IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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煌翼冥天 ~ 暇昼 ~

Ichika View

 

専用機トーナメントを一週間後に控えた今日、俺は久々に弾の家に転がり込んでいた。

新車のバイクを使ってきたから結構気分が良かったりしているがソレはソレだ。

 

「なんかさ?お前結構苦労してるっぽいよな」

 

「お?話が分かるじゃねぇか、弾」

 

「そりゃぁそうだろ、『日本代表』の肩書に加えて『篠ノ乃博士直属のテストパイロット』ってやつだろ?

平日でも苦労してたりするんじゃねぇの?」

 

「まあ、な」

 

ISの開発は世界で急ピッチに行われているが、脳でもあり心臓でもあるISコアの解析、開発はいまだに目処が立っていないブラックボックスのまま。

更にはISが発表されてきら、この十年間で第三世代機までの開発はできているが、未だに『テスト開発』の領域もできず、ソレの量産もできない。

もとよりコアの数も上限があり、『IS』そのものの量産だってできないのが現実だ。

その為、その搭乗者に選ばれる人間も厳選されてくる。

俺のような『イレギュラー』は話は別として、だ。

 

そんな中、日本代表候補性がISコアの自我と意識をシンクロさせ、超広範囲干渉型の第四世代機をへと進化させた。

けれど、機体…というか、コアそのものがデータの提供を拒んでいる以上、『天羅』への干渉、解析もできないだろう。

そしてそれは俺の手元にある『輝夜』『黒翼天』にも言える。

 

その為、全世界のIS開発事業は次世代型ISの開発は自分たちで理論だのなんだのから開発しなければならない。

早い話、すでに限界が見え始めている。

 

俺の大雑把な予想では10年以内で完全に停滞すると予想している。

そうなれば世界中で開発企業で株価大暴落だの何だのという話になるだろう。

だから束さんは、新たな可能性を世界に提示した。

それが俺のバイクにも使用されている新世代の代替エネルギーである『ESエネルギー』だ。

 

だが、コレはISに導入させることが出来ないのだという。

ISのエネルギーとは、相反する位置に存在するものだとか何だとか。

難しい話は分からないが、あの人のIS開発はもう終わったのだろう。

いや、ISを通じて世界を図っていたのかもしれないが、いい加減痺れを切らしたのかもしれない。

あの人が学園内に勝手にこしらえたラボをこの数日で見せてもらったりも下が、かなりの書類が山積みになっていた。

…『紙の海』ってのをリアルに見ちまったよ。

そしてその中で溺れている…もとい、生き埋めになっていた兎2匹を引きずりあげるのにも苦労したし、それを片づけるのにも苦労した。

そんな中で見た、ISに代わる宇宙探索航行用パワードスーツ『ES』とかいうのをチラッと見たっけか。

『IS』とは『無限の成層圏(インフィニット・ストラトス)』の略称だが『ES』とは何の略称なのかも気になるところだ。

俺は語呂合わせで『イース』と呼ばせてもらっている。

正式名称はまだ教えててくれないのは、まだ秘密にしておきたいからだろうと思う。

まあ、近いうちにそのテストパイロットになるのが俺の仕事だったりするわけだが。

「バイト代出してあげるからね♡」とか言われたからアッサリと交渉は成立したわけだが。

ESエネルギーの使用に関するモニタリングもあるため、バイクを使えば使う程バイト代が出てくるのも美味しい話だったりする。

 

「んで、新しいバイトなんだろ?

時給どれくらいなんだよ?いい金額なら俺もありつきたいわけなんだが」

 

「…金に目が眩んだか、弾?」

 

「ンな訳ねぇだろう、虚さんの誕生日も近かったりするし、虚さんの為、そして将来の為の貯金だよ。

今度のシルバーウィークから俺は京都のほうに出向いてまでのバイトもあるんだよ。

ソレが終わったら博士の側のバイトにも手出ししてみたいんだよ、ほら、宇宙ってロマンの宝庫だろう!?」

 

まあ、動機は健全に近いと言えばそれだな。

簪の誕生日は12月だったし、ちょっと早いかもしれんが何か用意しとかないとな。

 

「ん~で、博士の所でのバイト代ってどれくらいだよ!?」

 

「聞いて驚くなよ?

月収にするとだな」

 

携帯電話のメニュー画面から電卓をコールし、その金額を打ち込む。

その途端

 

バッタァァンッッ!!!!

 

あ、弾が目を回して倒れた。

…俺は悪くない、よな?…知~らねっと。

 

ガゴン!と音を立ててドアが開かれた。

その音の正体は弾の脳天にドアが直撃したからだが。

しかも角が。

 

そしてドアの向こうからヒョコッっと顔をのぞかせたのは蘭だった。

 

「一夏さん、よろしかったらお昼どうですか?

簪さんも手伝ってくれたんです」

 

「ああ、ご馳走になるよ」

 

「ところで、お兄ぃ、どうしたんですか?」

 

「すっころんで頭ぶつけて気絶したんだ」

 

「なんだ、いつもの事ですか」

 

弾、お前は藍越学園では気絶キャラとして定着していたのか?

数馬にも聞いてみるか。

当の本人が気絶している真横でな。

 

下の階の食堂にて簪が見慣れぬエプロンをしてニコニコとしていた。

雰囲気から察するに、蓮さんからいろいろと料理を教わっていたのかもしれない。

 

「へぇ、いい薫りだな。松茸を入れた混ぜご飯に、サンマの塩焼き、で合ってるかな?」

 

「うん、正解」

 

さて、さっそく食事にありつくとしようかな。

簪お手製の料理ともなると楽しみだ、部屋ではいつもの事ではあるけどさ。

 

 

 

Dan View

 

…あれ?

オレどうして天井見上げて寝転がってんだ?

それに妙に頭が痛ぇし、何があった?

ん?一夏は何処に行った?

それにこの香り…俺がバイト代たたいて購入してきたマツタケじゃねぇのか!?

 

「ちょおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!

んげががっがががががががごはぁっ!?」

 

顔面で階段を滑り降りるだなんて初めての経験だった。

そこから先のことは…よく覚えていない。

 

 

Kanzashi View

 

目の前で見た光景が聊か信じられなかった。

私達が食事をしている最中、弾君が階段を滑り降りてきてから食堂に騒がしく突入してきた直後、厳さんの手でホームラン。

しかもお玉で。

 

「一夏…人間の腕力って凄いね…」

 

「…だな」

 

私たちの視線の先には、道路を挟んだ真向いのお宅のコンクリート壁にめり込んだ弾君の姿があった。

 

「もう、仕方ないなぁ、お兄ぃは。

壊したのはお兄ぃなんだから、アレの修繕費用はお兄ぃのヘソクリで済ませとこっと」

 

そして蘭ちゃんがえげつなかった。

弾君はといえば、気絶したまま真向いさんから叱られてるし…。

でも、そんな光景を異様なものを見るかのような視線を向けているのは、私だけだった。

 

「この辺じゃよくある光景の一つなんだよ、簪が遊びに来るときには弾は相応に自重してたしさ」

 

「そ、そうなの?」

 

「そうなの。

鈴はアレ見るたびにゲラゲラ笑ってたからな。

今度マドカにでも教えてもらうか?

簪も大笑いしちまうぜ」

 

二年を超えて知る真実だった。

…マドカに訊いてみようかな?

 

ガインッ!

 

「…危ねぇなぁ」

 

お喋りをしていたからだろう、厨房からお玉が飛んできた。

一夏は平然とお箸でキャッチしてるけど。

そしてそのままろくに確認せずに厨房へと投げ返していた。

 

「まあ、今は食事に集中しよう。

今日はこの後、倉持に行くことになってるんだし、時間がかかるだろうからな」

 

「う、うん、そうだね」

 

一旦この話題はお終いにして、私は自分の手で作った料理を胃袋に収めるのに集中した。

そういえば、蓮さんに「冷蔵庫の中身は好きに使っていいよ」と言われたから、松茸を使わせてもらったけど、大丈夫だったかな?

まあ、いいかな、あんなふうに言われてたんだし。

 

 

 

Tatenashi View

 

あ~…苦痛だわ、この書類の山を片づけるのって…。

存外に書類処理が上手い一夏くんも、簪ちゃんも今は不在だから、いつも以上に書類処理が苦痛だわ…。

 

「虚ちゃん、お茶お代りちょうだい」

 

「すぐに用意しますね。

本音、居眠りなんて品でもう少し頑張りなさい、ようやく今日の8割までとどいてるんだから」

 

嘘!?

もう8割も終わらせちゃってるの!?

私なんてようやく4割なのに!?

 

「ち、ちなみに虚ちゃんは今日のノルマをどれだけ終わらせてるのかな~、なんて…」

 

「私は今しがた今日のノルマをすべて終わらせましたが何か?お嬢様?」

 

「ね、ねぇ?私に回されてる書類だけ数が多くないかしら?」

 

「普段からのらりくらりとされているからではありませんか?

言っておきますが、今日のノルマが終わるまで生徒会室から出られないと思ってくださいね?」

 

わかったから、わかったからその身長を超えている巨大スパナは仕舞って!?ね!?

あ~…この前のCBFの事後処理で弾君とのデートの予定も台無しになっちゃったから不機嫌になってるのね…。

 

「か~ずや~ん…」

 

「もう本音ったら、この前の数馬君とのデートが楽しかったからってなにも夢の中で思い返さなくてもいいのに」

 

「ブフゥッ!?」

 

ちょっと!?

今さすがに聞き流せない言葉が出てきたわよ!?

数馬君って彼よね!?

一夏君の友人だって紹介されたけど、本音ちゃんとそんな関係になっちゃってたの!?

 

「お嬢様、聊か品がないですよ?

飲んでいる途中のお茶を吐き出すだなんて」

 

「そこはせめて『吹き出す』って言ってほしいんだけど!?

いや、問題はそこじゃなくて!

本音ちゃんは数馬君とそういう関係になってたの!?」

 

「ええ、半年ほど前から」

 

「えええぇぇぇぇぇぇっっ!?」

 

「そうだ、弾君から聞いたんですけど、蘭ちゃんも先月ほどから隣の地区の高校に通っている男性と交際を始めたらしいですよ」

 

「えええぇぇぇぇぇぇっっ!?」

 

あ、あれ?ちょっと待って!?

虚ちゃんは弾君と。

本音ちゃんは数馬君と。

一夏君は言わずもがな簪ちゃんと。

蘭ちゃんは顔も名前も知らない誰かと。

出逢い()が来ていないのは私だけ!?

い~やぁっ!千冬さんと同様に行き遅れになっちゃうぅぅぅっっ!?

 

「まあ、その話はさておき…吹き出してしまったお茶で濡らした書類、どうするつもりですか?」

 

「あ、これは…その…」

 

「仕方ありません、新しくコピーしてもらってきますから、その代わりにこちらの書類を片づけておいてください」

 

書類仕事で終わる灰色の青春なんてイヤァァァァァァッッッ!!

 

「日頃からサボッているからこうなるんですよ」

 

聞こえない!私の耳には何にも聞こえない!!

 

 

 

Ichika View

 

倉持にて輝夜と天羅からのデータ抽出を諦め匙を投げ、所長がふて寝して、開発スタッフはIS自身が開発したプロテクトに拗ねて、解析班は解析していく傍から増設されていくプロテクトに慟哭し、データ管理官は下手に手出しをしてしまい過去のデータが吹っ飛ばされて現実逃避とばかりに壁に頭を何度も打ち付けて医務室に担ぎ込まれ、チーフを務める篝火女史はその光景を見て狂ったかのように笑い転げ、もはや倉持技研は混沌の坩堝となってしまい、何もできそうにない俺たちは必要最低限度に抽出できた機動データだけを置いて逃げるようにして帰った。

まあ、今日もバイクを走らせることができたんだからコレはコレで良しとしよう。

 

「何かお姉ちゃんの絶叫が聞こえるんだけど?」

 

「気のせいだろ、あの人が絶叫を上げる機会なんて早々無いだろうし」

 

しばらく前に俺の料理を見て絶叫してた時があったっけ。

たしか『ピーマン』が苦手なんだよな、あの人。

楯無さんの弁当に『ピーマンの肉詰め』を入れておいたら、ラスティー・ネイル持った楯無さんに追っかけまわされたっけか。

あの人ピーマンを極端に嫌うんだよなぁ。

そういえば下宿させてもらったころにピーマンを使った料理はことごとく残してたっけ。

残してなくても、水で胃袋へ流し込むという邪道っぷりだった。

 

その反面、簪、のほほんさん、虚さんは嫌いなものが無いというパーフェクトさだった。

料理のしがいがあったね、あの家は。

 

「もしかして、またサボろうとしてたのを見つかってたりして」

 

「あ~、有り得る、おおいに有り得る。

…『逃げ切る』に揚げ豆腐一つ」

 

「じゃあ私は『捕まる』に野菜スープ一つ」

 

さ~て、こんなところでトトカルチョしてるわけだが…見つかるわけでもないし良いよな。

 

 

結果としては賭けは俺の負けになるだった。




今の自分

未来の自分

そのはざまにあるのは確かな目標

今も、これから先も

ただただ歩む

次回
IS 漆黒の雷龍
『煌翼冥天 ~ 曇天 ~』

膝の皿が割れるかと思ったぞ

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