IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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まあ、こんな日常も思い浮かぶわけですよ。
『ブラコン多数』のタグは伊達じゃないので。
一人追加です。

Q.簪ちゃんは猫アレルギーみたいですが、周囲に猫っぽい女の子が多いと思ったことはありますか?

A.ありますね。
楯無さんも、虚さんも、のほほんさんも鈴ちゃんも猫っぽい感じがします。


征天雷禍 ~ 疾走 ~

Ichika View

 

CBFは、モンド・グロッソと同等のイベントらしい。

そうでなくともISを間近見られる機会など無い一般人からすれば、まさに大イベントだろう。

モニター越しであってもそれは変わらないのだろうから、有給休暇を使ってまで見に行く人の気持ちは判らないでもない。

こうやって繰り返し見ている映像の中では、スタート地点の観客席もまさに満員御礼。

席でもないのに通路に居座る客も掃いて捨てるほどだ。

あーあ、『席』という名義の『通路』を巡って喧嘩してるバカも居るよ、係員に追い出されてるけどさ。

 

「…ISって結構罪深いよな…」

 

束さんが居ないからこそだろうか、心の中身が口からそのまま飛び出した。

 

束さんは、宇宙進出開発技術としてISを世界に公表した。

だが、世界はそれを一蹴、目もくれなかったらしい。

その後、全世界の軍事基地から2341発のミサイルがハッキングされ、日本がその標的となってしまった。

その折、所属不明、搭乗者不明のIS、通称『白騎士』が推参。

上空から襲ってくる2341発のミサイルを剣一振りだけで斬り捨てた。

被害は一切発生せず、また、被災者も無し。

だが、当の本人である白騎士はその日の黄昏に姿を消す。

 

その正体は誰なのか

 

何が目的なのか

 

ミサイルをハッキングしたのは誰なのか

 

それらはすべて不明だった。

 

それらを総称し、『白騎士事件』と呼ばれるようになった。

今でも伝説として語られ続けている。

 

その数か月後、ISが改めて全世界に発表された。

宇宙進出開発技術として公表されたが、世界は再びその声を嘲笑った。

束さんはこの時に世界を信じてISコアを世界に明け渡したのかもしれない。

だが世界はその翼を軍事技術として使い始めた。

既存の兵器では太刀打ち出来ない程の可能性を秘めたISを『暴力』という力として。

それも『女性のみが稼働可能』との欠陥も判明したからこそ。

 

それからは世界はISを軍事技術として開発を進め、今に至っている。

『未知への可能性』は『地上の支配』に…その翼が地上と青い空に縛られ、束さんは失踪した。

 

その副産物のような形で『女尊男卑』などという風習が世界中に広がり、世界の人間のパワーバランスが激変した。

女性優遇社会が生まれ、男性が生きにくい世の中が出来上がってしまっている。

女性の意見が常に優先され、それに些細な反論をしただけで、投獄だとか社会的制裁をうけるなどという理不尽な事も発生している。

『正当防衛』という名義の『殺人』が発生したパターンも一時にはあった。

しかも『女性による正当防衛だから』という理由だけで無罪放免だったか。

 

…嫌な世の中になったもんだ。

 

しかもそんな風潮だとか風習が全世界で、さらには今に至っている。

いつまで続くのかは誰にもわからないだろう。

多分、ISが『兵器』として君臨し続ける限り続くのだろう。

一度便利なものを手にしたら、手放そうとしないのが人間の(さが)だ。

 

「ISを元来の目的に…宇宙進出開発技術に戻す事が出来れば、或いは…」

 

束さんも諦めていないようだし、可能性は無きにしも非ずだろう。

だが、ウイルスのように蔓延しているこの風潮を 否定したその先には何かを用意しているのだろうか。

例え宇宙進出開発技術として方向をただすことができたとしても 、ISに男性も搭乗できなければ、意味を成さないだろうし、たとえ搭乗できるようになったとしても、女性を優先させようとする世の中の流れを変えるに至るのだろうか。

…現在『世界唯一の男性IS搭乗者(イレギュラー)』である俺の働きにより左右するのかもしれない。

尤も、『異端分子(イレギュラー)』だとか『要殺害(ターゲット)』として狙われているらしい身の上なんだが…。

 

「暗い考えは辞め辞め、今はCBFのルールを覚えるのが先だ」

 

もう一度映像を繰り返し観察しながらルールブックに目を通す。

基本的なことに関しては、ほかの乗り物でのレースと大差は無い。

一番先にレースのゴール地点に到達したものが勝利だが、そこに至るまでがあまりにもカオスだ。

 

妨害アリ、射撃アリ、結託アリ、格闘アリ、逃げ切り先行アリ、どこのカオスな世界だコレは。

戦場でレースをやってるようなものだ。

いや、レースの中で戦争やっているようなものだが。

 

こんな競技を誰が考えたんだか、頭を疑うぜ。

一度ソイツの頭をカチ割ってから、頭の中を綺麗に洗ってやりたいものだ。

いや、関わらぬが吉かもしれないが。

 

「…俺、出場しないでよかったかもな」

 

映像の中ではどいつもこいつも銃器を平然と振り回している。

見ているだけでも頭が痛くなってくるよ、発作的な意味合いでさ。

俺が出場したとなると先行逃げ切りの一手だけだ。

戦う前に勝つしか無い。

例え輝夜の最速を引き出したとしても。

 

ミサイル有効、レーザー有効、ブレード投擲有効、本当にカオスな競技があったものだ。

これでも規則(ルール)が定められた競技(スポーツ)だと世の中は言い切ろうとするのだからこの世界は壊れている。

 

「お兄様は出場されないそうですね」

 

「ああ、まあな、機体のレベルが段違いって事で…って、誰が『お兄様』か」

 

声が聞こえた方向、すなわち後ろに目を向けてみる。

そこには両目を閉じた少女が一人たたずんでいた。

IS学園の制服ではなく、どこかゴシックめいたブラウスとスカート。

見覚えはある、それも臨海学校にて。

 

「クロエ、だったか?」

 

「はい、『クロエ・クロニクル』と申します。

ラウラと同じように遺伝子操作にて複製された『ボ-デヴィッヒタイプ』の『プロトタイプ・ベイビー』です」

 

ンな事訊いた覚えもない。

予想はできていたけどな。

 

「ラウラよりも年上に見えるんだが?」

 

「塩基配列操作によって多少年上に見えるかもしれませんが、これでもラウラと同い年です。

製造日だって三週間程度しか変わらないんですから」

 

両手を腰に当て如何にも『私、不機嫌です』と言いたそうな感じだが、欠片も迫力は感じられない。

むしろ、『これが私の自慢です』とで言わせたほうが余程似合いそうな感じでだから不思議なものだ。

ラウラと同じように子供っぽいな。

っつーか『製造日』って…自分を機械みたいに言うなっつーの。

 

「話を戻そうか、だれが『お兄様』か」

 

「ラウラが兄と慕っていますから、私にとっても『お兄様』です」

 

「もういい、何も言わない」

 

これは束さんの仕込みか?今度弁当作ってやるよ。

 

「…まあ、慕う人が増えるのは悪い話じゃないか」

 

この場は少しでもポジティブに考えておくとしようかね。

さてと、CBFのルールを覚えなおすか。

 

なお、この後に来訪者がこの視聴覚室に訪れるまで、クロエは何が楽しいのか俺に視線を向けっぱなしだった。

…落ち着かねぇっ…!

 

 

 

 

Lingyin View

 

「やっぱり難しいわね…」

 

兄貴がよくやっている『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』は出来るようになった。

けど、そこから先の様々な加速についての訓練はなかなか上手くいかなかった。

兄貴の場合、瞬時加速を様々な方向に切り替えながら高機動稼働をやってるけど、まさに常識はずれな速度。

すこしでも追いつけたらあのメルクに追いつけるんじゃなかろうかと思ってるけど、さっきから地面をえぐったり、壁面に衝突したりの繰り返し。

ISの搭乗は、主にイメージ力が実際の力に変わることが多い。

アタシはイメージの前に試してみる場合が多いしなぁ…。

 

神龍のウリはその燃費の良さ。

エネルギー消費が徹底されているから、長期戦に持ち込まれても戦うことはできる。

かつての白式とは正反対だった。

更にはパワーもウリの一つ。

今回のようなCBFに於いてはスピードが競われる世界だから神龍はやや不利。

スラスターを全開にしてやれば、順位は真ん中辺りになるかもしれない。

まあ、ラウラよりは早くゴールはできるだろうけれど、ラウラは篠ノ之博士から貰い受けた兵装があるから油断はできない。

 

「中国本土から届いたパッケージをインストールしてみたけど、やっぱりメルクにはまだ届きそうにないわね。

兄貴に追いつける機体は存在しないだろうけど…」

 

あ、衝撃砲を後方にブッ放せば、その反動で加速できるかも。

後で試してみよっと。

でも、その前に。

 

兄貴はどんなイメージをしてたらあんな速さに変えられるんだか、それを聞いてみよう。

そうしたら、もう少し速くなれるかもしれないし。

 

「善は急げってね、とっとと着替えてから視聴覚室に行ってみよっと」

 

他のアリーナでは、各専用機所有者も頑張ってるだろうから、これは一種の抜け駆け…にはならないわよね、うん。

それに兄貴には簪が居るのは判ってるんだし。

 

「あ、鈴さん!今日の訓練はもう終わりですか?」

 

更衣室にてメルクと遭遇した。

 

「まさか、ちょっと野暮用があってね。

訓練の休憩合間に片付けようと思ったのよ。

メルクはどうしたのよ?

まさか余裕だからってもう訓練を終わるとか?」

 

「それこそまさか。

私もちょっと用事があるんです。

先程までは全方位集中射撃対策訓練(アンチ・バリアブル・シューティング)をやっていたんです。

どうしてか私は皆さんから集中砲撃を受ける気がして…」

 

集中砲撃を受ける理由はそりゃあ誰だって理解してるでしょうよ。

メルクは今回の大会にて優勝確実とまで言われているんだから。

それは逆に言い換えてしまえば、ハチの巣にされる可能性が一番高い。

それもスタートと同時に。

『加速し始めるよりも前に落とせ』

それがテンペスタに対するレース上でのセオリー。

嫌な話だけどね。

 

「…ねぇ…アンタちょっと大きくなってない?」

 

「…?…!?

どこを見てるんですか!?」

 

ちょっと前までアタシとそんなに変わらなかったくせに!

なんで世界はこんなにも不公平に満ちてるのよ!

 

「だれが『まな板』かあぁっ!!??」

 

「誰も言ってませんってば!!」

 

 

 

Laura View

 

篠ノ之博士から貰った兵装である『流星』は凄まじいものだった。

非固定浮遊部位(アンロックユニット)に固定できるほか、シールドらしく手に持って構えることも出来る。

それでも飽き足らず、腕部装甲に搭載したままスラスターとしての併用も可能。

腕の向きを変えれば、加速しながらの方向変換も可能ときている。

これなら今度のCBFでも上位入賞が望めそうだった。

 

「それだけではないがな」

 

シュヴァルツェア・ツヴァイク用の高機動パッケージもリヒトーに搭載し、さらなる秘密兵器も用意ができている。

さすがに今すぐ使おうものならば、当の本番で使えなくなってしまうから論外だが、AICの発動に関してはもう少しばかり訓練をしておかねば。

 

「…あいつら、何をしているんだ…?」

 

アリーナの外…というか学園の中庭にてメルクと鈴が追いかけっこをしている。

…と言うよりも、一方的に鈴がメルクを追い回しているようだった。

ふむ…だがああいうのはやったことが無い、面白半分で参加してみるか。

 

 

 

 

Melk View

 

なんで私が追いかけられなきゃならないんですかぁっ!

胸の大きさなら私なんて鈴さんと似たり寄ったりですよ!

谷間なんてできたことは無いですし、もう崖っぷちなんですってば!

 

「誰が谷間無しの崖っぷちかぁっ!」

 

「心の中を読まないでください!」

 

「認めたなぁっ!」

 

「鈴さんの事だとは一言も言ってないですってばぁっ!」

 

織斑先生!

見て見ぬフリしないで助けてくださいってばぁっ!

 

山田先生!

そんな和んでないで鈴さんをどうにかしてくださいってば!

 

なんで誰も助けてくれないんですかぁっ!?

あ、楯無先輩発見!

 

「楯無先輩!助けてくださいぃっ!」

 

「あらあら、ちっちゃい子同士ではしっちゃって、なんだか幼稚園みたいね。

見ていて和むわぁ…」

 

「「誰が幼稚園児ですかぁっ!!!!!」」

 

奇遇にも私と鈴さんの絶叫がピッタリと重なった瞬間でした。

そのまま二人掛かりで楯無先輩を追っかけまわす。

なのに先輩ときたら逃げ回るばかりでまったく捕まえられない。

 

「そうよふたりとも、いい調子。

スピードをより引き出すには、『追われる』だけじゃなくて『追いかける』のもイメージを掴みやすくなるわよ。

ほらほら、頑張って」

 

「絶対にボコる!

余裕で揺らしてんじゃないわよ!いくわよメルク!」

 

「はい!絶対に捕まえます」

 

あれ?私、何をしに校舎に戻ってきたんでしたっけ?

 

「ほらほらコッチよ~♪」

 

「ぅなあああぁぁぁぁぁ~~~~!!!!」

 

気分が急速に落ち着いてきた私は、まるで猫と猫がじゃれあっている光景から離れることにしました。

楯無先輩の右手に猫じゃらしが握られているように見えたのは、きっと疲れてるからです。

 

まずはお兄さんのところに行かないと。

 

「こういう訓練も時には悪くないでしょ鈴ちゃん?」

 

「こんな訓練があるかぁっ!」

 

…もう勝手にやっててください。




速く

ひたすらに速く

ただこんな日常

今日も追われて東奔西走

平穏にはまだ程遠い

次回
IS 漆黒の雷龍
『征天雷禍 ~ 奔走 ~』

一歩も遅れずついてこい

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