IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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後半戦ですね。
正々堂々じゃなくなっているような…。


また質問が来たのでお答えします。

Q.チート機体ってまだ出ますか?

A.チート…その言い方は少し虚しい…。
まあ、機体の強化はしますよ。
『狂勇災典』編にて、登場します。


狂勇災典 ~ 風帝 ~

Linyin View

 

時間を確認したのか、二人が戻ってきたが、早くも胸焼けがしそうな気がした。

普段からでも仲がいいのに、それ以上にもなるとこれは不可抗力だった。

以前の二人を知っているアタシからしたら『勘弁して』と言いたくなったとしても無理はない、絶対に。

例えいったとしても過言じゃない、それこそ絶対に。

 

「さてと、簪側も用意が出来ているみたいね」

 

向かい側のピットには機体を展開させた簪の姿が確認できる。

簪の機体である『天羅』の脅威は、その優れた機動性だけじゃない。

単独で広範囲への対処が可能な面だった。

ミサイルに搭載されているのは、マルチロックオンシステム。

それは、今まで学園の中では使用されたことはなかったけれど、先日の楯無さんとの試合でお披露目された。

逃げ回るような場所も与えずに一網打尽するかのような…というか、こちらが回避しようとする先までロックオンするとか。

…対処に困るのはそれだけじゃない。

兄貴以外の一年生の中で、唯一『単一使用能力』が発現した機体でもある。

そして簪はそれを自在に扱える領域にまで至っている。

アタシもその現場を目撃したのは僅かに二度だけ。

一度目は福音との決戦の時。

あの(福音戦)には兄貴とすさまじいコンビネーションを見せていたっけ。二度目は、楯無さんとの決闘の時。

 

でも…アタシだって負けないわよ!

カタパルトに甲龍の足を乗せ、そのまま発進。

慣れきった風切りの音と共にアタシはアリーナの中心に飛び出した。

 

「よろしく頼むわね、簪」

 

「こちらこそ、鈴」

 

簪の両手に握られているのは、篠ノ之博士から託された『願星(ねがいぼし)』だった。

ならばと思い、アタシは『双天牙月』を収納し、拡張領域から『双星(ふたごぼし)』を展開、両足の装甲に現れる二振りの刀を抜刀する。

簪の『願星』はダブルセイバーだけでなく薙刀での二刀流も可能になってるのは知っている。

兄貴と同じように受け流しの技術も持っているから、返しが遅くなる双天牙月では不利になる。

 

試合開始のブザーが鳴ると同時に一気に詰め寄る。

甲龍のウリは優れたパワーと管理されたエネルギー消費性能。

 

「ぜぇりゃあああああ!!」

 

「万雷!」

 

ドゴォンッ!

 

薙刀で勝負しにくるかと思えば、いきなりレーザーカノン!?

 

機体を錐もみさせ、何とか回避を…!?

 

「いぃっ!?」

 

極太のレーザーがまがった(・・・・)!?

マドカが使いこなしている偏向制御射撃(フレキシブル)!?

簪も簪でドイツでどんな訓練してたのよ!?

 

先手を奪われたこのままじゃ…ヤバイ!

 

 

 

 

Kanzashi View

 

万雷により先手を奪うのは成功した。

でも、気を緩めるわけにはいかない。

甲龍の脅威は非固定浮遊部位(アンロックユニット)の衝撃砲にある。

上下前後左右の自在な方向に向けられるその砲撃は脅威。

一学期、一夏は早い段階であの衝撃砲を見切った。

それは、鈴の視線から射線を予測できたから。

でも、鈴だってかなりの訓練をしている筈。

生半可な対策は通じない。

でも、今なら…!

 

「鈴、本気でいくよ…!」

 

「上等!」

 

瞬時加速(イグニッションブースト)を使い、アリーナの最高高度にまで移動する。

衝撃砲が下から襲ってくるけれど、やはり射線の予測がし辛い。

でも、負けないから!

コンソールを八枚一気に展開、両手と両足で一気にシステムへのマニュアル入力を始める。

 

「『辻風』、マルチロックオンシステム起動!

風速、湿度、気温、大気条件オールクリア!

ナノマシン散布範囲設定。

さらに敵機の移動スピード、回避ルート予測、準備良し!」

 

ターゲットは…アリーナ全体!

 

「行っけえええええぇぇぇっっっ!!!!」

 

96発のミサイルを一斉掃射(フルバースト)

 

「負けるかぁぁぁっっ!」

 

鈴も負け時とミサイルを狙って衝撃砲による砲撃を繰り返す。

だけど、すべてのミサイルを撃ち落とせるわけがなかった。

フィールド全体に次々にミサイルが着弾し、爆発する。

そして、フィールド全体にナノマシンが散布されていった。

 

「『万有天羅』発動!」

 

その衝撃砲、封じさせてもらう!

 

「ここは、私だけの世界!」

 

 

 

 

Ichiika View

 

簪もかなり張り切っている。

アリーナの全体が霧に覆われていく。

なるほど、あれなら鈴が扱う衝撃砲が見切れる訳だ。

 

鈴が衝撃砲を使うと、周囲の大気と一緒に霧まで動く。

そこから射線を完全に予測している。

楯無さんが扱うであろう戦闘方法を我流で取り入れたというわけか。

射線が丸わかりともなれば封じられたも同然だろう。

 

「簪…本当に強くなったな」

 

俺もうかうかしていられないな

 

 

 

 

Lingyin View

 

まわりは霧ばかりでろくに見えない。

衝撃砲を撃っても、まるで手応えがない。

しかもこの霧にはジャミングの性能も合わさっているのか、レーダーが役に立たない。

それどころか、この濃霧の中だというのに簪が放つレーザーが嫌と言わんばかりに直撃してくる。

シールドエネルギーは残り15パーセント。

この状況を打開する方法は何かないかと考えているけれど、まるで思いつかない。

 

「っ!またっ!?」

 

濃霧の中から曲がるレーザーが襲ってくる。

こっちが動けば霧をレーダー代わりにして把握しているってわけか…!

って完全にワンサイドゲームじゃないのよ!

 

「此処でキレたら居場所を教えるようなものよね…!

こうなったらイチかバチか…!

頼むわよ甲龍!」

 

衝撃砲を起動。

一直線上に撃つわけじゃない、これが衝撃砲の真骨頂!

 

「こんな霧…吹き飛ばせえええぇぇぇぇっっ!!!!」

 

全方位への連続砲撃。

これで賭ける!

 

ガシャンッ!

 

衝撃砲が直撃したであろう音が聞こえた。

 

「そぉこぉかあああああぁぁぁっっ!!!!」

 

スラスターを最大にまで吹かせ、一気にその方向へと向かった。

霧の向こう側にそれらしき影が見えた。

もう逃がさない!

 

「ぜりゃああぁぁぁっっ!」

 

右手の刀を全力で振り下ろ…せなかった。

それは、簪じゃなかった。

 

「氷の…塊…?」

 

高さ1.5メートル程の大きさの氷だった。

周囲を見渡せばそこかしこに氷の塊が置かれている。

まさかこれ…簪がナノマシンを使って作り上げたの…?

…アタシの考えが先読みされてしまっていたらしい。

無差別に砲撃を行ったとしても、そりゃ下手な鉄砲数撃ちゃ当たるわ、簪にじゃなくてこの氷塊に…。

 

「ってー事は…」

 

振り向けば…大出力レーザーが束になってアタシを追いかけてきていた。

あ、はははは…最近負け癖がついてきてるかも…。

 

 

 

Kanzashi View

 

『甲龍 シールドエネルギーエンプティ

勝者 更識簪』

 

「…ふぅ…なんとか上手くいった」

 

マドカ直伝の偏向制御射撃(フレキシブル)を上手くつかいこなせた。

それだけでなく鈴に勝てた。

私もすこしずつ強くなれたんだと思えた。

 

「でも…鈴にはちょっと悪いことしちゃったかな…」

 

霧の中、鈴が伸びているのが見えた。

仕方ない、運んであげよう。

それにあんなところで伸びてたら風邪ひきそうだし。

 

 

 

Ichika View

 

簪が鈴を負ぶってピットに戻ってくる。

まあ、その、なんだ…前例があるからだろう、千冬姉がすでに睨みを利かせててきているので、飛びついてくることもないだろう。

 

「簪、少しやり過ぎだ、アリーナ全体が霧に閉ざされ、フィールドには氷塊だらけ。

試合がどうこうという話じゃないぞ」

 

「ごめんなさい、鈴がとても強くなってたから、ついつい本気になっちゃって…」

 

 

「今年だけで当面使用が出来なくなったアリーナがいくつ出来たと思っている?」

 

「…そこで俺を見るなよ、不可抗力だ」

 

とんだとばっちりだ。

勘弁してくれよ…。

ってーか千冬姉は当事者だろ。

俺と決闘までしてアリーナの壁面をえぐり斬るは、電磁シールド発生装置をブッ壊すまでしてんだから関係者の筈だ、いまさら他人面しないでくれ。

 

「簪はこの後にマドカとの対戦が控えているんだ、エネルギーの充填があるだろう。

鈴は俺が医務室に連れて行っとくよ」

 

「私も一緒に行くから」

 

「わかった」

 

簪から鈴を受け取り、背に負う。こいつ、相変わらず軽いな。

ウェイトトレーニングにもなりそうにないな。

さてと、とっとと医務室へ運ぶか。

 

で、ピットの外には…

 

「やっぱりか…」

 

ラウラとメルクが居た。

何しに来たんだか…。

 

「どうした?」

 

「簪さんの試合の運び手、本当に見事だったなと思いまして」

 

「うむ、それだけを伝えたくて此処に来たんだ」

 

律儀だなぁ、オイ。

俺の隣の簪はというと…顔を赤くしていた。

随分と高く評価されているらしい。

 

「お兄さんなら簪さんがあのような戦法を使ってきたらどう対処しますか?」

 

「手っ取り早い話、霧の中から外へ飛び出すだろうな。低い場所であれだけの濃霧を発生させていたから鈴は上空も霧に覆われていると錯覚したんだろう。

更には偏向制御射撃(フレキシブル)まで使えば暗示はさらに強くなる。

ここまで来ればかなりの知将だよ、簪は」

 

「ほ、褒め過ぎだってば!」

 

簪は早くも顔も耳も首も真っ赤だ。

俺から言わせれば本音なんだがな。

 

「とはいえ、鈴には効果覿面だったみたいだな。

考えたらすぐに行動に移す奴だからな」

 

「誰が後先見ずの向こう見ずだバカ兄貴ぃぃぃっっ!!!!」

 

起きてたのかよ、っつーか寝起きでヘッドロックは辞めろ!息が出来ねぇっ!

ラウラ!メルク!簪!笑ってないで助けろ!

マドカは…向こう側のピットで待機中だったな。

助けを呼んでも来てくれそうにないな、むしろもっと面倒な事になりそうなんでキャンセルで。

 

「あ~っ!何やってるの鈴!兄さん!」

 

…終わった…。

 

「鈴、ギブだ、離せ!」

 

「んじゃ、久々にこのまま医務室にでも運んでもらおうかしらね~♪」

 

「あ、じゃあその次に私もお願いします!」

 

「兄上!私もだ!」

 

「…自分の足で歩けよお前ら…」

 

ったく、何でこうなったんだか…。

 

 

 

Chifuyu View

 

…何をしているんだか、あいつらは…。

念のために、そう思って廊下を見てみたが…いつもの面々が集まっては一夏のまわりでギャーギャーと…。

随分と慕われているようだな、アイツは…。

しかし何故どいつもこいつも一夏を『兄』としてみているのかが判らん…。

 

「織斑先生、あの…アリーナなんですが…」

 

「山田先生…ああ、判っている」

 

アリーナのフィールドは全体が氷漬けの状態。

もはや試合云々などと言っていられないだろう。

 

「中途半端だが、クラス対抗戦はこれを持って終了だ。

景品は…1組と4組に渡しておけ」

 

やれやれ、戦略といってもアリーナ全体を氷漬けにするなどスケールが大きいにも程がある。

その内に、アリーナ全体を火の海にでも変えてしまいそうだ。

そうならないでほしいものだがな…。

 

後日、私のこの予感が的中しようなどとは思ってもみなかった。

 




二学期

始まって間もなくそれはゆっくりと影から手を伸ばす

それに気づいたものは

次回
IS 漆黒の雷龍
『狂勇災典 ~ 平穏 ~』

兄さん、相変わらず無茶するなぁ

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