IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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煌翼冥天 ~ 龍狗 ~

Ichika View

 

順番がめぐってくるのは早く…いや、俺がいつもの面々を鍛えすぎた所為でもあるのだが、もう俺の順番が来た。

 

「一夏、もう順番だからピットに来てほしいって千冬さんが言ってたよ」

 

「ああ、判った」

 

控室で試合結果を見ていた所に簪がわざわざ呼びに来てくれた。

その眼は妙に期待が込められていた。

多分、この後の俺の試合だが、俺が勝つことに期待を込めているらしい。

その期待を裏切らないように頑張らなければ。

 

「じゃぁ、そろそろ行こうか」

 

「うん」

 

「頑張ってね一夏くん♡」

 

楯無さんからの投げキッスを

 

「………」

 

首を傾けて躱した。

 

「一夏君!?」

 

「いや、何となく」

 

だって後々が面倒臭い事になりそうだったんだから仕方ないだろう。

なお、これは予想ではなく確信だ。

 

「お兄さぁぁ~~~~~ん!」

 

廊下に出たところで元気のいい声と、騒がしい足音が聞こえてくる。

そしてこの呼び方をするような人間は俺の記憶の中にて該当するのは一人のみ。

メルクだ。

視線を向けると

 

どかぁっ!

 

ぶつかったのかと思うような勢いで飛びついてきた。

メルクの細い両手は俺の背中に回され、しっかりと抱きついているかのようだ。

おいおい、簪の目の前なんだが。

 

「私!勝てました!」

 

「ああ、控室でモニターで見てた。

よく頑張ったな」

 

「はい!

機体も第二形態移行(セカンドシフト)して、コアの声も聞こえるようになったんです!」

 

マジかよ。

聞いた話ではあるものの、簪、ラウラ、千冬姉もコアの声が聞こえるとかどうとか言ってたな。

俺だけではないみたいだな。

 

「それで、機体の銘は?

今後は何と呼ぶべきだ?」

 

「『Tempesuta:Lightning』です!」

 

雷光(Lightning)、か。

これまたずいぶんとスピードが加速されていそうだな。

いや、実際に加速が施されていたわけだが。

モニター越しでもわかるほどの加速具合だった。

第三世代機相当なのは理解できるが、その中でも頭一つ飛び出している。

 

『私達には届かないけどね』

 

輝夜がクスクスと笑いながら答える。

そうかもしれない。

俺たちにはまだ届かない。

だが…届かせないさ、そうでなければ兄貴分としてのメンツが丸潰れになっちまう。

 

「そろそろ離せっての、俺はこれから試合なんだ」

 

「は、はい!

頑張ってくださいね!応援してますから!」

 

じゃあ、その応援にも応えておかないとな。

 

「沢山期待を背負っちゃってるね」

 

「そうだな、ますます張り切らないといけないな、俺は」

 

通路の向こう側からは鈴にラウラにマドカも手を振るってるのが見えた。

ああ、こりゃぁ負けられないな。

そして俺の隣では簪がクスクスと笑っている。

簪も同様の期待を俺に向けてくれているようだな。

『勝つ』以外の選択肢が無いな。

いや…『圧勝』しておかないと。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい、一夏」

 

腰に携えていた刀とナイフを簪に預け、俺はピットの方向へと足を向けた。

 

『奴からは嫌な匂いがする。

情けを射与えるな、容赦も手加減もするな。

一瞬で斬り伏せろ』

 

警戒すべきなのは承知している。

だが、決定的な証拠が無いんだ。

一瞬で片付けようとすれば、それは相手の面目を丸つぶれにさせちまうだけだろう。

 

『だからどうした』

 

「証拠が無いっていうのなら…本人に出させりゃいいんだよ。

試合で装甲が捥げ落ちた、なんてよくある話だからな」

 

『…お前がそれを狙えると?』

 

「…考えはある、IS独自の性能を利用して、な」

 

 

Chifuyu View

 

ピットの中を見渡す。

今は静寂に包まれている。

つい先ほどはハースがやたらと騒いでいたから殊更に静かに感じてしまう。

 

第二形態移行(セカンドシフト)、か。

あの機体は開発され、ハースが搭乗するようになってからまだ半年にもなっていないが、そこまでの経験値を得ていたとはな」

 

いや、違う。

一夏が育てたのだろう。

あの日、私はあいつのことを『多くの実りをもたらす為の水であり、土でもある』と例えた。

だがその直後に『誰もが見上げる太陽』なのだとも例えた。

今回のそれがいい例だろう。

一夏とふれあい、理解しあうことで誰もが育て上げられ、成長し、そしてその結果を実らせる。

そしてそれが思った以上に大きな実りであることも少なくはない。

 

「む、来たか」

 

「ああ、そろそろ試合時間だからな」

 

考えを巡らせている最中、その張本人が姿を現す。

今は腰の刀とナイフは姿がない。

それを察するに簪に預けているのだろう。

 

「誰もがお前に近づいているのかもしれんな」

 

「追いつかせないさ、俺はただただ歩み続けなけりゃならないんだからな。

話は変わるが」

 

急に空気が張り詰める。

それを感じ、私もそれ相応の視線を向ける。

 

「あの指の鑑定結果が出た。

俺たちが知っている人間だ、嫌な匂いがしていたけど、その情報も頼りになっていたみたいだ」

 

「…そうか、後々に監視を施しておく」

 

「監視程度で足りないから事を起こしているんだろう。

それも何度も、だ」

 

ああ、そうだな。

ある大国の軍からはほとんどのコアが奪われ、主要各国からもコアが一つずつ盗まれている。

それも、先日、一夏を襲撃した女の手によって。

そしてその女が所属する組織によって。

 

「背後にいる組織は何なんだ?

何故俺を付け狙う?

それとも、俺に関係する何かがあるのか?」

 

「それは私が知りたいくらいだ」

 

言葉の通りだ。

何故奴らは一夏を付け狙うのかが判らない。

そして、あの二人…。

私は奴らを知っている。

もしかしたら、マドカも…。

だが、一夏だけは知らない。

知られるわけにはいかない、秘匿し続けなければならない。

 

「さあ、そろそろ試合時間だ。

行って来い」

 

「わかったよ」

 

 

 

 

Ichika View

 

「織斑一夏。

輝夜、出撃する」

 

カタパルトから射出された直後、背後の翼を広げる。

指定された位置に到達すると同時に両腰の刀を抜刀する。

白刀『雪片弐型』と、黒刀『天龍神』を。

 

前方に視線を向ける。

その先にはダリル・ケイシー先輩の姿。

大型のダブルセイバー『バトル・ブレード』を担いでいる。

そして相変わらずの嫌な視線だ。

 

「………」

 

「その視線、何とかなりませんか?

そういった視線を向けられるようなことをしでかした覚えは無いんですけど」

 

「うっせぇよ!」

 

『やる気』どころか『殺る気』のほうが充分に入っているようだ。

上等じゃねぇか。

目に宿っているものも見える。

『憎悪』『憤怒』『殺意』

 

…俺がアンタに何をした?

身に覚えがないんだが、それでも飛び交う火の粉は振り払っておくべきだろう。

 

ヴィ―――!

 

試合会押しのブザーが鳴り響く。

 

「おおおおおぉぉぉぉらあああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」

 

猟犬がその腕に握るダブルセイバーを振り下ろす。

 

一閃は横薙ぎに。

バックステップで回避。

 

刃を返すかと思えば柄の反対側に取り付けられた刃が襲ってくる。

それは身を反らして回避。

だが横薙ぎに振るわれたそれが軌道を変え、地面に突き刺さる。

 

「ふきとべ!」

 

それを支点にケイシー先輩が跳躍、鉤爪が搭載された脚部装甲による蹴りを放ってくる。

 

「お生憎ですが断りますよ」

 

これは跳躍してから

 

ドゴォッ!

 

「ぐはっ!?」

 

彼女の胸板を踏みつけて後方へと回り込む。

そして着地。

 

「『災厄招雷』」

 

背後の翼が鳴動する。

空を駆けろ、と。

雷の如く駆け廻れ、と。

 

「お得意の加速能力か?

だがな…発動して尚その場を動かないのはどういうつもりだぁっ!!!!」

 

猟犬が一直線に突っ込んでくる。

その手には大型のバトルブレード。

俺たちよりも長く授業を受けているからか、はたまた故国での特訓の賜物か、その動きには無駄が見当たらない。

 

「『正攻法で挑むつもりが無い』、それだけだ」

 

 

 

Madoka View

 

兄さんが両手の刀を鞘に戻し、左手の『雪羅』からレーザーブレードをクロー形態へと出力させる。

ただそれだけでケイシー先輩の攻撃を凌ぎ続けている。

 

「お兄さん、どうしたんでしょうか…?

あの加速能力は確かに使っている筈なのに、なぜ飛行もしないで捌くだけに集中しているんでしょうか?」

 

「兄さんには何か考えがあるんだと思う、メルク

でなければ、ただ捌くだけで終わらせる事はないはずだ」

 

だけど、こうやって見ている間だけでもケイシー先輩の攻撃を受け流し、時には捌いている。

 

「…なんか嫌なことを思い出すわぁ…」

 

私の隣で試合を見ている鈴が顔をしかめている。

何か嫌なことを思い出すかのように。

 

「どうしたの?」

 

「兄貴と模擬戦をしたことは幾度もあるけどさ…時にえげつない事をしでかしてくるのよね…」

 

兄さんは輝夜の能力を把握し切れているとはまだ言えないらしい。

だからこそ、殆どの生徒相手には、決して射撃兵装を使わず、近接兵装だけに絞っている。

それでも兄さんに近接戦闘を挑んで勝利できる同級生は誰一人として居ない。

射撃で兄さんに挑んでも、その機動性の高さで余裕を以て回避する。

でも、今の兄さんは違う。

あまりにも異質だ。

 

「一夏、何か企ててる…?」

 

かもしれない…。

そして見ているその最中

 

ドガッシャァァァァァァンッッ!!!!

 

ヘル・ハウンドがアリーナの壁面に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

Ichika View

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!!!!」

 

ヘル・ハウンドお得意のバトル・ブレードが幾度も襲ってくる。

右下段からの逆袈裟、刺突、大上段、返す刃で振り上げ。

 

ギャギギィィンッッ!

 

「驚きましたね、IS同士での戦闘では射撃攻撃に重きが置かれている現代でも、ここまで近接戦闘を鍛えている人がいるとは」

 

「テメェごときとは経験が違うんだよぉっ!

テメェのような男ごときとはなぁっ!」

 

「へぇ…その思想と背後がなければもう少し尊敬出来たかもしれなかったけど…残念だよ」

 

「クタバレぇっ!」

 

一瞬、距離を開けてからの瞬時加速(イグニッション・ブースト)で突っ込んでくる。

だけど

 

もう(・・)遅い。」

 

襲ってくる刃を再び回避。

剣捌きを教えたメルクなら、即座に取って返して背後から斬りかかってくるだろう。

だが

 

ドガッシャァァァァァァンッッ!!!!

 

後方70mにて派手な音が響き渡った。

音源は、アリーナの壁面にめり込んだヘル・ハウンドだ。

 

もう(・・)遅い、そう言っただろう」

 

『ダリル・ケイシー 意識消失

勝者 織斑一夏』

 

そのアナウンスが聞こえてから俺は体を彼女の方に向けた。

完全に白目を剥いている、そう思ったが…。

 

「もう意識を取り戻したのか」

 

「テメェ…ヘル・ハウンドに何をしやがった…!?」

 

「何もしてないさ」

 

そう、機体には(・・・・)何もしていない。

いずれのISもが持ち合わせている基本性能の隙を突いただけに過ぎないのだから。

 

「並の銃弾や砲弾ではISのシールドによって防がれる。

光学兵装も同じだ。

俺はISを相手に生身で戦う訓練もしているが、まだ完成には至っていない。

なにぶん、シールドや絶対防御が邪魔で開き切った場所では対抗できないからな。

だけど、シールドは絶対じゃないことがよく判っただろう?」

 

右腕の龍の咢を開いて見せる。

その咢に並ぶ牙を紫電が…雷が迸り、バチバチと音を立てている。

 

「『シールドで防ぐ必要が無い』、ISがそう判断する極微弱なものであればどうだ?」

 

「なっ!?」

 

「派手に見せて鳴り響くだけが雷じゃない、非常に微弱な電流に変え、ISを通して感電させ続けていたんだよ、アンタをな。

今のアンタは、体中の『腱』がその微弱な電流に耐えられずに動かない状態なんだよ。

拘束時間は…精々3分ほどだろう。

それまでは、首から下は動かねぇよ」

 

『…フン…』

 

俺もそうだが、黒翼天もケイシー先輩に良い印象を持っていないようだった。

 

「『兵は拙速を貴ぶ』、戦いとは楽しむものではなく、手早く終わらせたほうが利己的だということですよ。

獲物の前で舌なめずりなど、二流…いや、ド三流のやることだ」

 

敬語など使わず、タメ口で言い切っておいた。

 

瞬間、アラームが鳴り響く。

ロックオン警報、それも背後から。

 

「堕ちろォォォォォォッッッ!!!!!!」

 

ハイパーセンサーにより360°にまで広がった視界の中で、それが見えた。

グレネードランチャー。

しかもIS用に作り直された巨大なものだった。

砲撃音と同時に砲弾が迫ってくる。

 

ギィンッ!

 

砲弾が空中で真っ二つに割れ、俺の右後方と左後の二か所にてで二つに割れた砲弾が

 

ドゴゴォォンッッ!

 

同時に爆発した。

 

「そんな…嘘だ…!」

 

「試合が終わった後、背後から選手を撃つ、それがアンタのやり方か?

それともアンタの国の方針か?

それとも…アンタが所属する組織のやり方か?

いずれにしても…」

 

鞘に納めた刀を再び抜刀する。

そして…2000の刃を顕現する。

 

「ルールなんてものに縛られたくはないってことか?

はたまた…他者を屈服させたいだけか?」

 

ウォロー、レイシオ、ペイシオが姿を現す。

観客席を覆う非常用シャッターが次々と降りる。

ピットからは教師部隊、並びにアースガルズ、白銀の福音が突入し、各自近くに浮遊する刃を掴み取る。

 

「絶影流…『幻月・双華』!」

 

ギギィンッ!

 

ヘル・ハウンドの右腕装甲を斬り砕き、その内部が露になる。

加減はした、間合いも見切った。

それでもシールド展開速度を上回ったのか、右腕の皮膚をわずかに切り裂いていた。

そしてそこから覗くのは

 

「…やっぱり、機械義肢だったか」

 

そこからはかすかにスパークが見えていた。

人間のものとは明らかに違っていた。

機械そのものだ。

 

「いろいろと詳しい話を聞かせてもらおうか」

 

あの日の襲撃も含めて、な。




先手を取る

そのつもりで刃を振るう

だが、それを許さぬ者も居た

次回
IS 漆黒の雷龍
『煌翼冥天 ~ 言訳 ~』

蛆虫が他にも居た、と。

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