IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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閲覧注意
かなりグロくなります

Q.箒派は『ファース党』、鈴ちゃん派は『セカン党』、セシリア派は『オルコッ党』、シャルロット派はそのまま『シャルロッ党』、ラウラ派は『ブラックラビッ党』などという名称があるそうです。
じゃあ…のほほんさん派、楯無さん派、簪ちゃん派、メルクちゃん派はどんな名称になるのでしょうか…?
P.N.『匿名希望』さんより

A.楯無さんや簪ちゃんの名称は聞いたことはないですけど、何故にメルクとのほほんさんまで…。
ん~…

楯無さん派『更識キャッ党』

簪ちゃん派『更識いもう党』

のほほんさん派『キグルミス党』

メルク派 『テンペス党』

…どうでしょう?
定着するかは知らないですけど…


狂勇災典 ~ 悪夢 ~

Lingyin View

 

「後悔するんじゃねぇぞぉっ!!!!」

 

そう言って一夏の体を借りる黒翼天の目の前に宵闇色の龍が展開される。

『ウォロー』と呼ばれるユニットだというのは知っている。

兄貴が信頼している兵装であることも。

 

そのウォローが左手をアタシ達に向ける。

その瞬間、意識が闇に閉ざされた。

 

 

 

 

次に目覚めたのは、見覚えも無い荒れ果てた建物の中だった。

 

「何、ここ…?」

 

「変な場所…」

 

メルクも、簪も起き上がり、周囲を確認している。

だけど、アタシと同じように見覚えが無いらしい。

それに…今の今まで医務室に居た筈なのに…こんな所まで移動したって事…?

 

「この場所は…!」

 

ただ一人、千冬さんだけが真っ青になっていた。

 

「何か知っているんですか、織斑先生…?」

 

「ああ、…此処は…誘拐された一夏が発見された場所だ」

 

 

 

 

Kanzashi View

 

二年前、一夏は誘拐された。

でも、その時の記憶が無いと言っていた。

その言葉には嘘はないと思う。

私は、そう信じていた。

 

「確かにそうだ、コイツ(一夏)にはその時の記憶が無い。

いや…忘れてしまうしかなかったんだ、人間である為にな」

 

「それって、どういう…」

 

「始まるぞ」

 

何が、と問うよりも前に場面が変わった。

部屋の一角に一夏の姿が見えた。

ただ…その四肢はベルトと鎖で繋がれている。

それだけでなく、布で両目を塞がれていた。

 

「は…な…せ…!」

 

息苦しそうに言葉を紡ぐ。

次の瞬間だった。

 

ダァンダァン!

 

「が…っ!?」

 

目の前に居た人、それも二人が一夏の両肩を拳銃で撃ち抜いた。

その人の姿はハッキリとは見えなかった。

 

「敢えて姿が見えないようにしている。

ああ、これは映像のようなものだ。

駆け寄っていったところで変えられはしない、触れることも、声すら届かない。

これは、実際に過去に起きたことだからな。」

 

黒翼天が冷たく呟く。

でも、それが悔しかった。

すぐに駆け寄って触れたい、あの人たちを止めたい、そう思っても…

 

「見ることしか…できないんですか…?」

 

「そうだ」

 

残酷にも、まだ記録は続いていた。

 

「抵抗したら駄目だろう、一夏?」

 

聞いた事の無い声だった。

なのに、誰かに似ている、そんな声だった。

 

「   ったらどんな教育していたのかしら?」

 

もう一人は女性だった。

こちらも聞いた事が無い声だった。

 

ダァンッ!

 

「…~~~~~~~~ッ!」

 

続けて一夏のお腹に向けて銃を撃った。

そこには何の躊躇いすら感じさせなかった。

鈴は耐え切れずに嘔吐していた。

ラウラは顔を真っ青にし、メルクも同じような状態だった。

 

「…!はぁっ…!はぁ…っ!」

 

「あらあら、これで悲鳴もあげないだなんて、   ったらどんな教育をしてきてたのかしら」

 

「こらこら辞めないか」

 

あくまでも穏やかに、それでもまるで悪魔のような囁きだった。

 

「声はあげていないが…もう充分に『恐怖』しているだろう。

その証拠に…震えているじゃないか」

 

「さあ、実験をするには調度良い『恐怖』感だ。

始めようか」

 

「辞めろ…」

 

辞めて…

 

「辞めてくれ…!」

 

助けてくれ…!

 

「や、やめ――――――」

 

そこからは、過剰なまでに酷かった。

麻酔らしきものなど何一つ使わない。

一夏の体に高圧電流が流されたり、正体の分からぬ薬品を無理やりに投与したり…もう、見ていられなかった。

 

「――――殺す――――」

 

いつの頃からか、そんな声が聞こえるようになっていた。

それは紛れもなく…一夏の声だった。

聞いたこともないほどの…殺意と…憎しみと…なによりも…圧倒的なまでの…怒りに満ちたか微かな声。

 

「お前らは…絶対に殺してやる…!

絶対に…殺す…!」

 

 

 

 

Laura View

 

知らなかった。

二年前、こんな事が行われていたなど…こんな…非人道的な事を兄上が体験していたなど…。

私は兄上が罹患しているPTSDに関しては同情半分な気持ちだった。

だが、これは…こんな体験をしていては…無理もなかった。

 

「見ているしかできないのか…過去は…変えられないのか…」

 

「ああ、今のお前らはコイツ(一夏)が実際に体験し、失った記憶を映像として見ているだけだ。

最初に言っておいた筈だ、『後悔するな』とな」

 

兄上に

こんな非人道的な真似をするこの輩共を出来ることならば捕まえたい。

見ているしかできない今の自分がどうしようもないほどに歯痒い。

悔しかった…どうしようもない程に…。

 

 

 

 

Lingyin View

 

見てられなかった。

目の前で繰り広げられる人体実験に気分が悪くなり、胃の中身をブチ撒けそうになってしまった。

今はメルクが背中をさすってくれているけど、気分など到底良好には程遠い。

メルクですら真っ青になってしまっている。

でも、妙な感覚だった。

 

「お前らがどこかに移動したというわけじゃない。

今、お前らは映像を脳で見ている」

 

「…現実じゃないってこと?」

 

「そうだ、お前らの意識をこの映像の中に引きこんでいる。

そんな状態だ。

現実のお前らは一人残らず気を失った状態だ」

 

こんな事を簡単にやってのけるとか、もう非常識なことこの上ない。

 

 

「大丈夫ですか、鈴さん?」

 

「良好に見える?」

 

「すみません、無理です…」

 

でしょうね…自分でも顔が青白くなっているのが自覚できていたから。

私の背後では、まだ兄貴に人体実験を施しているのだろう、兄貴の絶叫と機械の音がしつこく聞こえてくる。

 

「なんで…なんでこんな事が出来るのよ…コイツらは…」

 

「動物を用いた実験など、限界が見えているからだ」

 

兄貴と同じ姿と声を持つ雷龍がこともなげに返事を返してきた。

それはまるで、何もかも見透かしたかのように…。

 

「だが、人間は違う。

人間の…人体という電子回路(生体サーキット)にはまだ未知の部位が多く残っている。

 

言ってしまえば、可能性、悪く言えば部品としての利用価値がある。

そしてそこに奴らはそこに自分たちが考案していた措置を施せばどうなるのか、その経過観察をしているというわけだ。

人数でいえば57人、それが此処に集結していた狂った科学者(マッドサイエンティスト)の人数だ」

 

「57人…ソイツは捕まったの…?」

 

「それはこの先で判る」

 

まだ…まだ何があるってのよ…!?

やめてよ…もう…もう見たくなんか無い!

 

 

 

 

Melk View

 

 

これは過去に起きた事象の映像。

そうだと分かっているのに、あまりにもインパクトがありすぎました。

お兄さんには次々に薬品が投与され、気絶をすれば水をかけられたり、殴られたりして無理やりにたたき起こされる。

あまりにも残酷過ぎる場面、あまりにも凄惨過ぎる現場です。

非道な人体実験…でも、判らない…お兄さんが『怒り』を失った理由が…。

そして…教室でお兄さんが蹴り飛ばしたあの女性の正体も…。

 

「殺す…お前らは…俺がこの手で…殺しつくしてやる…!」

 

あまりにも痛々しい声。

容赦無く続く人体実験で、声が嗄れようとしているのに、お兄さんは怒りと憎しみに満ちた怨嗟は続いていた。

まるで…それ以外に生き残る手段を見つけられないのだと言わんばかりに…。

 

「何で…何でこんな事を平然と続けられるんですか…こんなにも苦しんでいるのが判りきっているのに…。

なんで続けられるんですか!?」

 

「それが狂った科学者(マッドサイエンティスト)の在り方だろう。

絶好の実験体(モルモット)、誰にも見つけられないであろう場所、潤沢な資金、そして実験を阻止しようとする者が居ないという環境、それらが揃っている。

コイツらに歯止めがかからず、実験の勢いに拍車がかけられるものだろう」

 

そして、映像はずっと続く。

繰り返し行われる実験と絶叫…もう耐えられなかった…。

 

 

 

 

Kanzashi View

 

一気に場面が飛んだ。

そこに見える一夏の姿は、無残なものだった。

体中から血を流し、痙攣を起こしている。

こんな…こんな辛い目に遭っていたなんて知らなかった…。

 

「お~い、どうなんだ、実験体の様子は?」

 

そんな気の抜けるような声が上から聞こえてきた。

そこに居たのは、ラフな姿の女性だった

見覚えは…有った。

髪型こそ違うけれど、あの人は…

 

「簪ちゃん、どうしたの?」

 

「お姉ちゃん、あの人…教室に来てた…」

 

「え!?」

 

一夏に蹴り飛ばされた女性本人だった。

なんで…何であの人が此処に…!?

 

「順調です、今は気を失っているものと思われますが」

 

「はっ、関係無ぇなっ!」

 

バキィッ!

 

その女性は横たわる一夏の顔面を蹴り飛ばした。

そこに逡巡も躊躇も無かった。

 

「オラ起きろクソガキ!

お楽しみの人体実験の続きだぁっ!」

 

でも、一度で目覚めなければ、そのまま繰り返し殴る蹴るの暴行を繰り返す。

体の自由を奪われている一夏には抵抗なんて一切できないのに、なんでこんな事ができるのか考えられなかった。

 

「…ぐ…かはっ…ゲホッ…」

 

「お?目覚めたか?

それじゃあ…あん?」

 

「…殺せよ…!

こんな実験なんぞに付き合わされるくらいなら…いっその事…殺せ…!」

 

「アホガキが、まだまだ実験は続くんだ、実験体に拒否権なんざ存在しねぇ。

殺せと言われて、『はい、そうですか』って…」

 

その人は、懐からソレ(・・)を取り出した。

黒光りする鉄塊、現在の一夏が、ただ一つだけ恐怖するソレ()を…。

 

「殺してやるわけねぇだろうがぁっ!」

 

拘束された左手に銃口を押し付け、迷いもなく…躊躇いもせずに、まるで当たり前のように引き金を引いた。

飛び出す薬莢と硝煙、血飛沫を目にしながらも、私は意識を失う事も出来なかった。

 

「ぐ…あああああぁぁぁぁぁぁっっっ……!!!!!!」

 

かすれ始めた一夏の絶叫、それからも一夏をモルモットにして実験が続けられる。

メルクが意識を失う事も出来ないでいた、ラウラは唇を噛み切った、お姉ちゃんは真っ青になっていた。

千冬さんは…怒りの形相だった。

これが映像でなければ…この場に居たであろう研究者を殺していたかもしれなかった。

 

「オータム、品がないわよ、もう少し静かにしていなさいな」

 

この場に不似合いな上品な声が聞こえた。

でも、姿は見えない。

壁面に埋め込まれているスピーカーからだった。

 

「何を言ってんだスコール、こういう向こう見ずなクソガキにオレらのやり方ってのを教えてやっているだけだゼ?」

 

「怖がらせているつもりかもしれないけれど、あの坊やの目を見てみなさい。

死にそうな目ではあるけれど…紛れもない圧倒的な殺意を貴女に向けているわよ?」

 

「関係ねぇよ、此処での実験が終われば、別の部署に運搬してまた実験をしてやるだけだ。

他にも実験に使わせろっていう奴は掃いて捨てるほど居るだろう。

モルモットばかりじゃ実験には限界がつきものだ、人間を使っての実験なんざそうそう出来ないんだからな」

 

「まあ、そうよね。

『表の目的』は『モンド・グロッソに於ける織斑 千冬の棄権』。

『裏の目的』は『人体実験』」

 

「んで、『真の目的は』…」

 

「それを坊やの前で言っちゃダメよオータム。

最初に姿を見せてしまったあの二人との関連性がどこからか漏れたら面倒だもの。

それじゃあ、この場所での最後の実験を始めましょうか」

 

「んあ?もうやるのか?」

 

「ええ、じゃあ試して(やって)もらうわ。

人体に、素性の知れない物質である何か(ISコア)を埋め込むとどうなるのか…。

坊や、せいぜい生き延びて御覧なさい。

もしも生き延びることが出来たなら…」

 

「楽しい実験がテメェを待ってるぜ」

 

もう半死半生なのに…まだ何かをやるつもりらしい。

それは…一夏の左手に施された。

銃で撃ち抜かれた傷跡を更に縦断を打ち込み、無理矢理に広げ、ソレは埋め込まれた。

その瞬間だった。

 

一夏の全身から鮮血が飛び散った。

でも、それだけじゃなかった。

稲妻のようなものが迸る。

 

「ISのエネルギーを伝達させる為のナノマシンによる影響ね…。

差し詰め…人体に無理矢理に埋め込んだISコアによって拒絶反応が起きているのかもしれないわ…」

 

「こんな…こんな事を…一夏は経験していたの…?」

 

「…記憶を失っても当然だわ…こんなの覚えていたら…心が壊れるわ…」

 

「『人体実験』だけが『記憶を失った理由』じゃねぇ…よく見てみろ」

 

目の前に居る一夏は、血を流し、吐血しながらも何かを呟いていた…。

その言葉に…今度こそ腰が抜けた…。

 

「…コロシテヤル…」

 

圧倒的なまでの憎悪と殺意、そして怒り…。

 

「…コロシテヤル…コロシテヤル…オマエラヲ…ヒトリノコラズ…コロシツクシテヤル…コロス…オマエラヲ…コロ…シ、テ、ヤル…」

 

まさか…これが…理由なの…?

 

 

 

 

Tatenashi View

 

あんな一夏君は見たことが無かった。

よく知っている筈の、見知らぬ誰か。

物語の中で時折に見るそんな言葉を思い出した。

 

拒絶反応による肉体の破壊と、ナノマシンによる肉体の修復、それが無作為に繰り返される。

幾度も、長い時間をかけて、破壊と再生が繰り返された。

そして…

 

「死んだみてぇだぜスコール」

 

「残念ね…実験は失敗、じゃあその実験体(モルモット)は廃棄処分するしかないわ。

どの途、この程度の実験で耐えられないのなら、先の実験でも充分な結果を残せなかったでしょうし。

所詮、私達人間は人間の域から出られない、そういうことかしらね」

 

狂っているとしか思えなかった。

死んでしまってもおかしくないような人体実験をこんな子供に施しておきながらのこの物の言い様は…まるで悪魔を思わせた。

 

「コロシテヤル…!」

 

「…え…?」

 

拘束されていた一夏君の呟く声…。

新たな地獄が始まった瞬間でもあった。

 

「生体反応に異常発生!」

 

「完全に想定外の反応です!」

 

「危険です!これは…」

 

ドガアアアアァァァァァァンンンンッッッ!!!!!!!!!

 

黒い雷(・・・)が研究員を飲み込み、ボロ炭に変えた。

一瞬で、それも一撃で肉体を焼き尽くしたのだと理解させられた。

そしてその雷が発生した場所は…

 

「コロシテヤル…!

オマエラヲ…ヒとリのコらズ殺しテヤル…!」

 

拘束されていた(・・)筈の彼だった。

革ベルトも鎖も一瞬でボロ炭になるまで焼き尽くされた。

 

「オータム!逃げなさい!」

 

「チィッ!王蜘蛛(アラクネ)ェッ!」

 

「殺してやるぞおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!!!」

 

漆黒の雷龍の誕生の瞬間だった。

 

「灰じゃ済まさねえ…塵になるまで刻んでやる!」

 

私達が目にした黒翼天と姿は大きく変わっていた。

 

「4対の…翼…?」

 

幾度か見た黒翼天の背には、4対の翼があった。

なのに、今見せつけられているこの記憶の中ではその背に、雷以外の何かがあふれ出しているかのようだった。

それは…その背と翼からは…あまりにも禍々しい闇があふれ出していた。

 

「死ねえええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!!!!」

 

黒翼天から発せられる声は…一夏君自身の声だった。

降り注ぐのは、刃の嵐と雷の雨。

そして飛来し、暴れ狂う雷龍。

そしてともに舞飛ぶ3体の、宵闇、赤銅、金色。

 

右腕から放射される大出力レーザーが次々とマッドサイエンティストを撃ち抜き、設備を破壊していく。

左腕の鉤爪もまた、その場に居たマッドサイエンティストを切り刻んでいく。

中には戦えそうにもない人や、命乞いをする研究員も居る。

そして、戦闘とは欠片も縁のなさそうな女性研究員ですら左手の鉤爪で切り刻んだ。

逃げ惑う人間すらも…そんな人たちですら、容赦なく切り刻んでいく。

 

ともに舞う龍達も一切の情け容赦すら持ち合わせていなかった。

その鉤爪で、その咢で、刃で、何もかもをズタズタに引き裂いていく。

幾つもの血渋木が舞った。

幾つもの首が転がり、積みあがっていく。

積み上げられたそばから焼き尽くされていく。

 

 

「あれは…一夏君、なの…?」

 

「ああ、そうだ。

あの形状は…奴らを殺す為にコイツ(一夏)が求めた最強の力の形。

戦闘が目的なのではなく、殺戮が望みだった。

その為だけに創造した『力』の具現化だ」

 

「ちょっと待ちなさいよ。

何度か見たアンタの姿とはかけ離れてる!

何なのよ!アレは!?」

 

鈴の疑問は尤もだった。

私たちが幾度か目にした黒翼天とは姿が違う。戦闘能力も桁違いだった。

そして…一夏が意識を保ったまま、その力を振るっていた。

 

「お前らが幾度か見た姿は、リミッター(・・・・・)が施された状態だ」

 

黒翼天が暴れまわる光景は私も幾度か目にしている。

でも…あれでリミッターが施されていた状態ですって…!?

ふざけないで…!

私だってわすれていない、クラス対抗戦一年生の部。

あの時に顕現した黒翼天の戦闘能力は、もはや一方的な蹂躙を繰り広げるに至っていた。

あれで、能力に制限があった…!?

だとしたら…今回見せつけられたのが真の能力だと直感するけれど、まだ私たちはその片鱗しか見ていない。

なら…真の能力はまだまだ未知数の部分が多過ぎる。

 

 

「貴方は…何者なの…?

コアに搭載されたAI、なの…?」

 

「違うな、俺は…記憶を失ったコイツ(一夏)が作り出したもう一つの人格だ。

57人もの人間を殺したコイツ(一夏)が…自分に扱いきれない力を振るう時に…自分に代わって力を制御してくれる何かを強く願った。

その末に創造されたのが俺だ。

コアは、その為の制御装置(リミッター)と化し、そして俺はコイツ(一夏)が振るいきれない力の制御者として創造された。

扱いきれない力は周囲のすべてを傷つける、ソレを知っているからこそ、自分の周りに存在する守るべきものを守る為に…自分でソレが出来ないときに代行者を求めた」

 

「それが…黒翼天(貴方)?」

 

「名など持ち合わせていなかったのだがな…(アンタ)に名づけられるまでは」

 

簪ちゃんが名付け親。

それは私も知っている、というか名づけた瞬間を見ていたんだもの。

あの日に、ね。

 

これだけ見せられてもなお、映像は止まらなかった。

周囲の施設を容赦なく雷で破壊しつくした後、雷龍は上を見上げる。

地上など見えるはずもなかった。

けど視線の先に先ほど逃げだした機体『王蜘蛛(アラクネ)』が見えていたかもしれない。

でも、闇の中に消えてしまっている。

 

「…コロス…!」

 

背中の雷の翼が広がる、その瞬間だった。

ようやく、一夏君の意識が戻った。

でも、それが悪い方向へとみちびかれる引き金となった。

 

「…俺が…これをやったのか…?」

 

両手を見下ろしす。

当然、彼の手は血で染まっている。

赤黒い血で…

 

「…う…うああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!!!!」

 

これが…これが原因だったなんて…。

 

一夏君が感情の一部を失った理由は…『心』が壊れないように…『恐怖』と『怒り』を自ら捨て去った事だった。

 

 

 

 

Chifuyu View

 

慟哭の果てに、一夏の身が倒れる。

思い出す、あの日、あの時を…。

あの日、一夏の捜索の為にモンド・グロッソを棄権した。

そして見つけた廃墟の地下に一夏は倒れていた。

周囲はあちこちが焦げ付いていた。

爆発が起きたのか、はたまた戦闘が繰り広げられたのかは判らなかった。

だが、今になってようやくその答えが出た。

『過剰殺戮』が繰り広げられていたのだと。

そしてそれを巻き起こしたのは一夏だった。

 

 

「おい、何が起きている」

 

記録の中の一夏の体がひどく痙攣していた。

それどころか、体のあちこちから電流が漏れているかのようにも見受けられる。

 

「蘇生させているんだ」

 

「蘇生、だと…?」

 

「あいつはこの瞬間、一度死んでいる。

扱いきれない力を振るった反動として大量の出血をして、な。

それを…俺達(・・)が蘇生させた」

 

『俺()』とは誰のことだ?

この記録の中にて残っているのは一夏一人だけしか居ない。

その一夏も大量の出血をして動ける状態ではない、今は何らかの処置が施されているかのように痙攣を繰り返しているだけ。

いや、居たとして左手のコアだけだろうが、コアだけの状態で何かが出来るはずも無い。

 

いや…待て…まさか…!

 

「まさか…!」

 

一夏の身を借りた龍が鋭い視線を向ける。

それは、私の予感が的中しているものだと告げていた。

 

 

 

Laura View

 

映像は消えた。

周囲の景色が消え去り、気づけば目の前には医務室の床。

兄上の体を借りた黒翼天と、宵闇色の龍が相変わらず真紅の目を私達に向けていた。

 

「だが、まだ疑問が残る」

 

「何だドチビ?」

 

誰がドチビか!

相変わらず口が悪い奴だな貴様!

いや、今はそんなことは関係無い!

 

「兄上は今回の映像の間の記憶を持っていない。

にも拘わらず、教室ではあの女を見た瞬間に発作を起こし、あまつさえ襲撃した。

それは何故だ?」

 

「記憶ってのは脳に刻まれるだけじゃねぇ、肉体にも刻み込まれているものだ」

 

私の問いは、アッサリと返された。

だが、確かに納得できない話ではない。

古傷を見れば、痛みに似た錯覚を感じることとてあるだろう。

今回の兄上は、まさにあの女が呼び水になっていたのかもしれない。

 

「脳内部の記憶は確かに消したはずだったんだがな…さすがに管轄外だ」

 

「兄上が『怒り』を失った理由は…あの最後の瞬間なのか?」

 

「そうだ、あいつは自分の記憶と一緒に感情を自ら切り離した。

あまりにも強すぎる怒りを、オータムだとかスコールに向けていた。

いや、それだけじゃないな…殺し損ねた2人に遍く全ての怒りを向けていた。

一人の人間が抱えきれない…身が切り裂かれるほどの程の強すぎる怒り、自らを崩壊させかねない憎悪と恐怖、そしてその記憶。

それらをまとめて切り離した。

お前らが見たのは…その片鱗でしかない」

 

あれで…片鱗でしかないだと…!?

なら…失った怒りはどれほどの量だというんだ…!?

 

コイツ(一夏)はその記憶も怒りも思い出すべきじゃない、復讐に駆られた人ならざるものになるぞ」

 

 

 

Chifuyu View

 

黒翼天は…一夏を守ってくれていた。

その真実に、私は驚いていた。

それだけじゃない。

一夏は…あまりにも優し過ぎた。

力を求めながらも、自分で扱い切れない力を、自分の代わりに制御してくれる存在を求める程に…。

自分の掌から零れ落ちそうになる存在を、受け止めてくれる存在を求めていた程に…。

だが、黒翼天(コイツ)はどこか不器用にすら思えた。

一夏の願う通りに周囲の皆を守るために、自身が憎まれるような役回りすらしていたのだから…。

 

「もしも…そう、もしも…またあの女が一夏の前に現れたら…貴様はどうするつもりだ?」

 

「躊躇無く殺す。

灰じゃ済まさねぇ…塵になるまで刻んでやる…!」

 

「貴様…一夏の身を利用する気か!」

 

「勘違いしてんじゃねぇ…コイツは既に人殺しをしている身だ。

奴らを殺す、それはコイツの願い(生存本能)だ。

だがコイツ(一夏)が殺すわけじゃねぇ、(黒翼天)が殺す。

コイツ(一夏)があの瞬間を思い出す要因は排除しなけりゃならねぇんだ」

 

あくまでも憎まれる側に回り続けるというわけか…!

 

「それが嫌なら…お前らが俺よりも先に奴らを殺す事だな」

 

「……~~~!!!!

…一夏は今はどうしている?」

 

「輝夜が精神を修復中だ、精々一時間で戻ってこられるだろう」

 

文化祭、午後の部のスタートが制限時間という事か…。

 

「それまでに奴を捕らえれば我々の勝ち、か」

 

「フン、此処は切った張ったを好む奴が随分と多いようだな」

 

「だが、同時に貴様に好き勝手をされるのは好まん。

私も手段は選ばんぞ」

 

「やってみろ、出来るものなら、な」

 

小娘共をまとめて医務室に置き去りにし、私は廊下に出た。

五反田や布仏姉が心配そうな顔で医務室に視線を向けているのを察し、私は面会謝絶の札をドアノブに提げておいた。

悪いとは思っている

だが、あんな惨状を見せるわけにもいかない。

 

 

 

スマートフォンを取り出し、私はアイツを呼び出した。

 

「束、私だ、用件はわかっているな?」

 

『うん、わかってる。

いっくんは…私の想像よりも遥かに先を歩んでいたこともね。

大丈夫、いっくんの未来は閉ざさせない』

 

「すまんな」

 

『もう私も入り込んでいるから、くーちゃんとなーちゃんも一緒にね』

 

貴様は新たに所帯を抱えたのか?

まあ、それに関してはとやかく言うまい。

 

『いっくんがISを稼働させられる理由、それはいっくん自身が持ち合わせていると思われる何か(・・)じゃない。

ちーちゃんが見た情報から私なりに仮設が出てきた』

 

「ああ、あの状態の一夏を蘇生させたのは、黒翼天だけじゃない」

 

『いっくんの慟哭は、私が閉ざした筈コアネットワークをこじ開け響き渡った。

すべてのISコアがいっくんの慟哭を聞いて…その絶望と悲しみ、怒りを知ったんだと思う』

 

「だからコアネットワーク越しに一夏の傷を癒した」

 

『その現象を奴らに見つかるわけにもいかず、最低限度の治癒を行った後に再びコアネットワークから離れた。

いっくんは…すべてのISコアから…言わば、愛されているんだと思うよ』

 

普段から多くの者に慕われているあいつが、人ならざる者からも愛されているとはな…。

確かに、そう思う節は二年前からあった。

今から思い返せば、一夏の救出に向かう際に同行していたシュヴァルツェ・ハーゼだったが、目的地を断定しているかのようだった。

そして、その数も多かった。

一人の救出、そして予期せぬ戦闘を予想していたとしても、だ。

調べてみれば、休眠状態のISコアが急に活性化したのだとか。

 

『いっくんには、ISを動かせる素質は、有る、とも、無い、そのどちらとも言える。

ただ、全てのISコアがいっくんを望んでいるって事だね。

この四月からいっくんの様子は見てきたけどさ、その周囲の娘達のISもいっくんの傍に居るだけで、その能力の向上が見受けられるんだよね』

 

それだけじゃないだろう。

ハースや凰に剣術を仕込み、本人の技量も向上させた。

マドカも一夏に誉めてもらいたいという理由はあるが、次々に技術を習得した。

アイリスも一夏と触れ合ってからというもの、自分らしく生きている。

ラウラは二年間という間に技術を向上させた。

オルコットは、ゆっくりとではあるが技術の向上が見受けられる。

更識妹は、その力に開眼し、第二形態移行(セカンドシフト)単一仕様能力(ワンオフアビリティ)習得にまで至った。

更識姉も、霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)とともに成長しているが、機体の取得から単一仕様能力の開眼までは誰よりも早かった。

それもまた一夏と触れ合っていたからだろう。

 

誰もが、一夏と知り合い、触れ合い、理解しあう事で成長をしている。

そして彼女らの機体もまた同様に…。

白式も同様だった。

最初は二刀を搭載させようとしたが、どうしても拡張領域に空きが作れなかった。

仕方なく雪片と『零落白夜』だけを搭載させたが、『雪華(せっか)』『六条氷華(りくじょうひょうか)』のような脇差、弓の発生に至っている。

一夏が白式に愛されていたからこそ、一夏の願いを聞き届けたのかも知れない。

 

「言ってしまえば…多くの実りを齎すための土であり水でもある…いや、多くの心をひきつける『太陽』か」

 

 

 

 

 

 

 

『話を本題に戻すけどさ…、これだけの人ごみ、見つけ出したとしても、どうやって誘い出すの?』

 

「任せたぞ参謀」

 

『肝心な所で人任せ~?

まあ、いいけどね…久々に、本気を出すかも。

第8アリーナは空いてる?』

 

「ああ、そこは使用する予定は無い。

そこへ誘い込むか?」

 

「そうしよう、ちーちゃん、絶対に逃がさないよ」

 

無論だ。

一夏を傷つけるものは…絶対に赦さない。

映像の中、最初に見た二人を思い出す。

黒翼天の配慮なのか、どうかは知らんが姿は明確には見えなかった。

だとしても…貴様等の声は覚えた…いや、それ以前に聞いた覚えがあった。

 

「貴様等は…この手で…!」

 

 

 

 

 

Melk View

 

「どう、思いますか…?」

 

意識を取り戻し、私は周囲の皆に尋ねる。

気絶するよりも前の映像はいまだに明確に残っている。

あまりにも残酷すぎたお兄さんの過去。

あんな血に塗れた過去を背負っていただなんて知りたくなかった。

でも、求めたのは私達だったから、今になって文句なんて言えない。

 

「アタシは…赦せない。

あんな人体実験をする為だけに兄貴を連れ去ったなんて…」

 

「同感だ…兄上が『怒り』を失った理由を知ってしまえば殊更に…。

奴は…絶対に捕まえるぞ、そうだろう、姉上?」

 

「うん…これ以上、一夏の手を血で汚させるわけにはいかない。

もう、安心していいんだって、言ってあげたいから」

 

「私も賛成、兄さんを傷つける奴は…万死に値する…!」

 

「決まり、かしらね。

でも難しいわよ、この人ごみで発見し、誘い出し、捕まえるのは。

多くの生徒を巻き込んでしまう可能性があるわ。

…むしろ一夏君にはルアーになってもらったほうが早いかもしれないわね」

 

…あの…楯無先輩?

何を考えているんですか…?

 

「お姉さんに策アリってね!」

 

嫌な予感しかしないのは何故でしょうね…?

 




記憶の奥底に眠っていた忘却の鮮血

それを知り、少女達は翼を広げる

彼もまた雷の翼を広げようとしていた

彼女もまた、輪の外より少年に視線を向ける

悪意は、確実に近づく

次回
IS 漆黒の雷龍
『狂勇災典 ~ 王冠 ~』

なんでこんな事に…

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