P.N.『匿名希望』さんより
A.両手両足を斬り落とされ、上半身のみのブツ斬り状態。
それを束さんと千冬が機材等を使って、辛うじて『生かしている』状態です。
黒翼天による恐怖によって錯乱とフラッシュバックを繰り返している精神崩壊状態ですが。
Ichika View
アリーナにてケイシー先輩と一触即発になりかけはしたものの、俺はそれ以降は極力かかわらないようにしていた。
相手をするのも面倒だし、それ以上にあのコロンの匂いが俺にはどうにも受け入れられなかった、鼻が曲がるほどだ。
そして…
「…しっかし、この二人もいつも以上に気合が入ってるなぁ…」
鈴とメルクだ。
今度のトーナメントにて緊張しているのか、気合を入れ直したいのかはわからないが、今日も今日とて俺を相手に木刀を振るっている。
だが、この二人に剣術を仕込んだのは俺だ。
今になって「破門だ」とか言うのも酷の一言に尽きるだろう。
っつーわけで、今日も今日とて、この二人を相手に俺も木刀を振るっている。
この二人は夏休み以降、なにかと連携を意識している節がある。
悪いことだとは思わない。
それに自分なりの戦い方とて忘れていない。
鈴は衝撃砲の使用方法が格段に向上している。
メルクの場合は、ミーティオの名に恥じない高機動を意識している。
小柄なれどもこの二人の戦闘は大人顔負けだろう。
その一部を俺が鍛えたのだと思えば少しばかりは誇らしい。
…シスコンではない、断じて。
方やラウラとマドカもそうだ。
ラウラはドイツ軍格闘、マドカは我流のナイフ捌きを見せつけてくる。
こちらの二人の戦い方も独特だ。
ラウラは女性でも扱える軍隊格闘でもある『
マドカは厳馬師範にも鍛えてもらっているから、それこそ気が抜けない。
この二人も最近は新たな戦闘法を考慮し始めている。
ラウラは機体がセカンドシフトを経験してからはナイフだけでなく剣も鍛えている。
マドカは『祈星』の形態そのままに、トンファーだとか、剣技を磨き始めている。
はては簪も剣術に目覚めている兆候が見受けられる。
『黎明』が剣の形にも変形するからだろう。
…あれ?剣術を使う人ばっかりになってないか?
まあ、いいけど。
そんな理由が有るからだろう、個人トーナメントが予定されている現在では、お互いに剣術を磨きあっている。
絶影流だったり、我流だったりと型は様々だ。
こうやって互いに互いを磨くのも悪くない光景だ。
そしてそんな光景を輪の外からニコニコとみている人もいると来たものだ。
楯無さんは相変わらずニコニコとアリーナの観客席から見下ろしてきている。
ちなみに扇子には『見物中』だそうだ、これまた無駄に達筆で。
なお、シャルロットとセシリアは別のアリーナで鍛えているようだ。
「あれ?お兄さん、今度は槍を使うんですか?」
「ああ、輝夜には様々な武装が有るからな。
ただ飛ばすだけじゃあ芸が無い、だからいろいろと使えるようにしておきたいんだ」
取り出したのは先端が三叉槍『朱羅』だ。
…取り出したのはいいが、外見と名称が暑苦しいのはこの際には無視しておく。
本来は二槍で1セットの兵装だ、だがいきなり二槍は扱えないので、片割れの槍は地面に突き刺して放置している。
「かかってこい、メルク」
「参ります!」
槍の扱い方は俺も把握してる。
二年前からそれの扱いにたけた人とウンザリするぐらい手合せしていたから殊更にだ。
槍は長物だけに、ある程度の距離をあけて戦うものだ。
だが、刀の間合いに入ってしまえば、形勢は一方的に悪くなる。
振るおうにも打撃に限定され、短う持てば隙が多くなり、なおかつ力もうまく入らなくなる。
こんなものを振るってきたのだから楯無さんを純粋に尊敬する。
叩きのめされたのは嫌な思い出だが。
「ふっ!」
渾身の力で刺突を繰り出す。
槍は重い、長物はどうにもフロントに重心が偏っているのだろう。
俺には刀以外の獲物はどうにもあわないのかもしれない。
その証拠にメルクは慣れない槍に対し、短い時間で対処ができるようになってきている。
「…もう少しやってみるか」
槍の柄で剣をいなす。
一歩後ろに下がる、メルクはそれを好機と見たか踏み込んでくる。
だが甘い。
後ろにした足を中心にして、その場で体を旋回させる。
「わひゃっ!?」
刃の無い槍の石突きがメルクの胴を掠めた。
やれやれ、こんなところで楯無さんの真似をするようになったか、俺も。
とはいえ、一歩後ろに下がったのが原因で掠めただけだったな。
「驚きました、槍の扱いにも長けてるんですね…」
「まさか、見様見真似、他人の受け売りってだけさ。
さあ、続けるぞ」
大きく踏み込み、刺突を幾度も繰り返す。
槍の重さにも慣れてきて、扱いやすく感じる。
上段、下段、そして薙ぎ払い。
そこからさらに派生させて幾度も刺突を繰り返す。
メルクも捌くのに必死になってきている。
刺突は見切りにくい攻撃だ、メルクはそれを承知している。
俺もそれを剣術を仕込んでやる際に教えている。
そしてそれに対する対処方法も仕込んだ。
それは側面へ逃れる事。
側面へ逃れてしまえば、槍は長さの分だけ隙ができる。
だが、何事も例外がつきものだ。
それを先程見せたばかり、長さが今度は速度とともに、重さをを載せて側面から襲ってくる。
ならどうするか、これはまだメルクには教えていない。
「まあ、今はこんな所で良いだろう」
慣れない武器を振り回していると剣の勘が鈍りそうだ。
「お兄さん、槍の扱いなんですけど、本当に見様見真似だったりするんですか…?」
メルクが肩で息をしながらこちらを見上げてくる。
どうやら多少なりに疑われているようだ、疑われるだなんてお兄さん心外だぞ。
「嘘じゃないさ、楯無さんがやっていたのを思い出しながらの見様見真似だったんだよ」
「あ、あの人ですか…」
ニコニコとこちらを見下ろしてくる例のお嬢様を槍で指し示す。
相っ変わらず何が楽しいのか理解できない。
朱羅を収納し、次にどの武器を用意するか考えてみる。
…また
授業内での訓練にて取り出したら周囲の生徒が蜘蛛の子散らすように逃げ出してしまったのが原因だったりする。
威力は大百足や首削よりも強力なのは認める。
だが見てくれ的には気に入っていたりするんだがなぁ、使用禁止を言い渡されたのは残念だ。
ちなみに
いや、使うつもりは無いけどな
「兄さん、次は私が」
「おう、いいぞ」
マドカはナイフ二刀流を得意としてるが、今は早速『祈星』を展開してくる。
それもグリップを連結させ、4mもの刀身をもつ大型ブレードに早変わりだ。
大剣といっても差し支えはないかもしれない。
なので俺も
…刃が駆動しないコイツなら問題は無いだろう。
「兄さん、それ凶悪過ぎだってば」
「お互いに、だろう」
マドカの祈星だって刀身がデカ過ぎる、下手に近寄らせないようになっている。
それだけでなく、射撃兵装にもなり、白兵戦ではトンファーとしても大活躍と来たものだ。
束さんが考案した『星』シリーズは、それ単体で二つ以上の戦闘方法をとることができる仕様らしい。
簪の『願星』は、薙刀とダブルセイバー。
マドカの『祈星』は小型ライフル、トンファー、大剣。
メルクの『舞星』はブーメラン、そしてスラスターに取り付けられる形の小型スラスター。
ラウラの『流星』はシールド、そして大出力スラスター。
鈴の『双星』は物理刀、更には射撃兵装として。
シャルロットの『霞星』は脚部スラスター、増設ブレードとして。
セシリアの『光星』は大出力砲撃兵装、更には腕部装甲と一体化したブレードとして。
…今思えば、各自が少々おろそかにしていた方面を意識させるかのような形にしているな…何を思っての開発だったんだか。
まあ、今から訊く気にもなれないけど。
マドカの
レーザー刃と物理刀とでは相性が悪すぎる。
加えて重量も考え物だ、マドカの祈星は刀身全てがレーザーで構築されているから返しが早い。
そしてこちらは物理刀の大剣だ、重量が結構ある。
輝夜のパワーアシストがあるから片手で振り回しているだけ。
生身でコイツを振り回そうか、なんて思ったりもしたが気の迷いでしかない。
…いや、今度試してみよう。
「そんなデカい剣でもその剣速とか…兄さん凄い!」
「ボサっとしてると負けちまうぞ!」
「負けないよ!今度こそ!」
ただ斬るだけじゃない。
「え!?」
マドカが握るグリップに引っ掛け、力ずくで引き寄せる。
左手にて雪華を逆手に抜刀し、突きつけた。
はい、兄さんの勝ちで終わりだ。
しっかしマドカも手強くなったよな、だれのお陰なんだか。
ギィンッ!
そんな風に考えている間に
日本刀を模した双刀…『双星』のようだ、なら次は鈴の出番か。
「次はアタシがいくわよ!」
「ああ、全力で来い!」
やれやれ、勝負が好きなのは知っているが、乱入上等ってか?
俺も両手に刀を握る。
右手に雪片二型、左手には雪華と、いつもの二刀流だ。
更に脚部の哭龍と月光も展開させる。
「おらおらおらおらおらぁっ!」
鈴のスタイルは青竜刀での力任せのラッシュだが、一学期半ばからスタイルが変わった…というか洗練されてきている。
本当に皆、強くなってるよなぁ。
メルクにしても、鈴にしても、簪にしても、ラウラにしても、本当に強くなってるよなぁ…背中を預けられるほどに。
「さて、俺も力を入れていこうか」
右手の刀と、左手の脇差を高速で振るいながらも蹴りを放つ。
今度は俺からのラッシュに鈴は対応してきている。
なら、更に加速させるか。
そこから決着に至るまで5分を要した。
都合30分後。
全員が伸びていた。
機体は展開解除されているとはいえ、女子が地面に大文字とは考え物だと思う。
…いや、散々乱取りしていた自分が言えた台詞じゃないんだけどさ。
とはいえ俺も疲労困憊だった。
両手持ちの武器って結構腕やら肩や腰にくるよな…。
結構絞られそうだ、この学園に入ってから俺もベルトの穴を二つほどずらすようになってるけど、まだ絞れるんじゃなかろうか。
今は俺も空を見上げながら大文字だ。
訓練終わったらシャワーを浴びようかな、自室の浴室にて。
おっと、今は簪と時間がかぶらないように気をつけようか。
と、これはいつもの事か。
ドイツでもやったが、1対多数の乱取りはなかなかにキツい。
「ISでの対戦の後には生身での白兵戦だもんな、疲れが出るのは当たり前か。
で、次は誰が相手になるんだ?」
「じゃあ、私がやっちゃおうかしら?」
楯無さんが立候補者か。
この人とはしばらくやりあっていなかったな。
白兵戦でやってみるとしようか。
「あ、言っとくけど…あの巨大なダブルセイバーをつかうのは止めてね、怖いから」
生身の相手には使う事は流石に無いだろう。
「生身で受けたらスライス確定ですよね…」
「スライス飛び越えてミンチでしょ」
「塵芥ではないか?」
メルク、鈴、ラウラ、聞こえてるぞ。
言ってることは判らないではないけどな。
「んじゃ、やりますか」
獲物はお互いに槍、そして左腰には帯刀。
「あら、槍を使うの?」
「剣ばかりでは芸が無い、飛ばすばかりではワンパターンでしょう」
「まあ、否定はしないけど、ね!」
一気に槍の間合いに入り込んでくる。
槍の刺突を側面に回避。
当然の流れの如く体を捻り槍の柄で世紺繰りにしてくる。
こちらもその打撃を槍の柄で防ぐ。流石に一朝一夕でこの人の槍捌きには追いつけない、か。
まあ、俺よりも経験が多いから至極当然な話だけども、な!
「よ、っと!」
足元を薙ぐような払いを跳躍して回避。
続けて空中に逃げた俺を追うように突きを放つ。
こりゃあ避けられそうにないな…並の方法ならな!
「嘘!?」
槍で槍を弾いたわけでもない。
剣で斬りおとしたわけでもない。
手で掴み取っていた。
「あっぶねぇ…!」
「ちょっ、待っ、きゃあぁっ!」
そして掴んだ槍をそのまま力ずくで引っ張る。
自然と楯無さんの体は引き寄せられ
「チェックメイト、かな」
その喉元に剣先を突きつけた。
「相変わらず反応が早いわね…」
「…?そうですか?」
今の俺からすればこれくらいは至極当然の事なんだがな。
確かに最初は楯無さんの槍についていけない頃もあった。
だが、今では充分に対処が出来る様になっていた。
もとより、俺の剣術は速さがものをいう。
これ位はできる様になりたいとも思っていたけどさ。
「それくらい対処が出来るようになれば『楯』を持つことを考えたりしなかったのかしら?」
「無いですね、重さで動きが鈍るし、視界が塞がれる。
持つだけ邪魔ですよ」
楯を持つことに関しては、俺は確かに消極的だ。
だから常に帯刀したとしても楯は持たない、何より邪魔だ。
周りを見てみる
成長する者
成長した者
自らの意思によるものか
それとも育てられた姿か
次回
IS 漆黒の雷龍
『煌翼冥天 ~ 剣銃 ~』
整備課の連中は何処で何やってるんだ