IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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全員搭乗は派手にしたいな、そう思ったらラウラが一番派手になった気がします


Q.二学期になってからの一夏君ですけど…
・『嫁さんや実妹、実姉、義姉、妹分達にお弁当』
『嫁さんと同棲』
・『妹分のおねだりに抗えずにデサートフリーパスを渡す』
・『ご機嫌取りに好みのデザート』
・『妹分をおんぶして部屋へ』
・『妹分達を何かと面倒を見てあげる』
…もはや『お兄サマー』を通り越して『お父サマー』に近付いてる気がしますが…?

A.『お父サマー』にて抱腹絶倒させていただきましたww
そこの所、どうなの一夏君!?

一夏
「だから…俺はまだ16歳だっての…」


征天雷禍 ~ 青空 ~

Ichika View

 

二年生、三年生の部が終わり、続けて一年生の部だった。

とはいえ、ここで20分の休憩だ。

そこで俺は控室にいるであろう各自のコンディションを確認しておくことした。

 

真っ先に確認しに行ったのはやはり簪だった。

 

コンコン!

 

軽くノックする。

すると中から「どうぞ」と返答が帰ってくる。

声にはわずかな震えが感じられた。

それを承知しながら俺はドアノブを握り、回し、そしてドアを開いた。

 

「よう、調子はどうだ?」

 

「一夏…。うん、大丈夫」

 

「茶を淹れよう、声が震えている。

本番はもうすぐだ、緊張は少しでもほぐしておいたほうがいいだろう」

 

備え付けのポットを使い、早速お茶を淹れることにした。

 

「ほう…」

 

お茶を飲んで一息つけたのか、ちいさな溜息がこぼれていた。

備え付けのインスタントティーのような感じになってしまっていたが、これでも効果があったようだ。

声の震えは少しは抜けている、なら良かった。

 

「ありがとう一夏」

 

「こういう所でサポートを入れるのは審判としてはあまりよくない行為ではあるんだがな、今回は目を瞑ってくれよ」

 

ウインクしながらチャラけた言葉を口にすると今度は簪はクスクスと笑い出す。

ああ、いい笑顔だ、思わず見惚れてしまう。

この笑顔がどうしようもないほどに愛しい。

 

「少し、将来の話をしようか」

 

「?」

 

「俺たちはお互いに日本代表の座に就任した。

代表候補就任からは最速だろう。

で、このままIS学園で二年と半年は訓練に明け暮れるだろう、俺が話したいのは、その後だ」

 

 

 

Kanzashi View

 

一夏が言いたい事は何となく判っていた。

このまま平穏に訓練とかもあるけど、とにかく平穏な学園生活を送って終わってからどうしたいのか。

 

「私は、お姉ちゃんを追いかけるのに必死だったな…。

とにかくIS学園に入学して、代表候補から国家代表になって、それから代表選手になって…」

 

「世界で活躍できるように、だよな…」

 

私と一夏はよく似ている。

それを二年前からずっと知っていた。

だから、歩む方向が同じだった。

 

「もしも、俺達が目標としていた場所にたどり着いたら、どうなるだろうと思って、さ」

 

「…」

 

「目標としている場所にたどり着いたら?

そこからさらに先となるものが見つけられるだろうか…そんな風に思ったりもしてる」

 

どうだろう…。

新しい目標を見つけられなかったら、それは一夏が嫌う停滞と同じかもしれない。

なら、歩むことも出来なくなる。

 

「一夏は、それが怖いの?」

 

「まさか」

 

いらないことを聞いたかもしれない。

そう思ったけど、一夏はクスリと笑っていた。

 

「停滞はしたくない。

だけど、立ち止まって、周りの景色を見るのも良いかもしれない、そんな風に思ってたりもするんだ」

 

歩んでばかり、走ってばかりでなく、ほんの少しだけ息を休める。

少しだけ肩の力を抜くのも悪くない、そう言っていた。

 

「それで、簪と同じ景色を一緒に見たい。

そう思っている。

…と、ここから先はお預けな、その時になったらハッキリと伝えるから」

 

「うん、楽しみにしてるから」

 

また、笑顔を見せてくれる。

だから私も今の私にできる笑顔で返した。

 

「本番、頑張れよ。

審判としては中立が大前提だが、個人的には簪を一番に応援してるからな」

 

「うん!」

 

それから一度だけキスをした。

約束だから、絶対に優勝して見せるからね。

 

 

 

Ichika View

 

簪は気分的にも大丈夫、それを悟ってから俺は控室を後にした。

さて、次はマドカの部屋にでも…

 

ドスン!ドカン!バタタタタタタ!

ドガッシャン!

 

実に騒々しい音が聞こえてくる。

 

「…何やってんだ?」

 

ドカン!!

 

あ、ドアが吹っ飛んだ。

飛び出してきたのはメルクだった、しかも半裸。

そして中には…マドカと鈴とラウラ。

…何やってんだ、お前ら。

 

「ほらぁっ!やっぱりメルクってばなんか大きくなってる!」

 

「言われてみれば出会った当初よりも大きいな…」

 

「80は超えてないようだけど?」

 

「みみみみみ見ないでください~~~!!!!」

 

いや、本当に何をやらかしているんだ、お前らは。

こんなのが代表候補で大丈夫なのか、オーストラリアに中国にドイツにイタリア。

 

「頭痛ぇ…」

 

「ふえ…?」

 

あ、メルクが俺の存在に気付いたようだ。

…あー…これってヤバイんじゃないのか?

っつーわけで俺は回れ右、そのついでにアレを取り出した。

 

「ひみゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!」

 

どぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!!!!!!!!

 

少しだけ懐かしい『大百足』『首削』を両方取出し、勢いよく刃をもう回転させて狭い廊下をその音で満たしてメルクの悲鳴を掻き消した。

…もう二度と使わないと決めた剣をこんな事で使うハメになるとは思ってもみなかった。

それと、この光景誰かに見られるわけにはいかないよな…。

俺がこの両手の武器でメルクのISスーツをはぎ取ったかのような猟奇的な現場に見え兼ねん。

 

 

 

 

数分後

 

部屋にお邪魔させてもらい、マドカ、鈴、ラウラの頭頂部に拳骨を振り下ろしてから椅子に座った。

メルクはようやく落ち着いたといっても顔が真っ赤だ。

半ばISスーツを半分剥かれた状態で、そんな状態を俺に見られたのだから仕方ないだろう。

まあ、必要以上に見えてないし、長い髪で助かったんじゃね?

だが悲鳴を上げてほしくなかったがな、要らん誤解されようものなら後々が面倒臭ぇ。

 

「で、何やってたんだ、お前ら?」

 

緑茶を淹れ、メルクに勧める。

熱いお茶をチビチビと飲むメルクを横目に俺は床に正座させた三人に視線を下した。

 

「説明すると長くなるんだけど…」

 

「そうか、最初は?」

 

「試合前にリラックス」

 

とマドカ

 

「最後は?」

 

「女の嫉妬」

 

と鈴

 

「ラウラ、お前も止めてやれよ」

 

「私も悪ノリしてしまった、鈴とそう変わらないだろうし…」

 

『何が』とまでは問わない。

もう本当に面倒臭ぇ…。

っつーか、ツッコミが不在ってなんなんだよ…。

 

「…お前ら三人、まとめて修理申請出しとけよ」

 

部屋で暴れすぎて備え付けの家具だのなんだのが壊れているようだったし、それくらいはさせておこう。

 

「まあ、試合の為に緊張しているよりもマシか」

 

三人分の茶を淹れ、正座から解放させてやる。

別に三人は正座が苦手というわけでもなかったが、固く冷たい床では少しばかり辛かったようだ。

 

「でもさ、やっぱり女としては悔しいのよね…」

 

鈴が視線を向ける先は、やはりメルクの胸部だ。

先程の件も在り、今はメルクに俺の制服の上着を羽織らせている。

それでも視線を突き刺すとは何事か?

嫉妬っていうのは醜い感情だな。

 

「お前らとてまだ成長期って奴だろ、気長に居たらどうだ?」

 

「兄上…鈴にはそれが通じなかったのだが」

 

あ、そ。

 

「だからって他人の服を剥ぎ取っていい理由にはならんだろ。

…お前ら、しばらく弁当抜きな」

 

「「「横暴だ!」」」

 

喧しい。

それくらいの事だと思っとけ。

 

「まあ、メルクも今後はコイツらには気を付けとけよ」

 

「そうします…」

 

はぁ、と、俺もメルクも溜息をこぼす。

溜息一つで幸福が一つ逃げていくと言うが、メルクはともかく俺はどれだけの幸福が逃げ出してしまっているのだろうか。

もはや数えきれないだろう。

 

「さてと、次に行くか」

 

あ、壊れたドアは…どうしようもない、か。

 

 

 

 

次に訪れたのはシャルロットの部屋だった。

ノックをしてから部屋に失礼させてもらうと、セシリアも居た。

 

「あ、一夏、わざわざ来てくれたんだ」

 

「まあな、それぞれ大会直前で緊張してないかどうかが気になってな」

 

「わたくしたちは大丈夫ですわ。

チェルシーがこの時の為に紅茶を用意してくれてますもの」

 

となれば、俺はお邪魔虫かな。

あ、チェルシーさんが俺を見て硬直してら。

この二人よりもこの人のほうが大丈夫じゃなさそうだった。

 

「あら、チェルシー?どうしましたの?」

 

「ほっといてやれ、あんまりよろしくない記憶でも思い出してるだけだろう」

 

しかもそこに俺が関わっているんだから、ことさらに関わるのが嫌になってくる。

っつーわけで今回は早々に退散させてもらうことにした。

 

 

 

 

 

 

「やあやあいっくん、もうすぐ競技開始時間だよ」

 

「わかってます」

 

放送席に入り、束さんと言葉を交わす。

この人は何処から用意したのか、カレー弁当を食べていた。

アンタ、さっきは俺が用意した炊き込みご飯を食べたばかりだろう、そんなに食って大丈夫なのか?

 

「ご馳走様!」

 

「お粗末さまでした」

 

クロエが突然何もない場所から姿を現す。

彼女の専用ISのステルス能力らしいが、もはや常識ハズレレベルだ。

本当に姿が見えない。

 

「先程振りですね」

 

「ああ、そうだな」

 

「ごちそうになった炊き込みご飯、本当に美味しかったです。

ただそれだけをお伝えしたくて」

 

律儀な奴だな。

 

「ところでお兄様は、今回はだれが優勝すると思ってますか?」

 

クロエから『お兄様』と呼ばれるのに慣れてきている自分に少しだけ呆れ、そんな自分にビックリだ。

…要は満更でもないってことなんだが。

 

「スピードだけで言えばメルクが筆頭候補だな。

個人的には簪を応援したいところだ。

訓練に関しても全員分見てきているから、ことさらにそう思う」

 

しかも今では全員機動性が見違えているからこそ過酷なレースになる。

鈴もラウラも第二形態移行を経験し、相応の実力をつけている。

誰かが勝っていたり、劣っていたりするわけじゃない。

誰もが強者だ。

俺もそこに割って入りたいが、残念ながら俺は競技参加禁止と仰せつかっている。

それが残念でならない。

なら、俺は俺の仕事するとしよう。

 

「でも、審判役を仰せつかっているからな、ちゃんと中立の立場で見させてもらうさ」

 

「その割に、ウズウズとしてらっしゃるように見えますよ?」

 

スイマセンデシタネェ、ガキっぽくて。

こんな間近でCBFを見られる機会は無いし、全員が同時に疾走しているのを間近で見るのも楽しみなんだよ。

もののついで行ってしまえば俺も参加したいんだよ。

あーあ、訓練機の部でバイクにて乱入したが、それ以降も俺が参加できないか交渉してみれば良かった。

なら、俺もラファールに搭乗する事にすれば…いや、輝夜がスネちまうから無理か。

…結局無理じゃねぇかよ。

 

「否定はしない。

願わくば、俺も参加したかったからな」

 

放送席の屋根の下から見上げる空はどこまでも青い。

願わくば、このまま何もなければ…そう願っていた。

 

 

 

「さあ、始まりました!

午後の部、第二幕!

専用機所有者一年生の部!

こちらは人数多くなんと7人!

それでは入場!」

 

真っ先に入場してきたのは…ラウラか。

すげぇ…無人機の頭の上(・・・)に乗ってやがる。

群で鍛えたバランス能力をこんなところで遺憾なく発揮してるぞ。

 

「ドイツ国家代表候補生!

ラウラ・ボーデヴィッヒ選手!」

 

『Follow Me!

 

貴様らは私が連れて行く!』

 

キッチリ決め台詞まで用意してやがったよ。

だが残念、そのセリフは二番煎じだぞ。

しかもナイフまで抜きやがって、お前はハルフォーフ副隊長に汚染されつくしているようだな。

 

「続けてフランス国家代表候補生!

シャルロット・アイリス選手!」

 

こちらは無人機の肩に乗っている。

まあ、無難な登場だな。

 

『疾風の名は伊達じゃないよ!』

 

お前もか。

確かにラファール(疾風)だけどさ。

リヴァイブは確かに優れた機体だ。

大抵の兵装を無改造で搭載できるという優れた汎用性を持ち合わせ、なおかつ優れた機動性。

それらを持ち合わせているからこそ各国でライセンスを取得している。

国家代表でもリヴァイブに搭乗している選手も珍しくはないらしい。

 

「続けて日本代表!

更識 簪選手!」

 

『勝ちは絶対に誰にも譲らないから!』

 

簪も気合充分なようだ。

その双眸に炎が宿って見えた。

小動物のように感じられた彼女が今では優勝を目指すトラのようだ。

内心全力応援してるから、頑張ってくれよ、簪。

 

「続けて中国国家代表候補生!

凰 鈴音選手!」

 

『アンタらまとめて全員ブッチギる!』

 

どこに用意していたのか、青竜刀を頭上に掲げている。

コイツは勝負事とか好き好んでいるからな…、今回も暴れてくれそうだ。

道場破りをしていた頃のように。

 

「さあつづけて!

イギリス国家代表候補生!

セシリア・オルコット選手!」

 

『皆さんまとめて撃ち抜きますわよ!』

 

手で拳銃の形を作り、撃ち抜く真似まで見せている。

俺は即座に目をそらした。

だからアレをやめろつってんだろ。

気合が入っているのは分かったから。

それと観客席のミーハー共、煩いぞ。

 

「そして今回の優勝筆頭候補!

世界最速の翼を見よ!

イタリア国家代表候補生!

白銀の隕石(シルバー・メテオ)』!メルク・ハース選手!」

 

『誰が隕石(メテオ)ですか!

流星(ミーティオ)です!』

 

酷ぇ…最初は持ち上げておいたのに最後で落としやがったよ黛先輩(この人)…。

 

タッグマッチトーナメントでの事が余程有名になっていると見える。

見てみろよ、シャルロットは顔が少し強張ってるぞ。

あれは経験した奴しか判らんだろうな、俺はお断りだが。

 

「そして最後にオーストラリア国家代表候補生!

織斑マドカ選手!」

 

『私に追いついてこれると思うな!』

 

誰も追いつけないだろうな。

その射撃センスには。

ゼフィルスとて優れた機動性を誇っている。

このレースは楽しみだ。

 

「それではスタートの合図を織斑君、お願いします」

 

「了解!」

 

俺は撥を持ち、太鼓の前に立つ。

選手一同が無人機の肩や、頭から飛び降り、各々の機体を展開させる。

ラウラのシュヴァルツェア・リヒトー(黒き閃光)

シャルロットのラファール・リヴァイブ(疾風の再誕)

簪の天羅(天候の支配者)

鈴の神龍(ジェロン)

セシリアのブルー・ティアーズ(蒼雫)

メルクのテンペスタ・ミーティオ(嵐の流星)

マドカのサイレント・ゼフィルス(鋭風)

全員が全世界に誇る優れた機動性を持ち合わせている。

このレース、目が離せない。

 

ドン!

 

右手に握った撥を、太鼓に叩き付け、豪快な音共にレースは始まった。

 




視界を遮るものは何もない

ただただ前を見て飛翔する

遮るのは己の限界

なら、それすら突破しろ

突破し、前へと突き進め

遮るすべてを薙ぎ払ってでも

次回
IS 漆黒の雷龍
『征天雷禍 ~ 豪禍 ~』

やはり…来たか…!

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