IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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最近急に暑くなってきましたよね。
体調を崩さないように気を付けねば…

Q.一夏君の脚力って凄いですよね。
そのうちに、『車に轢かれる』どころか、『生身で車を轢き飛ばす』のも近いのではなかろうかと思うのですが…。
P.N.『捜査一課課長』

A.『生身で車を轢き飛ばす』…。
そんな光景でを思い浮かべてしまいましたが、とてもシュールだと思います。
流石に一夏君だってそこまで人間辞めてませんってば


煌翼冥天 ~ 雫光 ~

Ichika View

 

楯無さんをアレ(神狂い)を使ってまで追っ払った後、俺は観客席へと戻った。

試合前から疲れるような事させないでくれ、まったく…。

 

「織斑君、いつもいつも走ってるね」

 

「そう思うのなら追う人間が減るように手回ししてくれないか?」

 

ウンザリしながらも丁寧に雑な回答を返す。

そして視線を声の主に視線を向けてみる。

そこに居たのは、金髪の女子生徒だった。

あれ?この人、鈴と一緒に居るのを見かけたことがあったが…名前なんて言ってたっけ?

 

「あ?もしかして私の名前忘れた?」

 

「ああ、すまん、忘れた」

 

「今度はちゃんと覚えておいてよね。

1-2のクラス代表補佐、『ティナ・ハミルトン』よ。

ちなみに鈴のルームメイトよ。

あ、もののついでに教えるとアメリカ出身の一般生徒」

 

随分と砕けた口調だが、印象は良い。

こういうところでは鈴と気が合うのかもしれんな。

アメリカ出身ねぇ…代表候補とは随分と印象が違うねぇ。

 

「いつも鈴がお世話になってるわね」

 

「お互い様だよ」

 

「話を聞いてるとすっかり餌付けされちゃってるようだけど」

 

はっはー、まんま猫だな。

今度は猫まんまでも作ってみるか?

オマケに暑いのも寒いのも苦手で、冬場は炬燵で丸くなってるくらいだしな。

 

「で、ほかのみんなと同じように妹分になっちゃってるとか聞いちゃったけど本当なの?」

 

「本当だよ、夏休みの頃からだったかな、『兄貴』って呼んでくるんだぜ?

もうすっかり定着しちまってるみたいでな」

 

名前で呼んでくれていた頃が懐かしいね、一体何がどうしてこうなった?

実妹のマドカは…まあ、いいだろう、家族なんだし。

ラウラはハルフォーフ副隊長の洗脳によって、メルクは最初から俺に『兄』のようなイメージを持っていたとか。

鈴は原因不明、クロエに至ってはラウラの真似ときている。

本当に…何がどうしてこうなった?

まあ、いまさら気にして仕方ないし、どうしようもないけどな。

 

「CBFで『お兄様』って呼んでたあの黒服の娘達って、織斑君の知り合い?」

 

「…ああ、そうだ」

 

「いろんな国の人から懐かれて、って言うか妹分が沢山出来て妹ハーレムの中心に居て幸せ者だね」

 

「不可抗力だ」

 

ハルフォーフ副隊長、次に会ったら締め上げる!

一学期のタッグマッチトーナメントでもCBFでもとっとと帰国しちまったから碌に言う事を言えなかった。

夏休みには雷落としてやったけどさ。

冬休みにも雷を落としておくべきだろうか?

 

「そうだ、最近アメリカでIS関連の動きとか知ってたりするか?」

 

「ゴメン、私は一般生徒だからそういう情報が降りてこないのよ」

 

「そっか」

 

一般生徒に情報を渡さないのは常識だわな。

どっから情報が漏れるか分かったもんじゃないし。

 

「じゃあ質問を変えよう。

『ダリル・ケイシー』についてどれだけ知ってる?」

 

「私の国の国家代表候補でしょ。

それと、ギリシャの国家代表候補であるサファイア先輩とよく一緒に居て、二人揃う事で学園の最大防御能力とも言われてて『イージス(女神の大楯)』とも言われてるわ」

 

んな肩書きなんぞに興味はない。

それこそ吹けば飛ぶような塵芥なんぞ殊更にな。

 

「俺が訊きたいのはそういう事じゃない。

あの人の人格だ、あの荒っぽさ元々なのか?

なんか、俺とは初対面の時から『敵対視』されているんだが?」

 

「あの人、男嫌いだそうよ。

サファイア先輩と一緒に居るのが多いのは、『ソッチ』の性癖だと思うわ」

 

ほほ~う、そういう性癖かい。

 

「後、出身地は知らないわよ?

交流とか全然無かったもの、プライベートでも忙しくしてるのかしらね。

それと、CBFの翌日にはアメリカに帰ってたみたいだけど、IS学園に戻ってきてからは右腕を抑えてる事が多いのよね。

怪我でもしてるのかしら?」

 

怪しまれる材料がてんこ盛りじゃねぇの。

情報提供には感謝しておこう。

まあ、右腕云々に関してはのちに確認出来るだろう。

必要とあらば今度こそ斬りおとす。

 

「でも何でこんな事を聞いてくるの?」

 

「情報収集が趣味でね、戦うことになるかもしれない相手の事はより多くの情報を先に有しておく事こそが、勝率の上昇にも繋がるんだよ」

 

「対戦では役に立ちそうにない情報に思えるけどね」

 

ティナがケラケラと笑う様子を見ながら俺はアリーナのフィールドに視線を向けた。

そろそろ、ラウラとセシリアの対戦が始まるだろう。

これはセシリアとっては一学期のタッグマッチトーナメントでの借りを返すための雪辱戦にもなるかもしれない。

油断するなよラウラ。

 

 

 

Laura View

 

「機体データ、全体的にレーゲンだった頃よりも上昇しているな。

機動性も充分、その訓練は多く費やしてきたからな、今なら…負ける気はしない」

 

対戦前に最後のデータ確認をしておいたが、良し、オールグリーンだ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ

シュヴァルツェア・リヒトー、出撃する」

 

もう何度も繰り返したカタパルトからの射出。

この瞬間がやはり快感だった。

兄上も同じことを幾度か言っていた。

自由に空を飛べる瞬間が心地いい、と。

そして兄上は既に宇宙行きの切符を手にしかけている。

きっと、私たちの誰よりも早く空の向こうへと到達するかもしれない。

 

「こうやって対戦をするために向かい合うのはあの時以来ですわね、ラウラさん」

 

「ああ、そうだな。

あの時と同じように、斬り倒していこう」

 

「蒼い雨にうたれぬようにご注意を」

 

互いに気合は充分。

やはりあの時を思い出す。

だが、今回は背中を預けるに足るタッグが居ない。

私一人での戦いだ。

 

『一人での戦い?

バカな事を言うな、背中に預けるに足るものならば此処に居るであろう』

 

「ああ、そうだったな、リヒトー。

…背を預けるぞ」

 

『楯は某に任せよ、案ずるな、一撃たりとも通しはせん。

お主は…ぞんぶんに振るえ』

 

まったく、頼りになりすぎる相棒が居ると私の立つ瀬が無くなるというものだ。

 

「ああ、任せるぞリヒトー!」

 

試合開始の合図が出される。

その瞬間に私はプラズマソードを出力。

セシリアはライフルを構える。

 

「『推して参る』!」

 

「撃ち抜きますわ!今度こそ!」

 

射撃が始まる。

前方からの直線状の射撃。

リヒトーが素早く反応し、流星によってレーザーが霧散する。

 

「ならば、コレで!」

 

ビットが射出され、空を駆け始める。

その間にもセシリアはライフルからレーザーを発射させる。

最初はどちらかのみしか動かせなかったと聞いているが、今ではそんな事は無いようだ。

 

「ビットの数は38基か…!」

 

「マドカさんにはまだまだ及びませんけれど、これが私の全力ですわ!

先ほども申しあげたとおり…撃ち抜いて見せますわよ!」

 

確かにこれは依然よりも手ごたえがある。

マドカには程遠いが、確かに…お前も強者となった。

だが!

 

「切り刻む!」

 

非固定浮遊部位から、更には肘から、合計8基のワイヤーブレードを射出する。

リヒト-が射撃攻撃から楯で防ぐ間、私は空中を駆けまわりながらワイヤーブレードと腕部プラズマソードにてビットを切り裂いていく。

 

「なんて非常識な…!」

 

「生憎、私は一人で舞っているわけではないからな!」

 

これで10基。

残るは28基か。

遠いな、だがリヒトー、お前が居れば百人力だ!

 

『無論ぞ』

 

射撃攻撃は未だに続いている。

その全てを私達は捌く。

ワイヤブレードで、そしてソードで。

私が目指す剣舞はまだ速い。

兄上や教官の如く、あの領域にまで届いて見せる!

 

「ですが、一斉攻撃ならば!」

 

私を囲むすべてのビットが砲口を向け、完全同時に射撃を繰り出してくる。

 

「む、これでは防ぎきれんか…ならば!」

 

ワイヤーブレードを伸ばす。

8本のワイヤーブレードをそれぞれ微妙に長さを変えての出力。

その距離に到達した瞬間にワイヤーを引き絞り、一点から先をもうスクリューの如く回転させる。

さて、これは始めた試す事だが…試してみるか!

 

 

 

Melk View

 

私は思わず身を乗り出した。

あのラウラさんの戦い方が…まるで踊っているかのようにすら見えたから。

 

「ラウラさん、凄い…」

 

セシリアさんからの一方的な射撃攻撃など、受け付けないかのごとく、楯を縦横無尽に飛び回らせ、いまだにダメージの一つも無い。

そして全方位からの射撃攻撃に対してはワイヤーブレードを広範囲にわたって猛回転させることで、その全てを弾いた。

レーザーを弾くだなんて、それこそシールドを使わなければ無理だろうと思っていた。

お兄さんのように銃弾を斬って落とすだなんて真似は、未だに私にも出来ない。

なのにラウラさんは…

 

「私も…もっともっと頑張らないとダメですよね…ね、ミーティオ」

テンペスタ・ミーティオの待機形態である右腕の腕輪に視線を落とす。

少しだけ…ほんの少しだけ、そこに鼓動を感じられた。

 

 

 

Laura View

 

「じょ、冗談でしょう!?」

 

私の防御にセシリアが金切声をあげる。

その相貌は驚愕に彩られていた。

 

「心配するな、今のは私も初めて試したに過ぎない」

 

「初めて試してその結果!?

一発もダメージを入れられてませんのよ!?」

 

「まあ、答えとしては簡単だ。

私は動きを止めていたんだ、そこへ集中砲撃なら、全方位を防御してしまえばいい」

 

「は、はぁっ!?」

 

「そんな風に呆けていると…切り刻むぞ!」

 

瞬時加速、一気に懐へ潜り込む。

両腕装甲から出力されているプラズマソードを縦横無尽に振るう。

たまらずにセシリアも短剣インター・セプターを繰り出す。

近接戦闘訓練も積んでいるのか、多少手ごたえはある。

だが、たった二本の短剣で私のプラズマソードとワイヤブレード、合計10の刃には届かない!

 

「パーン!」

 

指を銃の形に構え、何かつぶやくのが聞こえた。

 

『無駄ぞ』

 

即座にリヒトーが反応し、真下からの射撃を防ぐ。

 

「でしたら!」

 

前後左右から再び囲まれる。

また全方位からの飽和攻撃か!

今度は機体を急上昇させ、射撃を躱し――

 

ドォンッ!!

 

「ちぃっ!?」

 

機体を急上昇させた事で砲口はこちらには向けらるのも間に合わなかった筈。

今のは…そうか、ようやくその領域に達したか!

 

偏向制御射撃(フレキシブル)か!」

 

「撃ち抜いて見せますわ、今度こそ!」

 

ふん、そうでなくては手応えがない!

認めよう、お前は強者だ!

 

「てぇっ!」

 

リボルバー・カノンを発射。

 

ドォンッ!

 

避けられた。

ストライク・ガンナーをコールし、展開させたか、速度が急上昇している。

 

「逃げられませんわよ、この青い雫からは!」

 

合計25ものビットとともに両腕のライフルと合わせ、射撃の猛攻だ。

よくよく見れば1つのレーザーが礫の如く小さくなり、豪雨になっている。

分散射撃(スプリット・シュート)』を使ってきたか!

 

「これが私の奥の手、『蒼き雫の棺(ブルー・コフィン)』!

これであの時の雪辱を晴らして見せますわ!」

 

真正面からだけであれば容易く躱せた。

だが

 

「後方にも熱源…いや、全方位からか!」

 

全てのビットを使ってきたか!

だがこれだけの数のビットの射撃だというのにビット同士での同士討ちが発生していない。

例えこれだけの数のビットを高速で制御していても誘発しそうなミスが見受けられない。

観察してみれば、私を囲むビットに届くよりも前に霧散している。

そういう事か、射撃攻撃を小さく分散させ、エネルギーが一定距離にまで達すると消失してしまう距離で攻撃をしていると。

そこまで計算していたか。

 

「なら、私も奥の手を見せてやる!

『永劫停滞』発動!」

 

両腕の装甲に仕込まれているクリスタル状パーツが強く輝く。

この輝きの下では、すべてが止まる。

そして、すべてのビットが凍りついたかのように動きを止めた。

レーザーも射出されない。

 

「こ、これは…!?」

 

「セシリア、ここで一つ教授してやろう。

第三世代兵装の欠点は、長時間の戦闘に向かないということだ。

そしてもう一つの共通点、稼働させるのには何が必要になる?」

 

「強い制御能力と、それを補助するためのイメージ、でしたわね」

 

「私もAICに強いイメージを加えていた。

『手でつかむ』といった具合にな、だが今は違う」

 

「ですがラウラさんが学園に来てからAICを使う瞬間は見てますけれど、そんな動作をしてませんでしたわね。

いったい、どんなイメージを?」

 

「簡単だ、ただ『視線を向ける』だけだ」

 

早くも開いた口がふさがらないようだ。

ポカンとしている。

確かにイメージとは言えないものだろう。

 

「そして私が発動させた単一仕様能力ワンオフアビリティである所の『永劫停滞』は、その視界をさらに大きく広げるものだ。

今の私に、見通せない場所などない」

 

「ど、何処を見てますの!?」

 

やかましい、もういい、とっとと決めるぞリヒトー!

 

『心得た』

 

周囲を漂っていた二枚のスラスターシールドが右腕に装着させられる。

そして、激しい風を生み出す。

 

「さあ、これで終わりだ!」

 

リヒトーと流星が生み出す大出力機動能力で一気に肉薄、プラズマソードで一刀のもとに切り裂いた。

さらにそこから8本のワイヤブレードで切り裂き、二問の砲撃を同時に叩き込む。

 

『ブルー・ティアーズ シールドエネルギーエンプティ

勝者 ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

ふふん、再戦の結果も変わらずだったな。

 

「ま、また負けましたわね…」

 

「だが、なかなかに手応えがあった。

お前はまだまだ強くなれる、精進してみせろ」

 

「ええ、精進しますわ、そして…今度こそ勝って見せますわ!」

 

その時を楽しみにしておくとしよう。

さて、対戦は終わったのだ、私は兄上の控室に行ってみよう。

 

『お主も物好きだのう』

 

「うるさいぞリヒトー、そもそもお前にとっては兄上は恩人の筈だろう」

 

『かっかっかっかっか!違いない!』

 

では、行くとしようか。




まだまだ序盤

それでも本気を隠していられない

だから、最初から本気で

次回
IS 漆黒の雷龍
『煌翼冥天災 ~ 星風 ~』

コックに歯向かうと餓死させるぞ

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