IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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煌翼冥天 ~ 曇天 ~

Chifuyu View

 

専用機所有者同士のトーナメントが近づいている。

それを肌で感じているであろう一夏は私に剣術指南を請うてきている。

頼られるのは悪くはないが、目つきが今まで以上に鋭くなってきている。

 

「何を考えて刀を振るっている?」

 

逆袈裟に振るわれる刀を防ぐ。

かと思えば膝蹴りが襲ってくる、これは体をのけぞらせて回避。

その瞬間、ぶつかり合っている互いの刀を支点にして空中で蹴りの軌道を捻じ曲げてくる。

爪先が顎を掠める。

鋭い、今まで以上にその速さも格段に上昇してきている。

 

「不測の事態になったとしても、今度こそ対応出来るようになる、そう思っている」

 

なりたい(・・・・)ではなく、なる(・・)、か」

 

「ああ、そうだ。

剣を振るっているからこそ、剣がへし折れても抗い続けるためにも、な」

 

「なるほど、代えになる剣をいくつも手に入れたお前だからできる、と」

 

「出来るできないは関係無い、やるしかないならやるだけだ。

いや…やらなくちゃ駄目なんだよ!」

 

来る…!

あの光速連続刺突が…!

だが…!

 

ガギギギギギギギギギギギギィンッ!!

 

迫りくるその全てを弾く。

だが、左肩を浅く掠めた。

何だ…!?以前よりも加速しているのか!?

 

いや、気にするな!

次は左手のナイフで…!

 

「そう来たか!」

 

左手に握られていたのはナイフではなく、逆手に握られた鞘だった。

だが、それはもう幾度も見ている!

 

それは、錯覚のように見えた。

一夏が左手で握っている鞘の口が迫ってきて…

 

「ちぃっ!」

 

一歩下がり姿勢を整える。

手品のタネは見えた。

左手で鞘を握りながら、それを手の内で滑らせた。

 

「奇策、だな」

 

「油断大敵だぜ」

 

足に鋭い痛みが走る。

つづけて、ズブリと鈍い音が。

 

見れば私の右足を掠め、ナイフが地面に突き刺さっている。

 

「ナイフを持っていないと思えば、上空に投げていたのか」

 

「ナイフの扱いはラウラに扱かれていたからな。

で、俺の勝ちだよな?」

 

「ちっ、とうとう黒星か、奇策に続く奇策を使ってくるとはな」

 

「正攻法が通じないからな、奇策を使わせてもらったよ」

 

…こういう所をマドカも学んでしまうからどうにもタチが悪くなってくるな、私の弟は…。

 

「さてと、じゃあ勝負の前の約束通り、昼飯おごってもらうか」

 

「調子にのるなぁっ!」

 

「どわぁぁっ!?」

 

全力で殴り飛ばした。

ふん、まだお前に負けてやるつもりなど無いぞ。

 

「これは、効いたな…」

 

右手を軽く振るう。

殴った瞬間、一夏は膝蹴りでカウンターを叩き込んできた。

私が出せる限りの最速、そして全力のつもりだったんだがな…。

 

「まったく、成長したものだ」

 

 

 

Ichika View

 

「痛ってぇ~…!

膝の皿が割れるかと思ったぞ」

 

ったく、カウンターが間に合ったからよかったが、そうでなかったら、内臓がやられただろう。

 

「さて、これでお前も黒星だな。

昼は奢ってもらうぞ」

 

「ちょっ!?大人気ねぇっ!?」

 

俺の返答も聞かずに千冬姉はドカドカと出口へと向かっていく。

おい、肩が震えてるぞ、盛大に笑ってやがるあの姉貴。

 

「くそっ!勝ったと思ったらコレだ……今度の弁当にはセロリのピクルスでも入れてしまおうか」

 

千冬姉の一番嫌いなオカズがソレだ。

どちらかといえば俺は好みだったりする、マドカも同様に。

 

「まあまあ、それでも価値を認めてくれたんだから丸くなってるってことじゃないかな?」

 

どうだか。

試合終わってから殴り飛ばすとか大人気ないにも程が在るぜ。

まあ、白星譲るってのなら、もうちょっと素直に譲ってくれよ。

 

「次は完膚なきまでに勝つ!」

 

「そうそう、その活きだよ」

 

試合は明日に予定されている。

トーナメント表は試合の直前になってから発表される予定だ。

出来ることなら射撃のエキスパートとは対戦を避けたいところではある。

特にシャルロットとかセシリアとかマドカとか。

彼女たち同士で潰し合ってほしいところだ。

 

「はてさて、明日はどうなるやら」

 

「負けないから、ね」

 

「お互い様に、だ」

 

そして戦いたくない御仁がもう一人居る。

3年のケイシー先輩だ、あの日、何があったかしらんが初対面から印象が悪すぎる。

先日の襲撃で俺が生き残り、廊下ですれ違った際にギョッっとしていたが、その直後に殺意を込めた視線を向けられた。

俺は関わり合いになりたくないんで無視しておいたが。

 

「シャワー浴びてくるか、いくらなんでも汗臭ぇ」

 

「そ、そうだね」

 

さて、本当に明日はどうなるやら。

 

 

 

 

翌日

全校生徒は第三体育館に集合させられていた。

楯無さん主催の朝礼が始まっている。

内容としてはやはり、今日執り行われる専用機所有者同士で繰り広げられるトーナメントについてだ。

そのルールは通常の試合となんら変更点無い、との事。

なお『降参宣言(リザイン)』も有効との事。

まあ、専用機同士での試合で降参宣言(リザイン)する人が居るとは思えないが。

 

「なお、今回はだれが優勝するか、等のトトカルチョは禁止するから、そこはわきまえておくようにね!

それから優勝した人は、今学期の期末試験を免除!」

 

期末試験を免除だと!?

俺としてはなかなかに美味しい話だ。

 

「なお、一般生徒の皆には、各試合でのレポートを後日提出してもらうけれど、一番優秀なレポートを提出した人は、三月末までの食堂でのデザート無料パスを進呈しちゃうわ!」

 

この発表にて周囲の女子生徒が騒ぎ始めた。

魅力的にも程が在るのだろう。

だが、俺としても楽観視はできない。

期末試験免除は確かに魅力的ではあるものの、事がそううまく運ぶとは思っていない。

このトーナメント自体が頓挫する可能性とて否定は出来ないのだから。

 

「だが、皆の試合の運び具合も俺としては楽しみではあるな」

 

半ば認めてしまっているようではあるが、剣術の弟子二人の活躍を温かく見守らせてもらうとしよう。

さて、二人の様子は、と。

 

「期末試験免除…これを逃さない手はないわね!」

 

鈴は俺と似たような感じか。

現金なやつだ、人のことは言えないが。

 

「デザートパス…もらえないんですか…」

 

メルクはそっちに魅力を感じてしまっていたか。

そんな顔をするな、今度何かデザート作ってやるから。

メルクが気に入っていたオレンジを乗せたタルトでも作ろうか。

 

「さあ、それじゃあトーナメント表の発表よ!」

 

檀上の壁面に投影された青いディスプレイにIS学園の校章である守護天使が映り、その直後にトーナメント表が表示された。

 

Aブロック

シード枠

フォルテ・サファイア

『コールド・ブラッド』

 

第一試合

鳳鈴音

『神龍』

VS

更識 楯無

『ミステリアス・レイディ』

 

第二試合

セシリア・オルコット

『ブルー・ティアーズ』

VS

ラウラ・ボーデヴィッヒ

『シュヴァルツェア・リヒトー』

 

 

 

Bブロック

 

第一試合

メルク・ハース

『テンペスタ・ミーティオ』

VS

シャルロット・アイリス

『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』

 

第二試合

ダリル・ケイシー

『ヘル・ハウンドVer2.8』

VS

織斑 一夏

『輝夜』

 

第三試合

織斑 マドカ

『サイレント・ゼフィルス』

vs

更識 簪

『天羅』

 

以上と相成った。

Aブロックのシード枠は、第一試合の勝者と試合になっている。

だが俺としては序盤から当たりたくない御仁とぶつかっちまったなぁ。

…今から気分がすぐれない、精神安定剤飲んでおこう、そうしよう。

 

「さあ、それでは全員第4アリーナへ集合!

走らないでね!」

 

解散の指示が出ると直後に体育館から飛び出し、第4アリーナ全力疾走し、更衣室に飛び込む。

手早くISスーツに着替え、準備に入ることにした。

 

Prrrrrrr!

 

「っと、こんなタイミングで誰だ?」

 

制服の中に突っ込んでおいた携帯電話の電源を切り忘れていたらしい。

着信相手は…束さん?…という事は…。

 

『もしもし~?もっし~?

いつもあなたの背後に元気な束さんだ―』

 

プツッ

 

切った。

だが、その0.1秒後

 

Prrrrrrrr!

 

スパムしてんじゃねぇよ。

 

「冗談はこの際無視します、要件だけ簡潔に申してください」

 

『冗談を言う暇すらくれないの!?

いっくん酷だよ!?』

 

「次回の弁当は千冬姉特製暗黒物質フルコースでよろしいのなら」

 

『そんなの嫌ぁっ!

まあ、それはさておき。

いっくんから渡された襲撃者の指を解析してDNA情報を調べてみたんだけどね、前科者として引っ掛かったパターンっていうのが見つからなかったんだ~。

表向きは、ね』

 

表向きは、と前提を入れてきたか。

っつーことはどこぞの国家だか組織だか団体の後ろ暗い所にでも繋がったのだろうか。

 

『ここ数年、主要国でISコアの盗難が発生してたんだよ。

で・も、それをその主要各国はもちろんだけど、ある大国は隠し続けていたんだ~』

 

「だけどそれを公表することは出来なかった。

公表してしまえば、多くの国からバッシングを受けるから」

 

『じゃあ問題!バッシングをどこの国よりも強く受けてしまう国は何処でしょう~?』

 

「アメリカですね、ISの軍事技術転用禁止条例である『アラスカ条約』はアメリカが定め、各国首相をアラスカ州に集めて調印させておき、なおかつ国際IS委員会を保有してましたから。

で、それと先の襲撃者の指が何かつながるんですか?」

 

『勿論!あの指のかつての持ち主は、いっくんも顔見知りだからね♡』

 

…あの女か。

 

『ちなみにその娘だけど、その時間帯は見事にアリバイも無いの。

アメリカ行きの飛行機に乗ってたって本人は言ってたけど、どこの空港にもその履歴が無いんだよね』

 

間抜けにも程が在る。

だが、疑問はある。

 

「吹き飛んだ右手ですが、その後は?」

 

『義手だよ、それも世界最新式の送電義手』

 

「では、あの翌日のテロリスト共も?」

 

『あ、それは完全に無関係みたい。

【大義は犠牲の上に成り立つもの】なんて横柄な考えは似ていたみたいだったけどね。

でも、コアの流通はその娘を経由してたみたいだよ』

 

イヤな形で色々と見えてきたか。

アメリカも小娘一人に幾つもコアを奪われ、国外へ流通され、最後は開発者である束さんのコアを回収されているだなんて公表されたくないだろう。

そんな事になれば千冬姉の言った通りに国家間のバランスが大きく崩れることになる。

アメリカからISが失われてしまえば、アメリカの威厳も失われ、どこぞの物好きな国家が潰しにかかるかもしれん。

そうなれば『アラスカ条約』を無視した国家間IS戦争が起きるだろう。

最悪、アメリカと色々と協定を結んでいる日本もたたかれる理由にも繋がり兼ねん。

 

『ちなみに、いっくんを襲った連中の首謀者は、先代国際IS委員会会長だったんだよ』

 

どおりで見た顔が有ったと思ったわけだ。

 

「情報を伏せ、生殺与奪の権限を握ってしまえる、という事ですか」

 

『あ~、いっくんが悪い顔してる~♪』

 

おい、まさかこの更衣室にまで盗撮してるんじゃねぇだろうな。

 

「で、まだ深い情報はあったりしますか?」

 

『今はコレくらいかな』

 

「たかが小娘一人で幾つもコアを保管庫から奪い取り続けたとは思い難い。

協力者…最悪テロリストが居たのでは…ってそういう事か」

 

コアを奪われたことを公表してしまえば、軍の管理状況まで叩かれるどころじゃない、テロリストとの協力関係疑惑までも浮上してくる。

『世界の警察』を名乗る国家が一日にして『テロ国家』へと世界からの印象を変えてしまうという事だ。

そもそも俺を襲撃してきた輩が、その翌日にはテロリストをけしかけてくるようなタチだ。

国の顔とも称される人物がテロ組織との雇用力関係だとするのなら、さらに事態は最悪だ。

 

「暫く前から揺さぶりはかけていましたが、あながち間違ってはいなかったみたいですね」

 

『いっくんは予想してたんだ、その人物だってことを』

 

「コロンですよ、ソイツはコロンを愛用していたんです。

俺はあの匂いが嫌いでしてね、襲撃者からも火薬のにおいだけでなくコロンの悪臭がしていたんですよ」

 

『なるほど~』

 

「情報に感謝します、情報料の代わりに、今度クロエに何か料理を教えておきますね」

 

『え~!?直接のお礼は――』

 

プツッ!

 

さて、必要な情報はそろった。

今回はもう少し揺さぶりをかけてみようか。

 

『だから言っただろう、オルトロスを警戒しろってな』

 

オルトロス、神話に出てくる『双頭の犬』。

彼女の機体がまさにソレだ。

まったく、安直にも程が在る、解析にてこずった俺が言えたセリフじゃねぇけどな。

 

「さてと、俺の料理を侮辱した件と、妹分達を怒らせた件、先日の三度の襲撃の件、きっちり耳をそろえて支払ってもらおうか」

 

代金は、アンタのプライドを徹底的に切り刻んだ上でぼったくらせてもらうぜ。




始まる戦い

剣と槍

不可視の形

互いに負けられない

それは維持でもあり矜持

次回
IS 漆黒の雷龍
『煌翼冥天 ~ 霧龍 ~』

ああもう、面倒臭ぇなぁ

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