IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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敵勢力の強化ってなかなかに難しいものでした。
輝夜の出番を作れなくてコチラも辛い

Q.CBFに出場する専用機所有者の為に、一夏君は食事を作ったみたいですけど、文面を見る限り、各々に「何が食べたい?」みたいな事を聞いて回ったみたいですね。
やっぱり一夏君は『お兄サマー』じゃなくて『お父サマー』がピッタリじゃないですか?

A.思い返してみれば、そうですよね。
しかも、その我が儘を叶えてあげる程ですから、『お父サマー』がお似合いですww

一夏
「俺、そんなに歳をとってるように見えるのか…?」


征天雷禍 ~ 雷炎 ~

Kanzashi View

 

ほとばしる黒雷と赤黒い闇。

その中から殺戮の龍が姿を現す。

 

「燃え尽きろぉっ!」

 

「GURURURURUAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!」

 

火炎と黒雷が空中でぶつかった。

凄まじい爆発が周囲を襲った近隣のビルのガラスが悉く粉砕されていく。

凄まじい衝撃に皆が散り散りに飛ばされていく。

 

援護など、できるはずも無かった。

その戦いは、目で追い切れるものではなかった。

炎と雷が空中を走り激突しては爆発が起きる。

あの黄金の機体は黒翼天と渡り合っている。

でも、それは防御力故にだろう。

黒翼天が放つ攻撃を、あの薄い膜のようなものが防いでいるように見えた。

たとえ、それを突破したとしても炎の鞭が辛うじて反応して弾いている。

テールユニットが極太のレーザーを放ち、道路をえぐっていく。

巻き込まれた車が引火し、爆発を起こしていく。

 

まずい、この場所で戦い続けると犠牲者が…

 

「無理よ簪…」

 

「鈴、どういう事…?」

 

「あの金ぴか女、それを承知の上でこの場所で戦ってるのよ!」

 

確かに、あの金色の機体は必要以上に動こうとしない。

…町の人を人質に…!

 

「だったら、答えは簡単でしょ。

束さん達で不要な攻撃をガードすればいいんだよ。

それが私達に出来るいっくんへの援護だよ!」

 

そうか、一夏だって必死に戦っている。

なら、私達だって、戦わないでどうするんだ!

 

「行くよ皆!散開!」

 

「了解!」

 

 

 

 

Chifuyu View

 

「ずいぶんと過激な事を考えるんだな、束」

 

あーあ、ちーちゃんってば本当に勘が鋭いんだから。

 

「黒翼天は一夏の『怒り』が顕現した姿だ。

だが、同時に『情け』を捨てたわけじゃない。

簪の説得に応じ『殺人』を自身の『禁忌』とした。

もしかしたら、それは『周囲の人間』も含まれる。

そう考えたのだろう?」

 

「そうでなきゃ、クラス対抗戦の時に鈴ちゃん達に向けた行動の理由が説明できないからね。

箒ちゃんを打ち殺そうとしていたのは、まだそのリミッターが施されていなかったからだと思うんだ。」

 

見せてもらうよ、いっくん!

 

 

 

 

 

Ichika View

 

そこは雷雲の中だった。

それは黒翼天の心の中。

 

「殺す…!殺す…!奴らを…!絶対に殺す…!」

 

そこに居たのは、もう一人の俺だった。

剣を振るい、必死に霞を斬っていた。

必死になっている、なのに何故だろう…苦しそうに見えた。

 

「なあ、黒翼天」

 

『テメェか…!』

 

黒翼天を中心に雷が迸る。

憎悪と殺意の嵐に俺は真正面から抗った。

怖いとは思わなかった。

ただ、『何故』と思っていた。

 

自身の身すら焼き尽くさんとする憎悪と憤怒の焔

 

俺はそれを一度目にした事がある気がした。

 

だが、何処で?

 

『テメェが識るべきじゃねぇ…』

 

「…その理由も、か?」

 

『そうだ、お前が断じて識ってはならない記憶だ。

この憎悪の根源は…怒りの記憶をお前が識ればお前はお前自身を赦せなくなる。

人ならざる者に成り果てる』

 

だから、か。

『感情』が『記憶』を呼び起こす事もある。

だから、その呼び水となる感情を俺から根こそぎ消し去った。

 

「お前は、まるで守護者みたいだな」

 

『アホか、俺は俺だ。

守護者なんて甘ったれたことなんざやるわけねぇだろうが』

 

…相変わらず口が悪い奴だな。

誰に似たんだか、心当たりはないけど。

 

『俺はテメェほどに甘くはねぇんだ。

憎しみを抱くような相手を赦そうなんざ願い下げだ』

 

「そこに和解という概念も無い、と?」

 

『当然だ、必ず殺す。

灰じゃ済まさねぇ、塵になるまで刻んでやる』

 

改めてコイツが抱く殺意を知った。

だが、その憎しみが誰に向けられているのかが判らない。

何故、その憎しみを抱くのかが判らない。

それを理解させてはくれないようだ。

そして、分かち合うこともさせてはくれない。

憎悪も殺意も憤怒も、全て黒翼天(コイツ)が一人で抱え込んでいる。

 

『テメェに手出しはさせねぇ…理解したのなら去れ。

憎悪も憤怒も、俺一人のものだ』

 

「いや、もう少し此処に居るよ」

 

『フザけんじゃねぇ、去れ!』

 

「俺は…俺が抱えていた後悔で押しつぶされそうになって、さ。

それを察してくれた人が取り払ってくれた。

お前も俺を察してくれていた、なら今度は俺の番だ。

俺はお前を理解したい、以前にも同じような事を言ったかもしれないけどな」

 

『物好きなやつだ…』

 

 

 

 

Tabane View

 

周囲への攻撃はみんなが防いでくれている。

私もブレードビットを少しずつ犠牲にしながら攻撃を防ぐ。

あの機体…『ゴールデンドーン(黄金の夜明け)』か。

炎を自在に操るどころか、大出力のレーザーをも使う。

接近戦に持ち込めば鞭と炎の防壁で防がれる。

そして黒翼天をあざ笑うかのように市街や無関係の人間への攻撃すら辞さない。

いっくんの意志の一部を抱えている黒翼天の弱点は『市街戦闘』だと理解したらしい。

 

「部が悪い、か…!

黒翼天の力を以てしても…!」

 

「みたいだねちーちゃん…『識天』、もう一発いける?」

 

「無論だ」

 

「なら、私達も仕掛けるよ!」

 

残るテスカトリポカは24基、そのすべてを攻撃に回す!

 

「いくよ!」

 

「タイミングは任せる!」

 

刃が飛び回る。

その切先が向かう先は黄金の蠍。

 

「貴女達に用は無いんだけれどね」

 

「貴様の都合に付き合う気はない」

 

「そういう事!」

 

鞭が振るわれる。

刃がその一閃でふり払われる。

でも、背後ががら空き!

 

「斬り裂け雪片『零落白夜・識天』!」

 

紅の刃がテールユニットを切り裂いた。

 

「ちぃっ!」

 

「『絢爛舞踏』!発動!」

 

すかさず私が単一仕様能力を発動させる。

周囲のみんなもエネルギーが吸収されて知っている以上、それを回復させる。

テスカトリポカを奔らせ、周囲のみんなにエネルギーを伝達させる。

 

「GURUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」

 

無論、彼も。

 

漆黒の雷龍がいくつものドラゴン型ユニットを率いて奔る。

 

「全員援護に回れ!叩き潰すぞ!」

 

その声を聞いた善意が防御から攻撃へと転じる。

だけど…

 

「ちーちゃん!待って!」

 

私はそれを止めた。

いやな予感がしてならなかった。

その証拠に

 

ドガアアァァァァァァァァンッッッ!!!!

 

黒い雷が私達を遮るようにしていくつも落ちてくる。

 

 

その中に、黒翼天とゴールデンドーンを閉じ込めるようにして広がる雷の結界が見えた。

あれは…学園祭の時に私を仕留めた雷の球状結界だった。

 

 

 

Kanzashi View

 

エネルギーが残り僅かになったと思ったら、ブレードビットの飛来。

途端にエネルギーが回復し、攻撃に転じることになった。

なのに…なのに…一夏(黒翼天)は私達からの援護を不要と言わんばかりに雷で私達を拒絶した。

 

「兄貴…一人で仕留めるつもりなんじゃ…」

 

「あんな相手だっていうのに…」

 

黒翼天の周囲には赤銅、宵闇、黄金の龍だけでなく、新たに雪色の龍までもが従えられていた。

…本気だ…あの雷の結界の中で…たとえ市街地であったとしても、この場で確実に殺す気なんだ…。

 

 

 

Lingyin View

 

雷の包囲結界。

そこに入ろうとするのは危険だと私も察した。

近づこうとしても黒い雷がそれを邪魔してくる。

千冬さんは雪片で結界を切り裂こうとしているけれど、まるで効果がない。

楯無さんが放つガトリング・ガンも結界に触れた時点で粉砕されている。

マドカやセシリアが放つ収束射撃(バーストシュート)もまるで意味をなしていない。

 

「アタシ達は…力になる事すら出来ないなんて…」

 

もう、誰も止められない。

もう、誰も触れる事すら出来ない…。

ただ、見ているしかできない…

 

「なんで…こんなにも無力なのよ、アタシ達は…」

 

雷の結界の中では過剰殺戮が始まっていた。

4体の龍たちがその鉤爪で切り刻む。

破損したテールユニットを即座に交換し、砲撃を繰り返すけれどその全てを金色の龍が無に還していた。

尋常ならざるほどの防御能力だった。

たとえ防御仕損ねたとしても雷の結界が周囲への被害を食い止めている。

 

「アタシ達は…邪魔…だったの…?」

 

見ている間にも結界の中で敵機は雷に撃たれていく。

それだけでなく無限の刃で切り刻まれていく。

両肩から射出される炎の鞭も既に使うことができないのか、その素振りも見えない。

防御に徹するだけで限界なんだ…。

 

込み上げてくる無力感

 

クラス対抗戦の時もそうだった

 

福音討伐任務でもそうだった

 

もう…もう無力でいるのは嫌だと思い続けてきたのに…!

あの日、それを払拭出来たと思ったのに…!

 

「…簪…いくわよ…!」

 

「…うん、絶対に止めよう、一夏を…あの深みから…」

 

 

 

Kanzashi View

 

天羅の装甲が金色に光を放つ。

 

「『万有天羅』発動!」

 

一瞬でいい、あの雷を取り払う事が出来れば…。

ナノマシンの操作を全力で行う。

風速、湿度、気温、その全てをマニュアル操作していく。

 

「いくよ鈴!」

 

「OK!」

 

辻風を一斉掃射(フルバースト)

雷によってその大半以上が撃墜される。

それと同時に肉眼視できるような大量のナノマシンが散布される。

散布された領域には雷を近づかせない。

『黎明』を大剣形態で展開させる。

 

「遅れるんじゃないわよ!」

 

「判ってる!」

 

鈴も連結状態にした双極月牙を構えている。

互いに出せる最速にて一気に結界へと接近する。

 

「『叫天慟地』!発動!」

 

すさまじい勢いでその剣が結界に叩き付けられた。

それでもまだ足りない。

私も黎明を全力で振り下ろす。

 

「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!?????」

 

体の中を雷が貫くような痛みが走る。

でも、歯をくいしばって耐える。

こんなもの、あの日一夏が受けたものに比べれば痛みのうちに入らない!

 

「「貫けえええええぇぇぇぇぇっっっ!!!!!」」

 

まだ、まだ足りない!?

 

「熱いことを考えるわね、二人とも。

そういうのはお姉さん嫌いじゃ無いわよ」

 

私達の刃に新たな刃が…青い三叉槍が重ねられた。

これは…

 

「お姉ちゃん!?」

 

「さあ、あの聞かん坊を止めるわよ!簪ちゃん!」

 

お姉ちゃんの掛け声に私もうなずく。

祈星を抜刀、薙刀による二刀流の形態へと切り替える。

 

「『フェンリル(神喰らいの魔狼)の咢』発動!」

 

「『ポセイドン(海神)の大槍』発動!」

 

ドガアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァンンンンン!!!!!!!!

 

私達が繰り出せる最大の一撃。

でも、代償は安くはなかった。

右腕の装甲は粉砕し、シールドエネルギーは残り5パーセント

お姉ちゃんに至っては両腕の装甲が壊れてしまっている。

でも、それだけ支払った事で、私達は雷の結界の内部に突入する事が出来た。

 

「…遅かった、か…」

 

その中心、黒翼天が黄金の機体の搭乗者を鷲掴みにしていた。

 

「がはっ…げほっ…!この…モルモットの分際で…!

よくも…よくも…オータムを…!」

 

その搭乗者の機体『ゴールデンドーン』は悲惨な状態だった。

両腕、両足の装甲は粉砕され、あのテールユニットは切り刻まれ、内部の配線でかろうじてぶら下がっている状態…。

私達全員で総攻撃をしても対処しきれなかったというのに…

 

ゴキン…!

 

「ぎ…ぎゃあああぁぁぁぁぁあ!!!!!」

 

骨が折れた音が聞こえた。

…『嬲り殺し』…その言葉が脳裏に過る。

あの時の復讐がそんな生温いもので終わるものじゃない。

直感的にそれを察した。

 

「散々痛めつけたみたいね、彼…」

 

「止めよう、これ以上は見てられない」

 

「そうね」

 

「…『ヘル・ブレイズ(地獄の灼熱)』…!」

 

灼熱は、突如としてそこに現れた。

雷の結界の中に…!

 

「あいつ!相討ち覚悟で!」

 

お姉ちゃんが大量のナノマシンを散布し、水の防御膜を展開させる。

でも、圧倒的な劫火の前では一瞬で蒸発していくばかり。

私も冷気の障壁を展開させるけれど、まるで意味を成さなかった。

雷の結界の中では…逃げ場なんて無かった…。

 

「地獄の炎に焼かれて死ね!織斑一夏ァッ!」

 

「…地獄なら、もう見た…!」

 

黒翼天から、声が聞こえた。

龍の唸りではなく、明確な人の声が…一夏よりも少しだけ低い声が…。

 

「地獄の果てで俺は貴様等に壊された…!

だからこそお前らが俺に埋め込んだコアを媒体にして再構築させたんだ。

俺の手で…貴様を殺すために!!」

 

赤銅の龍、宵闇の龍、黄金の龍、雪色の龍

 

その4体が集まり、黒翼天の両腕の兵装にドッキングしていく。

 

一夏(コイツ)があの地獄の記憶を思い出さないように記憶を破壊し、その呼び水ともなる感情をも抉り取った。

 

だが、貴様等はそれでも一夏(コイツ)をモルモットにしようと近づいてくる。

身体にこびりついた感情と記憶を呼び戻そうとする貴様等を生かしておくわけにはいかい」

 

右腕の龍の咢から彼女が空高く放り投げられた。

 

「だから…灰も残さず塵となれ…スコール・ミューゼル!!!!」

 

周囲を飛翔していた龍が集まる。

いつか見た、あの時のようにドッキングする。

氷雪、灼銅は右腕に。

宵闇、金色は左腕に

そしてドッキングされた両腕を並べる。

それは…巨大な龍の咢だった。

両腕の龍の咢が開かれる。

そこに宿っていたのは…闇の奔流だった。

 

「『混沌煉獄(カオス・ゲヘナ)』」

 

その闇の奔流…は今までで見てきた雷と比べ物にならなかった。

 

 

 

ドガアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァンンンンンッッッッ!!!!!!

 

 

一夏と共に放った『エクサフレア』よりも遥かに超えた威力だった。

 

空を貫いたその闇の奔流は…

 

レーダーで確認しただけでも…直径1600m。

 

射程距離なんて…測ることすら烏滸がましい…。

 

 

 

 

 

私達が一瞬だけ貫くのが限界だった雷の結界も…その中に生じた全てを焼き尽くす太陽も…何もかも闇で飲み込み…そして…上空の雲をも貫いた。

 

ドシャッ!

 

その中、落ちてきたのは…ボロ炭のようになった女性と…一つのISコアだった。

 

「ふ、フフフ…殺すのではなくって…?

私はこうして生きているわよ…?」

 

「…興が削がれた、それだけだ…」

 

その真紅の双眸は私達に向けられていた。

全ての装甲の展開が解除され、見慣れた姿が現れる。

けれど、その目に敵意は込められていなかった。

 

「貴方は…一夏、なの…?

それとも…」

 

「アンタとの契約通り殺さずにいた、それ以外答えてやる気はない。

一夏(コイツ)を頼んだぞ、じゃあな…」

 

それきりその双眸は閉ざされ、一夏の身は委ねられた。

 




復讐には踏みとどまった

契約と憎悪

それらを天秤にかけた結果だったとしても

だが、憎しみは止まらない

憎しみは新たな憎しみを呼ぶ

次回
IS 漆黒の雷龍
『征天雷禍 ~ 連鎖 ~』

彼女が耐えたわけじゃない

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