある。

1.女尊男卑を唱える思想

2.俺を目障りに思うどこぞの国家の狙い

3.上記同様、ただし所属する組織の指示。

 

いずれにしても二つ返事で死んでやるつもりは俺には無い。

先を見据えたとしても、足元の石ころに躓いてすっ転んでいては元も子もない。

 

簪が作ってくれたカップケーキを齧りながら、ダリル・ケイシーの事を思い出す。

性格は荒々しく、俺に向ける視線は殺意と敵意と憎悪をむき出しにしていた。

 

「ケイシー先輩の性格って元からあんな感じなんですかね?」

 

「まあ、あんな感じでしたけど」

 

…猟犬ってーよりも狂犬だったか。

傍迷惑な性格だよ。

おっと、故人への罵倒は良くないな。

 

 

 

 

Kanzashi View

 

「あの二人、何を話してるのかしら?」

 

離れたボックス席にて、私とマドカ、鈴にメルクは一夏達が居るボックス席にてお茶会をしていた。

ラウラも居たけど…クロエに攫われてしまった。

そして鈴とマドカは背もたれに隠れて話を盗み聞きをしているつもりなのかもしれないけど、隠れきれていない、

 

「私も…お兄さんたちの会話が気になるんですけど…盗み聞きはあんまり…その…抵抗がありまして…」

 

メルクも興味があるのは否定してないんだ…。

 

「簪は気にならないの?」

 

「あの二人、ケイシー先輩の事に関して情報交換してるみたい」

 

「「「…え゛…?」」」

 

「先日ニュースだとか書類で確認した内容、それと一夏の殺害を企てた動機とか。

…どうしたの皆?」

 

気づけば三人揃って異様なものを見る目を私に向けている。

なんか酷く失敬な気がする。

 

「この距離じゃ聞こえないんだけど?」

 

「カップケーキを乗せたトレイの裏に通信機を仕込んでおいたの。

自分の力だけで作ってみたんだけど、失敗して、一方的に音声が送られてくるだけのものになっちゃったけど」

 

「あの…それって通信機じゃなくて盗聴器に入るんじゃないですか…?」

 

「失敗は成功の基、って言うよね?」

 

断じてわざとじゃないから、ね?

 

「だから、通信機なの、失敗作だけど」

 

そこを強調して言っておいた。

誤解されない為にも。

 

「わ・か・った?」

 

「「「は、はいっ!」」」

 

いい返事だった。

なお、これは脅迫なんかじゃない、ただの説得。

 

 

 

 

Ichika View

 

「あっちの席、なんか騒がしいっすね」

 

「みたいですね」

 

見れば簪が久々に例のモードになっている。

…あの三人が簪を怒らせるようなことをしでかしたのかもしれない、ご愁傷さま、と。

 

「話がそれたっすね。

一つ確かめたいんっすけど、あんな騒動を織斑君は後悔だとかしてないんすか?」

 

「幾らでも在りますよ、もっと穏便にできなかったのか、と。

でも、あの現状ではあの形しかなかった。

周囲からは憎しみを込めた視線はいくつか突き刺さってますけど、気にしている場合でもありませんから」

 

そう、普段は騒動に巻き込まれている俺だが、今回は俺が引き金を引いたことになるだろう。

教師部隊の裏切りの発覚、さらにはテロリストの襲撃、簪達から聞いた話では、発展型の無人機の襲撃も確認された。

全てを返り討ちにしたが、その結果学園の防御面の低さが顕著になってしまっている。

女神の大楯(イージス)コンビの一人が失われ、教師部隊の人数低下、そして電磁シールドの出力が毎度低下している。

それがダリル・ケイシーの逃亡や、無人機の侵入にも繋がっている。

今後、侵入者が現れた際に、生徒を守り切れるのか、そんな疑問すら浮いてきているのが問題だ。

だが、どこの国も下手に手出しができないのが表向きの問題でもある。

あの天災がこのIS学園を根城にしている間は。

 

「それでも、俺が落ち込んでいたら余計に周囲の視線が強くなる。

だから後悔しているのを周囲見せないように振る舞っているだけなんです。

それに、俺が落ち込んでいたら、その影響を直に受けてしまう人も居ますから」

 

だから、落ち込んでなど居られない。

地に足をつけて真っ直ぐに前を向いていなければならない。

だが、作ろうとしているものが、地に足をつけるどころか空の向こう側を目指すものだから皮肉といえば皮肉だ。

 

「それで、サファイア先輩はこの先どうされるつもりですか?

先輩が普段からつるんでいたケイシー先輩は居ないわけですが」

 

「ダリル先輩は、織斑君の言うとおり、もう居ないっす。

あの時に先輩を庇ったことに関しては、織斑先生から軽い注意を受けたくらいで終わったっす。

アタシはこれから代表候補から『国家代表』にランクアップできるように修行するつもりっすよ。

あの人が居ない世界でも、アタシは強くなれたんだって思わせてやりたいっすから、それがアタシが思う供養っす」

 

…愚問だったな。

この人もすでに先を見ている、俺が心配する必要なんて無さそうだ。

何があろうとも、この人まで闇に堕ちることはなさそうだ。

 

「織斑君はこれからどうするつもりっすか?」

 

「ISを超えるものを作ります。

この青空と地上に縛られない翼を、宇宙進出技術開発を進めます。

その為にも今は学園の打鉄で実験を繰り返しているんですよ」

 

「敵を多く作りそうな研究っすね」

 

実際、敵は多い。

『男だから』という理由で妙な視線を向けてくる奴も少なくない。

束さんの力を借りながらの研究なので、その嫉妬を向けられることもあるだろう。

つい三日前なんぞ、実験で借り受けている打鉄に遠隔操作式の爆弾が仕込まれていて爆発に巻き込まれそうになった。

主犯が発覚して退学処分になったらしいが、俺としてはその主犯がどこの誰なのかは露程も興味も無い。

研究に借り受けている整備室が吹っ飛んでしまったが、コアが無事で良かった、それだけで儲け物だ。

 

そうだ、コアも何とかしないといけないよな。

ISコアに変わるものを作り出せないと、ISの模倣で終わってしまう。

エネルギーそのものに関しては問題は無い。

束さんが新エネルギーである『ESエネルギー』を開発してくれているから、それを組み込めばいい。

だがエネルギー分配率問題もあるし、搭乗者保護機能の問題もある。

ふぅ…問題は山積みだなぁ…。

 

「それじゃあ、アタシはもう行くっすね。

織斑君の研究の完成、心ながら応援してるっす」

 

「そりゃどうも」

 

軽い会釈をしてから見送る。

さて、もう良いだろう。

 

カップケーキが乗せられていたトレイに視線を向け

 

「お茶会は楽しかったか?」

 

視界の端にて、四人がビクリと肩を震わせたのを俺は見逃しはしなかった。

 

「…明日は全員オイルまみれになるのを覚悟しとけよ?」

 

その四人の肩が沈むのを俺は確かに視認した。

盗聴器を仕込んだのはだれかは知らないが、責任は連帯でとってもらおうか。

俺に盗聴器を仕込むなんざ10年早いぜ。

 

 

 

 

Laura View

 

「誰か、助けてええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!」

 

「さあラウラ、次はこっちのワンピースよ?」

 

「いぃぃぃやああぁぁぁぁぁぁだああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

「安心して、ラウラのスタイルに見合った衣装はまだまだたくさん在りますからね♡」

 

「いいいいいぃぃぃぃやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!」

 

「まあまあ、下着姿で廊下に飛び出そうとしたらダメですよ、女の子なんですから♡」

 

「だからって、そんな服を着れるか!?

なんで幼児向けの服ばかりなんだ!?」

 

「言ったでしょう、ラウラのスタイルに見合った衣装だって♪

断じて私の趣味じゃありませんからねぇ♡」

 

「だ、誰かあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!????」

 

 

 

 

Ichika View

 

「は?倉持技研?」

 

その名前を聞くのは初めてではない。

白式、打鉄弐式が製造された、日本に於ける大手IS開発場所でもある場所だ。

だが、そこに良い思い出は少ない。

製造途中の打鉄弐式を見せてもらった思い出はある。

だが、昨今のあの場所は混沌に満ちている。

いや、原因は輝夜と天羅にあるわけだが。

 

それを今回、千冬姉に勧められたわけだが…

 

「そうだ、IS学園の敷地内だけでは限界もあるだろう。

もう一度、ISが開発されている場所を見ておくのも悪い話ではないはずだ。

話はすでに通している、あそこの研究所の一部分を束が借り受けている、行ってみるといい」

 

「まあ、手詰まりになっちまったら元も子もない、か。

判った、行ってみるよ」




それに終わりは無い

妥協など微塵も無い

ただただ今日も振るうだけ

終わり無き路の

果てしなき一歩を

次回
IS 漆黒の雷龍
『夢想蓮華 ~ 白架 ~』

いいからクビにしろ

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