IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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昨日よりも短くてごめんなさい。
そして次回の投稿は週末か、それ以降になります。
休暇は今日で終わりですので。
そして皆さん、手元にブラックコーヒーを用意!…する程には甘くはないかも


繋がる想い

翌日の朝からは大変だった。

早朝の新聞配達のバイトの後に、屋敷に戻ってからは剣の特訓。

それが終わったらシャワーを浴びて、食事をしてから、普段よりも早い時間に出発する。

荷台には簪が座り、二人乗りの状態だ。

何が心地いいのかはわからないが、簪は頬を俺の背中にくっつけている。

理由を聞いてみても、真っ赤になってしまうので聞き出すことは諦めた。

とは言っても俺はとしては悪い気分でもない。

なにせ心臓がドキドキとしているのが自覚できた。

 

放課後には勉強をしてから簪の送迎。

それから屋敷に戻ってからまた剣の特訓に学校の勉強だった。

簪や虚さんからも勉強を教えてもらい、翌週のテストはなかなかに手応えがあった。

 

 

そして

テストが返却された。

 

「よし!98点!これで全教科返却されたな!」

 

「うわ、凄いわね…アンタ、今回90点以下が無かったじゃん」

 

最後に返却された数学の成績も上出来だ。

隣から覗き込んでる鈴は…85点のようだ。

 

「教え方が上手かったからだろうな」

 

特に虚さんの教え方が、な。

暫くは足を向けて眠れないな。

 

「じゃあ、俺はバイトがあるから今日は帰るよ」

 

「オッケー、またね」

 

鈴と軽い言葉を交わし、俺は簪が通う女子中学へと自転車を走らせた。

 

 

 

Kanzashi view

 

私の学校もテストが終わり、下校の準備を進めていく。

下校の準備といっても、教科書や参考書を鞄に詰め込むだけ。

後は、校門前で一夏を待つだけだった。

 

「簪ちゃん、私達と一緒に」

 

「一夏と一緒に帰るから」

 

お姉ちゃんからの誘いはバッサリと断った。

ここ最近は一夏と一緒に帰るようにしているのはお姉ちゃんだって知っている。

素直に言えば、私としても一夏と一緒に帰るのが楽しみ。

彼の背中に触れるのが好きだった。

服を越えて伝わってくる温もりが心地よかった。

あの逞しい体に触れるのが嬉しかった。

だから、こうやって彼を待っている時間も好きだった。

 

「更識さん、今日も彼氏と一緒に帰るの?」

 

「ち、ちが…っ、か、彼氏じゃ…」

 

彼氏じゃない

 

その現実が今の私の悩みだった。

 

私は一夏が好き。

でも、その思いは未だに伝えられていない。

もしも、告白したせいで嫌われたりしたら…そう考えただけで怖くて仕方ない。

だから、私は告白が出来ず、未だに友人レベルでの付き合いを続けていた。

もしも…そうもしも、一夏が他の女の子に思いを寄せたりしたら…ほかの女の子から告白なんてされたら…もう、私は耐えられないかもしれない。

 

「お~い、簪~!」

 

いつの間にか大好きになった男の人の声が遠くから聞こえてくる。

 

「一夏ぁ!」

 

私の抱える不安を悟られたりしないように、私は震えそうになりながらも必死に手を振りかえした。

 

「お待たせ。さあ、帰ろうぜ」

 

「うん」

 

一夏が私の目の前に自転車を停めて、私はその荷台に横向きに座る。

私の周囲の生徒が黄色い歓声をあげたりするのも、もう慣れっこだった。

一夏はちょっとだけ顔が赤い。

つられて私の顔も少しだけ熱くなってきた。

 

「じゃ、じゃあ出発するぞ」

 

「うん、お願い」

 

ペダルを踏み込み、自転車がゆっくりと、そしてどんどんと加速し始める。

髪や肌に感じるこの風も心地よかった。

この場所を誰にも譲りたくない。

そんな子供みたいな我儘を、私は心の中で呟いていた。

 

 

 

Ichika view

 

俺の背中には簪の頬が、胸には細い腕が回されたのを感じ、俺はハンドルから片手を離し、その小さな手に触れた。

ピクリと小さく震える手に苦笑しながらも、俺はそのまま手を重ねた。

いつからだっただろうか。

この小さな女の子を守りたいと思い始めたのは?

 

一緒の屋敷で過ごすようになってから?

 

楯無さんとの仲が和解出来てから?

 

こうやって、毎日登下校をするようになってから?

 

思い返してみる。

違う

 

もっと前からだ

 

もっと前…?

そうだ、空港で出会ったころからだ。

あの時、簪はヤンキーに絡まれて困ってしまっていた。

恐怖していたんだ。

そんな顔をしてほしくなくて、俺はドイツ軍で習った技術を使ってまでそいつらを叩きのめした。

俺は…あの時から簪に惹かれていたんだ…。

 

あの時から俺は、簪の笑顔を守りたい、俺の剣で簪を守り続けたいと思うようになっていたんだ。

 

だから俺は楯無さんに剣の実力を鍛えてもらった。

そして、ドイツから離れるときにヴィラルドさんからもらった刀を今も振るい続けている。

 

「なあ、簪」

 

「どうしたの、一夏?」

 

「一つ、約束をしたいんだ」

 

「約束?」

 

「俺は半年程経ったら実家に帰るようになる。

けどさ、こうしてまた簪と一緒に居たい、そう思ってる。

でも、さ…できればその先もずっと一緒に居たいって思っている。

だから、さ、…簪が嫌だと思うまで、ずっと…ずっと一緒に居させてくれないか」

 

今の俺で思いつく限りの告白だった。

頭が悪い事なんて、ずっと前から自覚してる。

それでも、これが俺の精一杯の告白だった。

 

顔が熱い。

今の俺は顔が真っ赤になっていることだろう。

千冬姉だって妙な視線を向けてくることだろう。

 

「簪?」

 

「こっち見ちゃダメ」

 

よそ見運転はするな、そういう事か?

 

「…嬉しいの…一夏も私と同じ思いでいてくれたのが…」

 

「それって…」

 

俺の胴に回された手の力が強くなった。

俺もそれに応えるように、重ねる手にやさしく触れる。

 

「一夏、これからもよろしく」

 

「ああ、こっちこそよろしくな」

 

この日から、俺達は恋人同士になった。

 

なお、簪は少し恥ずかしがっているから、他の人には極力秘密にすることにした。

バレないように気を付けよう。

 

 

 

 

千冬姉

日本に帰ってから初めて手紙を送るよ。

こっちでの生活は随分と慣れた。

一か月間のブランクがあったけど、勉強も追い付いていけるようになった。

刀を振るうようなことはこっちには無いけど、それでも腕を落としたりしないように、更識家の人に稽古相手になってもらったりしてる。

それと重大報告

俺なりに考えた結果だけど、剣を振るう理由が増えた。

守りたいと思える人が、大切な人が千冬姉以外にも出来たんだ。

 

つまり…その…恋人が出来たんだ。

本人は恥ずかしがって公表はしないつもりらしいけど。

その人の写真も一緒に贈るよ。

 

今回の報告はこれくらいかな。

ドイツでの教官職は忙しいだろうけど、頑張ってくれ。

それじゃあ、また手紙を送る

ラウラやリズ、黒兎隊の皆にもよろしくな

 

織斑 一夏

 

 

 

 

 

 

Chifuyu view

 

「ぶうううぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 

一夏からの手紙を読み、私は飲みかけのコーヒーを吹き出してしまった。

真正面に居たリズがその被害を受けたようだが、この際それを気にしないでおく。

そんなことよりも、手紙の内容が信じられなかった。

あの天然で唐変木で朴念仁で鈍感な節ばかり見せていた一夏に恋人だと!?

 

ドイツに手紙が届くまでの時間も考えると、あいつが日本に帰国してから一か月足らずで女性と交際を始めるようになったと計算できる。

写真を見ると、相手は内側にはねた空色の髪に、赤い瞳の少女だった。

よく見ると眼鏡をしている。

なんだ?一夏は眼鏡をした女に弱かったのか?

家族の私でも初めて知ったぞ。

手紙を見る限りでは、年齢は同じらしい。

更に名前は

 

「更識 簪、か」

 

身の回りの事を任せた更識家の次女のようだ。

まあ、あいつが決めたのなら私は文句を言うまい。

 

「ふふ…将来の義妹になるのかもしれないな」

 

気が早すぎることを少しだけ考え、思わず笑ってしまった。

 

「織斑教官が笑ってる!?」

 

「え!?今日の天気って晴れよね!?」

 

「夏が近いのに雪が降りそう!」

 

いい度胸だな貴様等…懲罰としてISを担いでフルマラソンでもしてもらおうか




今回はこの鵜の1/3程の内容量になってしまいました。うっすい!2961文字とか!
頭が悪いと自覚している一夏少年による精一杯の告白話に相成りました。
それでは次回にてお会いしましょう!

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