IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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煌翼冥天 ~ 星風 ~

Ichika View

 

ラウラとセシリアのふたりによる雪辱戦は、再びラウラに軍配が上がった。

さて、此処からはBブロックに移ることになる。

こちらの第一試合だが、偶然か運命の悪戯か…たぶん前者だろうけど、こっちもまた雪辱戦になってしまっている。

メルクVSシャルロットの試合だ。

 

「一夏君は、どっちが勝つと思う?」

 

いつの間にやら楯無さんは、俺のいる控え室に入り込んでいるし…相変わらず猫の如く自由奔放だな、この人は。

今になって始まった事でもないからか、俺もそこまで大きなリアクションはしない。

 

「そうですねぇ、やはりメルクでしょうね」

 

「いつものシスコン振りを見せているのかしら?」

 

うっさいなぁ、そんなんじゃねぇよ。

 

「射撃攻撃に関してはあまり世話を見ることができなかったのは確かですけど、近接戦闘ならであれば学園の中でも上位に入っていると思いますよ。

それにここ最近、訓練をしていたら、大概1-3の生徒も訓練に付き合っているんです」

 

「人気者なのねぇ、メルクちゃんは」

 

「あの風貌も性格も、そして専用機所有者というスペックによるものですがね」

 

だからメルクは1-3の中でも人気者だ。

その人気者振りはマスコットとも見て取れる。

身長も小さいから、それがことさらに表に出ているんだろうけどさ。

 

「楯無さんは、シャルロットの勝利に賭けますか?」

 

「コラコラ、今回はトトは禁止って言ってるでしょうに」

 

おっと、そうだったな。

この学園では、金銭の代わりに食券が賭けに使われることが多いようだが。

一学期のクラス対抗戦では、半年間食堂のデザートが無料でいただけるデザートフリーパスが賭けられていたっけか。

結果だけでいえば有耶無耶になっちまってたけどさ。

二学期最初のトーナメントでも九月限定のフリーパスだ。

そして今回のこのトーナメントでは、専用機所有者は中間考査の免除だ。

学年の中では俺もそこそこの成績は残しているが、楽ができるのなら、それに縋り付きたい気分だね。

また妙なことが起きて有耶無耶になったらため息の一つや二つはこぼすかもしれないけど。

 

「さあ、そろそろ試合開始ね」

 

「自分の控室で見たらどうですか?」

 

「あら、いいじゃない、早弁できるんだもの」

 

「…。…?…!?…!!」

 

後方に視線を送ると、控室に置いておいたクーラーボックスを楯無さんが勝手に開いて、弁当箱をあさっていた。

それらは全て冷めたりしない保温機能がつけられている。

いや、それは別にいいだろう。

そしてどれがだれの弁当箱になっているのかも一目瞭然になっている。

各自、好みのマークが刻まれている弁当箱だからだ。

千冬姉:刀

マドカ:蝶

簪:雪の結晶

楯無さん:扇子

ラウラ:ウサギ

クロエ:時計

メルク:星

そんな感じの好みのプリントをしている。

いや、それも今はいい。

 

「あったあった♪」

 

さっそく自分の弁当箱を発見したらしく、手早くテーブルの上に移動させ

 

「いただきまぁす♪」

 

「はい没収」

 

早速取り上げた。

 

「ちょっ!一夏君!?」

 

「さっきから他人の控室でどんだけ好き勝手やりゃあ気が済むんですか?

まがりなりにも『生徒会長』を名乗っているんですから、他の生徒の模範になるような事をしてもらえませんかねぇ?」

 

「だ、だって今日は朝は少なめにしてたのよ!?

今になってから急にお腹が空いたんだもの!

早弁したっていいでしょう!?」

 

「言い訳にもなってないでしょう。

それに古くから言いますよね、『空腹は最大の調味料』だと。

昼休憩時間まで耐えてから食事をしたほうがよっぽどおいしくいただけるかと思いますよ」

 

「うぐぐぐ…!」

 

無駄な口論をしている間にも楯無さんは悔しそうに歯噛みをしている。

それを背中で無視しながら俺がランチジャーをクーラーボックスに戻す。

まったく、無駄な時間を使わせるなっつーの。

 

「早弁は進められませんが、もしも続けようものなら…」

 

「続けよう、ものなら…どうなるの?」

 

それは勿論。

 

ピーマンの肉詰め(コックに歯向かうと餓死させるぞ)

 

「ひぅっ!?」

 

ここまで言っておけば大丈夫だろうか。

それぞれに別々のオーダーが入ったりしているが、時には含まれていないメニューを用意したりすることもあった。

それらを使い、各自が嫌いなメニューも俺は把握してしまっている。

今後の課題は、どうやって各自が嫌いとしているメニューを克服できるか、だな。

その研究をするためにも中間考査なんてやってられっか。

 

「お、そろそろ試合が始まるみたいですね」

 

「そ、そうね」

 

楯無さんの腹の虫の悲鳴をBGMにしながら俺はモニターに目を向けた。

正にその二人が試合を開始する直前だった。

 

 

 

 

Melk View

 

「メルク・ハース!

テンペスタ・ミーティオ、行きます!」

 

カタパルトに脚部装甲を乗せた直後に発進する。

幾度もなく繰り返したその動作にもすっかり慣れてしまっていた。

指定された場所にて静止状態になり、私は両腰に拡張領域に収納された柄を抜刀する。

途端にレーザーが出力され、刃を構成する。

出力を調整し、今ではレイピアから、私好みの刀剣の形状へと切り替わっていた。

お兄さんが好んで使っている刀と酷似した形状へと。

 

「こんにちは、シャルロットさん」

 

「こうやって対戦するのは久しぶりだよね」

 

「ですね、でもまだあれから三か月しかたってないですよ」

 

思い出すのは六月でした。

お兄さんとタッグを組んでトーナメントを勝ち抜いていったその先、決勝戦。

お互いに決めた相手と1対1での対戦となり、お兄さんはラウラさんを、私はシャルロットさんと真正面からぶつかった。

その時には勝利できましたけど、お互いに技量を磨いてきたから、油断は出来ないです。

 

「あの時には酷い思いをさせられたからね、雪辱戦だよ」

 

「私だって…簡単には負けてあげませんよ!」

 

右手の剣はそのままに、左手に握る刀を逆手に握りなおす。

一度、大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐き出す。

体にかろうじて残っていた緊張も解れていくのが微かに感じられる。

 

「織斑一夏の一番弟子!

絶影流二代目!メルク・ハース!

最速で…参ります!」

 

「そのセリフもずいぶんとキマってきてるよね…」

 

別にいいじゃないですか!

 

その直後に試合開始の合図。

私はCBFの時にも見せた最速スピードへと一気に加速する。

シャルロットさんは両手にアサルトライフルを展開して構えてくる。

でも、遅い。

 

ドガァンッ!

 

「ぐっ!?」

 

「もう一発!」

 

左手の刀を順手に握り直し、追撃の刺突『填月』を繰り出した。

こちらはギリギリで回避される。

 

「相変わらず…いや、あの時以上に速い!」

 

「喋ってる暇は…ないですよ!」

 

高速切替(ラピッド・スイッチ)にて私も二連装レーザーライフル(ファルコン)を素早く展開し、牽制射撃を繰り出す。

シャルロットさんの気体である『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』は高機動仕様。

それだけにある程度は私の動きを予測してきているけれど、体が反応しきれてないようです。

 

「そこに私の勝機があります!『舞星』!」

 

スラスターに内蔵されているブーメランを一斉射出!

接近を封じると同時に射撃攻撃をこれでガードします!

 

「僕も負けないよ!『霞星』!」

 

シャルロットさんの気体の脚部装甲が姿を変える。

あれは、私の舞星と同様に篠ノ之博士からいただいた後付武装(イコライザ)

臨海学校が終わってからはお兄さんから蹴り技の伝授もされていたはず。

でも、私は一番弟子、絶対に負けられません!

 

「高機動は、メルクだけの専売特許じゃないんだよ!」

 

「それは、重々承知しています!」

 

二挺のライフルを連結させ、久々に使うその武装を展開する。

 

「げっ!?」

 

「いっ…けええぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!」

 

ドォォォォォォンッッ!!!!

 

夏休みの鈴さんとの対戦以降では使いませんでしたけど、相変わらずの威力に自分でも驚かされます。

でも、今回は驚いている暇なんてない。

 

「…躱された…!」

 

「流石に二度も受ける気はないからね!」

 

ドガガガガガガガガガガガガガッッ!

 

真上から実体弾が雨のごとく落ちてくる。

舞星を高速旋回させ、その大半を防御。

防ぎきれる数ではないと判断、即座にその場を離れる。

 

「流石ですね、その弾幕を狙った射撃は」

 

「まあね、メルクこそそのスピードは凄いと思うよ。

流石はイタリア謹製の第三世代機なだけはあるね!

でも、リヴァイブが第二世代機だからって甘く見ないでよね!」

 

「そんなつもりは無いですよ!」

 

レイヴンを収納し、再びホークを抜刀。

近接戦闘は私の十八番になりつつある。

お兄さん直伝の剣術で…!

 

「おっと、僕は近接戦闘はお断りだよ!」

 

シャルロットさんは更にアサルトライフルを左手にも構え、銃撃を繰り返す。

アリーナの広さを生かし、私は懸命に躱す。

躱しきれないものは、舞星ではじいてダメージを避ける。

流石に篠ノ之博士謹製の装備なだけはある。

第二世代テンペスタと同じくらいの機動性を有した装備、そしてそれを使いこなすに至っているシャルロットさんも流石です。

タッグマッチトーナメントの時以上に…はるかに強い。

簡単には近寄らせてくれないのなら…私も射撃攻撃へと切り替える!

 

「負けません、絶対に!」

 

『そうだ、負けるな』

 

誰かの声が聞こえた。

それも、すぐ近くから。

 

「誰、ですか…?」

 

『ボサッとするな、相手は目の前だぞ』

 

「もらったぁっ!」

 

至近距離にシャルロットさんの姿が迫っていた。

左腕の物理シールドに内蔵されている杭状武装、楯殺し(シールド・ピアース)

 

「絶影流…『風月(かざつき)』!」

 

ホークで楯殺し(シールドピアース)の軌道を逸らす。

僅かに反応が遅れた。

シールドエネルギーが11パーセント削られる。

 

ドガァンッ!

 

高速の回し蹴りがシャルロットさんに直撃する。

 

先手を奪い、後手を与えない。

それがお兄さんが教えてくれた絶影流の極意。

そして、先手を奪われたとしても、後の先を読む!

それもお兄さんが教えてくれたこと!

 

「もう休ませませんよ!奥伝!『絶影(ぜつえい)』!」

 

接近してきてくれたのはありがたい話。

でも、もう逃がさない!

 

「く、この!」

 

「遅い!」

 

右腕にブラッドスライサー、それを『欠月(かけづき)』で蹴り飛ばす。

左腕のアサルトライフル、ヴェントが向けられる。

それすら斬りおとす。

 

蹴りを放ってくる。

私も足を振るい、受け止め、そして弾く。

その際に生じた隙を、舞星を割り込ませることでフォローする。

そして、私自身が放つ斬撃と蹴撃の速度を加速させる。

もっと、もっと速く。

お兄さんのように、あの速さへ至れたらと願い続けた。

 

『なら、届かせてやろう。

流石にあの速さには届かんが、近づく事は出来るだろう』

 

お願いします。

私だって、もっと出来るようになりたいんです!

 

『出来る、出来ない、は関係ない。

やるしかないなら、やるだけだ』

 

ですね、やって見せます!

 

『合格だ。

前だけ見ていろ、背中は守る』

 

刹那、舞星が支持を出していないにもかかわらずに勝手に動き出す。

その全てがシャルロットさんに叩き込まれ、大きく距離を離す。

 

『お前は慌てやすいからな、落ち着ける距離が必要だろう』

 

「み、耳が痛いです」

 

『餞別だ、受け取れ』

 

 

 

Charlotte View

 

次々にブーメランが直撃し、吹き飛ばされアリーナの壁面に叩き付けられた。

 

「いっつ…こんな攻撃パターン、今までなかったのに…!?」

 

前方に視線を向けると、信じられないことが起きていた。

メルクの機体『テンペスタ・ミーティオ』が変化を起こしていた。

 

「嘘…!?第二形態移行(セカンド・シフト)!?」

 

信じられない!?

だって、あれは…何年も搭乗を繰り返すことで発生する可能性があると言われているものなのに!

メルクはあの機体を6月から乗り始めた。

今はもう10月。

たった4か月で発生しうるものじゃないのに!

いや、例外は居た。

一夏だ。

一夏も機体を搭乗を始めたのは四月からだった。

なのに、形態移行を経験していた。

思えば、彼を中心にして何もかもが彩りを変えていっていた。

そして…僕の世界も変えていった。

僕の過去のことを知っても、平然と僕の心に踏み入って、景色を変えていった。

いつも彼の周りにいるみんなは、僕なんかよりもはるかに大きな影響受けているのかもしれない。

 

「悔しいなぁ…」

 

両手に握っているブレードは圧し折れ、アサルトライフルもその銃身を両断されている。

それを投げ捨て、新しいブレードを展開する。

 

ブラッドスライサーの倍の長さの刀身だった。

銘は、『ローラン』

 

「僕も、負けられないから」

 

前方を見据える。

白と銀に染められ直したメルクの両手には、剣が握られていた。

見慣れない、新しい剣が。

 

 

 

Melk View

 

両手のブレード『ホーク』が空中に浮かび、展開した覚えもない『ファルコン』と合体する。

でも、二つがそれぞれ同じ姿にはならなかった。

右手のそれは、銀と赤に染まった銃剣に。

左手のそれは、鏡のような銀に染まった銃剣へと。

でも、それだけじゃなかった。

脚部装甲も、背中の翼も姿を変えていく。

腕部、脚部は純白へと。

背中の翼は剣と同じ銀色へと色を変え、二対四翼から三対六翼へとその数を増やしていく。

目の前にコンソールが開き、その銘が現れる。

 

IS Core No.467『The Crystal』Re:Boot

『Tempesta:Lighitning』 Ignition

 

あの大きな背中はいまだ遠く。

けれど、諦めるには近く…。

だからこそ、何度も何度も手を伸ばした。

それでも…届かなかったけれど、まだ何度でも手を伸ばせる、走っていける!

今度は、お兄さんが私に道を切り拓いてくれたように!

 

「凄いね、その姿」

 

「シャルロットさんがもっている刀だって凄いじゃありませんか。

普段は使わなかったんですか?」

 

「これ?

今日のために作ってもらったんだ、貸してあげないよ?」

 

いえ、頼んでませんから。

 

「じゃあ、決着つけようよ」

 

「望むところです」

 

右手に握る紅銀の銃剣『ブレイズエッジ』

左手に握る銀の銃剣『オーバーチュア』

その二振りを再度握り直す。

 

「織斑一夏の一番弟子!

メルク・ハース!最速で…参ります!」

 

「いいよ!受けて立つ!」

 

一瞬で加速。

今まで以上に最高速度に至るまでもが速い。

その間0.23秒。

そして、その速度も速い。

ミーティオ以上に!

 

単一仕様能力(ワンオフアビリティ)、『刹那瞬光(シーンドライヴ)』発動!」

 

更なる加速。

周囲の動きがゆっくりに見える。

その刹那、真正面から真一文字に剣を振るう。

シャルロットさんがその一撃に気付いた瞬間には、ポジションを変える。

そのまま刹那に一閃。

決して立ち止まらない。

その加速を辞めない。

視認なんてさせない。

高機動は誰よりも私の得意分野。

 

逆袈裟に振るい、上空へと打ち上げる。

打ち上げた先で、全方位から剣を振るう。

 

「行きます!」

 

最後の一発。

両手の剣を揃え、大上段に振りかぶる。

そして振りおろし

 

ドガアアァァァァァァンッッ!

 

急降下しながら地面へと叩き付けた。

 

「ふぅ…ふぅ…ふぅ…!」

 

初めて使い、なれないその速さと力に軽い眩暈を覚える。

息を大きく吸い込み、大きく吐き出す。

 

『ラファール・リヴァイブ シールドエネルギーエンプティ

勝者 メルク・ハース』

 

「…ふ…ぇ…?」

 

か、勝った?

 

「い、たたたた…また、負けちゃったか…」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「何とかね、と言うよりも…途中から姿がまるで見えてなかったんだけど…」

 

私、そんなに加速してましたか?

 

「でも、次は負けないからね!」

 

「私も、負けませんよ!絶対に!」

 

機体同士、お互いの装甲腕で握手を交わす。

これは、再戦の誓い、そして、宣戦布告です!




怒りの瞳

そのそこに宿るものは何なのか

それを見極めようとも、視線はそらされる

代わりに向けられるものは、圧倒的な殺意のみ

次回
IS 漆黒の雷龍
『煌翼冥天 ~ 狗龍 ~』

俺がアンタに何をした?

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