IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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もう少しでCBF編はお終いです


征天雷禍 ~ 連鎖 ~

Chifuyu View

 

会場は惨劇の場となっていた。

無人機による襲撃で、観客席はかろうじて損傷はしていない。

その代りと言わんばかりに会場の外が惨劇そのものだった。

襲撃を企てた『スコール・ミュ-ゼル』と呼ばれる人間のせいで、一時街は火の海になっていった。

それも二時間経過してようやく駆けつけてきた消防車などによって鎮火させられている。

観客達も、地下シェルターにこもっていたことで、学園の生徒、来賓なども含めて無傷との事だった。

だが…体の全体を大やけどでおおわれている襲撃者。

そして…無人機と戦う一夏の姿を見られてしまった事だった。

 

一夏が次々と刀剣を呼び出し、無人機…それもIS相手に生身で戦い、圧倒していたその瞬間を、観客の一部に見られてしまった。

『ISを超えるものはISしか存在しない』

そういわれているこの世の中で、そのISを生身で圧倒し、なおかつ容易に撃破した。

これは世界の常識を大きく覆すものだった。

知られてしまえば最後、一夏の身柄は非常に危うくなる。

今でこそ日本代表という肩書こそ持ち合わせているが、それを無視して連れ去ろうとする馬鹿が少なからず出てくるはずだ。

 

「遠慮というものを知らなさすぎるだろう、コイツ(黒翼天)は…」

 

ISの自我に体を乗っ取られているなどといっても信用する国などそれこそ皆無だろう。

逆に、モルモットにしようと企てる輩が増えるだけだ。

あのスコール・ミューゼルと同じように…。

 

あの体捌きはそんじょそこらの訓練で身に沁みつくものではなかった筈。

ドイツに滞在していた頃に、それこそ対IS訓練をしていたのだろう。

だが、生身で複数のISを圧倒していたのは…?

 

「…束、解析結果はどうだ?」

 

「ちーちゃん、焦りすぎだよ。

 

もう少し待ってよ、いっくんの診察結果ならもうすぐ出るからね」

 

簪が一夏を連れて戻ってきたが、あれからずっと気絶した状態が続いている。

もうじき夕方が来るにもかかわらず、コイツはその双眸を開こうとしない。

…一夏の身に何が起きているのかがわからない。

こんなにも近くにいるというのに…あの日の恐怖と怒りを知ってもなお、私にはその痛みは私の手に収まりきらないのかもしれない。

 

「…自らの身を引き裂くほどの…心を壊しかねないほどの怒りと憎悪…。

捨てなければならなかった記憶、か」

 

「そのきっかけになったのが二年前の事件、怒りと憎悪、人格を崩壊させかねないほどの殺意。

『生き残るために殺す』のではなく『殺すために生きよう』とした。

でも、怒りや憎悪を…記憶の呼び水ともなりかねない感情や心、それらを自ら切り離す事で…そうでもしなければ自分を保てなかった。

箒ちゃんとは正反対だね。

あの娘は『他人を否定しなければ自分を保てない』、けど…いっくんは『自分を否定することで自分を保った』」

 

「殺戮衝動とともに沸き立った生存本能をも捨て去ったのは…この際、とやかく言うまい。

…それ相応の理由があったのだからな…」

 

束の高速タイピングがようやく終わる。

掘削機を使っていたのではないのかと思わされるほどの音だっただけに、それが止まると部屋の中が随分と静かに感じられる。

 

「検査結果は問題ないよ。

体に極度の疲労がたまってるみたいだね、あれだけ暴れれば無理もないけど」

 

「…左腕はどうだ?」

 

「以前と変わらない、左腕のコアは、いっくんの体と…骨や神経と完全に融合していて切り離す事は出来ないみたい。

でも、いっくんからしたらその方がいい。

黒翼天は、いっくんの体を借りたりしているけれど、基本的にはいっくんを守るための守護者のような存在だから」

 

…左腕を切り落とすなど、それこそ一夏をモルモット扱いしているのと変わらない。

五体満足であってこそ、あいつなのかもしれんな。

 

「そろそろ外の小娘共を部屋に呼び込んでも良い頃合いか」

 

「それもそうだね」

 

まったく…心配するのは理解できない訳ではないが、もうすこし節度を持たんか。

…いや、黒翼天()の戦闘能力を把握しきれていないのだから、それこそ無理もないか。

 

私は一夏が横たわるベッドから離れ、廊下に通じるドアを開いた。

最初に飛び込んできたのは、予想していた通り、簪とマドカだった。

それからいつもの面々が流れ込んでくる。

 

…まったく、小娘共が…一夏はまだ昏睡状態なんだ、静かにしておけ。

 

「やれやれだ…」

 

 

 

Tabane View

 

私はちーちゃんに隠れて今回の件を端末越しにくーちゃんに伝えた。

なーちゃんでも今回の事件は対処しきれなかった。

でも…いっくんと黒翼天は充分過ぎるほどの情報を提供してくれていた。

あれだけの数の無人機を撃破するだけでなく、それらに使用されていたコアをすべて回収してくれていた。

 

「…ナンバー200から226まで、か。

大半はアメリカに渡したコア、他には主要各国から奪われたコアが一つずつみたいだね。

となれば…亡国企業の本拠地はアメリカ…?

まだ断定するには時期尚早、かな…?」

 

無人機達のコア人格は半ば眠らされているかのようだった。

そしていっくんは、全てのISコアから寵愛を受けた存在。

ともなると…いっくんに救いを求めていた、そういう事なのかもしれない。

 

「どちらにしても、アメリカは一機もISを所有していないことに…いや、まだあったね、残る一機が…」

 

 

 

Ichika View

 

そこは、砂塵が舞う荒野だった。

その荒野には数えきれない程の剣が…無限の刃が突き刺さっていた。

空に広がるのは黒雷、そして今までに見たことがないほどの混沌だった。

 

「お前に貸してやった俺の力、そのすべてを作り出したのは、お前だった」

 

振り返る先にいたのは、相変わらず俺と同じ姿をした相棒だった。

 

「この刃の源は、お前の『怒り』『憎悪』『殺意』の権限した姿だ」

 

「…これらすべてが俺から生じていた、と…?」

 

「そうだ、そしてそれらを放出させてはお前からそれらを削り取っていた。

お前が作り出した数は…300000か。

それでもまだ足りない、お前が作り出した刃の数でも、お前の殺意を消すにはまだはるかに足りない」

 

それらが必要ない、なんてことは無いだろう。

死闘の中でそれらを発さないでどうするのだろうか。

 

「お前は本来は平穏の中で生きていくはずだった」

 

「でも、今になって過去の仮定に意味は無い、だろう?」

 

「そうだな、『そんな未来があったかもしれない』、そんな可能性の話でしかない」

 

そんな可能性の未来もありえたかもしれない。

もしも…もしも、そんな未来がありえたのだとしたら…。

 

俺は平々凡々に生きていただろう

 

俺の剣を見つけられなっただろう

 

マドカとも再会できなかっただろう

 

多くの仲間とも出会えなかっただろう

 

そして

 

簪とも出会えなかった

 

だから、今になって過去の仮定など持ち出しはしない。

それは後悔と同じだ。

 

俺は多くの出会いにも仲間にも後悔はしていない。

 

今までの生き方に胸を張れる訳でもない。

 

だから、今もこうして歩んでいけるのだろう。

 

「「俺はお前だ」」

 

あの日、二度目の死を経験した時に俺が口にした言葉。

自然と互いの口からそんな言葉が零れ落ちていた。

 

「…フン、テメェは変わらないな…」

 

「今更だろう、相棒」

 

「だが、テメェは奴らとは戦えない。

お前が失った記憶の中に居た連中を目にすればお前の精神が耐えられない。

銃器に対する適応でも5分と意識を保てないお前では、な」

 

だからお前が血を浴びる、か。

そんな状態に甘える俺は情けないのかもしれない。

 

「だが、『情けがない』よりかは遥かにマシだ」

 

「そうかもしれない、それでも俺は」

 

「それ以上の言葉はただの偽善でしかないぞ」

 

…相棒に対してまで自分を偽るような言葉は吐けない、か。

 

 

 

「もうそろそろ行け、お前を待っている連中が喧しくなる頃だ」

 

「お前は?」

 

「ここが俺の世界だ、お前にはお前の世界がある、それだけだ」

 

いつの間にか傍らには白いラウンドベレットを被った少女『輝夜』が姿を現していた。

そして、俺の手を取り、引っ張っていこうとする。

その方向の先には、懐かしい白騎士の姿もあった。

 

「…一つ、忠告だ」

 

「…?」

 

「オルトロスには警戒しろ。

奴からは危険な匂いがする、奴には関わるなよ」

 

その言葉を最後に俺の意識は白い虚無に飲み込まれた。

相棒が最後に言っていた言葉、俺はその言葉に首をかしげた。

 

 

 

 

Kanzashi View

 

一夏がようやく目覚めてからのマドカの喜びようは私も驚かされた。

ベッタリなのはいつもの事。

周囲の皆も、苦笑いをしているレベルだった。

 

「それにしても、体は大丈夫なの?」

 

「ああ、快調だ。

少しばかり体が重いけど、気にするほどじゃないさ」

 

そう言いながら一夏は冬服の制服を羽織り、ベルトに刀を差しこむ。

その横顔は、『問題無い』と言っている。

でもまだ少し心配だった。

心配性と言われたらそれかもしれないけれど、心配位させてほしかった。

 

「無人機はどうなった?」

 

「皆で撃破出来たよ、でも襲撃者には逃げられたって…」

 

これが今回一夏のために用意された嘘だった。

一夏はまた今回の記憶が何もかも残されていなかった。

ただ、夢を見ていたと言っていた。

その夢も記憶がボロボロで、黒翼天が記憶を操作していたと思われる。

ただ、最後に交わした言葉だけは覚えていたらしい。

 

『オルトロス』、と。

 

どこかで聞いたような事がある言葉だと思うのだけれど、どこだっただろうか…?

 

「それじゃあ、行こうか。

皆が待ちくたびれているだろうぜ」

 

「あ、うん」

 

廊下では皆が待ってくれているだろう。

だから私は一夏が差し伸べてくれた手を握った。

今もその手にぬくもりが感じられた。

この手に伝わってくるぬくもりを逃がさないように、私はその手を握り返した。

 

 

 

Tatenshi View

 

その女性は、学園祭に侵入してきた女性同様に、学園の地下に幽閉された。

今回の乱入者は、前回以上に状態が悪かった。

全身が大火傷、生きているのも不思議、なぜ死なないのかも不思議。

でもその蓋を開いてみれば答えはアッサリと出てきた。

自分の四肢を機械でできた義肢に取り換えていた。

この女…『スコール・ミューゼル』は『機構義肢人間(サイボーグ)』だ。

 

「お久しぶりね、スコール・ミューゼル。

こうやってお話をするのは二回目ね」

 

「更識…楯無ね、その声は…?」

 

ふぅん、覚えていたってことは、脳みそは本人みたいだわ。

それなら話はできそうだわ。

 

「最後に話をしたのは…一年前だったかしら。

私の義弟君に随分な事をしてくれたわよね。

そのお返しに色々とやらせてもらったわ。

散々逃げられてばかりだったからいい鬱憤晴らしにもさせてもらったわ」

 

亡国企業のアジトの一つを探り、情報をいろいろと頂いていったのはまさに去年だった。

けど、目移りするような情報も無かったのよね…。

ただ一つを除けば、だけど…。

 

「オータムは…どうなったの…かしら…?」

 

「あら?お知り合い?

キレた子が居てね、見るも無残な姿になってるわよ。

今のアンタと同じようにね、すぐそこに居ると思うけどね」

 

「…そう、それだけ聞けたら充分だわ♡」

 

ドンッ!

 

突然彼女の頭部が爆発した。

自爆攻撃かと思ったけれど、その割には脂肪が焼けた匂いとはあまり比例せずに血の匂いがしない。

 

「…やられた!」

 

思わず壁を殴った。

彼女は確かに本人だった。

だけど、この場に居ない(・・・・・・・)

 

「あっさりと捕まったのはこれが理由だったのね…!

まさか最新型の金属探知機をもすり抜けるだんんて…!」

 

この体は…端末だったのか!

 

流石、と言うべきかしら。

一筋縄じゃいかないらしいわね。

 

終わったことはどうする事も出来ない。

だから私は今回のことを書類にし、別件の方面に赴くことにした。

向かう先は、久し振りに訪れる場所だった。

 

 

 

 

 

 




平穏は長くは続かない

それでも、長く続けばと思う

必死に手に掴むものは零れ落ちる

まるで砂のように

次回
IS 漆黒の雷龍
『征天雷禍 ~ 憎悪 ~』

あ、そうか思い出した

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