ちょっとキャラがぶっ壊れ気味ですがご容赦ください。
Q.妹分達の機嫌を損ねてしまった場合、一夏君はどうやってご機嫌取りをしてるんですか?
どうなの、答えて一夏君?
P.N.『匿名希望』さんより
A.
一夏「翌日の弁当に好みのオカズを入れたりしてるかな。
もしくはデザートを手作りとか」
Ichika View
「は~な~せ~!」
「ああもう!嫌がってる様子も可愛い!
このままポケットに入れて持って帰ろうかしら♥
それともラボに飾っておこうかしらぁ♡」
「い~や~だ~!」
簪とマドカの特訓の翌日、こちらのアリーナに来たのだが…愛情表現なのか、はたまた危険思想なのかよくわからんセリフと叫び声がこだましていた。
「…やぁれやれ…」
声の主はラウラとクロエだった。
ラウラは特訓をしに来ていたはずだが、クロエは何かが我慢できなかったらしく、抱きしめたりしている様子。
…危険な光景に見えてしまい、踵を返そうと思ったのだが…。
「あ、兄上ぇ!助けてくれぇっ!」
「あら、お兄様、来てらしたのなら一緒にラウラを可愛がりませんか?」
…俺は逃げるべきか?
それともクロエを止めるべきか?
その選択肢の内、どちらを選ぶべきなのか、俺は頭痛がするほどに悩むに至った。
5分後。
「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…」
「お~い、大丈夫かラウラ?」
「な、何とか…」
クロエからラウラを引っぺがすに至った。
方法としては、『明日弁当を作ってやる』との事で片付いた。
要は買収だ、チョロイもんだ。
「で、どれだけの時間やらかしていたんだ?」
「たったの1時間程です」
『
ラウラ、ご愁傷様だ。
「特訓が終わったらまた抱きしめてあげますからね、ラ・ウ・ラ♥」
「ヒィッ!?」
愛情表現なのか、危険発言なのか、本当によくわからん事を平然と言う奴だ。
だが、流石にラウラが気の毒に思えてきた。
現在のラウラはと言えば…顔を青ざめさせ、涙目になりつつ俺の背後に回り、震える両手で俺の背中にしがみついている。
『ドイツの冷氷』だとか『黒兎隊隊長』だとか『ドイツ軍中佐』だとかの威厳は全く無いと言い切っても良いだろう、年相応の少女だ。
…何をしていたのかは敢えて問うまい。
特訓をするよりも前に俺も体力を使い切ってしまいそうだ。
「やぁれやれ…取り敢えず嫌がらせはそこまでにしといてやってくれ」
「嫌がらせだなんて失礼です。
姉として妹を可愛がっているだけですよお兄様」
「さようか…」
なお、俺の背中にしがみついているラウラはと言えば…。
「嫌だぁ…あんなのもう嫌だぁ…もう嫌だよぅ…」
…幼児退行してないか、この黒兎?
本当に何をやらかしているんだか…。
いや、問うつもりは無いけどな。
特訓に移るのにそこから更に15分を要するのだった。
「では兄上、特訓を頼む」
「おう、じゃあ始めるか」
あれから泣き止んだラウラはと言えば、先ほどまでの事を忘れるようにと繰り返し俺に言ってきた。
いや、追求するつもりは俺にはまったく無いんだけどな、だがまあナイフを抜いてまで言ってくるものだし、刺されるのも面倒だしで、口にしないでおくことにした。
それからお互いに機体を展開させ、訓練を始める事にした。
ラウラはリヒトーの非固定浮遊部位を見慣れぬものに換装させている。
あれが『シュヴァルツェア・ツヴァイク』用の追加スラスターを改良させたものなのだろう。
更に、束さんから受け取ったスラスター・シールドユニット『流星』を腕部装甲に固定させる。
「GO!」
そこから見たスピードはリヒトーのそれとは比べものにはならなかった。
重量の多いレーゲンでは、この速度には至れなかっただろう。
「なかなかのスピードだな、ラウラ」
「兄上にはまだ及ばないだろう!
だが!」
両腕部装甲に仕込まれているプラズマブレードを展開させてくる。
流星を装備していても展開できる構造らしい。
束さんは、これも踏まえて設計していたのかもしれない。
そしてそれだけじゃない。
「…AICか!」
ドイツでも一度受けたからわかる。
これは確かに動けない。
だが拘束が甘い!
「スプレッドパルサー!」
「ぬあ!?」
拡散型レーザーを放ち牽制、その隙に一気に追い抜く。
「まだだぁっ!」
リボルバー・カノンとパンツァー・カノニーアを展開させるが、輝夜の速度に翻弄され照準すらままならないようだ。
頼みの綱はワイヤーブレードだったかのしれないが、非固定浮遊部位を換装させてしまっている今では使えないらしい。
どうやらシュヴァルツェア・ツヴァイクは、ドイツ唯一の高機動型らしいな。
「やはり速度では兄上には届かないのか…」
最初のレースの後はラウラはふてくされていた。
こういう一面もまた年相応の少女らしいところだ。
「速度に関しては俺も最初期から懸命にやっていたからな。
楯無さんの特訓は伊達じゃないんだよ」
「あの人から訓練を受けていたのか…」
「俺も独自に訓練はしていたけどな。
剣術をISに搭乗したままでもできるようにしようとか、さ。
おかげで今は相応の実力はついたつもりだ」
必死になっていたからなぁ。
「メルクに剣術を仕込んでいたのも兄上だったな…」
「あいつは近接戦闘を苦手としていた。
だから、その代わりとばかりに剣術を仕込んでみたんだよ。
メルクの成長スピードは大したもんだ、伸び代の塊と言ってもいいレベルだぞ」
「兄上…絶賛しているな…」
「そういうつもりは無いんだけどな…。
俺は今回は審判役だ、公平に物事を見るのが仕事なんだって」
だから今回は身内贔屓とかはしないぞ。
いや、今までそこまでしていたつもりも無いけどな。
さて、じゃあ、今度は白兵戦でもやってみるか?
お互いに最も得意とする獲物を抜刀する。
俺は右手に刀、左手にはナイフ。
ラウラは両手にナイフだ。
そこからたった二人の剣舞が始まった。
ラウラはドイツ軍で叩き込まれたであろう、緩急自在、更にはナイフの間合いを生かした、零距離戦闘。
俺はと言えば、速度任せの手数の多さで圧倒していくスタイルだ。
で、ものの数秒で結果が出た。
「くぅ…こちらでも兄上にはもう届かないか…」
「二年前は同等に持ち込むのが精一杯だったけどな」
「兄上も伸び代の塊同然ではないか」
そういう程のものに至っているのかはわからないけどな。
それでも俺は、まだ上を目指したい。
黒翼天との誓いを果たせるに至るまで…。
「ドイツに居た頃、簪達に秘密で行っていた対IS戦闘訓練も懐かしいんだがな、あれ以来禁止を言い渡されてしまったからなぁ」
「常人がする訓練ではないから致し方ないだろう」
ISと生身で渡り合おうなどと考える輩はこの世にいないだろう。
考えるのはせいぜい俺のような大馬鹿野郎程度だと思う。
だけど、色々と見えてきた。
ISと生身で渡り合おうとするのなら、ISの性能を著しく削り取る事が前提になってくる。
まず、飛行ができない、そして機動性を削る環境が必要だ。
だからこそ、地下だとか屋内での戦闘に限定される。
さらには銃器を振り回せない、跳弾が起こりやすい頑丈な密室空間が理想的だろう。
だが、そんな場所にわざわざ誘われるようなバカはそれこそISに搭乗する資格も無い。
それに、そんなところに誘い込む事が出来たとしても、今度はISを包むシールドが邪魔になる。
絶対防御だとかを含め、それを0にするか、突破でもしなければ勝利はないだろう。
シールドが展開される速度を上回る攻撃とか生身じゃ無理だろ。
当たり前な話、既存の兵器じゃISに太刀打ちできないのは常識だしな。
「…………」
「なんだラウラ?」
「いや、なんでもない。
つづけて訓練を頼みたい。
戦闘はなしで、純粋に高機動訓練を」
「よし、じゃあやろうか。
グズグズしてたらラウラも再び仕留められそうだからな、背後の人に」
「もう、言わないでくださいな。
もう少しでしたのに」
「ッ!?」
クロエが再びラウラに抱き着こうとしていたみたいだった。
油断も隙もあったものじゃない。
つーか、何やらかそうとしてんだよアンタは。
あーあ、またラウラが顔を青褪めさせてるよ。
さてと、訓練を再開しようかね、と
Laura View
「やはり速度では兄上に届かない…!」
私のリヒトーには『流星』を含めていくつかの追加スラスターが搭載されている。
それらを総動員させても兄上の『輝夜』のスピードには追いつけない。
あのスピードはメルクの『テンペスタ・ミーティオ』も霞んでしまうのは間違いないだろう。
そして、臨海学校の際に起きた福音事件。
その折に見たあの黒いドラゴンをも上回る。
こうして考え事をしている間にも周回遅れにさせられる始末だ。
「これで3周差か…!」
あまりにも悔しい。
だが、CBF当日に使う予定の本命の兵装はつかうわけにもいかない。
だが、遅れを取り戻すには…いや、あくまでも追いつくだけならば、AICを使って相手を固めてしまえばいいだけかもしれないが、長時間の使用は私としても負担がおおきいし、スピードを緩めてしまうだけだ。
装甲を薄くしてしまえばもう少し早さが出せるかもしれないが、それではリヒトーらしさが失われてしまう。
リヒトーのすべてを否定するようなことなどしたくない。
「む、もうゴールしたのか…」
兄上に先を越されてゴールされてしまった。
あれでも兄上としては最大スピードを出し切っているわけではない。
だが、私のペースに合わせてくれているわけでもないのがどこか腹立たしい。
「ラウラァ♡
お兄様に八つ当たりしちゃダメよ♡」
「ムグゥ…!」
先にクロエ・クロニクルを撃ち抜いてやりたいが、姿がまったく見えない。
どうやらお得意の光学迷彩を使って姿を隠しているようだ。
先ほどもああやって姿を隠して背後から音もなく近寄ってきただけでなく私を縫いぐるみのようにしていた…!
思い出すだけ腹立たしいやら悔しいやら。
ゴン!
「ヘミュッ!?」
不要な方向にばかり考え事をしていたからだろう、アリーナの壁面に衝突してしまった。
「おい、大丈夫か?」
「う、うむ、大丈夫だ。
もう一度訓練を頼む」
「無茶するなよ」
「う、うむ!」
再び流星を両腕に握り、スラスターを最大出力にまで引き出す。
かつてのリヒトーと比べても圧倒的な速さだが、これでは上位入賞は未だに望めない。
今回の大会では、上位入賞候補が多くいる。
メルク然り、マドカも姉上もシャルロットもセシリアと、これだけ居る。
シュヴァルツェア・リヒトーそのままの状態であれば、私はせいぜい鈴と張り合うだけで終わっていたかもしれない。
だからこそ、上位入賞を勝ち取る為にこうやって加速訓練にも力を入れた。
夏休み中にも、流星を使いこなせるように訓練だってした。
「この状態で…
さらなる大出力による加速。
これでもまだ駄目だ!まだ足りない!
「『
背後のスラスターから爆発的にエネルギーが迸る。
そのたびにリヒトーがさらなる加速を得ていくのが判った。
これだ、これと、アレを使いこなせれば、私とて先鋒を駆け抜けていける。
「何か掴めた、そんな表情しているみたいだな、ラウラの奴」
「そうですね、この感じでラウラには頑張ってほしいものです」
ゴール地点にまっすぐに飛んでくるラウラを見ながら俺は少しだけ微笑む。
そして輝夜の背後でニコニコとしているクロエが少々不気味だ。
口が裂けても頼まれても口にするつもりは微塵も無い。
そしてラウラもゴールイン。
輝夜と比べればずいぶんと遅いゴールインだが、それに関してはお約束だろう。
輝夜のスピ-ドが速過ぎるのだから。
「兄上ぇっ!今の!見てくれたかぁっ!?」
眼帯に塞がれていない側の目をキラキラと輝かせながらラウラがかけよってくる。
無論、機体の展開は解除させている。
そして駆け寄ってきて飛びつこうとするのだが
「ラ・ウ・ラ~♡」
「ゥナァァァァァァ~~~~~~!!!!????」
はい、これもお約束だな。
クロエがラウラに抱き着いた。
いや、言い換えるべきか。
俺に飛びつこうとしてたラウラを、クロエがキャッチしたのだから。
「あれなら上位入賞だって夢じゃない!
これからも頑張りなさい?」
「はぁ~なぁ~せぇ~!
あ、兄上!助けてぇぇぇぇぇっっ!!!!」
…俺、もう帰っていかな…?
十数分後
涙目+顔の青褪め+幼児退行気味+疲労による熟睡
そんなラウラを背負って今回はこのアリーナを後にした。
「やり過ぎだ、クロエ」
「姉妹としてのスキンシップのつもりだったんですが」
「だとしても、だ。
ラウラにトラウマでも残すつもりか。
精神障害者なんぞ俺一人で充分だ」
「お兄様がそういうのでしたら…今後はもう少しだけ控えるようにします」
全力で控えろ。
さてと、ラウラを寮の部屋にでも運んでもらうとしようか。
明日はメルクと鈴の様子を見に行くとしようか。
近くで見てきた
友人として
親友として
背中を追うものとして
憧れる者として
次回
IS 漆黒の雷龍
『征天雷禍 ~ 背追 ~』
絶影流!