IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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寒くなってきましたね。
凍えてます。

Q.一夏君ってば、簪ちゃんと鈴ちゃんがワイシャツ羽織っただけの姿を見たのに、なんでそんなに反応がうっすいのさ?
P.N.『貧血低血圧』さんより

A.
一夏「マドカで見慣れているから、それと楯無さんが『ビキニエプロン』で部屋に突撃とかしてくるから耐性が出来てるんだろうな。
千冬姉もプライベートじゃズボラでラフな格好でリビングで寛ぐのは、いつもの事だったし。
それに黒兎隊とか、隊舎では下着姿でうろついてたからな…。
早い話、日常としか…」


征天雷禍 ~ 憎悪 ~

ガシャアァァァァァンッッッ!!!!

 

荒野に隠された秘密のラボ、そこでその音は響き渡った。

 

「織斑、一夏…こんどこそ、今度こそ殺してやるわ…!」

 

人が入るかのような巨大なカプセル…否、彼女の肉体は直前までその培養槽の中に閉ざされていた。

既に彼女にとって『肉体』は『容器』に過ぎなかった。

全身を機械に入れ替えた彼女は、あの忌まわしい研究員のレポートの一部を奪い、それを現実のものに変えていた。

たとえ現在の肉体が死を迎えたとしても、己の意識を電気信号に変換し、自身の細胞から培養し、作成された新たな肉体に移し替える技術を手にしていた。

彼女は…死すらも超越した…筈だった。

 

「何よ、コレ…!?」

 

裸の皮膚に感じる熱。

肺に感じられる熱い空気。

双眸を開き、周囲を見渡す。

 

この場所、ラボは彼女だけが知る秘密の場所でもあった。

愛する恋人、オータムにすら秘匿していた。

 

だが、そのラボのすべてが…炎に包まれていた。

 

自分にとっての『ストック』である今後のための肉体を培養する培養槽は片っ端から割られ、その内部に保管していた肉体は無残に切り刻まれていた。

 

「そんな、なんで…!?

この場所は誰にも知られていない筈なのに!?

此処を作るのに何年掛かったと思っているのよ!?」

 

当然、世界の技術から数十年、数百年は進んでいるであろう技術を実用化したこの設備は易々と作れるものではない。

それを誰にも悟られることなく築き上げた手腕は、彼女だからこそと言っても差し支えはなかった。

だが、そのすべてが水泡に帰し、炎によって蹂躙されていた。

 

『困るのだよ、スコール君』

 

ラボの一角、モニターの方向から声が聞こえ、彼女は視線を向ける。

モニターには、あの忌まわしい研究者二人がノイズ混じりに映されていた。

 

『イタズラにコアを消費したのではなく、奪われてしまっているじゃないか。あれらのコアでどれだけの研究が出来た事か。

それに我々が開発したそこのシステムを動かすためにどれだけのエネルギーが必要になっているのか、君は考えたことがあるかね?』

 

「この有様はアンタ達の仕業だというの!?」

 

『これは一つの懲罰よ、自分にはもう後が残されていないのだということを…身を以て噛みしめなさい。

それと、貴女に代わる実働部隊ももう用意ができているのよ。

貴女がくたばったら組織内で公表ができるわ』

 

『そして最後に二つ。

組織の本部だが、場所を変えたのだよ。

過去の本部は、今君がいるその場所と同じようになっているからね。

そして…組織の総帥だが…』

 

ドォンッ!

 

その言葉は続けられる事も無く、モニターは炎に耐えられず爆散する。

 

「あ…ああ…あああ…ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!」

 

彼女は震え上がっていた。

死をも超越した存在になれたのだと思い、恐れる物すらなくなっていたた彼女が、今になって恐怖に震えていた。

この場所をアッサリと突き止められ、自分の肉体のストックすら失った。

文字通り、彼女には後が残されていなかった。

次に肉体が死を迎えたら、全てが終わってしまう。

その恐怖に…

 

「許さない…赦さないユルサナイゆるさない…!」

 

炎によって爆散したモニターが崩れ落ちる。

だが、その後ろには、悪魔が鎮座していた。

白にも黒にも染まれぬ狭間に位置する色を纏う悪魔が。

 

「殺してやる…あの二人を…そして…織斑一夏…!

お前たちさえ居なければ…!」

 

そして彼女は全身装甲の機体を身に纏う。

悪魔は目覚め、翼を広げ、空へと飛び立つ。

 

その日、世界地図から一つの都市が名前を消えた。

 

僅かに生き残った生存者は口を揃えて語る。

 

『冥王は実在した』と

 

 

 

 

 

 

 

Ichika View

 

競技場から出ようとした際に、学園行きとは別、しかも千冬姉に無理やりにタクシーに放り込まれた。

…いや、学園まで自分の足で走っていくハメになると思っていたんだけどな…。

しかも千冬姉に追いかけられながら。

 

「そうなると思っていたんだけどな…」

 

俺が乗せられているのは後部座席、更には簪、マドカ、メルク、鈴、ラウラも乗っていて人数オーバー気味だ。

しかも俺は後部座席の中央だ。

右手はメルクに掴まれ、右の二の腕は簪に掴まれ、左手は鈴に掴まれ、左の二の腕はマドカに掴まれ、膝の上にはラウラが跨っている。

前が思うように見えないのは仕方ないんだが…一瞬見えたルームミラーに映った運転手と言えば、俺に凄ぇ視線を向けながら血の涙を流していたよ。

俺が一体何をした?

 

俺達が乗っているタクシーの後方には、さらに後続車両、それもまたタクシーなんだが…その中身が 問題だ。

千冬姉がこっちをに睨んできている。

「途中で降りたら斬る」と言わんばかりだ。

…面倒だから下りたりしないけどさ。

行先がどこだか知らんが、このまま乗っておこう。

 

「今日は大変でしたね」

 

「だな、でもようやく落ち着ける」

 

「毎年こうだと学園の信頼が落ちそうだな…」

 

「まあ、運が悪かっただけよ。

悪いのはこういうイレギュラーを引き起こす連中だって」

 

後部座席ではいつもの面々が左右と真正面から言いたい放題だ

イレギュラーというのなら俺とて同じなんだがな…。

俺が何故ISを動かせるのか、検査を幾回か受けたが、相変わらず理由は不明。

俺自身も首を傾げたが、俺が答えを出せるわけでもない。

…今後の俺はどうなるのかも不安だな。

 

「着くまで寝るか…」

 

何にせよ、体に極度の疲労がたまっている気がした。

…あれ?何か忘れてる気がする…。

まあ、いいか。

 

 

 

Madoka View

 

「あ、兄さん寝ちゃってる」

 

私たちが雑談していたのに、それすら気にしていないほどに眠っていた。

しばらく前まで眠っていたのに、よく寝るなぁ…。

 

「検診では、『極度の疲労』って言ってたっけ」

 

「あれだけ暴れまわっていたんだ、無理も無いだろう」

 

「兄貴自身じゃないんだけどね」

 

私も簪も苦笑していた。

会場では兄さんは無人機を相手に大立ち回りをしていた。

それこそ

一人で無人機のほとんどを相手にしていた。

言ってしまえば、執拗に兄さんだけを付け狙っていたことになる。

確かに身柄を狙う国や企業は多いだろう、でも、あれだけの人の前でそれをやろうとするなんて…。

 

「あと10分くらいで到着するらしいけど…それまでに起きてくれるかな?」

 

「それより一夏自身、今日が誕生日だってことを忘れてる気がする」

 

…あ~…ありそうな気がする…。

一昨年はそれで姉さんと一晩追いかけっこになったらしいし…去年は自分よりも私の誕生日として優先してたし…いや、今年もそうだったけど。

誕生日っていうのをあんまり自覚してないんだろうなぁ…。

姉さんの誕生日は料理で祝っていたのに…。

 

「お兄さんらしいというか、何と言うか…」

 

メルクも苦笑いだった。

でも、世間で自分の誕生日を忘れる人なんてそうそういないと思うんだけどなぁ。

 

「鈴、携帯がなってるよ」

 

「と、メールみたいだわ」

 

中央に座っている鈴の携帯電話の画面を皆で一緒に覗き込む。

ラウラもメルクも立ち上がっていたけど

 

ガタン!ゴン!

 

車体が揺れてその二人が車の天井で頭を打った。

正に脳天直撃だったらしい。

二人一緒に頭を押さえて蹲っていた。

 

「…~!」

 

「痛い、です…!」

 

何やってんだか、いや、不可抗力だろうけどさ。

 

「弾も蘭も到着してるってさ」

 

鈴に届いたメールは弾からだったらしい。

今頃は私達の家で、準備を万端にしてくれているのだろう。

友情とかに篤い奴みたいだし。

 

 

 

Kanzashi View

 

タクシーが目的地に着いてから皆で一夏を起こす。

 

当の本人は、到着した場所を見て少しだけ驚いていた。

 

「…なんで自宅?」

 

本当に反応が微妙だった。

 

「いっく~ん!」

 

「ぼふぅぁ!?」

 

突然飛びついてくる篠ノ之博士、そしてその後ろからは弾君達。

それに本音に虚さんも一緒。

一夏の知り合いがかたっぱしから集合していた。

 

「…何でここまで集合してるんだ?」

 

「今日は一夏の誕生日でしょ。

だからそれを祝いに来てるの」

 

「俺よかマドカの誕生日を祝ってくれても良いと思うんだが」

 

それも踏まえて一緒に祝おうとしてるのに…。

 

 

「さあさあいっくん!主賓はこっちに行っちゃおう!」

 

やや不満は残っていたけれど、一夏はそのまま博士に引きずられていった。

…でも靴くらいは脱ごうよ…。

相変わらず突拍子がない人だなぁ。

 

 

 

 

Ichika View

 

引きずられていく途中で何とか靴を脱ぎ、玄関に置いてから全員で来たのはリビングだった。

何つーか…見知った顔が揃い踏みだな。

厳さんに蓮さん、弾、蘭の五反田一家。

数馬、鈴の悪友。

ラウラにメルクに簪といつもの面々。

厳馬師範と奥方の重鎮夫婦。

更には千冬姉と山田先生と1-1の教師も。

そして篠ノ之シスターズ。

…なんか篠ノ之は久し振りに見た気がする。

何かあったのか、目印代わりのポニーテイルから髪型を変えている。

その長い髪はうなじで一括りにしている。

 

「心機一転、か?」

 

「…ああ、少しだけ見えた気がするんだ。

今まで見えなかった何かが…。

それと…今まで、本当にすまなかった…」

 

「道を見つけたのならそれでいい、あとは前を向いて歩いてみろ。

不安になったら立ち止まってみるのも悪くはないかもしれないぞ」

 

「…ああ、そうしてみる…」

 

この対応が正しいかどうかは俺自身にもよくわかっていない。

判断できるのは今ではなく未来で、だろう。

でも、名前で呼ぶのはまだまだ先になりそうな気がした。

 

 

 

篠ノ之との会話を打ち切りにしてからはまた騒がしい時間に襲われることになった。

バースデーケーキが2つも用意されていたり、それに刺さっている蝋燭の火を消すのにマドカが苦労して皆を笑わせたりとか。

 

「鈴さん、マドカちゃん、それと私からのバースデープレゼントです!」

 

最初にプレゼントを渡してきたのはメルク、鈴、マドカからだった。

それは『アルバム』だった。

中には写真が幾枚か収められている。

…新聞部連中からもらったんだな、コレは…。

だが、いい写真だった。

写真の中では、皆が笑顔になっていたり、訓練時の真面目な姿が写っていたり様々だ。

だが…

 

「途中からは写真が入ってないな」

 

「これから入れていけばいいと思いまして、今回もみなさんそろって写真撮影なんて如何でしょうか?」

 

それも良いかもしれないな。

この後、皆で写真を撮るとしよう。

 

「ありがとうな、メルク」

 

感謝の言葉と一緒に頭をなでてやる。

そうするとメルクは擽ったそうに目を細めた。

…猫みたいな奴だと思ったのはここだけの話だ。

 

 

「兄上、私かもプレゼントがあるのだが、それは最後に渡す」

 

後続のラウラからは…前例の如くナイフだろう。

二年前に俺が一か月間世話になった後、餞別にナイフを渡してきたし、昨年の誕生日にもわざわざ国際郵送までしてナイフを送ってきていたりする。

簡単に想像がつくぞ。

 

「兄上が使っているナイフも長い間使われて傷が目立ってきていると思って、新しいナイフをオーダーメイドしておいたんだ」

 

「それは感謝するが…今度は抜き身で渡そうとするなよ、せめて鞘も一緒にしとけよ」

 

これでは抜身の包丁を手渡されるのと何も変わらない。

危ないだろう。

言われてからラウラは分かったと言わんばかりに頷く。

言っておかないとまた抜き身で贈ってきたな。

 

 

「僕たちからはコレだよ。

じゃーん!」

 

セシリアとシャルロットから渡されたのは…コートか?

冬用のコートだった。

まあ、この二人も俺の体の傷を一度は目にしているからだろう、長袖のものをチョイスしていたようだった。

 

「冬には温かく過ごせるように手袋やマフラーも用意していますわ。

もちろんイギリスの名門ブランド品ですの♡」

 

「ブランド品、ね…。

今までそういったことは気にもしたことがなかったんだがな」

 

マドカが視線にて「着ているところを見てみたい」とかたってくる。

メルクも鈴もラウラもだ、…女子ってのはブランドに目がないのだろうか。

…解せぬ…。

 

「…後日着てみるよ」

 

視線がウザったいので先延ばしにさせていただいた。

 

 

 

「私からは、コレ」

 

簪が差し出してきたのは、手編みの手袋とマフラーだった。

気が早いなぁ、まだ秋になったばかりだと思うんだが。

 

「コレならみんなからのプレゼントとは被らないと思ったから」

 

「ずいぶんと時間がかけてくれたみたいだな、今度から使ってみるよ」

 

手編み…しかも刺繍から察するに、簪が自分で編み上げたものだろう。

世界に一つのオーダーメイド品だな、大切に使わせてもらうとしよう。

 

「刺繍は、お姉ちゃんが考えてくれたの」

 

「成程、姉妹の合作か」

 

だが、考えただけなんだろうな。

あの人、編み物が苦手だからな、何度も俺に手伝わせていた記憶があるよ。

まあ、それは今回は忘れておこう。

 

 

 

「束さんと、くーちゃんからもプレゼントがあるよ!

さあさあ外へ行ってみよう!」

 

相変わらずテンションが高い束さんに引っ張られて連れ出された場所は家の庭だった。

ここに何かあるかのように言うが、庭には何もない。

 

「さあ、御開帳!」

 

かと思えば光学迷彩が搭載された特大サイズのコンテナだった。

しかも簪達に新しい兵装を渡す際に使ったコンテナよりもさらにデカい。

そしてその中に入っていたのは…大型バイクだった。

しかもフロント部分は…何だコレ?

膨らむかのように開き、何かを収納するかのようなスペースが搭載されていた。

 

「私が考案した次世代型ISに搭載予定である『展開装甲』を応用して、収納スペースを設けてみたんだ♪

そして今日、協議に使っていたバイクはプロトタイプだったけど、これこそが完成版!

ちなみに、至近距離からショットガンを発砲されても傷一つつかないほどに頑丈な作りになってるから!」

 

「頑丈なのは構いませんが、フロント部分には『何を』収納するスペースとして作っているんですか、コレ」

 

「いっくんのシンボルでもある刀剣を入れるようにしてあるんだよ!

最大で刀や剣を8振りまで入れられるようにしてあるからね」

 

バイクで疾走しながら刀剣を振り回せとでも言いたいのか、この人は?

…できないこともないだろうけど、それよりかは輝夜を展開したほうが早いだろう、速度的にも。

 

「あ、二人乗りもできるサイズだから心配ないよ」

 

…心配してるのはソコじゃねぇ…。

まあいいや、受け取っておこう。

バイクなら乗り回してるんだし、しかも二人乗りで。

しかし車輪もデカいなこれ、馬力はどんだけあるんだこの化け物バイク。

 

「…まあ、興味はあるかな」

 

俺だって男の端くれだ、こういうものを目にしたら気分が高揚してくるのは、断じて悪いことではないだろう。

前面の刀剣のホルダーには、使用頻度の多い刀剣である『黒条こくじょう』『黒羽くれは』を収納。

続けて黒金の長剣『ヴォリーショナル』と、真紅の長剣『アヴェンジャー』、蒼の長剣『クレメンサー』を収納。

それと、鉤爪の大剣『イーブルワン』も入れておこう。

更にはいつも腰に携えている愛刀『バルムンク』と無銘のナイフを差し込んでおく。

 

「『男のロマン』とか考えてない?兄貴?」

 

「ニヤニヤしながら妙なことを言うな」

 

「でも否定はしないんだ?」

 

ほっとけチクショー!

 

早速バイクのシートに跨り、ハンドルを握る。

ペダルだのを 踏んでみるが高さも申し分なさそうだった。

なるほど、束さんお手製のオーダーメイド品といったところか。

 

「んじゃ、軽くひとっ走り行ってくる」

 

エンジンを点火し、俺はグリップとペダルを踏み、新調された改造バイクを走らせ―――

 

「待たんかこの馬鹿者!」

 

出席簿で派手にブッ叩かれ、バイクから引きずりおろされるのだった。

刀剣の回収はキッチリやっておいたさ。

 

「こんな時間からどこに行くつもりだ馬鹿者」

 

ですよね~。

もう夜になりつつあるこの時間。

色々と騒動が有ったっぽいし、これ以上は必要以上に外に出るのも良くないだろう。

…まあ、今日は家で休んでおこうか。

 

「さてと、時間も時間だし、今日は誕生日パーティの礼に何か一品作るよ。

なにかオーダーはあるか?」

 

なお、オーダーの結果は…というよりも多数決の結果は

 

「肉じゃがか…でも醤油切らしてるな…仕方ない、買ってくるか」

 

「バイクに乗りたい、というのが本音だろう」

 

とは千冬姉の指摘、否定はしないけどさ。

だからお前らなんだその眼は。

 

「んじゃ、醤油を購入してくるよ。

ついでにバイクならしとく」

 

全員から妙な視線を向けられた。

言いたいことがあるならハッキリ言え。

 

 

 

 

早速バイクにまたがり、ヘルメットとゴーグルを装着。

このバイクのサイズなら二人乗りも確かにできそうだと思う。

今度早速、簪を誘ってみようか。

 

「よし、じゃあ出発」

 

かるく慣らしておくつもりだったが…このバイク、結構なじゃじゃ馬だった。

速度もそうだが、見てくれ以上にハンドルが軽い。

大型にもかかわらず、この操縦のし易さは見事なものだった。

やろうとは思わないが、このバイクでウィリーとかもできそうな気がする。

いや、やらないが。

束さんには当分の間、足を向けて眠れそうにないな。

 

 

 

 

Tatenashi View

 

CBFが終わってから多少の面倒事はあったけれど、私は久しぶりに一夏君の実家に訪れていた。

けど

 

「あら?一夏君は?」

 

「醤油を切らしたから買いに行ってくるって言って出かけました。

簪さんも付き添いをすると言っていたんですけど、お醤油だけの購入だからということで一人で」

 

「ふ~ん、そうなの…じゃあ近所のスーパーかしらね?」

 

メルクちゃんの言葉にこの近所一帯の地図を頭に思い浮かべてみる。

私も一夏君の家には幾度か訪れたこともあり、ご近所の構図は頭に入っている。

スーパーまでならさほど距離も無いし、大丈夫、とは思うけれど…。

 

「簪ちゃん、一緒に一夏君の迎えに行きましょ」

 

「うん、そうする」

 

今日だけでも色々とあったんだもの、心配しても心配しすぎにはならない筈だった。

何事も無ければ、そう思って何度裏切られたことだろうか。

今度こそ、こんどこそこの予感が杞憂であればと、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

Ichika View

 

「ありがとうございました~」

 

そんな感情もこもっていない機械的な声を背にしながら、俺はスーパーから駐輪場へと向かった。

マニュアル通りの接客対応ではあったが、あれでは今時の女子高生IS学園の一年生にも劣るだろう。

学園祭の時には、セシリアがマナー講座の講師をが迂遠の外から呼び寄せ、指導させたものだから、そん所そこらのバイトかぶれよりも丁寧な接客対応ができていた。

まあ、俺は基本的に全面的に裏方だから無用でいられたが。

 

「さてと、帰ってからは肉じゃがを作らないとな」

 

醤油以外の材料は冷蔵庫の中にあるのだから作ろうと思えば短い時間で作れるだろう。

駐輪場のなかでも俺のバイクは嫌でも目立っていた。

とはいえ、このバイクに気がはやっているのもまた事実だ。

男ならだれしもこういうバイクには気が立つものだろう。

 

キーを回し、エンジンを点火。

ペダルを強く踏み込み、発進させた。

戻ろう、みんなが居る場所に。

 




闇からの襲撃者

それは一人だけではなかった

安らぎは長く続かない

平穏など、ただの欠片でしかないのかもしれない

ユルサナイ

その言葉を抱いて

次回 
IS 漆黒の雷龍
『煌翼冥天 ~ 銃火 ~』

…アホか、コイツは!

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