IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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鈴ちゃんは気兼ねなく相談できる相手かもしれません。


Q.メルクやマドカの強化ってありますか?
P.N.『匿名希望』さんより

A.現在は『未定』の一言につきます。
とくにメルクの機体はオリジナルでしたから…一新させるとしたらどんな名前に、そしてどんな兵装を積み込ませるかが悩ましいです。

Q.この作品の一夏君はバイクに乗ることもあるみたいですから、誕生日プレゼントにバイクを…。
しかも刀剣が収納できるスペースとかも搭載して…

A.バイクで疾走しながら刀剣を振るう一夏君、って訳ですか…。
…アリだと思います(妄想中)


狂勇災典 ~ 祭夜 ~

Kanzashi View

 

私は悩んでいた。

一夏が抱え続けていた苦悩に関して。

二年前、私と出会うよりも前に彼がその身を以て経験した失われた記憶。

その中の地獄を見てしまった。

そして一夏は…あの地獄を作り上げた人の殆どをその手で殺しつくした。

逃げ延びたのは、わずか数人らしい。

その内の一人が、今日捕えられた。

黒翼天の手によって、四肢を両断されただけでなく腹部から下を斬りおとされ、右目を抉り取られて。

 

「一夏…」

 

失われてしまった感情の、そしてその要因は、『復讐』。

今も…今も一夏は復讐を望んでいるのかは分からない。

でも、平穏を望んでいる彼の様子は、嘘にも見えなかった。

 

「簪、いつまでへたってるのよ。

少しは気を休めるべきよ。

ほら、2組で作った中華まん持ってきたから食べなさい」

 

「ありがとう鈴」

 

医務室で一夏が目覚めるまで待つつもりでいたけれど、みんなは思い思いの場所に行ってしまっている。

気を使ってくれているの理解している。

 

鈴がガサガサと音をたてながら紙袋の中に手を突っ込み、中身を取り出す。

先程言ったように中から中華まんが姿を現した。

それを全部で三つ用意してくれていたらしい。

そのうちの一つを受け取り、二つに割ってから食べてみる。

蒸したてなのか、とても美味しい。

 

「千冬さんから話は聞いたわ。

今回の顛末を。

簪もでしょ?」

 

「…うん」

 

「で、怒りのあまりに四肢両断にブツ切りか…。

兄貴にそんな一面が有るだなんてね…」

 

あの瞬間は、私も血の気が引いた。

確かに命を奪うには至らなかった。

でも、幾度も切り刻んだ挙句にあの仕打ちは、あまりにも残酷な光景だった。

 

「教室では兄貴はどうだったか覚えてる?」

 

「あ、うん…あの人を見た瞬間に発作を起こして、それから…」

 

「あの侵入者を蹴っ飛ばしたでしょ?

アタシが覚えてる限りじゃ兄貴自身の意思でやってたように見えたのよ」

 

それは私も同感だった。

あの時には、一夏の瞳は元来の黒に見えた。

つまり、教室での暴行は錯乱していた面を考慮したとしても、一夏自身の意思によるものだと推察ができる。

『怒り』という感情は失ってしまっている。

けれど、記憶は脳にだけでなく、体にも刻み込まれるものらしい。

その記憶が瞬間的にでも蘇ったのかもしれない。

けれど、一夏自身にもコントロール出来ない強すぎる感情。

 

「で、アリーナで四肢を両断した瞬間だけどさ、数秒動かなかったらしいじゃん?」

 

「え?あ…うん」

 

「だから思うのよ、黒翼天は、『殺さなかった』んじゃなくて『殺せなかった』んじゃないのかって」

 

「どういう事?」

 

「…そこから先は簪が答えを出すべきよ。

ほらほら、中華まんが冷えるからちゃっちゃと食べちゃいなさいって!」

 

「むぐもがぁっ!?」

 

分かったから口に押し込まないでぇっ!

自分でたべれるからぁっ!

 

 

 

数分後

 

「苦しかった…」

 

「あっはは…ゴメンゴメン」

 

口の中に詰め込まれた中華まんは食べて終わった。

苦しかったけど。

改めて考えてみる。

『殺さなかった』のではなく、『殺せなかった』のだという仮説を。

確かに、『躊躇なく殺す』とまで豪語していたにも拘らず、あの数秒は確かに微動だにしなかった。

殺そうとするのなら、できた筈なのに…。

…確かに、鈴が言っているように『殺せなかった』と考えることもできる。

でも、何故…?

 

「一夏の精神を守る為…?」

 

再び血を浴びるような事をすれば心が壊れてしまうんじゃ…。

 

「その可能性が一番かしらね。

コントロールできない力って怖いだけだし、周囲だけでなく自分をも傷つけるものになりかねないからね。

兄貴はそれを実際に経験しているわけだし」

 

「理性を保つ為に、感情を『自分から切り離した』…」

 

記憶や感情を取り戻した時点で、理性を保てなくなる…。

教室で見たあの瞬間のように…。

 

「でも、教室では本気で殺そうとしていたようにも見受けられたのよね」

 

「多分、アレが一夏が見せた『怒り』の片鱗だと思う」

 

『一夏は殺人が可能』、『黒翼天には殺人が出来ない』という公式が成り立つ。

でも、何故だろう…?

 

「…あ…」

 

「なんか気づいたの?」

 

「六月にも似たような事があったのを思い出したの。

黒翼天が一夏の体を借りて出てきた時なんだけど」

 

あの時のことは話したけれど、詳細までは話してなかった。

詳細はその場に居たラウラしか知らないんだけど。

 

「なんでそんな重要な事を話してなかったのよ簪ぃっ!?」

 

「ひゃ、ひゃわぁっ!?

だ、だって今になって思い出したんだよ!?

それにそんな重要になるだなんて思ってなかっただってば!?」

 

「肝心な所で抜けてるって天然!?

天然なのかアンタはぁっ!?」

 

ひひゃひ(痛い)ひひゃひ(痛い)ひひゃひ(痛い)

ほっへひゃ(ほっぺた)ひっひゃらにゃいで(引っ張らないで)~~!」

 

「じゃあコッチだ!

たった一年間でどんだけでかくなってんのアンタは!?」

 

「胸はもっとダメだってばぁっ!」

 

 

 

 

Lingyin View

 

調子に乗りすぎた。

床に正座させられるハメになった。

っていうか簪がすこぶる怖い、何なのあの目線!?

4組じゃ簪を怒らせちゃいけないとか噂できいたけど、その正体がコレだったとか!?

メチャクチャ怖いんだけど!?簪ってこんな一面を持ってたの!?

 

「ごめんなさい」

 

「もう二度としないで」

 

「はい、それはもう」

 

「次にやろうとしたら…どうしようかな…?」

 

アタシ、何されちゃうんだろう…?

氷漬けにされたりして…考えただけで鳥肌が止まらない…!

千冬さんといい、この前の虚さんといい、簪といい、怒らせちゃいけない人って世の中結構居るのね…。

身を以て知ることになるとは思ってもみなかったけどさ…。

 

「この事は、私が後で千冬さんに伝えておくから」

 

「え?どっちを!?」

 

「勿論、一夏と黒翼天のことをね。

要望を出すなら、先程の鈴の事も伝えておくけど」

 

すっごい根に持ってらっしゃる!?

ってか千冬さんにバレたら…生き抜ける自信が無いわぁ…。

 

 

 

 

Ichika View

 

本日二度目の無限の蒼穹だった。

いや、この場所に『時間』の概念があるのかは知らないが。

 

「もう、大丈夫そうね」

 

傍らにはラウンドベレットを被った白い少女『輝夜』が居た。

時折思う、ここの場所に居て、寂しくないのだろうかと。

 

「何度も世話になるな。

何があったのかは分からないが」

 

「そう、でもきっと大丈夫よ。

私達が居るから、不安になった時には支えてあげるから、いつでもね」

 

「感謝するよ」

 

意識が薄れていく。

真っ白な空間を通り越すと…

 

「…またかよ」

 

もう見飽きた医務室の天井だった。

こちらもこちらで本日二回目だ。

何つーか、ワンパターンだなぁ…もうそろそろ天井の壁紙くらい張り替えてくれよ。

 

 

体の感覚を確かめてみる。

よし、五体満足なようだ。

視線を横に動かしてみる。

見慣れた姿が一つ。

そしてその向こう側にもう一つ。

 

 

「何やってるんだ、お前ら」

 

確認してみると、簪が例のモード、そして鈴が床に正座させられているようだった。

何をやらかしたんだか。

 

「あ、一夏、気が付いたんだね」

 

「ああ、まあな、例によって何があったのかは覚えてないんだが…まあ、いいか。

演劇をやってたアリーナはどうなっているんだ?」

 

「生徒が好き勝手にセットにまで乗り込んで壊れちゃって…」

 

そりゃあなぁ…あれだけの生徒がひしめき合ったらさすがにセットも耐久性云々なんて言っていられないだろうし。

 

「でも、王冠を探せっていうのは変わりないらしいわよ。

呼び込むための報酬が大きすぎるから中止に出来なくなったらしいってさ、虚さんから聞いてきたわ」

 

「そりゃまたカオスな話だな。

だが、見つかってないとなるとな…」

 

本当にあのアリーナに王冠が置かれているか怪しい話になってきたな。

そもそもメルクから聞いた話では、あれは『とある計画』のために用意されたダミーのようなものらしいし。

もしかして…

 

「なら、俺達も王冠を探しに行ってみるか。

でも、その前に…」

 

窓際に移動し、カーテンを開いてみる。

…予想通りの姿が並んでいた。

右から順番にメルク、ラウラ、マドカの順番だ。

っつーか、此処は四階だぞ?

 

「何をやっているんだ、お前ら」

 

「あ、兄上の容体が気になったので…こうして見に来た」

 

「でも、あんまり騒がしくしてもよくないですから、こうして窓際に来ちゃいまして」

 

「そ、そういう訳なんだ」

 

コイツら、三人そろってISを展開させている。

千冬姉に見つかりでもしたら鉄拳制裁だろうな。

 

窓を開けば三人そろって飛び込んでくる。

鈴も簪も呆れ顔だが、仕方あるまい。

 

「さてと、いったん部屋に戻るか」

 

「あれ?王冠を探しに行くんじゃなかったんですか?」

 

王冠には心当たりがあるんだよ。

 

 

 

移動した先は、一年生寮の2016号室。

言わずと知れた、俺に宛がわれている部屋だ。

 

「お茶、用意できたぞ。今日はこのままここで休むか」

 

「そうだね」

 

俺の部屋の何が面白いのかは知らんが、メルクもラウラも鈴もマドカも遊びに来ていた。

なので人数分のお茶を用意する。

今回は玉露入りの緑茶だ。

 

そんな中、簪の視線は別の方向に向けられている。

俺がその視線を追うと…俺の机だ。

PCの前には楯無さんの教室でもらった小さな箱があった。

宛名は簪だが、送り主不明の小包だ。何が入っているのかは俺も気になっていたところ。

 

「開けてみるか」

 

「うん、天羅のセンサーでも確認してみたんだけど、危険物じゃないみたいだから」

 

少なくとも火薬のような危険物は仕込まれていない、か。

じゃあ中身はなんだろうか?

ここまで運んできたものだから、振動で何かを起こす様な物でも無い筈だ。

 

段ボール箱を開いてみる。

中身は布によって包装されている。

それを用心しながら開いてみる。

そこには

 

「…王冠?」

 

簪が呟くソレがあった。

無色透明な王冠で、前面にはパールがはめ込まれているようだ。

なお、王冠本体はアクリル製らしい。

 

「コレって…演劇で使う予定のものだったんでしょうか?」

 

「かもしれないな」

 

それは簪が王冠を手に取った瞬間だった。

王冠の何処かからか『カシャリ』と音がした。

ソレは例えば、カメラのシャッターが引き絞られる瞬間のような…。

その数秒後、IS学園にて聞きなれたチャイムが鳴り響く。

 

「学園祭の午後の部、終了したみたい…」

 

「何かドタバタして終わったみたいだったな」

 

「マドカに同意だ」

 

俺の場合は一日だけで二回も医務室に放り込まれるハメになったんだ。

学園祭など十分に楽しめてなどいなかったぞ。

 

そしてチャイムが鳴り終わった後、聞きなれた声でのアナウンスが聞こえてくる。

 

『は~い、そこまで~!

生徒会主催の出し物、大武闘シンデレラの勝者が決定したわよ~!

なんと学園祭の午後の部終了直前!

王子様の王冠を手に入れたのは~!

たった一人のシンデレラでした~!

残念!王子様は王冠を取り戻せなかった!

その勝者が誰だったのかは、この後の集会で発表しちゃうから、王子様もシンデレラも口外厳禁よ♪』

 

…危険なものは入っていなかったが、王冠の何処かに小型カメラでも仕込んでいたのかもしれない。

そうでなければこのタイミングでこの放送は流れてこないだろう。

それよりも…集会か…確か中庭でキャンプファイヤーみたいな事をするんだったな。

少しは気休めをしておいた方が良いだろう。

 

「お茶を飲んだら行こう」

 

「賛成だ」

 

クラスの皆には悪いが遅れて参加させてもらうとしようかな。

どのみち、演劇での俺の敗北は決定している。

簪は隣で嬉しそうにホクホクとした笑顔だ。

 

「えへへ、一夏と同じ部屋だ…」

 

ん?そんな特典がこの王冠にあったのか?

ともなれば、引っ越しの手伝いを後日に行おうか。

気を引き締めるためにも、俺は一気にお茶を煽った。

 

「熱っ!」

 

当たり前だった。

 

 

 

Dan View

 

か~っ!楽しかったぜ!

IS学園の学園祭!

見渡す限りの女子の楽園!

しかも今回はオレの隣には虚さんが居てくれたわけだから、そんな周囲の女子になんて視線がいくわけがない!

 

「いやぁっ!今日は楽しかったです!」

 

「私もです、今回のような行事があれば招待状をお送りいたしますから!」

 

よっしゃぁっ!

早く次の学園祭が来ねぇかなっ!

今から来年が楽しみだぜ!

 

「また来年にはご一緒しましょうぜっ!」

 

「すみません、私、来年には卒業してますので…」

 

学園のバカ野郎ォォォォォッッ!!!!

魂の叫びだ!

チィィィックショウウウウウゥゥゥゥッッッッ!!!!!!

 

「あ、ですがプライベートの時には会える日があるかもしれません。

そんな時であればできるだけ会えるようにしてみますから」

 

「是非ともお願いしまっす!」

 

虚さんに会える日が今から楽しみだぁっ!

いや、会えない日だろうと、会える日のことを考えさすれば幸せだぁ…。

 

そんな事を考えながら俺はモノレールに乗り込んだ。

 

「で、ちゃんとコクれたのか?」

 

数馬に聞かれ、俺の顔は一気に笑顔に変わった。

今回ばかりは抜かりは無かった。

なにやら起きたようで地下のシェルターに避難させられることになったのだが、実はそこで玉砕覚悟でいうべきことは言いきっておいた。

ちなみに返事はOKだった!(ここが一番重要)

 

「お兄ぃの笑顔がなんかムカツク」

 

ほっとけチィックショ――――――!!!!

魂の叫びだ!

チイイイィィィックショオオオオオオォォォォォォ――――――!!!!

 




祭は終わる

終わるのはそれだけなのかは分からない

だけど、今だけは息を休めよう

新しく始まるかもしれない何かの為に

次回
IS 漆黒の雷龍
『狂勇災典 ~ 祭終 ~』

私の予想は外れた

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