IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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煌翼冥天 ~ 天照 ~

Ilngyin View

 

劣性に立たされていた。

敵は、無人機一機だけなのに…。

 

「なんなのよ、コイツは…」

 

あまりにも出鱈目だった。

篠ノ之博士が開発した専守防衛型無人機である『アースガルズ』は全滅状態だった。

教師部隊の裏切り者は捕縛した直後にコレだから正直キツい。

 

「いくら何でも反則レベルでしょ、シールドバリア無効化だなんて…!」

 

「お兄さんや織斑先生が使う『零落白夜』を標準装備してるようなものですよね、この無人機は」

 

この無人機が出現してから状況は悪化をたどる一方だった。

エネルギー兵装は一切は軒並み通じない。

なら接近して殴ろうかと思えば、今度はシールドバリア無効化フィールドによって、攻撃を防げなくなる。

しかも反応速度がすさまじく、近接攻撃も防がれる。

 

「AICも通じないとはな」

 

ラウラのお得意の慣性停止結界もこの無人機には通じない。

ならば数でごり押ししてやろうかと思ったけど、それこそ意味をなさなかった。

 

「この機体を開発したやつ絶対悪趣味でしょ!

なんで腕が10本もあるのよ!?」

 

「そんなことを私たちに叫ばれても困るんだが」

 

そう、今回の襲撃者…というか無人機は腕が10本も搭載されている。

しかもそのすべての腕に『エネルギー無効化フィールド』と『シールドバリア無効化フィールド』が展開されていて、アタシたちは攻めあぐねていた。

囲んでからの一斉攻撃も連携も、その10の腕ではじかれ、いなされ、それどころか返り討ちにされている。

 

 

 

Madoka View

 

「鈴、何か作戦は有るか?」

 

「作戦ン?もうネタ切れもいいところよ、そら来た!」

 

「チィッ!」

 

祈星を巨剣形態に切り替え、援護に向かう。

楯無先輩も、今回ばかりは十八番のナノマシンによる攻撃も通じないと見たのか、槍を構えて突っ込んできている。

セシリアには早々に下がらせた。

エネルギー兵装がメインのアイツは今回のこの戦いでは戦力になりえない。

シャルロットはセシリアの護衛に就き、教師部隊の裏切り者を護送しているはずだった。

 

この無人機相手に立ち向かっているのは、見慣れている面々ばかり。

 

「マドカ、いくよ!」

 

「ああ、背中は預けた!」

 

背後から簪がレーザーを幾度もなく発射する。

けれど、その全てがエネルギー無効化フィールドの前では無力に霧散する。

 

「こんのぉっ!」

 

両手に握る巨剣を全力で横薙ぎに振るう。

 

ドガァァツ!

 

「くそっ」

 

容赦など一切しなかった。

手加減も、していない。

その上での全力の横薙ぎだった。

なのに…指先で受け止められた…!?

 

「まだだ…この距離なら、消すこともできないだろう!」

 

左手にスターブレイカーを展開。

無人機の頭に銃口を押し付け

 

「くたばれぇっ!」

 

祈星のブレードを展開に使用しているエネルギーを銃に収束。

そのまま引き金を引いた。

 

ドォンッ!

 

「くそっ!」

 

対応しきれなかった別の腕からの砲撃。

スターブレイカーが破壊される。

だとしても…!

 

「今だ…!殺れ!」

 

縦横無尽に飛び回っていたブーメランが一気に飛来してくる。

後退加速で距離を話した途端に16ものブーメランが襲う。

 

「これでもダメか…!」

 

ドガガガガガガガガガガガガン!!

 

あの腕が目障りだ。

こちらのエネルギー兵装は無効化されるのに、あちらは使いたい放題だ。

一瞬でメルクの『舞星』を無力化された。

 

「やああああぁぁぁぁっっっ!!」

 

「こんのおおぉぉぉぉっっっ!!」

 

楯無先輩も簪も剣を握って前後から挟む。

ラウラも無言で流星を片腕にマウントし、拳を構える。

鈴も拳を構える。

 

「遅れるものか…!」

 

再び祈星を構える。

剣が唸る気がした。

今度こそ、こんどこそ確実に斬れ、と。

 

「ああ、やってやる、だから…」

 

あの背中に追いつくだけじゃない。

私でも守れるようになるんだ…!

 

 

 

Tatenashi View

 

「手ごわい、わね、こんの…!」

 

ラスティー・ネイルを全力で振るっても確実に対処される。

そして腕の数で確実に手数を奪われる。

このアリーナから一歩たりとも外に出させるつもりはない。

けど、この場に留めておくのが私たちの限界だった。

 

お得意のナノマシン制御はマトモに通じない。

エネルギー兵装どころかナノマシンすら無効化されている。

頼みのシールドバリアも絶対防御も今は頼りにならない。

シールドに頼っていた戦いをすれば、今回ばかりは機体もろとも体を砕かれる。

 

でも一歩たりとも引くことは出来ないし、引かせるわけにもいかない。

 

『ふむ、今回の動作テストはこんなものかな』

 

不意に、そんな声が聞こえた。

それも眼前…この無人機から…。

 

「引きなさい!皆!」

 

私の指示で接近を試みていた全員が一気に離れる。

それでも視線は決してそらさなかった。

 

「生命反応は探知出来なかった筈だけど…?」

 

『ああ、勿論コレは無人機だよ。

施策型無人機36号機、通称『ブレイカー』だ。

どうだろう、エネルギー無効化フィールドと、シールドバリア無効化フィールドの双方を搭載させたこの機体は?』

 

「悪趣味にも程があるわね、亡国企業。

自慢の一品をこんなところでお披露目だなんて」

 

喋りながらも対策を考える。

何か、何か対策がないのか、と。

ハイパーセンサーを使い、周囲360°一気に見渡す。

 

『そうそう、まだ自慢の品を搭載していてね』

 

「くっ!?」

 

周囲すべてに広がっていた視界が一気に狭まる。

今度は…ハイパーセンサーを無効化された!?

 

『もう気づいているだろう?

今回私達がこのブレイカーに主に搭載させているのは『ジャミングシステム』なのだよ。

例えば他にも』

 

「グッ!?」

 

今度はPICを無効化された!?

 

機体の重量がそのまま襲いかかってくる。

なんて反則物を仕掛けてきてるのよ!?

 

「だれか、動ける人は居るの…!?」

 

皆無だった。

マドカちゃんも、メルクちゃんも、簪ちゃんも、鈴ちゃんもラウラちゃんも動けなくなってしまっている。

 

『試作の性能試験としては、まあこれでいいだろう。

さて、諸君らには悪いが消えてもらうよ。

ああ、返事は不要だ、顔も覚えるつもりはないからね』

 

 

 

Madoka View

 

「ふ…ざけるなぁぁっ!」

 

ゼフィルスの重量がそのまま身を襲ってくる。

背骨も、腕の骨すら折れそうになりながらも、予備のスターブレイカーを構える。

重量で照準がマトモに合わない。

 

『おやおや、頑張る娘が居るようだね、なら君から消そうか。

その絶望を私たちとしては見てみたいものだよ』

 

絶望は…もう充分だ。

捨てられ、兄と姉のぬくもりははるか海の向こう。

あの日を超える絶望など、私には無い。

ただ掴みたかった、家族を…!

 

≪なら、応えましょう、その意志に≫

 

突如として体が軽くなるのを感じた。

いや、それだけじゃない。

ジャミングされていた筈のシステムが次々に復旧を始めている。

 

≪立ち上がりなさい、そして…構えなさい≫

 

「わざわざ喝を入れてくれるとはな、感謝する、ゼフィルス…いや…」

 

コアの稼働が急激に活性化している。

それだけじゃない、すべてが生まれ変わっている。

 

IS Core 382 『The Rose』 Re:Boot

Second Shift Start

 

ゼフィルスの両翼が生まれ変わる。

蝶のような翼の色が変化していく。

あの日、絶望に染まった私に光を与えてくれた希望()の色に。

そして高機動を想定したかのように、可変式スラスターへと作り直されていく。

 

祈星はスターブレイカーと融合していく。

銃と刃が一体化した姿へと。

拡張領域から勝手に排出されたビット達も姿を変えていく。

レーザーの射出口から繰り出されるのは、光で形成された牙だった。

その内の2基が腕部装甲にマウントされる。

それと同時に光の膜が展開され、楯へと姿を変える。

 

頭部ハイパーセンサーも変化する。

顔全体を覆うバイザーが取り除かれ、顔が露出する。

だが、目元に関してだけは青い半透明のバイザーに覆われた。

そして、すべての装甲が変色する。

今までよりも青く、碧く、どこまでも 澄み切った空のような蒼へと。

 

『Sky Blue』Iginition

 

「織斑 マドカ…『蒼碧』…目標を駆逐する!」

 

スターブレイカーと祈星が融合して完成した新たな銃剣『ファントム・ブロウ』を右手に、スターブレイカーが変容した新たな長銃『スカイ・ブレイカー』を左手にして。

 

「お前は…ここで私が討つ!」

 

『無理だよ、君にはね』

 

両手の銃を掃射、更には私の限界でもある156ものビットを一斉に展開。

そこから次々に光が溢れ出し、目の前の無人機を射貫かんとばかりに襲い掛かる。

 

溢れ出す光の数が絶える事なく続く。

千を容易に超え、五千、一万を超える。

私もじっとしている訳がない。

 

私はこの声の主を知っている。

 

姉さんも知っている。

 

知らないのは、兄さんだけ。

 

だから…兄さんが戻ってくるよりも前に、私がこいつを討つ!

 

「『収束射撃(バーストシュート)』」

 

両手に持つ銃の銃口にエネルギーが収束する。

引き金を引く。

 

ドオオオォォォォォッッンン!!

 

貴様らは絶対に許さない。

 

「『収束掃射(バーストレイン)』」

 

ビットによる射撃が一瞬だけ停止、ビット同士を討ちあうかのごとくレーザーがいくつかのビットに集う。

ビット一つ一つだけの射撃ではやつのシールドを貫くには足りない。

だから…私の銃だけでなく、ビットからも収束射撃を行う。

射撃総数は少なくなるが、射撃に於いて私を上回るとは思うな。

 

「まだだ…!」

 

ビットからの射撃を今度は私の右手に握る銃剣に集わせる。

ファントム・ブロウの刀身が伸びていく。

レーザーが剣に集い、新たな刀身を形成させる。

 

「絶影流…」

 

背面スラスターを最大出力。

兄さんには及ばないが高機動に関しては私にも自信があった。

ゼフィルスも私に応えてくれた。

そして今は、私のい思いに強く応え、新たな姿と名を得た。

だから、私も応じる。

私が扱える数少ない剣技の中でも、特に磨いてきたその技で!

 

「『幻月・双華』!!」

 

真正面からの袈裟斬り、刹那に続く背面からの逆袈裟斬り。

前後からXを描く二閃。

手応えは…

 

『だから無理だと言っただろう』

 

「チィッ!」

 

後退加速で一気に飛び退く。

十の腕が…百の指が槍に代わって次々に襲ってくる。

 

『それにしてもいい娘だ、態々懐に飛び込んできてくれるとは』

 

「その声…相変わらず虫唾が走る!」

 

左手の銃を収納。

右手に握る銃剣だけで対応する。

 

「マドカ!」

 

「大丈夫だ、鈴達は周囲を頼む!」

 

『いいのかな?

友達とお喋りをしていても?

そこまで余裕があるわけではないだろう?』

 

私を甘く見るなよ。

私のが射撃にばかり頼り続けている訳じゃない。

ビットの使い方が射撃だけだと誰が決めた?

 

「言った筈だ、貴様等はここで私が討つと!」

 

射撃ビットの砲口にレーザーが収束される。

ただし、射撃に使われるだけじゃない。

砲口にレーザーで構築された刃が形成される。

 

「斬れ」

 

私の呟く声にすべてのビットが応える。

 

「貴様等が十の腕と百の指を使うのなら、それを上回る刃を作るだけだ!」

 

全方位からのビットによる射撃と、刺突、そして私自身の剣技で食い荒らすかの如く襲い掛かる。

 

『だから無駄だといっただろう』

 

やはり届かない。

あの特殊なフィールドにはエネルギー兵装が外側からは(・・・・・)届かない。

 

『君が持つその剣も、刃毀れをしてしまっているようじゃないか。』

 

「なら、これならどうだ」

 

私は再び左手にも銃を握る。

 

単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティ)穿光天照(せんこうてんしょう)』」

 

銃口から今までにないほどに強い光を発する。

 

「終わりだ」

 

引き金を引く。

その瞬間だった。

 

ドガガガガガガガガガガガガァァンッッ!!

 

「今まで貴様が無効化してきたエネルギーだ。

内部から撃たれるのはどんな気分だ?」

 

『面白いね、一度は霧散したエネルギーを改めて収束させなおしたのか。

そしてその収束させる空間座標の操作も含まれているようだ。

なるほど、無効化されて消えたエネルギーを再生…。

はははっ!これでエネルギー兵装でブレイカーを討ったということか、流石は』

 

ドガァァンッッッ!!!!

 

「なっ!?」

 

突如、目の前に巨大な刃が降ってきた。

 

「ようやく姿を現したと思えば、ただの傀儡か、くだらねぇ…!」

 

その柄から見下ろしているのは兄さんだった。

違う、兄さん、じゃない。

黒翼天だ…

 

『ほほう、話に訊いた思考パターンBのようだね』

 

「消えろ」

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガン!!!!

 

降り注ぐ無限の剣。

私たちがあれだけ苦戦を強いられていた無人機を、物の数秒で切刻み、続けて落ちる雷の雨。

ものの数秒後、そこにはまるで最初から何もなかったかのではと思わされる程に片づけられていた。

 

「やっぱり、アタシ達はまだまだ届かないのね…」

 

「ああ、兄さん達は…あまりにも遠い…」

 

だけど、あまりにも苛烈だった。

 

 

 

 

Tabane View

 

黒翼天の活躍で、周囲の生徒への被害はなかった。

だけど、被害が0で済んだわけじゃなかった。

教師部隊が裏切り、いっくんを殺そうとした。

結果的には返り討ちにされ、四肢を切り落とされたり八つ裂きの状態で政府に引き渡されることになった。

更には、最終学年の代表候補生がテロ組織との内通が発覚し、その学籍が抹消。

でも、その当人は試合の最中に学園から逃亡し、行方が知れない。

いっくんはといえば、学園から追放するべきだと非難をされている一方、いっくんを擁護する声も上がっている。

最終的にいっくんは反省文の提出を言い渡され、早々にそれを片付けていた。

 

「それで、どうなんだ、一夏の状態は?」

 

「もう普段通りにしてるよ」

 

「まったく、図太いやつだ」

 

「そうでもないよ、いっくんだって後悔はあると思うよ。

ダリルって娘を捕縛してほしいって頼んだのは私だから」

 

そう、あの組織の尻尾を掴む為にも、私がいっくんに指示を出していた。

教師部隊の裏切りと、学園外部のテロ組織の活動は私にとっても予想はしていなかったけど。

でも、収穫はあった。

 

「ちーちゃん、ここで重大報告。

今回の外部襲撃に使われたコアがある国家に渡したものと一致したよ」

 

「何処だ?」

 

「アメリカだよ」

 

私の前に転がるいくつものコア。

これまでに襲撃に使われたり、無人機に使われていたりしたコアだった。

それらのコアナンバーを参照した結果、私は大胆な仮説を立てた。

 

「『亡国企業(ファントムタスク)』は、アメリカを隠れ蓑にした地下組織だよ」

 

「なるほど、『捜査をしている』と言ってのける国が隠していたわけか」

 

「そういう事、そしてもうひとつ」

 

モニターをつける。

そこには先日流れていたある都市の消滅が流されていた。

 

『では、繰り返しお伝えします。

昨晩未明、アメリカ最大のカジノシティであるラスベガスが消滅しました。

テロ組織による攻撃声明なども発せられておらず、原因は不明とされています。

ただ、かろうじて生き残った生存者は口をそろえ『冥王が来た』などと語っており―――』

 

「多分、これは間引きなんだと思う。

不要な末端を自ら切り離したんじゃないのかって」

 

「つまり、敵もなりふり構っていられない、数での圧殺から少数精鋭へと主旨を変えた」

 

「そう、これが指し示すのは…宣戦布告」

 

上等、絶対に叩き潰してやる。




声だけがそこに現れた

感じたのは狂気

消えても記憶にこびりつく

そして、裏切りの果てに…

次回
IS 漆黒の雷龍
『夢想蓮華 ~ 窓向 ~』

そこに居たんだ

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