IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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煌翼冥天 ~ 霧龍 ~

Ichika View

 

さて、Aブロックの第一試合は楯無さんVS鈴の対戦だ。

どちらが勝つのやら。

控室のモニターにて見守らせてもらうとしようか。

会場もかなり沸き立っている。

『中国国家代表候補』VS『ロシア国家代表』という構図にもなっているのだから、その熱狂ぶりも理解は出来ている。

ことによっては、モンド・グロッソ並みだろう。

 

「…片や俺の弟子、片や、学園最強、これは見逃せないな」

 

 

 

Tatenashi View

 

「こうやって鈴ちゃんと正面からぶつかるのは初めてのことね」

 

「ですね、絶対に負けませんよ!」

 

鈴ちゃんの両手にはすでにダブルセイバーが握られている。

ダブルセイバーに関してはあまりいい思い出はない。

学園祭が終わった後、一夏君がとんでもない形状のダブルセイバーを持って振り回しながら追いかけてきたのだから殊更に。

私は右手に蒼流旋を握る。

ラスティー・ネイルのような刀剣形態の武器も悪くはないけれど、私としては槍のほうがしっくりとくる。

簪ちゃんは薙刀と、長物のほうが私たち姉妹には扱いやすいのだろう。

 

「鈴ちゃん、全力でかかってきなさい。

簡単に勝ちは譲ってなんてあげないわよ。

『学園最強』の銘は伊達じゃないのよ」

 

「え?兄貴は『学園最強(笑)』とか『自称学園最強』とか言ってましたけど」

 

い~ち~か~く~ん?

 

何故だろう、鈴ちゃんの背後にニヤニヤとする一夏君の横顔が見えた気がした。

後で八つ当たりしても罰は当たらないだろう。

 

「まったく、思い悩むのを辞めたかと思えば…開き直ってるのかしら。

まあ、それは後で確認させてもらうとしようかしらね」

 

脳裏に浮かぶ一夏君に一発ビンタを叩き込むイメージをしながら、私は槍を構える。

 

「さあ、始めましょうか」

 

「上等!」

 

試合開始のブザーが鳴り響く。

その瞬間

 

「おおりゃああぁぁぁぁっっ!!」

 

裂帛の一斬。

横薙ぎに振るわれたそれを水の障壁にて受け止める。

でも、油断はできない。

この娘は一夏君の弟子の一人。

剣の速度もそうだけど、警戒すべきはそれだけじゃない。

中国で開発される機体が持ち合わせるハイパワー能力。

それも考慮すると、鈴ちゃんの性格もあわせてひたすら攻撃的ね。

 

「まだまだっ!」

 

右手の剣が防がれたとみるや、今度は左手のダブルセイバーを刺突として繰り出してくる。

それも水の障壁で防ぐ。

 

「あらあら、ずいぶんと攻撃的ね、お姉さんびっくりしちゃったわ」

 

「この障壁で余裕で防いでおいてよく言うわよ」

 

「だってコレが私の十八番だもの。

一夏君からも聞いているでしょ。

防御は私の十八番よ」

 

「だったら、そっちこそ訊いてるでしょ。

私の十八番がハイパワーアタックだって事をね!」

 

その刹那だった。

非固定浮遊部位が微かに光ったように見えた。

中国製第三世代兵装である衝撃砲ね。

 

「あまいっ!」

 

それすら水の障壁を小さく展開し防いだ。

 

「かかった!」

 

ドゴンッ!

 

「ぐっ!?」

 

剣と衝撃砲は確かに防いだはずだった。

なのに、私の体は何かに殴られたかのように吹き飛ばされた。

 

「今のは…衝撃砲?

おかしいわね、非固定浮遊部位の衝撃砲は防いでいたはずだけど…?

って、言ってる場合じゃないか!」

 

再び非固定浮遊部位が光り、砲撃が繰り出される。

その全てを水の衝撃砲で防ぐ。

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 

そんな音が継続的に繰り出される。

鈴ちゃんの放つ衝撃砲、それによる砲撃のスピードは圧倒的に加速している。

まるで、いくつもの砲身を持っているかのように。

 

「まったく、厄介な娘に成長しちゃったわね!」

 

左手にラスティー・ネイルを展開。

侮っていたわけじゃない、見くびってもいない。

高を括っていたわけでもない、過小評価もしていない。

だけど…

 

「本気、見せるわよ!」

 

大気中の水分をはすべて私の支配下にある。

海風が都合の良い程に海からも水を集めてくれる。

 

「これが…霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)の真骨頂よ!」

 

水を集め、それを霧にしてフィールド全体に霧散させる。

そしてその中で生まれたのは…私と同じ姿をした水の分身だった。

 

 

 

Lingyin View

 

出た、水の分身。

簪の場合は、その全てをレーザーカノンでブチ抜いて倒していた。

生憎と神龍(ジェロン)にそんな兵装はついてない。

いや、在る。

両手に握っている双極月牙を収納、その直後に、脚部装甲にマウントされている鞘から二振りの刀(双星)を抜いた。

双極月牙よりも威力は劣るけど、それでも兄貴譲りの太刀筋を再現出来るから、気に入っている。

 

「仕切り直し、と!」

 

ドガガガガガガガガガガ!

 

真横からのガトリング・ガンを咄嗟に避ける。

一瞬目を離した瞬間に合計8体の分身が本体と一緒に入り乱れて縦横無尽に空中を走り出す。

もうどれが本体だか分からない。

そんな風に考えてたら、今度は真上から槍を持って襲ってくる。

 

「こんの!」

 

右手の刀を振るい、レーザーを射出。

腹を貫通しながら襲ってくる。

これは分身!

 

「おおらぁっ!」

 

左腕で殴り飛ばすと同時に、そこにマウントされている衝撃砲を発射。

分身が崩れ、水に戻る。

コレで濡れるわけにはいかない。

水蒸気爆発は、水の状態からでも発せさせられるとか聞いた覚えがある。

そしてそのまま見過ごしていたら次の分身が襲ってくる。

 

「まだまだぁっ!

絶影流奥伝!『絶影』!」

 

絶える事の無い剣戟と、蹴り。

その二つを永続的に繰り出す技はアタシだって真似られるようになっている。

それでも、メルクの速度には追い付けていないけれど、それでもパワーならメルクよりも上。

負けている部位があるのなら、それを補える何かで差を埋める!

 

「こっから先は完全オリジナル!

奥伝!『絶影・咆哮の型』!」

 

刀を振るい、レーザーを放射状に、扇上に飛ばし、さらには蹴りをブチ込み、踵に内蔵されている衝撃砲を発射。

アタシが自分で編み出したオリジナルでもある、1対多数を想定した技だった。

レーザーと剣戟、更には前後上下左右無差別に繰り出される砲撃で次々と分身を砕いていく。

打ち砕いては霧散させていく。

 

「残り一体!本体みつけたぁっ!」

 

衝撃砲最大出力!

発射ぁっ!

 

ドゴォンッ!

 

最大出力での砲撃に、本体に直撃――

 

バシャァンッ!

 

「…は…?」

 

した筈なのに…分身同様に水になって散った。

 

「驚いたわぁ、本当に一夏君ってば鈴ちゃんをここまで鍛えていただなんて思わなかったわ」

 

その声は、真上から聞こえた。

 

「でも、油断していたわね。

私は分身を作った直後から鈴ちゃんの様子見をさせてもらっていたのよ」

 

見上げようとしても、太陽がまぶしくてマトモに見ていられない。

分身ばかり使って攻撃している間は何をしているんだと思えば、様子見してたっての!?

 

「こんのぉっ!」

 

「だから私も、本気を見せてあげるわ」

 

青い槍に熱が収束していえるのが見えた。

だったら、アタシも全力で挑むだけ!

 

「『叫天慟地』発動!」

 

双極月牙に持ち替え、自分のの周囲に衝撃による障壁を展開させる。

アタシの本気、攻防一体の衝撃結界!

これで押しつぶす!

 

「絶影流!『幻月』!」

 

「ミストルテインの槍!発動ぉっ!」

 

 

 

 

 

Kanzashi View

 

上空を映すモニターが白一色で染まった。

それほどまでに大出力攻撃。

 

「なんだろう…鈴に嫉妬しちゃいそう」

 

夏休み最終日、私はお姉ちゃんと決闘をした。

われでもわたしでも、『本気の二歩手前』とか言ってた。

なのに、今のお姉ちゃんは本気の目に見えた。

そしてそれを引き出させた鈴には嫉妬もしちゃうけど、悔しいし、何処か羨ましかった。

 

 

 

 

 

Tatenashi View

 

「『ミストルテインの槍』、発動ぉっ!」

 

装甲や、周囲を覆う水の大半を全て蒼流旋を覆い、攻撃に全てを傾けた、最大の一撃。

その一撃で決まる、そう思っていた。

 

「『双華』!」

 

背後から感じた殺気に私の体は普段とは違う形で反応した。

大きく引いた。

 

「ふ~ん…」

 

今のこの時間がミステリアス・レイディの最大の欠点。

『ミストルテインの槍』装甲を覆う水の殆どを攻撃の為に消費してしまう為、使用後には防御が著しくダウンする。

『零落白夜』が徐々に自らのシールドエネルギーを消費していくのと違い、こちらは『一瞬で』消費してしまう。

ここから先は暫くは待機中の水をかき集めるのに集中しなくてはいけない。

 

「逃がさない!」

 

「生憎と、逃げるつもりはないのよ」

 

そう、大気中の水分をかき集めるのに苦労なんてしている暇はもう無い。

一瞬で失ってしまうくらいなら、それを補う水分をあらかじめ掻き集めておけばいい。

このIS学園は全方位が海に囲まれているから、それが非常に容易い。

とはいえ、広範囲から掻き集めるに苦労はしていたけどね!

そして、ここから先が私の本気!

 

「『落ちる床(セック・ヴァベック)』発動!」

 

 

Lingyin View

 

あともう一発叩き込む。

そう思って剣を握りなおした瞬間だった。

 

「な、何これ!?」

 

体が動かない。

それどころか、奇妙な空間に飲み込まれていく!?

 

「『叫天慟地』発動!」

 

衝撃結界で吹き飛ばす。

そう思っていたけれど、その衝撃すら泥の中に飲み込まれていくような感覚がしていた。

逃げられない、そう予感した。

 

「そう、逃げられないわ。

どうかしら?

これがミステリアス・レイディの単一仕様能力(ワンオフアビリティ)よ。

標的を拘束する、『拘束封印結界』よ。

こんな多くの人の目の前で使うのは初めてだけどね」

 

楯無さんが目の前にまで近寄ってくる。

衝撃砲を打とうとするけど、この奇妙な結界のせい照準が定まらない!

 

「動けないところを悪いけど、この一撃で決めるわ。

『ミストルテインの槍』を超えた、私の最強の一撃!」

 

その手に握られていたのは、青い槍に、二本の槍を連結させた巨大な三叉槍だった。

 

「諦めてたまるかぁっ!

『双極月牙』ぁっ!」

 

「遅い!『ポセイドンの大槍』発動!」

 

ドゴォォォォォォォォォォンッッッ!!!!

 

目の前が、真っ白に染まった。

 

 

 

 

Madoka View

 

久しぶりに見たけど、すさまじい威力だった。

海神の銘を飾るだけのことはある。

だけど、楯無先輩もタダでは済まなかった。

 

「残存シールドエネルギー23%…。

だいぶ追いつめられていたみたいだ」

 

そして鈴は…

 

『神龍 シールドエネルギーエンプティ

勝者 更識 楯無』

 

そのアナウンスが響いた。

会場は一気に沸き立つ。

楯無先輩が二度も繰り出した最強の一撃に、単一仕様能力をも使ったことに。

そしてそこまで追い込んだ鈴を称賛して。

当の本人は気絶してるっぽいけど。

 

「お疲れ様、鈴」

 

楯無先輩が鈴を抱えてピットへと飛んでいく。

私も様子を見てこよう、ちょっと気になるし。

 

 

 

Ichika View

 

ピットに来てみれば、鈴は早くも目を覚ましていた。

そして

 

「あ~も~!悔しい!何なのよアレは!?」

 

「ふっふふふふ♪

アレがお姉さんの隠し玉よ♡

言ったでしょう?『学園最強』は伊達じゃないの♡」

 

さっそく対戦していた二人がじゃれあっているようだった。

傍から見ていれば猫二匹がじゃれあっているかのようだ。

まあ、あの様子じゃ心配はしなくても良さそうだ。

 

「む、兄上、こんなところでどうしたんだ?」

 

「ん?ああ、鈴の様子を見に来たんだが…あの様子だったら大丈夫そうだな」

 

俺と同じように部屋をのぞきこんでいたラウラの頭に手を乗せ、そのまま少しばかり乱暴に撫でてやる。

最初は少し驚いていたが、そのままされるがままになっているラウラを横目にし、再び視線を戻す。

 

「試合を終えたばかりなのに、元気だな、鈴は」

 

「全くだ、疲れ知らずなのかねぇ、アイツは。

っと、それよりも、だ。

次はラウラの出番だったな、頑張ってこいよ」

 

「うむ!」

 

さて、じゃあ俺は観客席に戻ろうか。

 

「あ、一夏」

 

「今度は簪か、どうしたんだ?」

 

「鈴の様子を見に来たんだけど…」

 

簪の要件は俺と同じか、まったく似た者同士だな。

そしてそれに続くようにマドカの姿も廊下の向こう側に見えた。

心配性だな、皆は。

いや、仲間思いなのかもしれないな。

お、今度はメルクも走ってきたか、その後ろにはセシリアとシャルロットも居るな。

全員仲が良さそうで何よりだ。

 

「言ったでしょう、『学園最強』の銘は伊達じゃないって♪」

 

「『学園祭教(笑)』とか『自称最強』だとか兄貴が言ってましたけど~♪」

 

「ふ~ん、へ~、ほほ~う、そうなの~?」

 

扉からは身を離して壁を挟んでいた筈なのに、なぜか視線が貫通してきているような気がした。

毎度毎度の事ながら、嫌な予感というものは裏切られることがない。

 

「簪、マドカ、この場は任せた、俺はちょっと野暮用ができた」

 

それだけ言って俺は通路の窓を開いてそこから飛び降りた。

そこから先の事は、まあ、何時もの事だと言っておこう、ああもう、面倒臭ぇなぁ…!




ぶつかるのは矜持

絶対に負けない

その刃と銃に思いを込めて

ここに舞う

次回
IS 漆黒の雷龍
『煌翼冥天 ~ 雫光 ~』

推して参る!

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