IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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学園祭編の後ってCBF編でしたよね。
原作読み直してきますね

Q.『神狂い』って…松平のとっつぁんの中の人の繋がりだったりする『元・死刑囚』の元帥さんの武器だったりします?

A.はい、その人の武器です。


征天雷禍 ~ 速天 ~

Tabane View

 

IS学園での学園祭も終わり、私は国際IS委員会本部に早々と戻った。

全てはいっくんの平穏を少しでも長く守ってあげたいからこそ。

 

「…隙は無い、か」

 

学園祭のあの日、いっくんの怒りが溢れ出し黒翼天はさらなる成長を遂げた。

その力は、万能にして圧倒的。

無差別ではないけれど、圧倒的なまでの殺戮と破壊を撒き散らすものだった。

近づくことは出来ない。

雷による包囲するかのような形での結界を常時作り出している。

発動されていれば、接近はおろか、実弾兵装、光学兵装すら弾かれる。

かと言って、発動させていないタイミングを狙って接近しようと思っても、それは自殺行為に近い。

黒翼天には、近接兵装も備えられている。

両腕から発される黒い光剣。

そしてそれをふるう技量はいっくんと同等…いや、確実に上回っている。

いっくんが狂乱に陥るほどの怒り、それを黒翼天はわがものにする間でに成長し、なおかつ完璧に制御している。

 

「人間一人が制御しきれない感情の暴走…。

ISコアの自我と融合することで、それを『力』として完全に制御、か。

その果てに誕生したのが、究極的なまでの力と、絶対の拒絶…」

 

近づく者は切り刻み、逃げる者は塵に還す。

そこまでに至るほどの怒りだなんて、それこそ発狂しても仕方ないと思える。

そしてそれを制御し続けていた黒翼天には正直、頭が下がるかな。

 

「狂乱に陥る程の怒り…『怒り』を失ったのは自分の心を守るため…。

平穏を望みながらも、内なる復讐心を捨てきれずに強大な力を手にした、か。

…あんまりにも過ぎた皮肉だよね…」

 

コアの強制停止も考えたけれど、それも出来ない。

そもそもコアネットワークにつなげなかったのは私の落ち度だ。

それに臨海学校の時にも干渉が出来なかった。

命令にも従わない。

人間の肉体と融合する事で、機体だけでなく、コアそのものも激しい成長を遂げている。

なら、どうする?

 

「ダメだ、本当に打つ手がない…」

 

教室で見せたといういっくんの怒りの様を映像で幾度か見たけれど…アレはもう人間じゃないように思えた。

鬼を超え…龍に近づいているかのようだった。

 

「会長、どうされました?」

 

「ちょっと考え事」

 

頭の中ではいっくんのことばかり、世界中から送られてきているデータだとか書類とかは、私特性のカスタムキーボードにて一気に処理する。

両手だけじゃ作業が追いつかないから機械アームだとか、自分の足でもキーボードを操作している。

 

「この前の学園祭でいっくん…黒い龍と戦ってみてどうだった?」

 

麗銀の福音(この子)でも手も足も出せませんでした…。

セカンドシフトにまで至ったのに、何一つできず、最後はクラッキングまでされてしまって…。

お役にたてずに申し訳ございません」

 

なーちゃん、ナターシャ・ファイルスはアメリカの軍事機である『|白銀の福音』…今でこそセカンドシフトに至っている『麗銀の福音』の搭乗者だった。

けれど、例の事件でアメリカから切り捨てられたところを私が雇い入れた。

くーちゃんとも仲良くしてくれているから私としても感謝している。

『福音』はセカンドシフトに至っていながらも、黒翼天により一度クラッキングされた経験値を獲得しているから耐性が生じている。

にも関わらず、二度目のクラッキングを受けた。

電子戦闘においても無敵に至っている。

完全に隙が無い。

けれど、黒翼天はいっくんにとっては大切な存在でもある。

黒翼天は、常にいっくんを守ってくれている。

時にはいっくんの身を借りてでも表に出てきたり、時には自らを顕現させて圧倒的な力をふるったり…そしていっくんが狂乱に至ったりしないように感情の制御、必要とあらば記憶の操作も行っている。

黒翼天が居るだけで世界中がいっくんを狙う。

でも、黒翼天が居なければいっくんに平穏は許されない。

そしていっくん自身も…平穏を望んでおきながら誰よりも強くなってしまっている。

完全なる二律背反、人の抱える矛盾の形。

 

「くーちゃんは、どう思う?」

 

「私は…彼には平穏の中で生きていてほしいと思います。

一夏さんは荒波に揉まれすぎました。

もう、平穏の中に居て欲しいです」

 

「そうだね」

 

ただでさえ、いっくんは二度も死を経験してしまっている。

自分の命の価値は理解してくれている、でも重みまでは理解してくれているかはわからない。

先日のちーちゃんとの全力での試合、最後はお互いに得意な獲物での白兵戦になってしまっていた。

そんな中、いっくんはちーちゃんの剣を防ぐことはしていなかった。そのことごとくを受け流している。

そのせいで数日は包帯やらガーゼやらをつけてミイラ男状態。

ちょっと関心しない。

それにいっくんは輝夜がもつ無限兵装能力を使ったとしても、身を守る為の楯だとかを今に至るまで一度も権限させていないのも知っている。

『怒り』と『復讐心』のような狂乱、そしてクズとは言え多くの人間を殺しつくした恐怖、その感情と記憶を切り離してしまった事で『存在意義』を見失いかけているのかもしれない。

だからこその『生存本能』の喪失にまで至った…?

 

「いっくんも考え物だぁねぇ…」

 

今のいっくんは簪ちゃん一筋、そして剣技一筋。

今頃学園では剣技の修練をしているだろう。

その弟子としてイタリアのメルクちゃんに、中国の鈴ちゃん。

 

頑張ってるだろうねぇ…今はあの子たちの平穏を見守り続けよう。

 

 

 

 

Chifuyu View

 

学園祭が終わってから、一夏はその後片付けに追われていた。

午後から店の当番だったが、予定外なことが起きてサボタージュ同然の結果に。

しかも最後は医務室で眠っていたのだから、本人も口出しが出来ないままだった。

それも終わってからは…

 

「またやっているようだな」

 

剣術の特訓に明け暮れているようだった。

それも今はハースと凰も一緒に木刀を振るっている。

一夏の動きを真似し、懸命に体を動かしているようだが、それでもまだまだ一夏と比べれば動きが遅い。

 

 

「『穿月(うがちづき)』からの『填月(うずめづき)』、あの単調な技に関しては、まあまあを飛び越え、一夏の姿が重なって見える程に至っている。

だが、『絶影(ぜつえい)』は…ハースだけが真似られると言った所か」

 

絶影(たちかげ)流は多数の技があるようだ。

 

その技から技へとつなげる為に繰り出される連綿と続く斬撃と蹴りの絶える事の無い応酬。

それが絶影(たちかげ)流の初歩にして奥伝である絶影(ぜつえい)

そのキレも速度も以前とは段違いのようだ。

そして…私との決闘で繰り出したあの技。

…視認出来なかった。

見切ることすらできなかった。

避けることも、受け止めることも出来ずにいた。

私も腕が鈍ったか。

聞けば更識に仕える戦闘部隊すら無傷で打破したとか。

アイツはどこまで強くなるんだ…?

 

「お、刀を抜いたか」

 

そして訓練にて的として使っているのはカカシのようだ。

それを超高速で二度切り裂く。

Xを描く斬撃はカカシの両手両足を両断して見せた。

 

「…どうにも思い出してしまうな…」

 

学園祭での侵入者を相手に、アイツは侵入者の両手両足を切り落とした。

それも情け容赦も与えず…。

どうにもそれを思い出す。

 

そうこうしている間にも一夏はカカシ改めでくの坊を蹴り飛ばした。

その際に踵で蹴り飛ばすところに容赦のなさが伺える。

伊達に荒熊隊に揉まれてはいないようだ。

アイツら今度顔を見たらシメあげてやろうか…?

 

 

 

 

Lingyin View

 

相変わらず兄貴は速いわ…。

刀を抜いたのはいいけど、振るった瞬間は視認できなかった。

まさに人外のスピードだと思えた。

 

「いやぁ…お兄さん、相変わらず早いですねぇ…」

 

「輝夜の能力に頼り切った状態でいるのは嫌だったからな。

俺も少しは腕を上げとかないといけないんだよ」

 

「だからってあのスピードはむちゃくちゃよ…」

 

「無理無茶上等、そうでもしないと目標にたどり着けなかったんだよ」

 

 

そう言って今度は近くに置いていた特大サイズのカカシを真上に蹴り上げる。

 

絶影(たちかげ)流、奥伝…」

 

刀とナイフを構えて標的に視線を向ける。

集中力を格段にあげているのが何となく感じ取れた

そして次の瞬間、信じられない光景を再び目にすることになる

 

ドドドドドドドドドドドドドン!

ドドドドドドドドドン!

 

ものの二秒、たったそれだけでカカシに風穴がいくつも開いた。

 

「『鎬月(しのぎづき)』、そして『峯月(みねづき)』、そして…」

 

 

ドォンッッ!

 

一発の刺突、その瞬間にカカシは耐え切れず木端微塵になった。

 

「『月閃光(げっせんこう)』…ってな」

 

「「ええぇぇぇ……」」

 

もう完全に人外だっての…この人…

 

 

 

Melk View

 

『鎬月』と『峯月』。

あの技は夏休み以降に見ましたけど、キレは相変わらずでした…。

速度制限オーバーですってば、秒間12連の刺突とか…。

世界最強(ブリュンヒルデ)と名高い織斑先生だって見切れてなかったそうなんですから…。

しかもそれを二つ連続で繰り出したのちに、それすら上回る速度での強力な刺突って…。

 

「あの、お兄さん…ここって、誰が掃除するんでしょうか…?」

 

「…後でやっとくか…」

 

相変わらず変なところで抜けてますよね…。

 

食事の時間になれば、簪さんと和気藹藹。

マドカちゃんやラウラさんと仲良くしている。

学園祭にて教室で見せたあの一面は何かの間違いだと思いたい。

あの瞬間を思い出すたびに、私としては背筋が凍る。

暖かな空気をいつも作ってくれているお兄さんだからこそ。

だから私達は普段の生活の中でも、お兄さんと一緒に過ごす時間を増やす事にした。

簪さんは、同居をするようになってからも仲良くしている。

楯無先輩も、それを暖かく見つめている。

ラウラさんや、マドカちゃんも普段以上に傍に居る。

私や鈴さんは、剣術の弟子としても教授してもらっている。

けれど皆、過ごす時間は濃密になっていた。

例え…記憶を失ってしまっているのだとしても…復讐や殺意が薄れていけば、と…そう願いながら…。

 

とはいえ、私も協力してお掃除を済ませ、再び特訓に精を出す。

 

一学期、学年別タッグマッチトーナメントにて、勝ち進むためにお兄さんの手によって私は若干苦手だった近接戦闘を鍛えてもらった。

トーナメントまでに会得できた技は少なかったですけれど、それ以降もお兄さんの映像を繰り返し見続け、修練を繰り返しました。

おかげでお兄さんに少しは近づけたと思ったのに…なんというか、また一気に距離をあけられたような気分ですね…。

ましてや織斑先生すら打倒してますから、その距離感は途方もない。

でも、私は追いついて見せます!

あ、でもお兄さんの隣に簪さんがいますからその点もちゃんと考慮しないとですね。

彼は私にとってはお兄さんのような存在ですから。

 

「さて、時間も時間だし昼飯にするか」

 

「つ、疲れたぁ…」

 

「これで息があがってないお兄さんって…」

 

私達、弟子としてはまだまだなんですかねぇ…?

木陰で見学していた簪さんとマドカちゃんがタイミングを見計らって芝生の上にシートを広げてくれる。

そしてお兄さんが今朝作ってくれたというお弁当を広げる。

 

「今日のメニューは…学園祭でも出すつもりでいたが却下されたメニューの一つだ」

 

「かなり本気出してるみたいね…秋刀魚を使った炊き込みご飯って…」

 

「美味しそうです…」

 

とか言っている間にマドカちゃんはジックリと味わって食べているみたいですけどね。

これを学園祭にて出させてもらえなかったなんて勿体ないですよ…。

ああ、美味しい…これを却下されるだなんて理由がわからないです…。

あ、でも…料理の腕すら劣ってるってことですよね、私達って…。

 

「この前の休みに早朝から出かけていた甲斐があったな。

魚河岸でイキのいい秋刀魚が手に入った。

焼いても美味いからな…今度はそっちを作ってみるかな。

大根おろしとあとは、ポン酢だな」

 

想像しただけで涎が出てくるんですけど。

本当にお兄さんって料理上手ですよね…。

って、あれ…?

 

「鈴さん?どうしました?」

 

「なんか…こっちでも距離をあけられた気がするわ」

 

…同感です…。

本当にお兄さんは料理上手ですよね…。

しかも保温性のあるお弁当箱ですから、炊き込みご飯はホカホカのまま。

…いただきます!

あ、おかずには温野菜!?

しかもいろいろと手を加えて消化にも優しくしてるオマケつき!

そして最後にはこれまた暖かいスープ!

本当においしくて涎だけじゃなくて涙が出てきますよ!

この学園に入学してなかったら、間違いなく料理人として店でも開けますよね!?

もし開いてるの見たら私だって毎日通っちゃいますよ!?

 

「そういえばラウラさんはどうしたんでしょうか?

今日は姿が見えないですけど…?」

 

「ラウラなら故国に連絡を取るとか言っていたな。

今度のアレで必要になるものがあるらしい」

 

お兄さんがいうところの『アレ』とは、キャノン・ボール・ファストの事ですね。

IS同士がぶつかり合うのを見るのは、何も対戦だけじゃない。

 

垣根を越えて、レースなども行われる。

しかも妨害有りとなかなかの混沌とした状況です。

本来はプロだとかが行う競技ですけど、このIS学園でも行われるらしいです。

本来なら一年生の私たちは見物で終わるはずなんですけど…専用機所有者があまりにも多すぎるのが理由で、参加することになっているんですよね…。

って言うか…お兄さんの速度に勝てる機体は世界全体を見渡しても存在しませんってば…。




天を駆る

誰もが夢見た

少年らは機械仕掛けの翼で空を目指す

今はまだ青い空の下

だが、いつかは…

次回
IS 漆黒の雷龍
『天征雷禍 ~ 機翼 ~』

この空気をそのままにして立ち去らないでください

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