IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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煌翼冥天 ~ 剣銃 ~

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今度のトーナメントに向けて、専用機所有者は各自訓練を始めている。

先日まではある程度のメンバーが固まって訓練をしていたが、それも数日前までの話だった。

各自自主訓練にいそしみ始めている。

俺も、今はアリーナの一角に備えらている施設を使って訓練を始めていた。

ただし、ただの訓練ではない。

ましてや、ISの訓練でもない。

俺が最も必要としている訓練でもある。

 

「向けられている銃口は385、これがこの施設で出来る最大の数、か…」

 

マドカのビット操作をはるかに超える銃口が俺に向けられていた。

それも様々な銃口だ。

通常の拳銃(リボルバー)に、遠距離狙撃銃(スナイパーライフル)連射銃(アサルトライフル)散弾銃(ショットガン)と様々だ。

見ているだけで頭痛がしてくる。

だが、俺もこの限界点を超えなくてはいけない。

先日の二度にもわたる襲撃は、視線をそらしていたからこそ対処ができていたもの。

ようは問題の先送りだ。

 

「目を背けてはいられない、か」

 

アリーナの武器庫に備えられていた6振りの刀を腰に携え、さらに二刀を手に握る。

この訓練はドイツで行っていた対IS戦闘訓練とは別だった。

一人で銃撃戦の中を掻い潜るための訓練だ。

あくまで訓練の為、こちらに向けられている銃に詰め込まれているのはゴムスタン弾だ。

それで直撃すれば蹲るほどの痛みになるように設定しておいた。

 

「…始めようか」

 

モニターに投影されているカウントが減っていく。

5、4、3,2,1

 

スタート

 

次々に銃火が上がり、弾丸が吐き出される。

俺は縦横無尽に走りながらそれらを捌く。

目を見開き、銃弾を視覚に入れ続ける。

目でとらえた弾丸を刀で弾き、時には斬り落とす。

そうしながら向けられた銃口へと少しずつ近づいていく。

被弾は一発たりとも許されない。

 

「…くそっ!」

 

銃口に近づくたびに銃弾が吐き出されるまでの間隔が短くなっていく。

そうなるように設定したのだから当たり前だ。

それを自覚しながらも、俺は次々に銃を斬り伏せる。

余裕など最初から無い。

 

「…くそっ!」

 

ヴィー!ヴィー!

 

膝にゴム弾が直撃し、ブザーがやかましく鳴り始める。

そう、一撃でも受けようものなら、この訓練は中断させられ、初めからやり直しだ。

 

「はぁ―…はぁ―…はぁ―…!

くそっ…!」

 

モニターを確認してみると、訓練を開始してから1分20秒程度だった。

今現在の俺の限界時間にすら至っていない。

なのに、このザマだ…!

 

ボックスに入れておいたボトルの水を頭から被る。

半分ほどで中断し、残りは一気に飲み干した。

 

「まだだ…まだ足りない…!」

 

あの程度では、輝夜に頼らなければならないほどだ。

俺は…まだまだ弱い…!

 

『まだやるのか?』

 

「ああ、当たり前だ。

俺が一人で負うつもりはないけど、それでも皆に背負わせてばかりじゃいられないからな」

 

六刀を携え、二刀を握り、再度同じ設定を組み直し、訓練を開始する。

カウントが減り、0になると同時に大きく踏み出す。

ゴム弾を弾き飛ばし、時には切り伏せ、床を蹴り、壁すら足場にして疾走する。

そのまま刀を振るい、銃を切り伏せる。

背後の弾丸を感じ取り、鞘から半ば抜いただけの刀身で弾く。

散弾銃の銃口が向けられる。

右手の刀を銃口に突き込む。

そのまま暴発させる。

砕けた刀に代わり、腰の刀を新たに抜刀、右手に握り直す。

だが狙撃銃にそれを阻まれ刀を弾き飛ばされる。

やむなく再び抜刀。

 

そしてまた次々と銃弾に対処していく。

1発、2発と、吐き出される弾丸に終わりが感じられない。

斬り伏せた銃の数が150を超えた。

これでもまだ折り返しには遠い。

刀を握る手にまた力を込める。

 

「『深月』…いや、それじゃ足りない…なら…『月煌』!」

 

『深月』よりも刀を大きく振るう。

今度は15もの銃を一斉に斬り飛ばした。

それでもまだ足りない。

 

「そこまで!」

 

背後から声が響き、俺は体の動きが止まってしまった。

その直後、数えきれないゴム弾がこれでもかとばかりに直撃する。

かなり痛い。

だがその直後、俺の腹部に飛び蹴りがさく裂した。

これがしこたま痛かった。

 

 

20秒後、俺は床に正座させられていた。

この訓練場の床は堅いが、そんなことはお構いなしだった。

 

「まったく…!

発作が起きる直前にいたるまで何をしているかと思ったら無茶苦茶な設定で訓練でやっているみたいね!」

 

今日の楯無さんは槍ではなくハリセン装備だった。

ISスーツにそれって…絶対似合わないと思います。

 

バシィンッ!

 

脳天を叩かれた。

地味に痛い。

 

「…俺、何か失言しましたっけ?」

 

「失礼なことを考えたでしょう?」

 

バレてら。

よくお分かりになってらっしゃる。

まあ、なんだかんだ言ってこの人とは二年もの付き合いだ、その程度の事は出来るだろう。

 

「で、一夏君?何か申し開きはあるかしら?」

 

「いいえ、まったく」

 

なのでとっとと白旗を振るっておいた。

後々が面倒くさいことになるよりかは遥かにましだろう。

 

「楯無さんが此処にすっ飛んできたって事は…」

 

「勿論、簪ちゃんや、マドカちゃん、千冬さんも君の状態を把握しているわ」

 

…あ―、本当に面倒な事になりそうな予感…。

明日は豪華な弁当を作らないと赦してくれそうにないな、頑張ろう。

 

「で、一夏君、この無茶苦茶な設定を施した訓練は何のためかしら?」

 

「先日の無茶な襲撃、覚えていますよね?」

 

朝っぱらから…俺は別件の用事があって皆とは遅れる形でホテルから出た。

その直後にISを使った女性権利団体からの襲撃を受け、辛うじて港湾エリアにまで誘導し、全員まとめて殲滅した。

連中の身柄がどうなったかなど俺からすれば知ったことではないが、殲滅に至るまでに多くの人を巻き込んでしまったのも事実だ。

その責は俺にもあるだろう。

つかず離れずの距離を取り続けて誘導したが、もっと上手い方法があったのではないのかと考え続けていた。

その内の答えの一つがコレだった。

銃に対する対処ができるようになれば、と。

 

「あの時に射撃攻撃に対処できていれば、被害をいたずらに広げずに済んだかもしれない。

なら、今度は…今度こそは対処できるようにしたかったんですよ」

 

「最前線に立つのならことさらに、自分の身を顧みなさい。

今のあなたは死にたがりに見えて仕方ないわ」

 

「生憎と、死ぬつもりは無いですけどね」

 

「その言葉、信じていいのかしら」

 

「勿論」

 

「そう、なら…この後のお説教で君がどんな言い訳をしてくれるのか楽しみにしているわね」

 

はっはー、やっぱ逃げ出したほうが良かったんじゃね?

現にこの訓練場に千冬姉もやってきたようだ、額やこめかみに青筋浮かべ、それでありながら顔は怒りで真っ赤なようだ。

 

「どうするべきだ、コレ」

 

『…知るか、ボケ』

 

今日は相棒がやけに冷たい…。

 

 

 

我が姉貴による一発の鉄拳でアリーナの端から端にまで吹っ飛ばされ、壁に激突した後に、ヒビが入った壁面を背中に正座をさせられて説教を受けたところで解放されてから俺は訓練場の後片付けを始めた。

辛うじて受け身はとったが痛みが酷い、俺もまだ鍛え足りないのだろう。

いや、あんな鉄拳なんぞ二度と受けたくないが。

常識外れにも程があるだろう、人一人をたった一発でどんだけ吹っ飛ばしてんだよ。

 

「やれやれ、まだ手が痛む」

 

晩飯の為に、購買にて購入した魚を切ってスライスにしているが…包丁を握る右手がまだ痛む。

水で冷やしているが、この痛みは数日は残るかもしれない。

ついで背中も。

 

確かに無茶な訓練をしたもんだと思っているが、ここ最近のトラブルへの巻き込まれ具合も面倒臭い領域に入っているのも確かな話だ。

誰が予想するのか、朝っぱらから街中でISに喧嘩売られるとか。

 

「まあ、こんなもんかな」

 

魚の切り身は適当に買っておいた。

鮪に秋刀魚にカツオに鯛にサーモン、こんなものを格安で売っているからIS学園の購買は気前がいい。

さて、どんぶりにもったごはんの上に切り身を載せて豪快な海鮮丼、早速頂こうか。

 

「…やっぱまだ痛ぇ…」

 

こんなので試合は大丈夫か、俺?

 

「一夏、大丈夫?」

 

隣では簪が心配そうな視線を向けてきている。

大丈夫だといって手を振るが、それでも心配そうな目を俺に突き刺してくる。

 

「これからはキッチリ見ておくからね」

 

「訓練は監視付きになっちまうのか、こりゃあ当分無茶はできそうにないな」

 

「一夏はすぐに無茶をするから。

様子をしっかり見はるようにも千冬さんからも頼まれてるの!」

 

信用無いなぁ、俺。

まあ、あんな無茶やってたら当たり前か。

しかたない、見張られながらの訓練に勤しむことにしようか.

とはいえ、マトモな訓練、また鉄拳制裁が待っているだろうけどな。

 

「ドイツでのあんな訓練をしたら…承知しないからね?」

 

簪が額に青筋立てているのは今回初めて見たぜ。

なるほど、これはおっかない。

キレて双眸を爛々と暗く光らせるあのモードもおっかないが、今回のモードも充分過ぎるほどにおっかねぇ。

今回のような訓練も、ドイツでやってた訓練も今後は自重しておこう。

とは言っても…すでに先日実践したようなものなんだが…。

命がけの実践をした挙句にラファール数機と打鉄数機をスクラップにしちまったからなぁ…。

コアに関しては、のちに束さんが回収したようだったが。

 

「了解したよ、自重しておくよ」

 

そんな会話をしながら今日の夕飯は終わった。

さて、次に自炊するときには何を作ろうかな、と。

冬場には鍋とかやってみるのもいいかもしれないな。

 

 

 

んで、翌日の整備室にて

 

「うん、CBFで使ってた追加スラスターはまた戻すの」

 

「了解だ、じゃあ、万雷の整備に入ろう」

 

それぞれ専用機の調整に入っていた。

とはいえ、俺は皆の機体の整備を手伝っていたりする。

輝夜は整備というか…必要以上にデータを見せることを極端なまでに嫌う。

そして俺以外にデータを見せるのも極端に嫌う。

これに関しては白式だった頃の開発元である倉持技研も、ISの生みの親である束さんもお手上げ状態だ。

必要最低限度の情報は引き出せるのは引き出せるのだが、そこから先は徹底的にロックしている。

下手にロックを解こうとしたら逆に抽出できたデータが損壊したりと、なかなかのやんちゃ娘のようである。

輝夜いわく『見せたくないもん』だそうである。

『こうやってるほうが女の子っぽいでしょ?』とは余談だが。

だが、その白いラウンドベレットの下の素顔を見せてくれないとはこれ如何に?

 

こうやって俺が整備室にて輝夜にしてやれる事と言えば、それこそ各部位の出力調整だ。

リミッターを極端に嫌うという、なかなかに度胸のある輝夜だが、出力調整くらいならさせてくれる。

だが、あまり出力を絞ると、へそを曲げてしまうので要注意だ。

 

「兄貴ぃっ!こっちも手伝って!」

 

「へいよー!」

 

今日は整備室の中を右往左往している。こんな日が一学期にもあったが、今となっては懐かしい。

思えば、俺が学園の中を走り始めたのは、あの日が最初だったかもしれない。

 

「鈴の機体はまたずいぶんと攻撃的に形体移行(シフト・チェンジ)したよな」

 

「えっへへ~♪

アタシらしいでしょ?」

 

褒めてない。

ちったぁ自重しろっつってんだ。

 

「青龍刀を模したダブルセイバーを二振りに、片手持ちのブレードが二振り、そして両腕と踵、更には背面にも衝撃砲。

近接攻撃特化にも程があるだろう」

 

「兄貴に近接戦闘を鍛えてもらってたからその影響かもね~。

でもちょっと出力上げてたら担任のフラウ先生に注意受けちゃってさ、ってーわけで出力調整手伝って?

麻婆豆腐作ったげるから、さ?」

 

しゃぁねぇなぁ。

弁当抜きの刑は取りやめにしておいてやるか。

食い物につられたわけじゃない、断じて。

 

鈴の機体『神龍』は『甲龍』の頃から攻撃に特化していた。

機動性こそ白式よりも劣っていたが、パワーは格段に上だった。

俺があの日のクラス対抗戦では、速さと手数の多さ、それと『受け流し』の技術を使って真正面から受けるのを避けたからだった。

だが、『神龍』に姿と名を変えてからは、それが殊更に強調されている。

例え、同等のパワーで受け止めることに成功したとしても、零距離からの衝撃砲でブチ抜くというスタイルを取り入れている以上、鈴の現在のスタイルの前で、真正面から対抗するのは無謀の一言に尽きるだろう。

オマケに、剣術を俺が仕込んでいるのだから、それはそれで誇らしい。

 

「こんな感じでどうだ?」

 

「じゃあ、アリーナで試してみるね、また後で整備手伝ってもらうからね!

トーナメントでぶつかったら絶対に勝つんだから!」

 

「ああ、見せてみろ、お前の全力を」

 

やれやれ、アイツは忙しないね。

手を振りながら鈴は猫のようなすばしっこさで整備室を飛び出していった。

 

「お兄さん!こっちも整備手伝ってもらえませんかぁ!?」

 

今度はメルクからご指名のようだ。

だが見ればメルクの周りには見覚えのある1-3の生徒が多く集まっている。

 

「おいおい、それだけメカニックがいれば俺の出番は無いんじゃないか?」

 

「い、いえいえ、近接戦闘時のデータの調整を手伝ったもらいたくて…」

 

データの調整は苦手な方面だったが、いつまでもそのままなのはいけないので、夏休みの頃からから簪からいろいろと教授してもらっている。

そうでもしないと輝夜のやんちゃ娘具合が凄ぇし…。

 

「もともと機動性がものを言うテンペスタなわけだし、それを活かしてのヒットアンドアウェイでも悪くないと思うんだがな」

 

「でも、お兄さんから教わった剣術を無下にしたくないですから…」

 

最初は近接戦闘が苦手だということで教えていたわけだが、いつのまにか遠近両用のスタイルも慣れてきているのがメルクだ。

本人のパワーが足りない分は、他に類をみないほどに特化しているスラスター出力で補っているんだが…それでは折角の機動性が塞がれてしまっているのと同じだろう。

だが、当の本人は、剣術を学ぶのも振るうのも好きになってしまっているので、おざなりに「辞めろ」の一言を言えない。

甘やかしているわけではない、断じて。

 

「そうだな…ふ~む…なら、こっちの分が出力が余ってるみたいだから、腕部に回して、と…こんな感じでどうかな。

それとミーティオは脚部装甲にもスラスターが導入されているし、足技を使う際には、それも使っての動きに慣れてみるのも必要だろうな」

 

「そういえば脚部のスラスターってCBFまであまり使ってなかったんですよね…」

 

「よし、じゃあ早速慣らしてこい、今なら練習がてら鈴がオマケでついてくるぞ」

 

どこの古臭い通販の真似事してるんだ俺は。

 

「織斑君って面倒見がいいよね…」

 

「そうか?いたって普通だろう?」

 

気づけば1-3の生徒に囲まれていた。

 

「うんうん、女の子の対応に慣れてるって感じだし」

 

「メルクちゃんが『お兄さん』って呼んでるのも納得できるかも…」

 

「そういえば『理想のお兄さんです』って言ってたっけ」

 

「ウチの兄貴って頼りなくってさぁ、変わってほしいくらい」

 

またもや何処の誰とも知らない誰かがディスられているが、もうこの際スルーしておこう。

 

「言っとくが、兄貴扱いは辞めてくれよ、もうお腹一杯だ」

 

実妹のマドカはともかく、今年だけでも俺を兄貴扱いする奴は結構増えている。

鈴にメルクにラウラにクロエに黒兎隊隊員達と、50名オーバーで実際に本当にお腹一杯だ。

見てみろ、遠くから見ている簪だって苦笑いしてるだろう。

これ以上の妹分なんてお断りだ。

 

「兄さぁんっ!」

 

「兄上ぇっ!」

 

「一夏ぁっ!」

 

「一夏さぁんっ!」

 

やれやれ、一年生の専用機所有者がこの整備室に集っているおかげで俺は今日も今日とて東奔西走せにゃならんのか。

毎日が忙しいったらないぜ。

っつーか整備課の連中は何処で何してんだよ!?




せまる試合の日

だが、今だけはゆっくりと

走ってばかりは疲れるだろう

今だけは、ゆっくりと歩いてみるのも悪くない

次回
IS 漆黒の雷龍
『煌翼冥天 ~ 暇昼 ~』

『逃げ切る』に揚げ豆腐一つ

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