IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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みんなのフィールド突入時は、やっぱりド派手にしたかったので


征天雷禍 ~ 走翔 ~

Ichika View

 

『アホが、結局テメェの覚悟は甘かったみたいだな』

 

「否定はしない」

 

楯無さんと別れてから関係者席に向かう途中、黒翼天からの声が脳裏に響いた。

耳に痛い言葉だった。

そしてそれ以上に胸の奥に刃のごとく突き刺さる。

これは俺がやっていたことに対する報いだ。

皆を守りたいと思っても、皆を傷つけていた。

なのに、自分一人で何もかもを抱え込もうとしていたんだ、コイツが呆れるのも無理はないだろう。

 

「一人で背負うな、か。

本当に何を考えていたんだろうな、俺は…」

 

至極当たり前の話だ。

なのに俺はそれを忘れていた。

簪達が悩んでいたりすれば、俺は手を貸したり、共に悩んでいたりした。

なのに、俺は自分の事となれば他人事のように思ったり、時には他人に悟られないように極力配慮していたりした。

 

「一人で無理なら、手を借りてでも。

すべてを自分の罪と思うな、か」

 

そう言われただけでも、軽くなった気がする。

本当に俺は引きずり過ぎだと思っていた。

でも、引きずり過ぎて擦り減った気がする。

楯無さんには感謝しよう、そして今度こそ願わくば…皆が悲しむ事のないようにしたい。

 

「いっく~ん!

もうそろそろ競技開始時間だから、早くこっちにおいで~」

 

「やぁれやれ、あの人からすれば俺は相変わらずガキの扱いみたいだな」

 

いい加減に辞めてもらいたいんだがなぁ…。

まあ、あの人に説得なんて出来得るはずもないのだが。

早々に諦めるのが吉か。

 

ため息を一つ、その分だけの未来の幸福を失いながら、俺は放送室に用意されたパイプ椅子に座ることにした。

それと同時に観客席のあちこちから妙な視線を感じてならない。

…どうせ女性利権団体の連中だろう。

あの連中には関わりたくもない。

 

「で、どんな派手な演出を考えているんですか?」

 

「万が一の時の為に、私が開発した無人機を会場の各地点に展開させてある。

これで侵入者が襲ってきても対処ができる。

数もそれなりに用意してあるから、観客の避難誘導、防衛だって出来るようにしてあるよ。

ちなみに、名前は『アースガルズ』」

 

なんかの神話に出てきた『神々の砦』だったな。

 

「数は?」

 

「20機」

 

多い。

いつの間にそんな数を用意してるんだよ。

まあ、それだけの数を用意してあるのなら大丈夫か。

避難誘導、防衛ができるのなら、防御に特化した性能なのだと期待しておこう。

この人は相変わらず非常識を地で行く人のようだ。

よくよく考えれば常識をひっくり返してさらに覆す人なのだが。

 

「時間、ですね」

 

時計の針が重なった。

選手入場の時間であり、地獄の一丁目に片足を突っ込む時間でもある。

ここから先、なにが起こるのかは判らない。

ただ言えるのは…良い方向には向かないであろう、という事だ。

よからぬ方向へ陥ったりしないように…そう願いながら空をみてみる。

この競技場も電磁シールドによっておおわれているが、テロリストどもがそれを考慮してくれるとは思ってはいない。

そもそも、世界でもシェルターに使われる可能性とて見受けられているこの電磁シールドすら打ち砕くような攻撃力をも手に入れているテロリストも居るのだから。

思い出すのは、今年の五月、クラス対抗戦にて突入してきた侵入者、奴は、あの電磁シールドを一撃で粉砕した。

当時、あのアリーナの電磁シールドとて、かなりの出力で設定されていたらしい。

にも、関わらず、だ。

 

「さあさあ皆様お待たせしました!

いよいよ始まりました、IS学園の生徒達によるCBF、専用機の部!

実況は新聞部部長、黛薫子がお送りします!

そして解説&審判役には!」

 

「織斑一夏です」

 

「テンション低いよ織斑君!?

そして特別ゲストには!」

 

「IS開発者にして国際IS委員会会長!

航空宇宙学科担当教諭の篠ノ之束で~っす!」

 

両サイドのハイテンション振りについていけねぇ…。

なんで俺はこの二人に挟まれなきゃならないんだよ。

…帰りたい。

 

「そうだ篠ノ乃博士、あちこちで憶測が浮き上がっているのですが、織斑君がCBF一年生訓練機の部に於いてバイクで乱入した件は、博士と何らかの関係があるのでしょうか?」

 

「ふっふっふ!よく訊いてくれました!

現在私は、IS学園に新たな特別クラス、先日にも公表した『宇宙航空学科』の設立のためにいろいろと開発をしてるんだよ!

そして宇宙航行を目指すのと並行して、新エネルギー開発にも着手してるのさ!

今回彼が乗っていたバイクは、まだプロトタイプだけど、そのエネルギーの試験稼働の為なんだよ♡

宇宙でも使える予定のそれを地上で使った際の性能と、機動性能の確認をするための乱入してもらった次第なのさ!」

 

「新エネルギー開発!?

織斑君はそのことを知ってたの!?」

 

「聞かされていましたよ。

ただ、あんな無茶な演出を予定していたとは予想外でしたがね」

 

宇宙航空学科設立のことは簡単に聞かされていたし、今回はテストパイロットを務めることも頼まれていた。

好きにバイクを乗り回せることに魅力を感じてしまっていたのも確かな話だ。

あのバイクはプロトタイプということだから完成するかもしれない完成型も拝見してみたいところではある。

 

「その宇宙航空学科を目指している人はどれだけ居るのと思う織斑君?」

 

「そうですね…、宇宙にロマンを感じている人も少なくないでしょう、軽く見積もっても10000人は居ると思いますよ」

 

空を超えた向こう側、永遠の星空を願う人間は多くいるだろう。

 

「そこで束さんから重大報告~!

なんと!今回新エネルギー開発に伴い、バイクを乗り回した彼を国際IS委員会宇宙航空技術開発支部、平たく言っちゃえば、私が作った設備などのの直属テストパイロットに所属してもらうことになりました~!」

 

「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!??」

 

…事実だ。

テストパイロットの件は日本政府に軽い脅しを入れて納得させたらしい。

もうこの人出鱈目だ…。

つまり、今の俺は『世界初の男性IS搭乗者』『日本代表』だけでなく『宇宙航空技術開発支部テストパイロット』と言う箔まで付いてきているというわけだ。

しかも篠ノ乃 束 博士直属の。

俺の人生ここから先どうなっちまうんだ…?

 

「あ、それともう一つお知らせ!

来年から設立される宇宙航空学科には、最新の設備も導入予定だから、それに関しての知識も深めてほしいの!

他にも宇宙空間と似たような環境にも対応してみたいっていう男子生徒も募集予定!

そういうクラスだから…『女尊男卑』なんて風潮に染まった生徒はドンドン落とすから悪しか~らず~♡」

 

気軽に世の中に喧嘩売るとか、本当に度胸あるよな…

 

「それでは気を取り直して!選手一同の入場~!」

 

「マイク返してください博士!」

 

俺の頭上で言い争わないでくれ…。

なんでこんなテンションの高すぎる人がこんなところにいるんだ、人選考え直してくれ…。

頼むから。

 

 

そして西と東の選手入場口から異形が飛び出してきた。

少しだけ見覚えがあった。

しかも先ほど思い出したばかりのクラス対抗戦で乱入してきた無人機に少しだけ似ている。

だが、学園祭の日に接近してきたとかいう無人機ともタイプが別だ。

…なるほど、万が一の際を考慮し、防御に特化させている機体『アースガルズ』とはアレのようだ。

そしてその手の上には、ISスーツをまとった選手が乗っていた。

 

「…なんつード派手な登場だよ…」

 

無人機の手にのっているのは、3年性のダリル・ケイシー先輩のようだ。

 

「一番最初に入場してきたのは!

アメリカ国家代表候補生!ダリル・ケイシー選手

機体は、アメリカ製『ヘル・ハウンド ver2.8』!

高火力な機体です!」

 

一番最初に入場してきたが、この人はそこまでテンションが高い方ではないようだ。

周囲を一瞥しただけで、そのあとはコースに視線を向けている。

 

『あの時にも感じたが…あの女…気のせいか…?』

 

「…?」

 

ふと聞こえる黒翼天の声が聞こえた。

しかも妙に警戒しているかのようだった。

 

「…どうした、相棒?」

 

『………』

 

完全黙秘(カンモク)かよ…。

そして俺は刑事ドラマの身過ぎかねぇ…?

 

「……?」

 

ケイシー先輩と視線が重なる。

食事の注文を取りに行った時と同様に敵意を感じた、明確に。

…風潮に踊らされているとか、そんな感じなのだろう。

今後とも極力関わらないようにしておいたほうがよさそうだ、対処が面倒臭ぇ。

 

そして再び無人機が入ってくる。

そして、その肩に担がれているのは、黒髪の少女。

 

「ギリシャ代表候補生!

フォルテ・サファイア選手です!」

 

こちらもテンションがひっくい。

周囲を一瞥しただけで、髪をいじり始める。

テンションが低いというよりも…随分と消極的に見えた、色々と。

 

「機体はギリシャ製、『コールド・ブラッド』!」

 

直訳すれば『冷血』だ。

随分とあからさまなネーミングだな、ギリシャの開発陣は。

あ、搭乗者本人はのんきに欠伸してら。

そしてそれにつられて観客席の一部がわめき始める。

…有名人のさりげな行為にもやたらと反応するのかよ。

IS業界ってのはミーハーな連中も多いのな。

 

そして今度は

 

「ロシア国家代表、更識楯無選手の入場!

機体は『ミステリアス・レイディ』!」

 

そしてこちらは観客席へのアピールを忘れない。

しっかり投げキッスまでやっている始末だ。

そしてミーハー連中の喧しい事。

それを見てまた楽しんでいる楯無さんの無邪気な笑顔、まさに悪童だ。

もののついでに広げた扇子には達筆にて『応援よろしく♡』

『猫を被る』とは正にこの人のためにあるような言葉だな、戦闘中は結構えげつないんだし。

 

『一夏く~ん、何か余計なことを考えてない?』

 

そして早速こちらへ通信を入れてくる。

こっちには背中を向けているくせに何でわかるんだよ…。

 

「…まさか、人を疑いすぎですよ」

 

午後の部の最初は専用機所有者が少ない二年生、三年生による合同レースだ。

よって、この三人の独壇場だ。

勝ち目は…まあ、見えてるけどな。

 

協議開始直前になり、それぞれが無人機の手やら肩やらから飛び降りる。

25メートルもの高さから飛び降りる途中、各自機体を展開させる。

見慣れたミステリアス・レイディはこの際横目に、ほかの二機に視線を向ける。

 

「…あれがヘル・ハウンド(冥府の猟犬)、か」

 

搭乗者の体は、胸部に至るまで装甲に覆われている。

何より特徴的なのは、両肩の装甲に獣の頭部を象った装飾があしらえている点だ。

ハウンドの如く、猟犬なのだろう。

 

「お~!ワンちゃんだよいっくん!」

 

「はいはい、そうですね」

 

そして束さんからは犬っころ扱いか。

ご愁傷さん。

そんな風に騒いでいるのが聞こえたのだろう、先程以上に鋭い視線を俺に(・・)突き刺してくる。

おい、何の用だっての。

さっきから何でこんなにも視線を突き刺してくるんだか、これだから風潮に踊らされている輩は…。

お返しとばかりに俺も睨んでやろうかと思ったが辞めた。

あとが兎にも角にも面倒臭ぇ事になりそうだし。

 

次に視線を向けたのはフォルテ・サファイア先輩だ。

こちらは犬っころとは違って搭乗者を覆う装甲が少ない。

その代わりと言わんばかりに、周囲には氷を模したかのような装甲を浮遊させている。

スペックデータを見てみると、ナノマシン散布により冷気を自在に操るんだとか。

簪にもできる芸当のようだ。

 

番犬にしろ、冷血にしろ、機動性がものをいうこのCBFでどんな活躍を見せてくれるのやら。

楽しみにしておこう。

 

「それでは、スタートの合図は織斑君から」

 

「了解」

 

何処から用意したのかしらんが、放送席の外には締太鼓。

これは有り難い。

銃器を扱えない俺からすれば丁度良い道具だ。

撥を握り、三機の機体を見上げる。

見慣れた機体、そうでない機体、いずれも各国が開発に力を入れた機体。

そしてそのコアはかつては宇宙を目指す筈だったものの心臓だ。

現在それはすべて国家の所有物となり、挙句の果てには兵器の心臓と成り果てている。

束さんがそれをどう思っているのかは俺には知りようがない。

宇宙航空学科を作り、『IS=兵器』という概念を取り払おうとしているのかもしれないが、それ以上に行動に移そうとしていないのも確かな話だ。

それで世界中の万国が頷くかというと否だろう。

なら、この先はどうするつもりでいるのだろうか?

束さん次第、か。

 

「俺に何か御用ですか?ケイシー先輩?」

 

再び鋭い視線を突き刺してくる先輩に通信回線を開き、軽くジャブを吹っ掛ける。

関わるのは面倒臭ぇのは変わりないが、敵意剥き出しの理由は察しておきたかった。

 

「あん?用なんざ無ぇよ、とっととスタートの合図を出せ」

 

どうやらジャブは交わされてそれっきりに終わったようだ。

なら、これ以上は時間の無駄だろう。

束さん謹製の無人機もまとめて引っ込んだことだし、そろそろスタートさせよう。

これ以上じらせて楯無さん(ネコ)ケイシー先輩()にかみつかれるのはお断りだ。

そんな俺達を見て冷血さんも妙な視線を向けてきている。

…なんで上級生ってのはこんな面倒な人たちばかりなのやら…断じて俺は悪くない。

っつーかこの人臭い!なんだこの匂いは!?

コロンか!?どうにもこの匂いは好きになれないね、ってーか俺は嫌いだね、この悪臭は!

こんな嗅覚への暴力続けられても迷惑だ!なので!

 

ドン!

 

右手に握った撥で太鼓を力強く叩く。

それを合図に3機が高速飛行を始める。

存外にもトップを誇っているのはヘル・ハウンドだった。

猟犬の如く足も速いと来た。

こんな事を考えているのがバレようものなら、それこそ噛みつかれそうだ。

 

その次に楯無さんだ、そして僅差でサファイア先輩ときている。

こっちはガトリング・ガンで牽制しサファイア先輩は氷を生成して楯にしている。

うわ、えげつない。

 

しかもクリア・パッションを二人の間で発生させ、その爆発により更なる足止め、爆風でレイディはさらに加速。

サファイア先輩の機動を制限するというオマケつき。

『コールド・ブラッド』は近接戦闘にはあまり適さない支援型なのかもしれない。

あ、楯無さんがケイシー先輩に追いついた。

ってーか、アレは『追いついた』って言っていいのか?

ラスティー・ネイルをヘル・ハウンドに絡みつかせた挙句にそのまま牽引させてるだけじゃねぇか。

さながら犬の首わに結びつけたリードだ。

そしてそのままガトリング・ガンを打ちまくり撃墜させて颯爽とゴールイン。

 

「…えげつねぇ…」

 

「聞こえてるわよ一夏君♡」

 

へいへい、悪うございましたね。

そして楯無さんは相変わらず猫のような笑顔だ。

 

「『兵は詭道なり』ってね。

卑怯も卑劣も作戦の内よ♡」

 

「俺としてはどちらもお断りですがね」

 

「あらあら」

 

広げた扇子には『驚き桃の木』とか、もういいから。

そう言っている間にサファイア先輩もゴールインだ。

最初はトップを飾っていたケイシー先輩がまたもやこちらを睨んできている。

相変わらずその視線は…いや、あれは…憎悪と殺意を込めた視線だ。

 

『あの女、警戒しろ。

タダで事が済みそうにねぇぞ』

 

「百も承知だ」

 

あの人と関わるべきじゃない。

それは確かに俺の本能でも悟っていた。

たかが一度や二度で持つような憎悪ではない、これは 予感ではなく確信だった。




感じ取る殺意

視線にこめられた憎悪と憤怒

だが、今はまだそれを感じとっているだけ

ここからが本番

括目せよ

これが彼女たちの本気

次回
IS 漆黒の雷龍
『征天雷禍 ~ 青空 ~』

横暴だ!

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