IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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今回は色々と詰め込んでみましたが短くなってしまいました


移ろう季節

Ichika View

 

簪とマドカの友情の成り立ちは早かった。

その経緯はこうだ。

マドカが転校してきたその日の帰り道、俺はバイトとしている簪の送迎に向かっていた。

荷台にはマドカが座り、俺の背中にベッタリだ。

そして、簪が通う学校前にて。

 

「一夏、その子、誰?」

 

「紹介するよ、生き別れになっていた妹だ、名前が」

 

「織斑 マドカだ」

 

「妹さん?…そう言われれば…千冬さんにそっくり…」

 

千冬姉にソックリだと思うのはどうやら俺だけではないらしい。皆、口を揃えて言っている。

その都度、マドカは心底嬉しそうにしていた。

 

「兄さん、この人は誰?」

 

「初めまして、更識 簪です」

 

「ふぅん…」

 

物凄い疑っている目だった。

だがまあ簪も負けじと視線を返す。

視線が衝突してるが…よし、火花は散っていない。

 

「兄さんとどういう関係?」

 

「え?恋人同士だよ」

 

簪が堂々と言い切ってしまう。半年前まではこの度胸すら無かったのに…いや、いい傾向だと思う。

 

「こ、恋人ぉ!?兄さんの彼女さん!?本当なの兄さん!?」

 

「ああ、本当だ」

 

「…そっか、兄さんにも恋人が居てもおかしくないよね、なんてったって私の兄さんなんだから!」

そこで

そこでどうしてお前が自慢げにしているのかが分からないぞマドカ…いや、別に踏み込む気はないけどさ。

 

「一夏く~ん!簪ちゃ~ん!一緒に…あら?」

 

そしてそこに現れた楯無さん。

しかも走ってくるのだから、男としてはそれをあんまり直視し辛い光景が出来てしまっているので回れ右をする。

だが彼女を見た途端に簪とマドカの視線の色が変わった。

 

「マドカ、牛乳を買いに行こう!」

 

「そうだな!私も同じことを考えていた!」

 

この光景とやりとり、どこかで見た覚えがある。

そうだ、簪と鈴の間に友情が成り立った時にも同じことがあったんだった。その時にも楯無さんがこうやって走ってきたものだから、それを見た簪と鈴と同じになっている。

…酷いデジャ・ヴュだった。

 

「あ、あら?ちょっと待って三人とも!?

お姉さんは置き去りなの~!?」

 

そしてその後すぐに、鈴と同じように牛乳を買いに行くことになった。

そして買い物に行ったスーパーで鈴と遭遇する始末。

マドカも鈴と意気投合し、牛乳を買い始めた。

しかし、だ。

 

「買い過ぎだろ、お前ら…」

 

俺の自転車にはハンドルの左右にビニール袋、中身は当然牛乳だ。

更には前籠、荷台にも同様にビニール袋。これもまた牛乳だ。

代金は各自負担しているが運んでいるのは俺一人だ。釈然としない。

もう一度言う。

買いすぎだ。

 

「なんでこんなにも大量に買ったんだ?」

 

「一夏、それを乙女に聞くのはデリカシーが欠けてるわよ」

 

「そうだよ、女の子にはそれなりの事情があるんだから」

 

「兄さん、今回は黙って見逃してくれ」

 

そういっても運ぶのは俺なんだけどな…。

なんか納得できない…。釈然としない…。

 

 

 

 

 

そんなこんなが有って、俺達は三年生になる。

だけど、その直前に、鈴が中国に帰国する事になった。

去り際の言葉として

 

「一夏、簪を大切にしてあげなさいよ!

それと、また会うことが有ったら、私の酢豚を毎日食べさせてあげるわ!」

 

そんな言葉を言っていたが

 

「駄目、一夏には私が毎日お味噌汁を作ってあげるんだから!」

 

簪が言い返していた。

更には

 

「そして兄さんに料理を教えてもらうのは私の役目だからな!」

 

続けてマドカのこの大声

更に続いて

 

「一夏さん、このお三方はともかく、食事くらいなら私が用意してあげますから」

 

蘭までも炎上していた。

空港に響き渡っていたから俺としては恥ずかしいことこのうえない。

楯無さんや、のほほんさん、虚さんは大笑いしていたのだから俺としては全力疾走してでも逃げ出したかった。

弾や数馬も大笑いしていたので、その二人に関しては鈴が、殴り倒し、蹴飛ばして粛清しておく。

ノビてしまっているところをそのままにして空港に置き去りにしていこう。

なお、この時にだけは見送りのために、千冬姉も日本に帰国していた。

 

 

「毎日は食べられないだろうから、時折でいいさ。

中国に帰っても料理の腕を鈍らせるなよ、また会える日を楽しみにしてるからな」

 

俺がその返事をすると、鈴は寂しげにしていたが、また微笑む。

 

「一夏、どうせだ、この場で写真でも撮ってみたらどうだ?」

 

「ナイス提案!じゃあ、記念写真、だな。

現像できたら鈴に贈るよ」

 

「期待してるわよ」

 

そうだな、この写真はラウラにも贈ってみよう。

ラウラとはあれ以降も手紙のやり取りを続けていた。手紙を書いているのを鈴に発見され、俺が手紙を書く際にはマドカや簪も一緒に手紙を同封している。きっと会える日が来れば、その時には皆、仲良くなれるだろう。

難しいのであれば、俺が橋渡し役を買って出ればいいだけだろう。少し面倒くさいけど。

 

空港にいる係員を捕まえ、記念写真を撮ってもらうことにする。

中心には、俺と簪と鈴にマドカ、それを囲む形で、楯無さん、のほほんさん、虚さん、弾に数馬、そして千冬姉が写真の枠ギリギリに入り込む。

鈴は泣きそうになっていたけど、袖でゴシゴシと涙を拭う。そしていつものように、まるで猫のように笑う。フラッシュが瞬くこと数回。記念写真の撮影が終わった。

 

「じゃあね皆!また会いましょう!」

 

最初はイジメを受けていた鈴だったが、別れ際は、それ以上の涙は一滴も見せずに、笑って飛び立っていった。

俺としても、また会える日を楽しみにしていよう。

 

そして…空港から帰る時には、マドカは千冬姉にベッタリだった。…先日まで懐かれていた身としては…なぜか心境が複雑だった。

マドカの代わりに、俺の傍らには簪が居るから構わないけどさ。

 

「ねえ、一夏、あそこ」

 

「…ん?弾と…虚さんか?…どうしたんだ、あの二人?」

 

駐車場にいる二人は、何やら顔を赤くしてモジモジとしている。

その様子を見て何となくだが察した、あの二人は、俺と簪と似たような関係になるのかもしれない。…もしかしたらだけど。

 

「な、なあ一夏!?う、虚さんて何処の高校に通ってるんだ!?

俺は虚さんと同じ高校に進学するって決めたぜ!」

 

…うわ、分かりやすい。だが…同じ高校には行けないと思うぜ。ってーか、思い人がいるからその学校に行くって、いつの時代の昼ドラだよ。

 

「弾、お前の心意気は買うが、同じ高校に行くのは絶対に無理だ、成績のこともあるけど、それ以上に絶対に無理だ」

 

「何でだよ!?」

 

「それは…虚さんが通ってるのは…」

 

「お姉ちゃんは~、IS学園に通っているので~す」

 

俺、簪と言葉が続くが最後を引き取ったのはのほほんさんだった。

なんとまあ、弩ストレートな言い方なんだか。

 

「あ、IS学園…そんな…」

 

IS学園、それはISについて学ぶ全世界唯一の学府だ。

男子禁制の女子高だ。それも全世界規模の。

なぜ女子高なのか、その理由は非常に単純。

インフィニット・ストラトス、通称『IS』は女性のみ稼働が可能だからだ。

男には動かせない、だからこそのIS学園は男子禁制だ。

 

「一夏、弾君が物凄い凹んでるけど…どうする?」

 

「大丈夫だ、ポジティブな奴だから」

 

『文化祭での招待券をもらえれば会えるかもしれない』とか考えるかもしれない。まあ、今はそっとしておくのが一番だ。

 

 

 

 

 

 

そして時間が流れる

 

中学三年になった。

楯無さんは、先日から教えてもらった話の通り、IS学園に入学した。

オマケとばかりにたった一ヶ月で生徒会長になったとか…。

信じらんねぇ…。

 

 

五月中旬になり、千冬姉もドイツから帰ってきた。

その翌週、簪の学校でIS適性検査が有った。

そこで、簪は他の生徒に比べて適性がずば抜けて高かったらしく、専用機が与えられる事になったとか。

つまり…簪は国家代表候補生となり、IS学園への入学が現時点で決まったとの事

 

「俺まで来て良かったのか?

完全に部外者だと思うんだが…」

 

「うん、私がお願いしたらOKしてもらえたから」

 

此処で開発されているのは、簪の専用機『打鉄弐式』。

日本で量産されている第二世代ISである『打鉄』の発展機となる第三世代機らしい。

打鉄が防御主体とすれば打鉄弐式は高機動型。

更には砲撃がメインになっており、オマケとして簪が得意としている薙刀をモデルとした武装が搭載されているらしい。

 

「それに、私としても一緒に来てほしかったの」

「そっか」

 

簪は早くも日本の国家代表候補生。

国家代表候補生とは、国を代表とするIS搭乗者の事を指す。

エリートであることは間違いない、そして研鑽次第では、それよりランクが上の『国家代表生』になれるらしい。

機体の調整費用だとかも含め、政府からの援助資金も与えられる。

けれど、それと同時に危うい立場でもあるらしい。

国から選ばれた人間、言わば国家元首にも等しい立場でもある。

だから、下手な発言次第では、『国家代表生』『国家代表候補生』の称号剥奪と機体の没収が行われる可能性も否めない。

 

「驕るな、研鑽を積み続けろ」

 

それがその称号を持つものに与えられる義務だと俺は教えてもらった。

とはいえ、男の俺にはさして関係無いとは言えない。

男はISを動かせないが、その他にも出来る事はあるのだから。

 

「お姉ちゃんから教えてもらったこと?」

 

「ISを動かせない俺にこんなこと教えても、なんて思ったりもしてる。

けど、今思い返してみれば男だろうが女だろうとも誰にでもいえる言葉だと思ってさ」

 

俺も自分の剣にはまだまだ完全なんて言えないと思ってる。

剣道とは完全に離れてしまっている。

三人の師に叩き込まれ、独自に作っていった『刀とナイフによる二刀流』がそれだ。

 

「俺もまだまだ努力をしないと」

 

そうでないと、また千冬姉に迷惑をかける。

それに、大切な人も守れないんだ。千冬姉も、マドカも、簪も…

だから、俺は強くならないとな…。

 

「ほら、一夏、あれが私の専用機になるんだってさ」

 

「あれが…」

 

話に聞いていただけだったが、実物を目にしたのは初めてだった。

本来の量産型の『打鉄』と比べても、フォルムは大きく違っていた。

背面の装甲は、簪の髪と同じ空色だった。

 

「ISをこんな距離で見るのは初めてだな」

 

千冬姉が試合をしている時だって、広いフィールドをシールドで覆われているため、近づけなかった。

それ以外で一般人がISを見る機会なんてそうそう無い、

だから、防弾ガラス越しだとしても、10mない距離で見ることなんて無かった。

 

「最適化とかは、まだ先になるんだってさ」

 

「じゃあ、搭乗はまだまだってことか。

俺としては、こんな距離で見せてもらっただけでも今日は満足だよ」

 

「今日はISについて説明をしてもらうようになるから、一夏も頑張ってね」

 

「うへ…」

 

男の俺がそんなの学んでもな…。

まあ、一般常識的なことだけ覚えておこうかな。

そして別のラボで教えてもらったことは、ドイツで教えてもらったことと大差は無かった。

軍事利用の禁止だとか、許可の無い展開の禁止だとか、試合場でのルールだとか。

他には、コアはブラックボックスになっているため、解析や複製も出来ず、世界に存在するISコアは増える事は無く、467個という上限があるだとか。

作成可能なのは、篠ノ之 束博士を置いて他には居ないとか。

そして何故か、IS学園の間取りやら何やら。

最後に関しては男子禁制なので退席させてもらった。

その直前の簪が妙な視線を向けられたのは辛い経験だった。

 

その日、俺は簪の送迎のついでに剣の特訓をさせてもらった。

先代当主は相変わらず厳しいが、訓練に真面目にやってくれているから、俺も本気でやっている。

なお、マドカは見学だ。

 

「一夏、私とも試合しよう?」

 

「ああ、いいぞ」

 

簪の獲物は薙刀だ。

俺の刀と比べるとずいぶんと長いけど、その分、欠点もある。

 

「はっ!」

 

簪の渾身の突きを躱す。

そのまま横薙ぎに振るわれる。

薙刀は突くことにも秀でているが、その強みは薙ぎ払いによるもの。

刃の無い部分も強力な打撃武器として使える。

 

「よっと!」

 

跳躍してそれすら躱す。

その瞬間に薙刀の欠点が現れてしまった。

獲物が長い分、返しが遅い。

一気に詰め寄る。

驚いている簪を刀の峰で、ポンと軽くたたき。

 

「先ずは一本、だな」

 

「むむ…一夏、狡い」

 

え?どこが?

けどまあ、これが薙刀の欠点なんだし、仕方ないさ。

 

「兄さん、今度は私と頼む」

 

「マドカが?」

 

「これでも武術は嗜んでるんだ」

 

マドカが取り出したのはナイフ二本。

ドイツ軍で使われていたものに似たコンバットナイフだ。

それの二刀流となればラウラに近いのかもしれない。

 

「その次には簪にも頼むよ」

 

「う、うん、判った。」

 

 

 

 

簪が試合開始の合図を出すと同時にマドカが詰め寄ってくる。

逆手に握られたナイフを片手で受け止める。

もう一方のナイフを、俺もナイフで受け止める。

即座に両者揃って武器を弾き、距離を空けた。

まだお互いにダメージは無い。

間合いを改めて確認すると、マドカは右手のナイフだけを順手に変えた。

それに応えるように、俺は左手のナイフを逆手に持ち替える。

間合いを即座に詰め刃をぶつけ合う。

派手な金属音に簪も耳を塞いだ。

 

「強いな、マドカ」

 

「兄さんこそ、腕力強すぎだよ」

 

再び派手な金属音と同時に、俺は腰の鞘にナイフを収納する。

そして刀も鞘へ納め鍔を強く握り、少しだけ腰を落とす。

 

「いくぞ、マドカ」

 

今まで以上に強く足を踏み出す。

マドカもナイフを構えて突っ込んでくる。

そして、片手のナイフを投擲してくる。

即座に抜刀し、ナイフを弾き飛ばし

 

「はぁっ!」

 

左手に握られていたナイフをも力ずくで弾き飛ばす。

左手が痺れたのか、動きが鈍くなる。

俺は刀をそのまま離し、手刀をマドカの首に突き付けた。

 

「なかなか強かったぜ、マドカ」

 

「私の負けか」

 

「一夏、凄い」

 

とは言え、俺も危なかった。

マドカのナイフ捌きは見事だった。

 

ズン!

 

そんな音と一緒に、足元に軽い衝撃。なんかと思って見下ろしてみれば…。

 

「あ、危ね…」

 

先程弾き飛ばしたマドカのナイフが今になって落ちてきた。

俺の右足スレスレの場所に…

 

「ご、ゴメン、兄さん」

 

「いや、気にするな…俺が不注意なだけだったから」

 

だけど、少し足を踏み出したらナイフで足を床に縫い付けられていたな、コレは。

こうして今日の特訓は今一締まらない一場面を見せてしまっていた。

 




今回は、鈴ちゃんとのお別れでした。
そしてその時にちょっとだけ千冬さんも登場でしたが、この数日後にはまたドイツに旅立った設定です。
なお、簪との試合での一夏君の薙刀への解釈は作者の一方的な考えですので悪しからず。
薙刀を愛用している武術家の皆様、ごめんなさい。
何!?明日も更新する気だって!?

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