IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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Q.学園祭にてのほほんさんがとんでもない情報をが暴露してましたが…またオシオキが増えてたりして…。

A.虚さんから雷を落とされ、『オヤツ抜きの刑』が延長されたようです…くわばらくわばら…


征天雷禍 ~ 背追 ~

Ichika View

 

 

ローテーションの予定としてはメルクと鈴の訓練に付き合うことになっている。

あの二人はそこそこ真面目だし、生真面目に機動訓練に力を入れているだろう。

 

「そう、思っていたんだがなぁ…」

 

Q.今回の目的は何ですか?

A.CBFに向けた機動訓練です。

 

 

Q.二人は何をしてると思っていましたか?

A.生真面目に機動訓練に精を出していると思っていた。

 

 

Q.二人は何をしていますか?

A.現場を見てわからないか?

 

 

そう、二人がしていたのは

 

「やぁっ!」

 

「っと!こんのぉっ!」

 

「まだまだいきますよ!」

 

「負けるかぁっ!」

 

鈴はどこから用意したのか、本物の青龍刀を、メルクもどこから用意したのか十字剣を。

それぞれ両手に握り、剣の特訓をしていた。

お前ら、なんで剣の特訓をしてんだよ?

CBFに向けた訓練はどうした?

やる気が無いのなら…俺、帰ってもいいよな。

よし帰ろう。

 

ドガン!

 

そんな音がして足元の地面にに何かが突き刺さった。

見覚えはある。

学園祭で鈴が投げつけてきた中国手裏剣だ。

 

「ちょっとそこ!何帰ろうとしてんのよ!」

 

「鈴さん、乱暴過ぎますってば」

 

おうおう、危ない危ない。

こんなモンを簡単に人に向かって投げんじゃねぇよ。

まあ、俺も人の事は言えた義理じゃないけどな。

 

「で、二人は何をやってんだよ?

大会に向けた訓練はどうした?」

 

「今もやってたでしょ」

 

やってねぇだろ。

やってたのはどこからどう見ても剣の特訓だ。

 

「今度のCBFでは、戦闘もありますけど、基本的には速さを競うレース方式ですから。

鈴さんにとっては速さをイメージするには絶影流が一番なんだそうなんです。

実際に機動訓練もしていますが、剣の特訓をした後には鈴さんの機動訓練も成績が良くなってるんですよ」

 

「ずいぶんとまあ、遠回しな訓練をやってるんだな」

 

「兄貴も速く準備しなさいよね」

 

へいへい

 

 

で、俺も両手に刀とナイフを握る。

1対1でも構わないんだが、最近は鈴とメルクのタッグを相手に乱取りもしている。

 

「やあぁっ!」

 

「ぜりゃぁっ!」

 

基本的にこの二人の剣速はほかの生徒が振るうブレードの速さに比べれば圧倒的に速い。

まあ、俺が仕込んだのだから当たり前な話ではあるのだが。

鈴は後になってから教えを請うてきたが、それより前にはメルクから訓練を受けていたらしい。

だからだろうか、メルクほどではないが成長もしている。

 

メルクは、学年別タッグマッチトーナメントの折から訓練につきあっているからだろう、成長はしている。

この乱取りでは蹴り技も編みこませてきている。

実際に話を聞いてみると、あの篠ノ之相手に圧勝したとか。

まあ、あいつに位なら今の鈴でも勝てるだろう。

俺も入学初日には一瞬で勝負を終わらせてやった覚えもある。

あれくらいは容易かったが。

 

「おっと、鈴も蹴り技を含ませてきたか」

 

「まあね!こんの!」

 

「メルク、そのスピードを維持できるように頑張ってみろ」

 

「はい!まだまだいきますよ!」

 

この二人はまさに伸び代の塊。

まだまだ実力が大きく伸びるだろう。

 

「穿月!」

 

「狂月!」

 

「填月!」

 

「絶影!」

 

「昇月!」

 

この二人は夏休み中にでも訓練をしていたのだろうか、コンビネーションも見事なもんだ。

まさに阿吽の呼吸とでも言ったところだ。

 

「「絶影流!中伝!」」

 

二人の剣が前後から襲ってくる。

…見事なもんだ!

 

「幻月・双華!」

 

「鏡月!」

 

鈴の青龍刀が袈裟斬り迫る。

ナイフで斬撃を反らす。

その一瞬後を追うようにメルクの十字剣が左右から挟むように襲いくる。

ナイフを逆手に、串刺しにするように振りおろし、右手の剣を弾く。

続けて右手の刀を下段から振るい、のこる十字剣を弾き飛ばす。

 

その瞬間には鈴が背後にまわり青龍刀を逆袈裟斬りに振るう。

右手の刀を逆手に持ち替え、背面に振るい、青龍刀を食い止める。

 

「絶影流!奥伝!」

 

真上から囁くような声が聞こえる。

 

「狂月!」

 

メルクがその細い脚を全力で振り下ろしてくる。

本当にこの二人は一緒になれば厄介になったもんだ。

背面の鈴の青龍刀を弾き飛ばす。

 

「昇月!」

 

俺もまた跳躍してから背面回し蹴りを放つ。

互いの足がぶつかるが、そのまま吹き飛ばされたのはメルクだった。

まあ、ここは体重差によるものだ。

 

「へみゅっ!」

 

吹き飛ばされたメルクは着地できずに尻から落下。

さて、じゃあ次に

 

「もらったぁっ!」

 

背後から飛びかかってくる鈴の姿。

 

「……」

 

ドザァッ!

 

「ヘブゥッ!?」

 

そのまま直撃してやるのも気分的によろしくないので避けた。

そして鈴は地面にダイブするのだった。

そして俺は刀とナイフを二人に突き付けた。

 

「ほい、お疲れさん」

 

「あはは…参りました…」

 

「うぐぅ…降参(リザイン)…」

 

さて、剣の特訓が終わったからには高速機動訓練に移るとしようか。

 

 

 

 

Lingyin View

 

「ったく、相変わらず兄貴には剣じゃ勝てないわ…」

 

「私たちよりも年季が違うような気がしますよね」

 

「おいおい、お前らと同い年だぞ」

 

兄貴は顔をしかめながら苦言してくる。

どうにも年齢の話になると反応が鋭い。

ああ、アレね。

一学期にはセシリアに、夏休みには見知らぬ女性から「子沢山の父親みたい」だとか言われたからね。

確かに同い年のはずなのに、剣だけはアタシ達よりもずっと年季が入っているかのような実力者になっている。

ISの搭乗期間に関してはアタシたちよりも短いのに、とうとう千冬さんに勝利するまでに至ってる。

まあ、一年生の中でも最強なのは間違いない。

そもそも機体のスペックからして段違いだものね…。

 

「じゃあ、元来の訓練に戻りますか」

 

「それもそうね、そうでなきゃ兄貴に来てもらった意味もないし」

 

神龍を展開。

高起動用の追加兵装も取り付けられたから、少し背面に傾きやすい。

メルクはといえば、いつもと変わらないテンペスタ・ミーティオのまま。

一学期には、機体が完成したばかりで白式とほぼ同じスピードだったけど、臨海学校や、夏休み中の訓練でさらなるスピードに居たり、機体も順調に学習しているらしい。

兄貴を除けば、学園に所属する機体の中でも随一のスピードになっているとか。

でも、負けてやるつもりなんてなかった。

アタシだって今回の為に色々と考えているんだから。

 

「いくわよメルク」

 

「GO!!」

 

メルクとアタシのたった二人でのレースが始まった。

でもまあ、結局のところ、ものの数秒で一気に距離を離されている。

中国で開発された機体である『(ロン)』シリーズは、徹底的に管理された燃費と、他の種類の機体が届かない程のパワーをウリとしている。

だから、どちらかといえば重量系。

イタリアのテンペスタシリーズにはスピードでは勝てない。

くらいはそれでもアタシだって瞬時加速(イグニッション・ブースト)くらいはできるように努力した。

それでもスピードでは勝てない。

でも、勝てないのだとしても、近づく為に考えた策が

 

「いっっっっけええええぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!!」

 

『衝撃砲』を真後ろ(・・・・)に撃つというものだった。

衝撃砲はもともと、前後上下左右の自在な方向に砲撃が可能になっている。

その砲撃による反動で、機体を無理やりに前に押し出す。

そして方向転換が必要になれば、衝撃砲の反動で方向転換。

力任せの神龍にみあった高起動訓練だと自分でも思っている。

 

「っ!やっぱりそれでも追いつけないか…!」

 

やっぱりテンペスタシリーズは速い。

しかも相手はその最新鋭機。

神龍じゃ追いつけない、本気で悔しい!

 

「あ~も~!速すぎるっての!」

 

「お兄さんには負けますけどね」

 

「そこで俺を引き合いに出すなっての…」

 

このスピードジャンキー二人は反則的に速い。

兄貴に至っては減速無しで鋭角にカーブを曲がったりしてるし…。

 

「俺だって輝夜の能力のすべてを引き出してる訳じゃないんだ」

 

「は?どういう事?」

 

「臨海学校の時なんだがな…」

 

それからアタシとメルクの二人は兄貴の話を聞いて開いた口が塞がらなかった。

何?そんなもん、ISで使えるようになったらどんな機体でも追いつけっこないでしょ…。

でも、兄貴はそれをいまだに使いこなせていないのだとか。

あんまりにもイレギュラー過ぎるわよ。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)』どころの話じゃないわよ…。

 

「まあ…何だ…俺もなんて表現すればいいのかよく判ってないんだけどな」

 

苦笑する兄貴にアタシもメルクも驚くしかなかった。

でも、少しだけ心配していた。

あの時に見た過去の兄貴の姿。

もう、あんな姿は見たくなかったから…

 

 

 

 

Ichika View

 

これで今日の訓練はすべて見終わったことになる。

全員かなりの訓練を積んでいたからだろう、夕飯時には全員がヘロヘロになっていた。

いや、ラウラは訓練以外でもヘロヘロ人っていたわけだが…。

 

ってーわけで今日も今日で俺が全員分の食事を奢る事にした。

 

いや、食事を作っているわけだが。

今回のメニューは、鶏の丸焼きだ。

だが、ただの丸焼きでは芸が無い。

学園の購買にて購入した鶏の中に、米と野菜を詰め込み、オーブンで皮がパリパリになるまで焼いた。

途中、肉から滴る肉汁を繰り返しかけてやることで、表面はパリパリに、そして中の米や野菜に味が染み渡っていく。

ドイツでも作った経験のある大人数用の料理だ。

存外に千冬姉からの評判も高かったりする。

なお、中学に通っている頃に、鈴の誕生日に作ったら大喜びされたのは、良い思い出。

 

「…全員訓練ご苦労さん」

 

「一番疲れてるのはお兄さんだと思いますけど」

 

「そうよね…この一週間だけでだけで何キロ走ってんのよ」

 

うっせーよ、日常だ。

俺が学園内にて東奔西走する姿は、不本意ながらすでに名物と化しているとかなんとか。

聞いた話では、俺が逃げ切れるか否か、どこぞで賭けが行われているらしい。

 

「でも、一夏のおかげでいい訓練になったと思うよ」

 

「うんうん、さすが兄さん」

 

煽てても料理くらいしか出せなかったりするんだがな。

 

「ほら、冷める前に食べちまえ」

 

しっかしこの学園の購買ってすごいよな。

手羽先だとかならわかるけど、解体済みの鶏の胴を丸々売ってるとか…俺以外の需要があったのか?

そんな疑問を頭に浮かべながら皿の上に豪快に乗せた鶏を包丁でカットする。

その途端に中から薫りが飛び出してくる。

うん、今回もいい出来だ。

 

それから各自の皿の上に盛り付けていく。

鶏肉から滴るうまみが米の中にまで行き届いているはずだ。

その証拠に全員が旨そうに頬張っている。

前回同様に鈴とメルクがやや微妙な表情だがそこはスルーしておこう。

 

「相変わらず料理の腕が上達してるわねアンタは」

 

「そうか?

今回の料理は二年前にドイツで教わったものなんだがな」

 

「美味しいです」

 

メルクからは絶賛のようだった。

まあ、黒兎隊のみんなからも評判は良かった料理だしな。

荒熊の連中からはやたらとこの料理の注文が入ってた気がするが…。

「んで、CBFの本番っていつだっけか?」

 

「9月27日だ、兄上」

 

あ~、言われて思い出した。

ここ最近は視聴覚室に籠もりっきりか、こうやって訓練に付き合ってるかのどちらかだったから忘れちまってたな。

とはいえ、俺とて皆とは別の訓練をしっかりとしている。

っつーか束さんは無茶苦茶過ぎるだろう。

俺にあんな事をやらせようだなんて…。

開会式の直後には一年生の部が予定されているが、俺はそこでとんでもない事をやらされる事になっている。

 

束さんの発案だが、無茶苦茶だ。

っつーか、あの無茶苦茶な台本を誰が考えた?

ハルフォーフ副隊長か?

そしてそれに巻き込まれる山田先生が哀れにも程がある。

本人も仕方なく承知してくれてはいるが…。

詫びに弁当を差し入れしよう、そうしよう。

 

それ以外は、俺は当日は観客席に近い場所にて半ば見物だからな。

皆には頑張ってもらいたい。

 

「9月27日、か。

マドカの誕生日の前日だな」

 

「それを言うなら兄さんの誕生日でしょ、なんでそういう大事なことを忘れてるの」

 

「一夏…自分の誕生日は覚えておこうよ…」

 

うっせーよ、頼むから『ダメだコイツ』とでも言いたげな視線を辞めてくれ。俺からすれば、マドカの誕生日の方が優先的なんだよ。

お前らもそっちの方向に話を進めてくれ。

おい、(ソコ)、『シスコン』といいたそうな目を辞めろ。

 

「13歳の誕生日の出来事、ここでバラせば忘れずに済むかもね~」

 

「おい辞めろ。

ほら、手羽追加してやるから暫く黙っとけ」

 

「モガガガ~~~!」

 

手羽を鈴の口に4つまとめて押し込み黙らせた。

こちらは揚げてから甘酢で味付けをした特製のものだ。

 

丸焼きと合わせて今日は鶏のオンパレードだな…。

なお、ラウラが妙に静かだと思えば…相変わらずクロエに可愛がられているようだった。

 

 

 

 

 

Tabane View

 

「こんな夜更けにどうしたのかな、ドラゴン君?

いや…いっくん(・・・・)?」

 

地下の機密区、私が海上警備用の無人機の調整をしている最中、彼は音もなく現れていた。

こんな暗い場所でも、彼はその双眸を紅く見せていた。

 

「…アンタは今の世界をどう思っている?」

 

「突拍子も無い質問だね」

 

思い返してみる。

私がISを作り出したのは青い空を超えた先にある、無限の星空を目指したから。

でも、最初は子供の遊びだとされ、世界は私を嘲笑った。

だから、あの事件は腹いせだったのかもしれない。

 

白騎士事件(・・・・・・)

アンタが世界中の軍事基地をハッキングし、ミサイルを日本に向けて掃射した。

表の目的(・・・・)はISを世間に知らしめる為。

裏の目的(・・・・)は、アンタを嘲笑った奴らを恐怖させる為。

それらに隠された真の目的(・・・・)は、あるISコアの破壊だった」

 

「撃たれる事の無かった2342発目のミサイル(・・・・・・・・・・・)に君を搭載したけど、君は自力で生き残ったんだったよね。

それは私にも予想ができなかった、だから君を強制凍結して、海の底に鎖した。

なのに、誰かに発掘されて、いっくんの体に埋め込まれるだなんて思ってもみなかった。

じゃあ、さっきの質問に戻ろうかな…。

この世界をどう思っている感いついてだけど…そうだね…」

 

この世界は私にも予想出来なかった事が幾つも続いている。

私の思い通りに進まないのは嫌だけど、それが繰り返される現在は私にとっては刺激になっている。

 

「それなりに楽しいかな。

君はどう思っているのかな?」

 

「この世界は…狂っている…。

青臭ぇガキが好き勝手に銃や刃ぁ振り回し、それを当たり前としている。

ただそれだけで相手を見下し、それが節理だと思い込む。

そんな世界が、アンタの望んだ世界の姿か?」

 

それを突かれると痛い。

ISが兵器化されるのは私の望んだ事では無かった。

そんな事、最初に兵器化した私が人のことをとやかく言えることではない。

今ではアラスカ条約なんてものが制定されながらも、非公式扱いで兵器として平穏を蹂躙している場所も存在する。

殺戮が繰り広げられているのも知っている。

なのに私はそれらから目を反らし、かりそめの平和の中で『夢』を謳歌している。

 

コイツ(一夏)も『この世界が狂っている』と結論を出している」

 

「…かもしれないね…いっくんは…私が作ったISのせいで身も心も傷付いた。

自分から感情をすり減らすにまで至っているから…」

 

「だが、アンタや、簪との出会いを否定はしていないのも事実だ。

それでも、この世界を否定している。

アンタの夢とやらをとやかく言うつもりはないがな、それを嘲笑っている連中は未だに多く居る。

あちこちで紛争を起こしている連中もそうだ、殺戮を繰り広げる輩もな。

そして…そいつらを裏で操っている亡国企業(奴ら)も…」

 

私が追っている組織。

未だにその全貌が掴めない。

だけど、手掛かりはある。

この学園の機密区画にて幽閉している女、通称『オータム』。

アメリカ製第二世代機『王蜘蛛(アラクネ)』に搭乗していた彼女。

そしてちーちゃんが見せつけられたと聞いた映像の中、声だけが聞こえたけれど『スコ-ル』と呼ばれた女性。

いっくんに人体実験を施そうとしていた顔も見知らぬ誰か。

最後に…黒翼天も…。

 

「君は、どれだけ知っているの?

奴らの本拠地も知っているの?」

 

「知らねぇなぁ…。

俺が一夏(コイツ)に埋め込まれるまで休眠状態だった。

アンタこそ情報を掴んでいるんじゃなかろうかとも思ったが、アテが外れたようだ」

 

「だったら…どうするの?」

 

いっくんの体を借りた龍は私に背を向ける。

まるで此処にもう用は無いと言わんばかりに。

 

「アンタの『夢』とやらについてとやかく言う気はもう無い。

だが、今もアンタがつくったもので血を流すものが…命を失う者が、そしてそれを愉悦とする者が居る。

ソレを忘れるんじゃねぇ。

一夏(コイツ)の目の届く範囲でそういった行いが行われようものなら…俺()はもう容赦はしない」

 

「私を殺すってこと?」

 

「アンタじゃねぇ」

 

その短い答えを返し、彼は訪れた時と同じように音もなく姿を消した。

…光速移動を更に発展させた、空間跳躍。

今頃、いっくんに身を返し、部屋に戻っているのだろう。

 

「『容赦はしない』、か…」

 

それは恐らく…『殺す』ということなのかもしれない。

 

「…あれ…?」

 

一瞬ではあるけれど、違和感を感じた。

思い出したのは、少し前の学園祭、当日第8アリーナで起きた出来事だった。

あの日私は…黒翼天の怒りに触れた。

けれど、彼は私を見逃した。

簪ちゃんの説得に応じたわけではなかったが、『オータム』の両手両足を斬りおとすに留めた。

『殺さなかった』のではなく『殺せない』のでは、そう思った。

なのに今度ばかりはその意思を見せなかった。

 

「そん…な…あんまり過ぎる…!」

 

『殺す』と決意したのは…いっくんだ…!

 

 

涙が止まらなかった。

彼の平穏を壊したくなかった。

だから今の地位をも奪い取った。

それも、私の自由のいくらかを放り投げてでも。

なのに…私が追い詰めた…!

血で手を穢す覚悟をさせてしまった。

こんな…こんな事をしたかったわけじゃない。

 

なのに…なのになんでこんなにも裏目に出るの…!?

 

いっくんは…過去に人を殺した。

理性を失い怒りに身を任せ、殺戮と蹂躙を繰り広げた。

その結果、その苦痛に耐えられず、心が壊れてしまうのを防ぐ為に、記憶と一緒に自らの心を刔りとった。

再び血を浴びれば、今度こそ心が砕け散るかもしれない…。

そうとは知ってか、知らずしてか、彼はそれを繰り返そうとしている。

力に恵まれたいっくんだから闘おうとしているのかもしれない。

でも…自分自身を守る為に力を振るわず、他者を守る為だけに力を振るい…血を流そうとしている。

止めるべきなのか…そもそもその力の要因を作りだした私にすら…答えは出なかった。

 




非情な覚悟

目を反らし続けた世界

けれど、彼は今日も微笑んでいる

失われたのは怒りだけ?

それとも…

次回 
IS 漆黒の雷龍
『征天雷禍 ~ 現今 ~』

全員、箸とナイフとフォークとスプーンの準備は充分か?

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