IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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煌翼冥天 ~ 言訳 ~

Ichika View

 

確かに予想外ではあった。

だが、考えてみれば色々と辻褄が合う。

俺がISを稼働可能と判るや否や、学園への入学を強制してきた件。

臨海学校の一件も然り。

そもそも、福音は何処の国に所属する機体だ?

言うまでもなく米国だ。

そして国際IS委員会は、どこに作られた?

こちらも同じだ。

ISは日本人が開発したものではあるが、技術の独占を最初から狙い、後ろからコソコソとしていたようだ。

兵器として扱えるのが分かったのなら、「力を管理する」とか言いそうだもんなぁ…。

まあ、そんな管理から外れて独占したがり、国家の管理からも逸脱しようとするのが戦争屋だとかテロリストってものだろう。

 

『あの時と同じ匂いがするな』

 

「ああ、銃火器に使われる火薬の匂い。

それに硝煙と、ガンオイルか…鼻が曲がりそうだ」

 

機体の展開を解除した途端にこれだった。

ダリル・ケイシーの体臭が漂ってくる。

どんな世界を生きてきたかは知らないが、こういう生き方は真似たくないね。

 

「織斑…一夏ぁっ!テメェッ…!」

 

「だからその眼をやめろっつってんだろう」

 

警護なんぞもう必要は無い。

付近に乱立する刀剣の中から選んで掴み取ったのは、『ブラッドサージ』

外見はどこか大百足に似ているが、コイツは先端部位だけがチェーンソー仕様だ。

威圧、威嚇にはこちらの方が丁度良い。

周囲を確認する。

非常用シャッターが次々に閉ざされていく。

好都合だ、態々先輩が拿捕される現場を周囲に見せなくて済みそうだ。

 

「抵抗するなよ、また手を失いたくはないだろう」

 

「ナマイキ言ってんじゃねぇぞぉっ!

クソガキがぁっ!」

 

ケイシーがバトルブレードを左手に握り替え、振りかざす。

だが、遅い。

 

「はんっ!この状況で抵抗を続けるとはなっ!」

 

ガギィッ!

 

重い。

ここまでの重量を持っていながら軽々と振り回すということは、それだけ力任せの機体かっ!

 

「掃射開始っ!」

 

背後の教師部隊、それを率いる山田先生を中心にリヴァイブが射撃攻撃を始める。

流石に多勢に無勢と見たか、上空へと逃げる。

だが、アリーナの電磁シールドは最大出力にまで設定されていた筈だ。

 

「逃げられると思うなよ、まだ借りを返してないんだからな…!?」

 

一瞬、視界が大きく揺れた。

 

ドガガガガガガガガガッッ!!!!

 

何が起こったのかと思えば、山田先生に抱えられていた。

 

「大丈夫ですか、織斑君!?」

 

「ええ、まあ無傷ですよ。

で、何事ですか?」

 

「教師部隊の半分が…織斑君に発砲したんです」

 

「…蛆虫が懐に居た、と」

 

「そ、その言い方はどうかと…」

 

それとそろそろ離してほしい。

抱えられたせいで背中の感触が尋常じゃないんだよ。

簪で慣れてしまっていたかと思ったが、上には上がいた。

口が裂けても、頼まれても、正気を失っても言うつもりは無いが。

 

「そろそろ降ろしてもらえませんかね?」

 

「え?あ、はい、そうですね」

 

ガギギギギギギギギィィィン!!!!

 

下方からの射撃はいまだに続いている。

山田先生がシールドを掲げて守ってくれている。

だが、俺を抱えていては十分に戦えないだろう。

 

「ど、何処か安全な場所に…!」

 

「必要ない」

 

山田先生の腕を振りほどき、俺は空中に身を躍らせた。

さあ、あの犬っころをとっつかまえないとな。

 

「来い…輝夜!」

 

俺の身を黒白の装甲が包み込む。

背に広がるのは見慣れた雷の翼。

腰には黒白の双刀。

右腕には龍の咢。

左腕には砲と剣爪。

脚部には龍の刃爪。

俺が目指す頂へと飛翔する翼だ。

 

「教師部隊の裏切りは合計8人か。

黒翼天、山田先生の援護を頼む」

 

『チッ!面倒臭ぇなぁ…』

 

赤銅、金色、宵闇が飛翔する。

リヴァイブは第二世代機だが、援護があれば8人相手でも何とかなるだろう。

なら、俺の相手は…。

 

「第二ラウンド、始めようか」

 

「このクソガキがぁっ!」

 

ボキャブラリーが感じられないなぁ。

この前の襲撃犯も似たような感じだったが、流行ってんのか?

 

バトル・ブレードはなかなかの重量だが、対処は比較的簡単だ。

元々ダブルセイバーは重量と共にリーチに適した兵装だ。

対処は長物と変わらない、それに刀剣部位にかなりの重量が施されているから、槍や薙刀と比べても返しが遅い。

ISの反重力力場があってようやく返しが早くなる程度だ。

だが、俺の目には止まって見える。

 

「遅い、それにあまりにも軽い。

それに狙いが分かりやすい。

意外だな、アンタ、そんなに弱かったのか」

 

「んだととぅ!?」

 

「隙だらけだぜ!」

 

左腕の雪羅をクロー形態で振るう。

狙うは右腕。

前回は暴発に巻き込まれて吹っ飛ばされたようだが今度は逃がす気はない。

斬りおとす、今度こそ確実に。

 

ガギィィィッ!

 

だが、間一髪で防がれる。

 

「…氷?

簪が作り出すものに比べれば随分と脆いな。

…と、なれば…」

 

眼下に見えたのは、見覚えのある機体だった。

ギリシャ製第三世代機『コールド・ブラッド』。

 

「ま、間に合った…っす…」

 

やはり、間違いないようだ。

ギリシャ国家代表候補。

 

「フォルテ・サファイア先輩、どうしました?」

 

周囲を見れば俺と彼女の周囲は巨大な氷のドームに閉じ込められているようだった。

 

「『どうしました』じゃないっすよ!

なんで…なんで試合終わってまで戦ってんすか!?

それも競技用リミッターを解除させてまで!

こんなの…本気で殺し合いをしているみたいじゃないっすか!?」

 

ああ、そうか。

今回の件を知っているのは限られた人間だけだ。

ケイシー先輩と普段からよくつるんでいるサファイア先輩には通告できないとされていたっけか。

 

「先日、夜遅くに外出していたら襲撃されましてね。

撃退しましたが、仕留めそこないましてね。

だが、その襲撃者は銃が暴発し、右手を喪失。

現場に証拠となる『指』を落としていったんですよ。

そしてソイツのDNA情報と指紋がケイシー先輩と一致した、というわけです」

 

「嘘っすよ…!」

 

「真実ですよ、DNA解析情報は俺の知人が預かってましてね。

箱を開けてみれば、米国から次々にコアを盗み出しているコソ泥とも一致したわけです。

んで、国際IS委員会現会長から彼女の拿捕を指示されているんですよ。

出来ればば穏便に確保しておきたいところでしたが荒っぽい手段に出たものですから」

 

荒っぽくなっているのは俺とて同じだが…とびかかる火の粉は振り払っておくべきだと思う。

 

「させないっすよ!

ダリルを逮捕なんてさせないっすよ!

ウチはそんな話信じないっす!」

 

「悪いけど、これ以上は話をしている時間が惜しいんだ。

この話はまた後でね」

 

龍咬による射撃で氷壁をブチ抜き、風穴から外へと飛び出す。

今まで俺たちを閉じ込めていた氷を見てみる。

やはりこれだけ巨大な質量を浮遊させることは出来ないようで、大樹のように地面から伸びている。

 

「国家代表候補生ってのも頷けるな。

一瞬でここまで凍らせるとはな…。

関心するのは後回しだ、今はアイツを追うか」

 

周囲では教師部隊の裏切り者と、専用機所有者達の戦いが始まっている。

黒翼天のサポートも入り、状況は好転を始めている。

既に裏切り者の半分が地面や壁面にめり込んだり、氷漬けになっている。

 

「こちら織斑、管制室、状況の確認を願いたい」

 

『管制室だ、現在は教師部隊の半数が反乱を起こしている。

それと都合の悪いことが重なっているようでな。

最大望遠での映像を送る』

 

コンソールが開く。

そこに映し出されたのは合計10ものISだった。

 

「ラファールに打鉄…それにこの『撃滅天使』のエンブレムは…」

 

『先日の連中のメンバーのお仲間だろう。

正確に言えば、国際犯罪シンジケートの一つだ。

ISを奪い、あちこちでテロを起こしているような輩どもだ。

なお、組織名は『凜天使』だ』

 

アホ臭ぇ組織名だな…。

何が『凜天使』だよ、お前が掲げているのは『撃滅天使』だろう。

 

「で、その何某(なにがし)がこの学園に接近している理由は?

どうせ俺を引き渡云々言っているんだろうけど」

 

『それだけではない、学園に配備されているISコアの引き渡しも要求してきている。

すべてのISは我々が管理すべき、だとか言っていてな』

 

その方法がテロかよ。

 

「先日も思ったけど、頭のネジが飛んでるんじゃないのか?

目的が手段を正当化するとは思えないけどな」

 

『それについては私も同感だ。

だが、教師部隊の裏切り者を片づけるのにも手間取っている。

さらにはダリル・ケイシーはすでに姿を消している。

この状態ではあのテロ組織に対抗する人員が』

 

ああ、それなら問題は無い。

暴れたいと叫んでいるやつが…此処に居るんだよ!

 

 

 

Chifuyu View

 

モニターには例のテロ組織が映っている。

しかも目的はこの学園に配備されている全てのISコア、そして私の弟の命だ。

頭が痛くなってくる。

 

『じゃあ、私たちも出向く?』

 

「ああ、そうすると…」

 

『待って千冬!』

 

「何だ、出向けと言ったり待てと言ったり…」

 

モニターに視線を向ける。

一夏が身にまとっていた輝夜が姿を消す。

鎧を自ら剥ぎ取った一夏が落下していく。

 

「あのバカ、何を考えて」

 

『冥闇に終焉を齎せ』

 

その声はモニター越しに聞こえてきた筈だった。

 

『昏き翼よ!』

 

なのに…何故、耳元で囁かれるようにして聞こえてくるんだ…!?

 

モニターには…黒い雷と…赤黒い闇があふれ出す龍がそこに君臨していた。

アリーナにて散開していた龍たちが一気に教師部隊を鎮圧する。

アイツ…今の今まで本気を出していなかったのか…!

 

「来い、暮桜!」

 

私も一瞬で相棒を身にまとう。

腰の刀を引き抜き、管制室の外へ、アリーナへと飛翔した。

 

 

 

通路を駆け抜け、グラウンドへと飛び込む。

 

「…ッ!」

 

あの時とは違う、地獄絵図だった。

専用機所有者は一人残らず無事だった。

教師部隊も、だ。

だが…裏切り者には容赦などなかった。

 

両手両足を食いちぎられた者。

腰から上下に体を両断された者。

刀剣にて壁面に磔刑された者。

腹部に風穴が空いた者。

全身を大火傷し、黒焦げになっている者。

その全員が重症ではあるが、殺してはいない。

しかもご丁寧にコアを機体から抜き取っているようだ。

だが、コアはどこに持ち去った…?

 

「何を考えているんだ…黒翼天(アイツ)は…!」

 

その当人はすでにアリーナに居ない。

あのテロリスト共の場所に向かったのか…!?

 

「専用機所有者、避難した生徒達の安否を確認しろ。

教師部隊は裏切り者を捕縛しろ。

治療後はすべてのメンバーを尋問し情報を吐き出させろ、その後は政府に身柄を引き渡す!」

 

とっとと指示を下し私は上空へと飛翔する。

此処までアイツは手を下した。

嫌な予感がしてならなかった。

 

「場所は…此処から20キロ東か…まったく、面倒をかけさせる弟だ…!」

 

『そんな弟君でも大切に思ってるくせに』

 

喧しい!

 

 

 

Kanzashi View

 

私達が教師部隊を相手に苦戦していた。

専用機と量産機、そして機体の世代差。

それを理由に慢心していたわけじゃなかった。

でも、教師部隊の裏切り者はとても強かった。

それほどまでに強かった。

だから、一夏がよこしてくれた龍達のおかげで劣勢においかまれることはなかった。

だけど…一瞬だった。

 

狂乱したのではないのかと思えるほどに急にサポートに徹していた龍達が暴れだし…この地獄絵図を作り出す。

シールドを無視して搭乗者への直接攻撃を始める。

ズタズタに引き裂き、鉤爪で抉り、翼で切り刻み、咢で咬み裂き、刃が暴風雨の如く襲い貫く。

そして目の前での落雷。

ものの2秒で、教師舞台の裏切り者は粛清された。

圧倒的な蹂躙によって…。

 

「手強かった、それは認めるわ…。

だけど、コレって…」

 

「見境が無いにも程がある…」

 

アリーナの中央には氷によって作られた大樹。

その中は空洞になっているようで、見ればフォルテ先輩が泣き崩れていた。

 

「簪、何が起きたの…?」

 

「一夏は知ってたの…夜襲を受けた際、それを行ったのが誰なのか。

そして、それがケイシー先輩だということも…」

 

けど、私達にはそれを黙っていた。

多分、彼女を捕まえようとしていたのかもしれない。

それでも今回はそれが出来なかった。

この教師部隊の反乱によって。

 

「皆、思うところはあるかもしれないけど、今は手を動かして。

教師部隊の裏切り者を拘束、応急処置をしてから連行するわよ。

そうでもしないと…」

 

お姉ちゃんがテキパキと指示を下していく。

その手に蒼流旋を握って。

そしてその穂先を上空に向ける。

 

そこには

 

「次のお客さんが来るわよ!」

 

「まったく、私達はつくづくヤツに縁が在るようだな!」

 

私の隣でマドカが祈星を連結させ、巨剣へと形態を変える。

私も黎明を握りなおす。

薙刀形態から大剣形態へと。

 

「私も、そう思う」

 

私達の視線の先には新たな無人機が姿を現していた。

最初はクラス対抗戦で、その次には学園祭で、更にはCBFで襲撃をしてきた無人機。

その更なる発展機、そう直感する。

 

「これは…今まで以上に苦戦させられそうだね」

 

「ですわね、今まで以上の強さを感じますわ」

 

シャルロットとセシリアも銃口を向けども、その引き金を引かない。

そこに搭乗者などいない、それを理解していても、威圧されている。

 

「警戒しろ、コイツ…尋常ではない…!」

 

「何なのよ、コイツは…!」

 

鈴も、ラウラもかすかに手が震えている。

 

「来るわよ!迎撃開始!」

 

 




復讐の始まり

それは二年前から

だが、本当の意志は…

次回
IS 漆黒の雷龍
『煌翼冥天 ~ 壊心 ~』

IS計画は、終わりに近づいている

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