「織斑、朝から悪いが職員室に来てくれ」
「…え゛…」
真冬の早朝のバイトを二つとも終え、登校してきた直後に俺は担任の先生に校内の内線で職員室に呼び出されるハメになった。
その旨を皆に伝えると
「一夏、お前、土日の間に何かやらかしたのか?」
「ンなわけないだろ」
「そうよ、アンタや数馬じゃないんだから」
「なんで僕まで引き合いに出されなきゃならないんだ…」
そりゃぁな…弾と数馬、二人の成績が悪すぎるからだろう。
数馬は数学と英語が赤点ギリギリ、弾にしても殆どの教科(保健体育以外)が壊滅的…と言うか、既に墜落している。
俺は楯無さんや、簪に見てもらい、成績トップに名乗り出ている。
バイトに関しても許可を貰っており、出席日数だって足りている。
問題らしい問題だって起こしてもなければ、巻き込まれてもいないから、先生から唐突に呼び出される理由が本格的に見当たらない。
一学期早々に一か月も休んでしまったが、それに関してはもう済んだ話で、蒸し返される事でもない。
「まあ、いいか、ちょっと行ってくる」
折角ストーブを使って温まっていたけど、寒い廊下を走れば少しは温まるだろう。
ひとっ走りしてくるか。
そして所変わり、職員室。
其処はストーブが数基用意されているだけでなく、エアコンまで使っているから暖かい。
そこまで使う電力に余裕が有るのなら教室にもエアコンを付けて欲しいと思うのは俺だけではない筈だ。
「失礼しま~す。
うわ…すごい暖かいな…」
職員室の中には…暖かさのせいでスーツを脱いでいる教諭の姿まで見える。
アンタ等…そこまでするくらいなら凍えて登校してきてストーブに群ってる生徒を少しは気遣えよ…。
「おう、織斑、こっちだこっち」
「いったいどうしたんですか、馬場先生?」
「こっちに外国から転校生が来るんだよ」
は?転校生?それをわざわざ言うために俺を呼び出したのか?
「なんでもな、もともと一人暮らしをしていたらしいんだが、日本側の企業のせいで住むところがままならんかったらしいんだ。
しかしだな、その転校生が日本に住むに辺り、滞在する場所を指名してきたんだ」
「は、はあ…」
俺が呼び出された理由、なんとなく嫌な予感がした。
「それが織斑、お前の家だ」
「…何でですか?」
なんで俺と千冬姉の家を態々指定してるんだよ!?
俺と千冬姉が見知っている外国人って、鈴か、ラウラを始めとしたシュヴァルツェア・ハーゼに所属する隊員しか居ないぞ!?
そもそもこっちに転校してくる理由も無い筈だぞ!?
「更に付け加えて言うとだ、既に再来年にはIS学園に入学する事も決まっていて、専用機も所有しているそうなんだ」
どんなエリートですか!?
「どんなエリートですか!?」
思ったことがそのまま口から飛び出してしまった。
でもそれだけの驚愕だったんだ、教師に向かって怒鳴ってしまったのは目を閉じて欲しい。
しかも専用機所有者って、どこかの国の国家代表候補生とかになるんじゃないのか!?
なんでそんな超エリートが態々俺の家を滞在先に指名してきたんだよ!?
物好きにも程があるだろ!?
「まあ、そんなわけだ、卒業までの間、世話を見てやってくれ」
なんで俺なんだよおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~!?
流石に、その転校生を恨みたくなったけど、そんな事をすれば国際問題にも繋がり、下手をすれば国家間の戦争にもつながり兼ねないので、下手な対応なんて出来なかった。
俺は朝からやつれて教室に戻ることになった。
馬場先生は転校生を呼びに、職員室を出て、俺には教室に戻るように言われてしまった。
今なら、冬の寒さだって俺には全く感じられない。
気が付けば教室の前にまで戻っていた。
どこを歩いてきたのかはよく覚えていない。
朝からそれだけの疲労が溜まってしまっていた気分だ。
「一夏、アンタそんなにやつれてどうしたのよ?」
「き、気にすんな」
「いや、それ無理だから」
「もうすぐ理由が判る」
「…は…?」
そして朝のSHRが始まった。
そのころには俺としては逃げ出したい気分だったが、仕方がなかった。
真面目に受けておくことにした。
「朝からだが転校生の紹介を行う」
一気クラス全体が騒がしくなる。
女子生徒は、男子生徒が転校してくることに。
男子生徒は、女子生徒が転校してくることに。
それぞれ期待しているらしい。
俺としては、どっちでもいい。
どちらだとしても、俺の胃に穴が開きそうだ。
「転校生は女の子、転校生は女の子、転校生は女の子」
後ろでブツブツと唱えている弾が鬱陶しかったのか、鈴が鞄で殴って黙らせておく。
数馬は…気にしていない…フリをしているつもりらしいが、視線は教室前方のドアにチラチラと向かっている。
現金過ぎるのがわかりやすったのだろうか、鈴に蹴倒されていた。
「それじゃあ、入ってきてくれ」
ガラリと音がして扉が開いた。
そして男子の絶叫、女子の驚嘆が教室に響いた。
転校生は女子生徒だった。
でも、その雰囲気は独特だった。
まるで…『千冬姉が若返った』かのような外観だったからだ。
流石に鈴も驚いている。
そして俺に視線を向けてくる。
その内容としては「アンタ、本当は何か知ってるんじゃないの?」と訴えているようだ。
言っておくが、俺だって驚いて声が出せないんだ。
それくらいは察してくれ。
「マドカ・O・ウェイザーだ。
元来の生まれは日本だが、訳があって
日本語に関しては一通り習っている。
いろいろと迷惑をかけるかもしれないけど、よろしく頼む」
口調もどこか千冬姉に似ている、そんな気がした。
「………♪」
「………?」
視線が重なる。
その瞳の奥に、何か好意的な何かを感じ取れた。
それだけじゃない、なぜかは判らないけれど、確かに俺は『懐かしさ』を感じていた。
「席はそうだな…五反田の隣だ」
良かったな弾、お前の意識が失われている間に転校生はお前の隣に座ることになったそうだ。
殴って気絶させられたから聞こえてないかもしれなけどな。
そして午前中の授業が終わり、昼の休憩時間に入る。
俺は弁当を開き、箸を用意する。
この時間帯は鈴も他の友達の所に行く場合もあるが、今回は俺の隣に座っている。
「左隣、良いだろうか?」
例の転校生が俺に声をかけてきた。
断る理由も無いので、俺は頷いた。
「イヤッホゥ!美人の転校生が俺の隣に座ってくれたぁっ!
御嬢さん、お手をどうブゲラァッ!?」
「うっさいわよアンタは」
俺と同じように食堂に来ていた蘭と、俺の隣の鈴によって蹴飛ばされていた。
蹴倒された弾におどろきつつも転校生…マドカ・O・ウェイザーは俺の隣に座った。
まあ、いつもの光景でも有ったため見慣れているので、俺は購買で買ったお茶(熱茶)を飲むことにした。
その直後に俺に向けられた眩華の一言に
「さてと、…11年振りだな、兄さん」
「ぶううううぅぅぅぅぅっっっっ!!!!????」
口に含んだお茶(熱茶)を噴き出した。
「あっちいいいいいぃぃぃぃぃっっっっ!!!!????」
復活した筈の弾に被害が及んだが、そんな事はどうだっていい!
『兄さん』!?俺が!?いや、妹が居るだなんて俺は聞いたこともないぞ!?
「弾!アンタさっきから五月蠅い!」
「ブホォゥッ!?」
哀れにも弾は鈴によって食堂を退去させられた。
しかも蹴飛ばされて窓から…。
「いや、ちょっと待ってくれウェイザー、俺に妹なんて…」
「そうか、千冬姉さんは言ってなかったのか…まあ、仕方ないかもしれないな。
改めて名乗るよ、私は『マドカ・O・ウェイザー』、外国に引き取られる前の名前は…『
マドカと呼んでくれ♪」
「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!????」
「嘘でしょう~~~~~~~~~~~~!!!!????」
「俺と同じ苗字…!!??」
ミドルネームの『O』とは『織斑』を指していた…?
いや、それよりも…千冬姉は何かを知っている筈。
なんで、それを俺に教えてくれなかったんあだ?
「そうだ、言い忘れていた、今日から家では世話になるよ、兄さん」
「あ、ああ、そうだったな…」
驚愕するようなことばかり続いていたからすっかり忘れていたよ。
「それで、千冬姉さんは家に居るの?」
「いや、今はドイツに居る…俺のせいで、な」
そして千冬姉が現在ドイツに滞在している理由を話す。俺の左手の事も、PTSDを罹患していることも含めて。
そして、その日の放課後。
「兄さんは自転車で登校してるんだ…」
「まあな」
「私も自転車買おうかな」
「いいと思うぞ、荷物を運ぶのも簡単だしな。
ただ、自転車屋に案内をするのはまた別の機会だ。
俺はこのまま真っ直ぐにバイトに向かう」
「バイトって?」
「人の送迎だ、俺の日課だよ。
なんなら一緒に来るか?」
俺の誘いに、マドカは微笑んで頷いた。
そして荷台に座る。
そこは簪の指定席なんだけど…、まあ、簪が通う学校に辿り着くまでにするか。
「…兄さん、兄さんを指さして笑う奴が居る。
撃っていい?撃っていいよね?サイレント・ゼフィルス展か…」
「待て待て待て!お前が何をするつもりだ、ほっとけ。
俺の今後の学生生活を破綻させようとしないでくれ」
「兄さんがそう言うのなら…」
こいつ、キレやすいんだな。
それからの生活は少しばかり大変だった。マドカと簪は初対面でも仲良くなってくれたのは良い。
問題は家の中でのことだ。いや、俺と同じ年で一人暮らしをしていたらしいから、生活能力に関しては言う事は無い。料理だって千冬姉と比べてもずっと上手だ。それどころか洗濯掃除裁縫と家庭スキルも俺と同等だ。問題は…
「すぅ…すぅ…すぅ…」
毎晩俺のベッドに忍び込んでくるのが問題だ。
部屋は二日かけて用意した。ベッドも週末には用意出来るんだが…それまで布団で我慢してもらう筈…なんだが…。
「どうしたものかな…」
簪と一緒に寝る事もあったから今更何も言うつもりは無いんだがなぁ…。
千冬姉へ。
日本はすっかり冬になり、街々は雪で真っ白になっています。
ドイツの方も雪が降っているのでしょうか?
季節の話はともかくとして、俺が通う学校に転校生が来ました。
日本にて住むところが間に合わなかったそうで、俺たちの家で預かることになっています。
なお、驚くような話ですが、俺と同じ年で、ISの適正が高かったそうで既にオーストラリアの国家代表候補生になっており、専用機を所有しているそうです。
そして、驚く話はこれで終わりではありません。
彼女の名は『マドカ・O・ウェイザー』、本名は『織斑 マドカ』だそうです。
…俺達の家族だそうです。
詳しい話は後々、千冬姉が日本に帰国した際にお聞きしたいので、そのつもりでいてください。
マドカも千冬姉に会える日を楽しみにしています。
P.S.
マドカに物凄い懐かれてしまってます、ベッドに忍び込んで来るほどですが…
Chifuyu View
「ぶうううううううぅぅぅぅぅぅっっっっ!!!!!?????」
「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!????」
久しぶりに私は飲んでいる途中のコーヒーを噴き出してしまった。
今回被害を受けたのはイザベラだった。
休暇を使って新しい私服を購入してきたそうだが、私のせいで御釈迦になってしまったようだ。
いや、それよりも、だ。
マドカ、だと…!?
私と一夏を捨てた両親が連れ去っていった私たちの妹が…日本に…一夏の所に帰ってきただと…!?
「そうか、生きてくれていたのか…いつの日か、会いにいかなくては、な」
私達三人でやり直せる日を、どれだけ夢見ただろうか。
これで、ようやく過ごせる。
『普通の三人の家族』として…
「織斑教官がすっごい楽しそうな表情をしてる!」
「あんな表情見たことない!」
「…ねえ、荒熊隊の皆も怖がってるわよ…」
「日本はもう冬なのに炎天下になるんじゃ…」
貴様等…重罰をそんなにも受けたかったとは知らなかったぞ。
フルマラソンなど生温いようだな…荒熊隊共々ISを担いでドイツを一周してきてもらおうか!
Ichika View
「お、手紙の返事が来たみたいだ」
早速内容を確認してみる。
「姉さんはなんて書いてるの?」
マドカも便箋の内容に興味津々のようだ。
隣から割り込んでくると俺が見えないだろう。
「えっと…」
簡潔に短く書いていた。非常にわかりやすい、それ故にそんじょそこらの男よりも殊更に男らしい。内容としては非常に単純だ。
『マドカの気の済むまでやらせておけ』
何故だろうか、文面からでも千冬姉が笑っている光景が目に浮かんだ。
なお、この日からマドカは忍び込んだりせず、堂々と俺のベッドに入ってくるようになった。
おはようございます。レインスカイです。
早速登場してもらった、マドカでした。登場遅くてゴメンよぉぉぉっっ!!!!
早期登場とか言っておきながら遅くなりました。
はい、見ての通り(?)ブラコン、シスコン一直線です。
原作とは大きな違いだ…。今後もそんなマドカを活躍させてあげたいものです。
…今回はそんなにも大暴れにはならなかったかも…。
それではまた次回!