IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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CBFまで、みんなは必死に訓練してるのでしょうね。
そして一夏君は別の方向でも鍛えられている様子です。


Q.あの後、メルクちゃん達って、踏みつけられたんですか?
P.N.『匿名希望』さんより

A.いえいえ、体力が尽きた所で二人まとめてお兄さんがおんぶして連れて帰りました。
追手はくーちゃんが追い払いましたよ。
ラウラは…くーちゃんがお持ち帰りしちゃいましたけど。


征天雷禍 ~ 求速 ~

Ichika View

 

ルールの暗記はほぼ問題はないだろう。

俺は審判役ということだから、さほど目立つ事はないと思う。

…いや、目立ちたいわけでもないが。

世界クラスで悪目立ちしてしまった身の上なので殊更にそう思う。

あまり目立つのは好きじゃない、というか嫌なほうではある。

平穏安泰な日々を送りたいと思う半面、俺はどうにもトラブルに巻き込まれることが多い。

 

二年前然り、ISを動かしてしまった半年と少し前も然り、入学後のクラス対抗戦然り、そして臨海学校の際の福音事件然り。

俺はどうにも『厄介事』という言葉が相棒のごとく付き纏っているらしい。

今日も今日とて『取材』という名義を振りかざすパパラッチ集団(新聞部)だとか、『勧誘』という言葉の向こう側に『部費』という言葉をチラつかせている放送部もまた…。

 

「ったく、俺には平穏なんて程遠いのかな…」

 

ヤケクソの如くそんな言葉を溜息と一緒に零す。

やや鬱になり気味な気分を抱えながら俺は窓の桟に足をかけ、校舎の壁面を走って上る。

だがまあ、そのパターンを見越していたのか、別のグループが屋上に待ち構えていた。

 

「そーれ!」

 

そしてその手に持っているものを俺に向かって投げうつ。

石のような悪辣なものではなかった。

だが、それと比べれば遥かにタチが悪い。

投げられたものが空中で広がり、蜘蛛の巣の如く展開される。

 

「俺は魚かっつーの…」

 

俺に向かって投げられたのは()だ。

どこから持ってきたそんなモン。

 

それで俺を捕まえる算段だったらしい、勘弁してくれ…。

投網とか対処が面倒くさいだろう。

だがそんな悲観的になっても目の前の現実は変わってくれない、むしろここで壁面を蹴って離れようものならば、真下に居るハイエナ集団(新聞部と放送部)に捕獲されるだろう。

 

「恨んでくれるなよ…!

絶影流、中伝…『深月(みつき)』!」

 

壁面を文字通り駆け上りながら俺は左腰に携えている(バルムンク)を抜刀する。

最後の一歩を踏み出すと同時に横なぎに一閃、続けざまに振り下ろす形で一閃。

訓練は欠かしていない。

千冬姉程ではないが、俺も飛来する斬撃を多少なりに扱えるようになってきている。

それでも射程距離は10mにも届かない。

 

だが、今はまだこれでも十分だった。

刀を振るった瞬間、投網が十文字に切り裂かれた。

障害がなくなり、俺はそのまま屋上に着地する。

 

「撃てええぇぇっっ!」

 

途端に、屋上にいまだ控えていたであろう別のグループがネットランチャーを構え、放つ。

通常のネットランチャーなら、射程距離は精々5~7m。

だが、ここではそんな常識は通用しなかった。

このIS学園はいわば搭乗者だけでなく、技術者の卵もまた多く控えている。

ネットランチャーの改造が法に触れるかどうかは知らないが、ここは世界の万国から途絶された場所だ。

そんなところで学んだ技術をこんな形で活かしているようだ、整備課の連中とか、技術科の連中は少しは自重しろ。

そしてハイエナ(パパラッチ)共も自重しろ。

もののついでに働け教職員、暴走しがちな連中を止めろよ。

 

「ちぃっ!」

 

四方から撃たれるネットを転がって避け、さきほどとは正反対方向へと走る。

そして屋上のフェンスに飛び乗り、そのまま飛び降りる。

木々を飛び移り、地面に近づく。

そして飛び降りてからアリーナへと走っていく。

 

「ったく、面倒くさいな。

最近は陸上部も協力してるみたいだしな…」

 

果ては剣道部も手を貸そうとしていたらしい。

 

だが、俺が剣道をするつもりは一切無い事を告げたらあっさりと引き下がった。

それでも面倒なのは変わりないようだが。

まったく、部活にいそしむのは結構だが、そのベクトルは別の方向に切り替えてもらいたいものだ。

 

「さてと、いろいろと見て回ろうか」

 

今日は皆が各アリーナにてCBFの訓練をしているのだが、それに付き合ってもらいたいと言われていた。

壊れて使えないアリーナも幾つかあるので(その幾つかは俺と黒翼天が原因)、二人一組になって訓練をしているらしい。

第二アリーナにてマドカと簪、第三アリーナにてメルクと鈴、第四アリーナにてラウラとクロエ、第六アリーナにてセシリアとシャルロットだ。

とはいっても、同日に見ることはできないだろうから、連日別々に練習しているところを見て回る形になるだろうけれどな。

ちなみに楯無さんは第七アリーナにて上級生と一緒に訓練しているらしいので、とりあえずパス。

 

さて、先ず今日は簪とマドカの訓練を見てみるかな。

 

…そして最後のシメには弓道部…

 

「かよ!」

 

ギギギギィンッッ!!!

 

シメの射撃…というか撃ち放たれた矢を一矢残らず叩き落とした。

さて、これで終いだな、いい運動になったぜ。

もう相手しないでくれよ、面倒くさいから。

 

 

 

 

Kanzashi View

 

「今日もやってるみたい…」

 

苦笑しながら私はアリーナ上空から見下ろしていた。

少し離れた先では、一夏がすさまじい勢いで走りながら追い手を振り切っていた。

刀を振るい、ナイフを振るい、そしてすさまじい勢いで走りぬいてく。

その速さには誰も追いつけていなかった。

 

「兄さん、今日も頑張ってるな…だけどやり過ぎだろう…」

 

最後は最後で、撃ち放たれた矢を刀だけで斬りおとした。

相変わらずすごい太刀筋。

そしてそのままアリーナに飛び込んでくる。

グラウンドにまで走ってくると、すぐに機体を展開する。

 

「待たせて悪かった」

 

「仕方ないよ、今回は審判役ってことだからやることが多いだろうし」

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

「じゃあ、早速訓練を始めよう!」

 

そこから私とマドカは訓練を始めることにした。

先ずはマドカからのスタートだった。

マドカが搭乗する『サイレント・ゼフィルス』は高機動にも向いた機体。

もとより強力な射撃を繰り出し、そうそうに飛び去る『一撃強襲離脱型』なだけはある。

そして今回はビットを飛ばしながら、高速飛行を行うという難しいものだった。

だけど、それはマドカからすれば、『いつもの事』。

 

「いくよ兄さん!」

 

凄まじい数のビットを展開し、猛射撃を繰り出す。

もはやレーザーの驟雨とも言うべき状態の中を、一夏はそれをも上回る速度にて回避したり、ブレードで弾く。

防ぎきれないと判断すれば、今度は雷を撃ち出し、まとめてレーザーを吹き飛ばす。

もうこうやって見ていても常識はずれに思える。

 

でも、私はその技術を決して否定したりしない。

あの技術は、一夏が自力で組み上げたものだから。

その努力を否定する権利は誰にもない。

 

「って、兄さん速過ぎ!?」

 

「ん?そうか?

まだまだ序の口なんだがな…」

 

でも、正直に言うとスピードの感覚がおかしくなりそうかな…。

 

それから今度は純粋なスピード勝負に突入していた。

今回は私もいっしょになって飛翔する。

私もマドカも全速力を出し切っているのに、一夏はそれでも加減してのマニュアル制御で並んで飛行をしている。

 

「二人は元々高機動に特化した機体に搭乗してるが、これだけって事はないよな?」

 

「勿論、メルクには届かないかもしれないけれど、負けてあげるつもりはないよ」

 

「私も、まだ速度を上げるための策を用意しているから」

 

言うや否や、私はそれを見せた。

天羅が加速する、マドカを一気に抜き去り、アリーナの上空を疾走する。

マドカは驚いているけれど、一気に話した距離を 縮めてなんてあげない。

そのまま抜き去った状態でさらに加速させる。

 

「なるほど、そういう事か」

 

けど、一夏は平然と追いついてくる。

私が何をしたのかが理解できていたらしい。

まあ天羅の能力を考えれば、察することはたやすいかもしれない。

一夏の機体である『輝夜』もまた強い輝きを放っている。

加速能力を使っている。

だけど、以前見た速さと比べても、まだ加減をしている。

本当に速過ぎ…。

 

そのまま指定しておいたゴールポイントに着地し、私は今回のデータを整理し始めた。

今回の課題は『万有天羅』による大気の操作と、それによる加速の加減。

加速する際のルートをあらかじめ設定し、そのエリアを真空に近い状態にさせる。

搭乗者を保護する絶対防御を普段よりも大きく展開させ、呼吸を可能にする。

その状態で、瞬時加速(イグニッション・ブースト)や、『連装瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)』を行えば、天羅の能力を以ってしても今まで出せなかった速度を出せるようになる筈だった。

 

「そう思えば…天羅は、輝夜の次に…どの機体よりも宇宙に近い存在かもしれない…」

 

こうやって加速訓練をしていると、時折に来訪者が姿を現す場合があった。

そしてそれは例外なく

 

「いっく~~~~ん!

簪ちゃあああん、マドっち~~~~!

今日も頑張ってるねえええぇぇぇぇぇっっっ!!」

 

生身でピットから飛び降り、平然と着地するこの人だった。

先日、全壊にまで陥っていた第八アリーナをで完全修復させるとか言ってたっけ。

 

「ふ~むふむふむ、簪ちゃんは今日も頑張ってるねぇ。

今まで加速を求め続けた人も、こんな方法は全く考えてなんていなかったよ」

 

データを勝手に開いて見物していた。

あんまりジロジロと見ないでほしいなぁ…、ちょっと恥ずかしいし…。

 

「むむ、簪ちゃんってば、大きいねぇ…97とは」

 

「どこのデータ見てるんですかぁっ!?」

 

油断も隙も無い!

っていうか完全にプライバシーの侵害ですってば!

 

「そう僻まなくても大丈夫!

まだ成長期なんだから、その内に束さんみたいに大きくなれるって♪」

 

「僻んでませんんんん!!!!!」

 

「んを?マドっちはちょっと小さくて95だね。

目指せちーちゃんサイズ!」

 

「なんで私のデータまで見てるんだあああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

「大丈夫だってば、いっくんには今しがたこのデータを送っておいたから♪」

 

「「送らないでええええぇぇぇぇぇっっ!!!!」」

 

「完全にプライバシーの侵害ですよ!」

 

「横暴だぁっ!」

 

「ちなみに箒ちゃんは、夏休み前から補習にボランティアに参加しててストレスで一気に小さくなっちゃったんだってさ♪」

 

どうでもいいです!

人と比べるつもりはありませんから!

 

 

 

 

Ichika View

 

なんか面倒事になりそうなので、とっととズラかることにした。

束さんが来たらいつも面倒事に至っているのは俺の気のせいではないだろう。

いや、例外は有ったな。

束さんが俺たちの実家に訪れていた時には、代わりに大掃除してくれていたんだっけか。

あのときには代わりに面倒事を片付けていてくれていたが、まあ、今は今だ。

とっととこのアリーナから離れておくか。

 

「あ、いっくんどこに行くの~?」

 

…人外からは逃げられないってか。

はぁ~あ、本当に面倒な人だよこの人は。

 

「ダメだよいっくん、今日はこの二人の特訓に付き合うってことなんだからさ」

 

「その現場を引っ掻き回している人にだけは言われたくないんですけどね」

 

「ん~?誰のことかな?」

 

「鏡を見れば早いでしょ」

 

そんな不要なことを言ったからだろうか、さっそく束さんはスーツの懐から手鏡を取り出していた。

そのスーツのポケットは四次元ポケッ〇ですか…?

 

「おお、なんて美人!」

 

なんつー使い古されたギャグをやってんだかこの人は。

訓練には付き合いますが、茶々を入れないでいただけませんかねぇ?

 

 

 

んで、もう一度訓練に戻った。

CBFは国際IS委員会が定めた『アラスカ条約』に触れない程度の攻撃が認められている。

市街地だとか、人に向かってぶっ放すようなことはしなければOK。

IS同士なら認めますがね、的な感じではある。

今回は定められたコースを疾走、飛翔しながらのパターンの場合、他の機体にぶちかますのであれば基本的に何でもアリだ。

結託、騙し討ち、待ち伏せ、射撃に砲撃、体当たり、刀剣もアリとかなり過酷かつカオスなルールだ。

更には飛翔できないようにスラスターの破壊も認められているという…。

 

「いくらなんでもカオス過ぎじゃありませんかねぇ」

 

「そうだねぇ、基本的には高機動特化型が圧倒的に有利かな」

 

「その点で言ったら、やはりテンペスタが有利になりすぎるのでは?」

 

「そうでもないよ、『速過ぎる』というのは『小回りが利かない(・・・・・・・・)』ということでもあるんだから。

いっくんのように瞬時加速(イグニッション・ブースト)をしながら鋭角飛行を幾度も繰り返せるなら話は別だけど、輝夜以外の機体では、それが出来ない。

骨折に内臓損傷だとかが普通に起こりうるからね」

 

その話を聞いただけで輝夜がどれだけ周囲の機体からかけ離れているかが理解ができる。

早い話が、オーバースペックだ。

今回のCBFに俺が参加不可能になった理由も納得できないわけじゃない。

 

「束さん、やっぱり今回のCBFには…」

 

「その可能性は否定しない。

十中八九起こりうる事象だろうから」

 

今年はさすがにイレギュラーが多すぎるだろう。

『男性搭乗者の登場』

『未確認機の発見』

 

それもあるが

 

『専用機所有者の多さ』だ。

イギリス『ブルー・ティアーズ』

オーストラリア『サイレント・ゼフィルス』

ドイツ『シュヴァルツェア・リヒトー』

フランス『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』

日本『天羅』『輝夜』

中国『神龍』

イタリア『テンペスタ・ミーティオ』

 

一年生だけで、今年はこれだけの数の専用機が存在している。

それがあまりにも異常なのだそうだ。

二年生には、楯無さんが乗り回す『ミステリアス・レイディ』。

他にも専用機所有者が一人。

三年生にも一人いるらしい。

過去の記録をたどってみたこともあるが、三年間に渡って専用機所有者が入学しなかった事例もあったそうだ。

なのに、今年は、全学年合わせて10名だ。

 

「…技量は皆、向上こそしていますが、それでもまだ『競う』為のものであって『戦う』為のものではないのでは?」

 

「今回起こりうる事象は誰もが予想してるよ。

だから皆、特訓を頑張ってる、そんなみんなの努力を甘く見ちゃいけないって」

 

承知していますよ。

 

今回起こりうる事象。

それは…『襲撃』だ。

 




ひたすらに前へ

彼女たちは前へと歩んでいく

目指すは優勝

だけど、それだけでは足りない

本当にの望むのは何事もないこと

けれど、心は平穏の中には居られない

次回
IS 漆黒の雷龍
『征天雷禍 ~ 掲翼 ~』

頭痛がするほどに悩むに至った

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