IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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例のイベントは原作とも違いますよ。

Q.
右手にメルク
右腕に簪ちゃん
左手ににゃんこ鈴
左腕にマドっち
膝上にラウラ

タクシー運転手が血の涙を流して睨んできても仕方ないって一夏君…。
P.N.『黒い血涙』さんより

A.
一夏「不可抗力だ…」



煌翼冥天 ~ 銃火 ~

Ichika VIew

 

醤油も仕入れ、その帰り道の道中、どうにも人の気配を感じてならなかった。

この時間帯、一般人が外を出歩いているのなら理解ができる。

だが、違う。

こちらをジロジロとみている。

観察か監視か、はたまたバイクに目を奪われているのか…最後は無いな、そういう類の視線じゃないのは確かだ。

…いずれにしても、買い物を終えてからずっとこちらを見ているのが感じ取れる。

 

「…鬱陶しいな」

 

『お前も気づいていたか』

 

やはり気のせいじゃないらしい。

この視線にはあからさまに殺気が込められている。

 

市街の公園、その真ん中に俺はバイクを停め、ヘルメットを脱ぎ、ゴーグルも外す。

 

「…そこにいるのは誰だ?」

 

バイクの展開収納スペースから蒼の長剣(クレメンサー)真紅の長剣(アヴェンジャー)を取出し両手に握る。

その剣先を暗闇に向けた。

 

「…姿を現せ」

 

言葉に返されたのは一瞬の閃光だった。

 

ギィンッ!!

 

咄嗟にクレメンサーを掲げ、襲いくる鉛弾から身を守った。

殺気はやはり間違いではなかったようだ。

そして銃撃…しかも銃声は聞こえなかった。

ともなれば消音器(サイレンサー)を搭載させた銃か…?

出だしからして相性は最悪だ、こちとら白兵戦しか出来ないってのに…。

 

「と、思っていたが正直に姿を現すとはな…」

 

暗闇の中から姿を現したのは…男か女かも分からなかった。

頭はフルフェイスのヘルメット、体は外套(マント)で隠されている。

そして火薬の臭いがプンプンする。

十中八九、銃火器のエキスパートか…。

 

「正体が気になるか…?」

 

目の前の不審者が口を開く。

だが、それは肉声にも感じられたがボイスチェンジャーを使用しているのが感じ取れた。

 

「言葉に返すのが銃弾ってのは気に入らない、かといって理由もなしに襲ってくるわけもないだろうしな」

 

「生憎、素直に正体を教えてやるほどお人よしじゃねぇんだよっ!」

 

言い終わるや否や再び拳銃の銃口を向けてきた。

銃声はやはり聞こえない。

銃口付近には筒のようなものが見える、やはり消音器搭載か!

 

「『深月』!」

 

右手の刀を真一文字に振るう。

その先端すら襲撃者には届かない。

だが、マントの一部を切り裂いた。

体つきから性別を判別してやろうかと思ったが、防弾チョッキらしきものが見えただけだった。

やはり容易に正体を拝ませてはもらえないか。

なら、そのヘルメットをとるしかなさそうだな!

 

「銃器を扱う奴に対しての対処方法は…!」

 

くそ…頭が痛くなってきた…!

とっとと片付けないと発作を起こして立っていられそうにない。

 

「って、アホかコイツは!」

 

銃身に供えられたポンプをスライドさせる音。

これは…散弾銃(ショットガン)

 

ドン!

 

派手な銃声と共に俺の周囲の木々が抉られたかのように穴があく。

人がいないから良かったものを…!

 

そうは言っても、俺は赤銅の龍『ペイシオ』に守られているから無傷で済んだ…。

だがこいつ、筋金入りで殺すことに躊躇いが無い。

しかも周囲を巻き込むことすら一切考慮していない。

…ターゲットを殺すことに成功すればそれでいい、そう考えている輩か。

 

「だとしたら…出し惜しみをしている暇も無さそうだな!」

 

両手の長剣を拡張領域に収納、同時に取り出したのは紫紺の槍(ヘリテージス)

ペイシオの背を足場に跳躍し、全力で投擲した。

一直線上に打ち出した槍は容易に回避されるが、それを考えていないわけじゃない。

蒼白の大弓『六条氷華』を同時展開。

9本の矢を一斉に射出した。

 

だが、それすら躱された。

なかなかのやり手だ…!いや、そうでなければこんな堂々と殺しに来たりはしないか。

 

「どうした、もう打ち止めか?」

 

「いや、まだだ!」

 

着地と同時襲撃者へ向かって走り出す。

大弓は収納、腰の(バルムンク)とナイフを抜刀する。

襲撃者が続けて取り出したのはアサルトライフルだった。

どんだけ持ってきているんだ、コイツは…!

いや、こいつはISを所有している。

そうでなければこんな重量を無視したかのような動きは見せられないだろうし、外套一つで隠しきれるわけもない。

だが、ISを所有しているのなら襲撃者は女と見ていい。

 

「ちぃっ!」

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!

 

再びペイシオを回り込ませ、弾丸の嵐から身を守る。

しかし、拳銃はともかくとしてショットガンにアサルトライフル、この市街地付近で何つー武器を振り回してやがんだ、あいつは…!

弾切れになった途端にライフルを投げ捨て、新たなアサルトライフルをぶっ放す。

弾込めのすきを狙ったやろうかとも思ったがその隙すらない。

ペイシオの陰に隠れてすきを窺うも意味をなさないようだ。

だったら…!

 

「こっちも…殺すつもりで挑む必要がありそうだな!」

 

襲撃の理由は死体漁りで見つけてしまえばいいだろう。

その覚悟も無いようであればこっちが殺されるだけだ。

拡張領域に収納している兵装を片っ端からコール。

空中に抜刀した状態で待機させ、順次射出させる。

そちらが鉛弾なら、こちらは刀剣だ。

刃が雨霰と降り注ぐ中、俺は両手の刃を再び強く握る。

襲撃者は降り注ぐ刃の対応しきれていないらしく、回避で手が一杯のようだ。

 

「絶影流…!」

 

両手の刃を逆手に握り直す。

右手の刀で殴るかのようにして払う。

続けて左手のナイフを下段から振り上げる。

右手の刀に順手に握り直し、そのまま返すようにして真一文字に切り裂く。

大きく踏み込み、左手のナイフをそのまま逆手の状態で落とすようにして振るい、襲撃者の右足に串刺しにした。

 

「か…!?」

 

「『鳴月(なりづき)』!」

 

最後にトドメとばかりに顔面…とまではいかなかったがヘルメットのバイザー部分を回し蹴りを叩き込んだ。

その一撃で襲撃者の体は吹っ飛んだ。

だがそのまま逃すわけにもいかず、左足を踏み、更には喉元に刀を突きつける。

 

「さてと、そのまま顔を拝ませてもら…」

 

うわけにもいかなかった。

 

「死ね、織斑一夏!」

 

新たに展開され、俺の鼻先に突き付けられたのは…擲弾銃(グレネードランチャー)だった。

アホかコイツは…!

市街地で使うものじゃねーだろうが…!

 

「チィッッ!!!!」

 

引き金が惹かれる瞬間に身を捻って避ける。

不快な火薬の臭いと、突き抜けるかのような衝撃に俺の体は倒れた。

だが受け身を取ってすぐに起き上がる。

 

「逃すか!」

 

襲撃者は銃身が長い拳銃…メーターモーゼルをこちらに向けている。

俺も先日まで使っていたナイフを抜刀し、投擲した。

刃の先端が銃口に突き刺さるのと、引き金が引かれるのは完全に同時だった。

異物が混入した銃身のなか、弾丸は行き場を無くし、その中で火薬を炸裂、そしてそれは銃に収められている弾丸にまで影響したのだろう。

連鎖的に、爆炎が発生した。

早い話が銃の暴発だ。

 

「ぐ…ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!」

 

襲撃者がとうとう膝を着いた。

見れば右手が手首から失われている。

ありゃあ痛そうだ。

…銃器を扱う輩への対処方法をラウラや千冬姉から学んで正解だったな、しかし。

 

「こんの…クソガキが…!」

 

左手に新たに握られていたのは…手榴弾…!

自爆か!

 

一気に離れた直後に襲ってきたのは強い閃光だけだった。

それ以降は銃撃も衝撃も感じない。

どうやらただのフラッシュグレネードだったようだ。

 

『逃げられたようだな』

 

「みたいだ、だが収穫はあった」

 

銃が暴発した直後に撤退を考えていたらしく、グレネードを使うことに躊躇が無かった。

だが、襲撃者の証拠はこの場に残っている。

 

「見ろよ、あいつの右手の指だ。

前科者ならどこぞにDNA情報とかが残されているんじゃねーのか?

そこから何処の誰かまでが特定出来るだろう」

 

襲撃の理由は何だか知らんが、先に襲撃者の正体を拝ませてもらおうか。

だが、その前にとっととこの場から離れた方が良さそうだな。

ドンパチやらかしたせいで騒ぎになりつつあるようだ。

オマケに先のグレネードランチャーの爆発のせいで近隣の家が崩壊しちまってる。

…物静かな市街地が今日限りはお祭り騒ぎになりそうだ。

それも悪い意味で。

 

「…とっとと逃げるとしようか」

 

再度バイクにまたがり、公園から逃げ出すことにした。

これじゃあどっちが襲撃犯だかよく判らんようになる考えだとは自分でも思っていたりする。

だとしても仕方ない、面倒事に巻き込まれるのはゴメンだ、…もう手遅れかも知れないが。

 

 

 

 

その帰り道の道中、俺を探しに来たらしい簪と楯無さんと遭遇した。

襲撃を受けたことを知ると、全員を家から市内のホテルに移動させられた。

 

「で、襲撃を受けたというのは本当か?」

 

ホテルのラウンジにて軽い審問を受ける羽目になった。

まあ、市街地でドンパチやらかすアホが居たのは理解してもらえたが、その現場に俺が居たのは更に別の問題だったらしい。

不可抗力なんだがなぁ…。

 

「事実だよ、買い物の帰り道、襲撃を受けた。

相手は一人、それも銃火器のエキスパートでIS搭乗者の女だ。

正体は判らなかったよ、顔はヘルメットで隠し、声もボイスチェンジャーを使っていたみたいだったからな」

 

黒翼天の援護が無けりゃあ死んでいただろうが、黒翼天(コイツ)を暴れさせてしまえば市街地に殊更に被害が及んでいたな。

 

「でも、市街地で銃撃してくるなんて…」

 

「正気の沙汰じゃありませんわよ…」

 

「まったくだな、ここは中東国家じゃないんだぞ…」

 

シャルロットもセシリアもマドカも絶句しているような顔だ。

 

「散々な誕生日になっちまったな、一夏」

 

「言うな、気が滅入る」

 

「お兄ぃ、不謹慎過ぎ」

 

そして向う脛を蹴っ飛ばされ悶絶する弾だった。

ご愁傷様だ。

 

「まあ、自宅では何をされるか分かったものではない、今日はここに宿泊しろ。

明日のHRには間に合えよ」

 

「千冬姉、その前に渡しておくものがある」

 

「…?何だ?」

 

俺は懐に入れておいたソレを投げ渡した。

ブツがブツだけにビニール袋に入れておいたが、千冬姉はそれをみて顔を引き攣らせた。

うん、まあ気持ちはわかる。

 

「襲撃者に関しては情報は手に入らなかったが、手掛りになるものは回収しておいた。

襲撃者の右手の指だ、前科者ならどこぞにDNA情報があるかもしれない、調査を頼んでもいいか?」

 

「束に言ってやらせておこう」

 

DNA情報が手に入りさえすれば誰かなのかまでが特定も出来るだろう。

後手に回り続けるのはもう嫌だった、今度は此方から仕掛けてやるよ、どこかの誰かさん。

 

「五反田、お前たちは自宅に戻れ。

当然の話だが、今夜のことは他言無用だ」

 

「判ってますって、じゃあな一夏」

 

千冬姉のその一声により今夜はお開きとなった。

 

「それから専用機所有者はこのホテルに泊まっていけ。

襲撃があっても対応できるようにしておけ」

 

それから俺は千冬姉の指定した部屋にて体を休めることにした。

 

「今日一日だけで色々とありすぎるだろう…」

 

CBF、襲撃、そして夜間の襲撃、なんでこうも色々と起きるのやら。

楯無さんは俺のせいではないと言ってくれているが、どれもこれも俺を中心に舞い起こっていることばかりだ。

 

「辞め辞め、殊更に気が滅入る。

もう寝ちまおう。っと、その前に」

 

携帯を開く、待ち受け画面には、二年前に空港で撮った写真がそのまま収められている。

そのまま慣れた操作で呼び出した番号は…簪だった。

数回のコール音の後に

 

『どうしたの一夏?』

 

聞きなれながらも愛しい声が聞こえた。

 

「いや、なんか寝付けなくてさ」

 

『私も、色々と起きすぎてて整理がつかないかな』

 

こうやって通話している間、簪以外の声が聞こえてくる。

そしてドタバタと騒がしい音が聞こえてくる、何をしているんだか。

 

「そっちは今は何をしているんだ?」

 

『鈴を中心に枕投げしてる…』

 

そりゃまた夜に何やってんだ、そこは旅館じゃなくてホテルの部屋だろうに。

あ、騒ぎ過ぎて山田先生が来たみたいだ。

…お説教コース間違いなさそうだな。

 

「ホテルの客室でアグレッシブな事をしてるなぁ」

 

『今日の事で不完全燃焼だったんだと思う。

大会が滅茶苦茶になっちゃったから』

 

まあ、そりゃあ確かにな。

 

「じゃあ、明日の朝に会おう」

 

『うん、学園で待ってるからね』

 

 

 

Laura View

 

兄上からの連絡に姉上は嬉しそうにしていた。

あの横顔から察するに…満面の笑みだった。

 

「っと、今度は私か」

 

鈴と本音が山田先生に連行されていった後、メルクにも連絡が入り、何やら通話をしていた。

メルクいわく、明日からも剣術の特訓をつけてもらえるのだとか。

 

「私だ、兄上」

 

『夜分遅くにすまないな、連絡をしておこうと思ってな』

 

「律儀なのだな、兄上は」

 

『まあ、鈴には連絡がつかなかったんだが…何やら連行されていったらしいからな』

 

夜分に騒ぎ過ぎたんだ、あいつと本音は。

 

『今夜の襲撃の際なんだが…すまんなラウラ。

二年前にもらったナイフ、木端微塵に砕け散った』

 

あのナイフが?

それは構わないが、何があったのだろうか?

 

「どんな使い方をしたんだ?」

 

『メーターモーゼルの銃口に突っ込んで銃を暴発させた』

 

またアグレッシブな使い方をしたものだ…人のことを言えないではないか。

だが、おかげで兄上が助かったのなら、私としてはそれで良かった。

 

「なら、そのナイフは退役だな、兄上とともに戦ってきた戦友だ、称えてやってくれ」

 

『ああ、そうするよ。

それから新しいナイフを使わせてもらうよ』

 

「うむ!」

 

その時点にて通話は終わらせた。

明日の朝には兄上も学園に来るだろう。

…む?我々は市内のホテルに泊まっているが、朝食はどうなるのだろうか?

学園の食堂の開放時間に間に合わないのではないのだろうか?

…姉上やマドカに頼んでみるとしようか。




銃火は途絶えない

翼はその衝動は止められない

朝日の中、少年は走る

新たな面倒事と一緒に

次回
IS 漆黒の雷龍
『煌翼冥天 ~ 厄朝 ~』

予想外の出来事ってのは予想以上に巻き起こるもんだな…

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