IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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Q.メルクの機体の兵装ってなかなかに嗜好が剥き出しになってますよね、特に銘が。

『ブレイズエッジ』
FF13の主人公の公式画像にて使われている紅銀の銃剣

『オーバーチュア』
FF13-2の女神の騎士の鏡銀の銃剣

『ガグンラーズ』
FF13の召喚獣『オーディン』の白い双剣

『クリムゾンブリッツ』
『LRFF13』の主人公の公式画像にて使われている紅い長剣

『ナイトロ-タス』
『LRFF13』の主人公の公式画像にて使われている紅い楯

『ライトニング』
まさに彼女の名前

『シーンドライヴ』
ライトニングの代名詞たる必殺技

『スターシーカー』
『FF13-2』の主人公の公式画像にて使われている明紫の弓剣


以上であってますか?
P.N.『マグナムブレイズ』さんより

A.はい、合ってますよ
今回はそこからいろいろと銘をお借りしました。


夢想蓮華 ~ 窓向 ~

「畜生っ!」

 

何処ともしれぬ無人島、その浜辺に彼女は居た。

黙っていれば誰もが目を奪われるかのような少女だが、今はその風貌は失われている。

形の整った眉は歪み、その双眸も血走っていた。

彼女はすでに打ちひしがれていた。

その無人島には、小規模ではあるがかつての隠れ家の一つだった。

そう、だった(・・・)

かつては拠点の一つとしていたラスベガスはすでに地図上から名を消し、姿も無い。

自分が知る限りのかつての拠点はことごとくが消滅し、帰る場所すら見失っていた。

かの学園は治外法権が世界から認められた場所。

それにも関わらず、刀を握る少年が表沙汰にしながらも自身の身柄拘束に乗り出してきた。

それは国際IS委員会の指令、早い話が篠ノ之束博士からの指示であることは予想が出来ていた。

にも拘らず世界がそれを咎めようとはしていなかった。

篠ノ之束を脅威と感じているのは彼女とて理解しているだろう。

 

今、ひとつの予感が脳裏を過ぎる。

自身が所属する国家であるアメリカが彼女を見限った可能性だった。

強大な力を有する国家、それを彼女は…組織は隠れ蓑にして活動をしてきた。

だが、国家が個人に給付した故の行動だろう。

 

「クソッ…!」

 

故国にはもはや帰れない、拠点も知る限りの全てが消失、消滅し、帰る場所も、帰る国も無い。

 

だが、まだ希望はあった。

自分が所属している亡国企業実働部隊。

そのメンバーにはオータムと呼ばれる女がいた。

だが、彼女は学園祭当日を境に行方が杳として知れない。

残るメンバーは、自分の数少ない血縁者でもあるスコール・ミューゼル。

彼女も今は行方が知れない。

だが、彼女が死亡しただの、捕縛されただのという話は未だに聞いたためしがない。

いかに絶望的な状況の任務でも、後日には涼しい顔をして戻ってきた回数などそれこそ両手両足を使っても数えきれないだろう。

だからこそ、彼女だけが残る最後の希望だった。

 

「スコールさえ、スコールさえ見つけられたら…まだ何とかやり様が有る筈だ」

 

それが、最後の希望だった。

だが

 

「そこに居たんだ」

 

声が聞こえた。

自分の声ではない。

ISを通しての通信でもない。

耳に直接届く生の声だった。

 

「誰だ、テメェ…!?」

 

その声は上空からだった。

だが、あまりにも近い。

上空5m、それが二人の距離だった。

 

「答える義理は…無い、なんてね」

 

紅い花が咲く。

彼女の眼に映ったのは、上空の全身装甲(フルスキン)のIS。

そして、その右腕が消失している事。

 

「嘘だ…!?」

 

そして、その右腕が、自分の胸に(・・)突き刺さっていたことだった。

紅い雫が勢いよく吹き出す。

 

「お前…その機体は…!?」

 

「ああ、これはすでに私の機体よ、レイン・ミューゼル。

亡国企業内で内密に作り出された、次世代型のね。

ここまではアンタも知ってのとおりね。

だけど、アンタ達に知らされていた情報はダミーよ。

この機体は2年前には完成していたんだ。

あの二人の研究者の手によってね」

 

ゴキゴキと嫌な音。

肋骨が折れる音を耳を通り抜け、脳に直接響いてくる。

それとともに襲い来る激痛に意識を失うこともできない。

だが、彼女はすでに察していた。

自分の命は、残り数秒であろうことは。

 

「実働部隊から寝返って、それでその力を得たっていうのか…この裏切り者が…!」

 

ダリルにとって、彼女に対する認識は的外れとは言えないものだった。

彼女ももともとはダリルと同じ実働部隊に所属していた少女。

だが、かの二人組の研究者が現れた途端に、実働部隊から真っ先に引き抜かれていた。

その後、引き抜かれた少女がどこで何をしていたのかは判らなかった。

この瞬間までは。

 

「勘違いしないでよね、それに今の実働部隊隊長はこの私よ。

すでにスコールは除名され、その処分を待つだけなの」

 

「テメェ、スコールに何をしやがった!?」

 

フルフェイスの下は未だに見えない。

だが、猛禽の様なその装甲の下は笑っている…否、嘲笑っているのが察してとれた。

 

「まだ何もしていないわ。

あの人を処分するのはこれから、各地の拠点だった場所をつぶしているのはスコールだもの」

 

「…!?」

 

激痛にゆがみながらもレインの顔に動揺が走る。

自分が帰る場所を奪っていくのが彼女だったことに…。

 

「だけど、その前にアンタを消しとこうかな」

 

「や、止め…」

 

その言葉の先は紡がれることはなかった。

右腕の鉤爪が心臓を貫き、赤々とした雫がボタボタと落ちる。

引き抜き、振るう。

弧を描くように飛沫が舞い、砂浜を穢した。

ダリル・ケイシー、レイン・ミューゼル、二つの名を持った少女の遺体は砂浜に転がる。

だが、殺害をした当人は何ら気にすることもなく、彼女の左手に着用された指輪を…待機形態のIS、ヘル・ハウンドを抜き取り、収納する。

 

「あんな風ににいい様にやられるようじゃ、組織の末端としては終わりよ」

 

猛禽のフルフェイスの展開が解除され、その下の素顔が晒される。

齢は、ダリルよりも若い、幼いと言ってもいいだろう。

 

「というのは建前、組織のね。

私がアンタを殺したのは完全に私怨なの。

あの二人もそうだけど、アメリカも、そしてアンタも一方的に『あの人』を殺そうとしていたんだから。

私はそれが許せなかったのよ。

あの二人は私が殺すわ、そして『あの人』を殺そうとしているスコールもね」

 

その相貌は、殺害に対する怯えなど何も持ち合わせていなかった。

そして、その腰にまで届くであろう長い髪は、海の色をそのまま溶かしたかのようなブルーだった。

 

「さてと、IS学園はあっちにあったけ」

 

彼女の若さよりも幼さが感じ取れるような双眸が海の向こう側に向けられる。

その方向には、確かに彼が居る学府が存在する。

双眸が細くなり、笑顔を浮かべる。

 

「ダリル、アンタには少し嘘をついちゃった。

新しい実働部隊隊長は私じゃないの、隊長が来るまでの代理でしかないの。

隊長が私のところに来てくれたら、私は正式に副隊長に任命されることになってるのよ」

 

悪戯な微笑みだった。

だが同時に蠱惑的な微笑み。

年相応の少女の笑顔だった。

 

「だから、隊長が来るまで終わらない夢の中に居なよ、永遠に終わらないその場所で」

 

少女が海の向こうに思い浮かべるのは、一人の少年だった。

 

「出来るだけ早く迎えに行くからね、隊長(お兄ちゃん)

 

彼女が思い浮かべるのは、背後にて亡骸となって横たわる少女が組織に送ってきたIS学園第一学年のスケジュール表だった。

その中、彼女はある一定期間の事を思い出す。

今年、行事のたびに想定外事象が置き続けていたために延々と先延ばしにされていたその行事を。

 

 

それから一週間経過した頃、偶然近くを通りかかった漁船が砂浜に横たわるそのダリル・ケイシーの遺体を見つける事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

Ichika View

 

トーナメントは中止になった。

まあ、あれだけの事態になったんだし無理もないだろう。

仕方ないとしても、いろいろと想定外の事象が起きた。

教師部隊の裏切りもその一つ。

外部からの襲撃もそれに入るだろう。

しかも先日に襲撃をけしかけてきたテロ組織『凛天使』の連中だった。

裏切った連中やら、外部襲撃犯がどうなったのかは知らないが、俺としてはそんなに興味が引かなかった。

というよりも、むしろ納得している部分もある。

 

クラス対抗戦での無人機襲来の際、電磁シールドが易々と破られた際の事。

臨海学校に於ける『銀の福音』の襲来と、それにおける違和感。

学園祭にネズミが入り込んでいたこと。

それらが学園内部からの干渉であればセキュリティ突破も容易だったのではないのか、と。

早い話、この学園に対する…というよりも、情報やらコア欲しさに突貫してくる連中の内通者が今回ハッキリとしたわけだ。

けど、これで全員だったのかは定かではないが。

 

「よし、これで完成だ」

 

第三調理実習室にてコンロをいくつも使い、同時に料理を作っていく。

フライパンの中身にはチキンライスを閉じ込めたオムライス。

それを皿の上に乗せ、さらに上から特製のスープをかけていく。

 

「さあ、出来たぞ。

洋風のスープオムライスだ」

 

それを次々に机の上に並べていく。

 

「おお、すっごい出来ね~」

 

「この料理、家でも食べたことないよ」

 

楯無さんもマドカも今回のこの料理の出来に驚愕の様子だ。

これは少し自慢になるね。

 

「学園祭のためにメニューの候補の一つに挙がっていたが、最終的にはボツ扱いされた居たのを私は覚えているぞ」

 

「それは勿体ないですね」

 

「ま、まあ、手間暇かかりすぎるから無理もないよ」

 

ラウラはよく覚えてるな。

メルクも食べてみたかったのかもしれない。

簪が言うことは尤もだ、確かにこの料理は手間暇掛かる。

今回コレを作るのにも時間が掛かったからな。

 

「けど、味はすごいわね、絶品だわ」

 

料理には色々と口うるさい鈴もコレには脱帽らしい。

言葉が少なくなっている。

これは少しばかり誇らしいね。

 

「さて、じゃあ俺も食べるか」

 

スプーンを手に取り、俺もスープオムライスを頬張る。

そういえばこの料理で食堂のシェフを黙らせちまったんだっけか。

それを思うと食が鈍る。

 

今度は…そうだな、どんな料理をしてみるか…。

 

「ラウラ、そんなに大口に食べたらダメよ。

のどに詰まらせたらどうするの?」

 

「やめろ~~~!はぁなぁせぇ~~~っ!!!!」

 

…まあ、目の前に見えるのはいつもの光景ということで片付けようか。

クロエ、以前から言ってるけど、少しは遠慮というものを学んでくれ。

 

 

 

 

「やれやれ疲れた」

 

夕飯も終わらせ、後片付けもして終わってから俺は部屋のベッドに横たわる。

トーナメントが中止に追い込まれてから一週間が経過した。

あれからいろいろと学園内でも変化が起きた。

学園内通者であった教諭が連行され、二年生、三年生のクラスがいくつか合併された。

幸い一年生は今までと変わりは無いが、上級生はいろいろと大変かもしれない。

中には進路相談をしている先輩達も居ただろう。

まあ、今はそれは忘れよう。

一つずつ、それも目の前の問題を片付けてからだ。

 

「でも、あんなに料理に張り切ってたじゃない」

 

「まあ、な。

反省文だのを言い渡されたりするとストレスがたまるけど、料理やってたら忘れるんだよ」

 

「そ、そうなんだ」

 

あ、簪が絶句してら。

だが、俺が料理を作っている間は簪もサポートしてくれていたし、感謝の一言に尽きる。

それにほかのクラス人も見物に来ていたくらいだったからな。

 

「しっかし、俺もちょっと派手にやりすぎたのは否定しきれないな。

学園祭のメニューの一つにあのスープオムライスを挙げていたのは」

 

「食事処だけど、お客さんを待たせすぎたら帰っちゃうし…」

 

「そりゃそうか」

 

二人でそうやって笑いあう。

こういう時間が俺にとっては大切なんだが、どうにもこうにも今年は邪魔が入る。

そろそろ俺のことなんざほっていてくれればいいんだが、そうは問屋がおろさないようだ。

 

「『凛天使』、だったか。

今回はあの連中も出てきたからややこしい話になったんだよな」

 

「うん、国際テロ組織だけど、今回は『正式な組織』をなのってこの学園に攻め入ろうとしていたみたい」

 

『正式なテロ組織なんざこの世のどこにも存在しないだろうが』

 

黒翼天も呆れ気味だ。

まあ、今回はお前の活躍でテロ組織の尻尾を掴んだから良しとするけどな。

 

『まだだ、あの小娘の後ろにいる組織は未だに全貌が掴めない』

 

亡国企業だったか。

黒翼天から聞いた話を楯無さんに問うてみたが、二年前の俺の誘拐にも一枚噛んでいたらしい。

そして臨海学校での福音事件、学園祭での事件。

奴らが関わっている。

楯無さんの調べでは、世界大戦の頃には既に結成されていた組織。

各国が調査をしているが、その目的も全貌も掴めないようだった。

だけど…

 

『ああ、あいつは何かを掴んでいるが、隠している』

 

「そういうお前はどうなんだ。

俺の誘拐に噛んでいた組織ならお前も」

 

『あいにくだが知らねぇよ』

 

あ、そ。

 

「じゃあ私、お風呂に行ってくるね」

 

「ああ、ごゆっくり」

 

バスタイムが来ていたのか、簪は着替えなどを持って部屋を後にする。

ドアの向こう側にはいつもの面々が迎えに来ていたようだったから、俺は部屋の前までの見送りをしておく。

さて、お俺もシャワーを浴びておこう。

 

 

 

 

Tabane View

 

「いっくんはやっぱり凄いね」

 

モニターの中に映る輝夜のデータと天羅のデータを一瞥する。

その双方がいずれも如何なる機体よりも宇宙に近しい存在だった。

そして、信じられないようなデータがそこには映っていた。

ISを稼働させるエネルギーが変質していた。

かつてのIS用エネルギーから、ESエネルギーへと。

そしてそれだけじゃなかった。

 

「『蒼碧』、『テンペスタ・ライトニング』、『シュヴァルツェア・リヒトー』、『神龍』、『ミステリアス・レイディ』、この機体達も変質を遂げている。

そのいずれもがいっくんを中心にしていることは間違いない。

私が作り上げた『星』だってそうだけど、この成長速度は凄まじい。

でも、機体にもコアにも搭乗者にも負荷はかかっていない。

それどころかそれらが均等に成長してる」

 

搭乗者がコアを育て、コアが機体を、機体が搭乗者を。

それぞれを育成している。

途絶えることのない螺旋を描くように。

 

「お兄様の手による育成は留まることがないのですね、束様」

 

「でも、世界はそれに気づいていない。

いっくんの身柄と情報を求めているだけでね」

 

だから私が守らないといけない。

優しさを利用するやつに、言い様に使わせるわけにはいかない。




最初の一歩は恐れた

次の一歩は迷った

続く一歩は…道が見えない

ただ、きっかけが欲しかった

前を向く、そのきっかけが

次回
IS 漆黒の雷龍
『夢想蓮華 ~ 帚星 ~』

私はそんな趣味は持ってない!

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