IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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第二期の始まりにはこんな日々が有りましたよね

それはともかく、原作最新巻が来月発売だそうです。
「京都への修学旅行編って何それアニメの最後の辺じゃん」とかツッコミは入れない。
「前回から間を空けすぎ」とかツッコまない。
表紙には黒騎士なマドっちだそうです。
「だからそれアニメの最後の(以下省略


陽炎 ~ 繋手 ~

Ichika View

 

屈伸に開脚、さらには前屈と全身の筋肉をほぐす。

そうやって時間を潰していたが…一向に簪が現れる気配が無い。

もしやと思って振り返ると…

 

「…何をやってるんだ、簪?」

 

藪の中に隠れている彼女を発見した。

 

「そ、その…一夏が買ってくれた水着、着てみたんだけど…なんだか恥ずかしくて…」

 

…やれやれだ。

買った直後には喜んでくれていたが、いざ着てきてみたらこの通りか。

ゆっくりとだが簪が藪のなかから出てくる。

臨海学校の時には見らえなかったが、今度こそ着てみたらしい。

あの時に俺が簪のために購入した水着(ワンピース)を。

 

「ど、どうかな…?」

 

「ああ、よく似合ってる」

 

「良かった…」

 

しかし…本当によく似合っている。

これなら購入した甲斐があるというものだ。

簪も喜んでくれているし、いいこと尽くめだ。

 

「準備運動はしてるか?」

 

「うん、更衣室でバッチリ」

 

…遅くなっていた理由はソレだったか。

いや、敢えてつっこまずにいよう。

 

どちらからともなく互いの手を取り、プールに向かって歩き出す。

そして勢いよく飛び込んだ。

水泳をするのは俺からすれば実に三年ぶりだ、感覚が鈍っていなければいいんだが…溺れないようにだけは気を付けよう。

俺が溺れただなんて楯無さん(あの人)に知られたらどんな風にからかわれるか、分かったものじゃない。

 

「まあ、なるようになるか」

 

「?」

 

 

 

Dan View

 

虚さんと待ち合わせをした場所にて待機して10分。

もうそろそろやってくるだろうと思い、周囲を見渡してみる。

お、調度居た。

バスから降りてきたばっかりだったらしい。

これがドラマならハグの一つでもするんだろうけど、正式におつきあいしているわけでもないのだから、がっつくわけにもいかない。

此処は紳士に、真摯に対応すべきだ。

バスの向こう側に見覚えのあるバイクに二人乗りして走行中のカップルが居るみたいだが、あいにくそんなものには目も向けない。

オレの視線と気持ちは虚さんに一直線だ。

 

「あ、弾さん、お待たせいたしました」

 

「いえいえ、オレも今しがた来たばかりですからお気になさらず」

 

「汗、流れてますよ」

 

…早速失敗した…。

穴があったら入りたい…。

スタート直後に俺の気持ちはorz状態だが、今日はそんな様子を見せるわけにはいかないから再起動(リブート)だ。

何か、何か虚さんの気を俺に向け…いやいや、気をそらし、いや、それも違う!

そう、服装だ!

服装を褒めるべきだ!まず最初にソレだ!

 

「虚さん、その服とても似合ってますよ」

 

「そ、そうですか・・・ありがとうございます!

ワンピースだなんて初めて着てみたものですからいまいち自信が無かったですけど…そうですか、似合っていましたか…良かった…」

 

成!功!

どうだ数馬!俺だってこれくらいなら出来るんだぜ!

どうだ一夏!俺だってこれくらいならできるんだぜ!

どうだ鈴!俺だって人の服を褒めるくらいなら成功するんだぜ!

 

いやいや落ち着け俺。

今回のデートはまだ始まったばかり、というかまだ始まってもないんだ。

これが一夏なら…い~やいや!俺なら!

 

「でも、この日差しの中では少しきついでしょう、麦わら帽子なんて如何っすか?

そこの売店でも売っていますから」

 

「ありがとうございます、お優しいんですね」

 

っしゃああああぁぁぁぁぁぁっっ!

此処までいける!

今回のデート!心!底!楽しませて見せるぜ!

やぁってやるぜええぇぇぇぇぇっっっ!!!!

 

 

 

Madoka View

 

…何処かからか妙な猛々しい叫びが聞こえた気がした。

いや、多分気のせいだろう。

 

「どうしましたマドカちゃん?」

 

「いや、何でもない。

さて、次はどうする?」

 

「そうだな…あちこち泳いで回ってみないか?」

 

「賛成、この広いプールだし思いっきり楽しまなきゃ損よね」

 

メルク、ラウラ、鈴を誘ってみたがこれも結構悪くない。

皆が揃っていると、思っていた以上に楽しかった。

このパークには兄さん達も来ているのだから、邪魔にならないようにしないとな。

 

「あのスライダーなんてどうだ?」

 

「おお、なかなか速そうですね…!」

 

五月蠅いぞそこのテンペスタ(スピードジャンキー)

とはいえ結局行くけどさ。

 

周囲を見渡しながらスライダーを目指して歩く。

兄さんと簪がこのレジャーの何処かに居る筈だけど、今の所は見当たらない。

この暑さだし、日陰でのんびりしているのかもしれない。

もしかしたら二人ともまだ着替えてる途中だとか?

いずれにしても、今は羽を伸ばしおておいてもらいたい。

 

「ねえ、アレって弾じゃない?」

 

「一緒に居るのは虚先輩みたいですよ?」

 

「…え?」

 

金網の向こう側、更衣室の方向に歩いていく男女の姿が見えた。

…鈴の言う通りに、そこには弾と虚さんの二人が居た。

そしてその後方を気づかずに歩いている兄さんと簪の姿。

 

「ふむ、アレがクラリッサの言う所の『バカップル』だとか『アベック』とかいうものか」

 

「ラウラ、それは違う、絶対に違う」

 

あの人の洗脳はこんなところにまで影響が出ていたのか…。

兄さんが頭を抱える理由が今更になってわかってきた。

 

それにしても…虚先輩って、あんな顔も出来るんだ…。

すっごい輝いて見えるのは陽光のせいだけじゃないだろう。

でも弾、お前はダメだ、鼻の下が伸びてる。

もうすこし顔を引き締まらせろ、さもなくば偶然を装って蹴るぞ。

 

「鈴、あの二人をどう思う」

 

「『爆発しろリア充』って思う」

 

 

 

Lingyin View

 

兄貴がこの場所に来るのはマドカから聞いていたけど、よもや弾まで来てしまうとは思ってもみなかった。

しかも虚さんが一緒に来るとか。

いや、この場所は男が一人で来るような場所でもないだろうから、同行者は居るだろうけどさ。

その弾の相手が蘭じゃなくてあの虚さんだなんてね…。

IS学園の内部で、カップルとして成立しているのは兄貴と簪だけ。

虚さんの場合は、相手が弾だから遠恋になるんだろう。

そんな二人がよもや同じ場所に訪れるとか…爆発しろリア充ども!

 

スライダーへと向かう足を別の方向に向ける。

更衣室付近の藪の中に隠れていると、アタシ達とは別方向の藪に簪が隠れていくのが見えた。

なんで隠れてるんだか…。

そしてプールサイドには、マドカ達が購入したらしいラッシュガードとか言われるものを着た兄貴が入念にストレッチをしていた。

ああやって簪を待っているのかもしれない。

上半身も下半身も完全に隠れてしまっているから、本人が気にしていた体の傷なんて一切見えない。

多少目立つかもしれないけど、あれなら兄貴本人も傷を見られる心配をしなくていいんだろう。

昨今の世の中、男性相手に気遣うようなことはあまりされないだろうから、ラッシュガードを探すのにも苦労したかもしれない。

あの気遣い、本当に兄貴のことを好いているんだろうな…。

まあ、今は婚約者だし、ソレは当たり前か。

 

「ど、どうかな…?」

 

「ああ、よく似合ってる」

 

「良かった…」

 

ストレッチをある程度繰り返していた兄貴と、藪から出て行った簪とのそんな会話が聞こえてきた。

…爆発しろリア充ども!

 

そんな二人を見ているこちら側に居るメルクのコメントは…

 

 

「お兄さんと簪さん、初々しいですねぇ…」

 

だった。

コイツはコイツで眼を細くしていた。

 

「クラリッサは言っていたな。

『バカップルを見つけたらからかい倒すべし』と」

 

「兄さんと簪を相手にそんな事はするなよ、後で必ず簪と姉さんに怒られる」

 

「でしょうね、それで更に虚さんにも必ず話が通るから、虚さんにも怒られるでしょうね…。

最悪、本音と同じ事になるかもしれないわよ」

 

『特大算盤の上で正座』か『石抱きの刑』。

さらに付け加えて『オヤツ半年抜き』だとか。

 

「ふむ…兄上と姉上をからかい倒すのがダメならば…弾をからかい倒せば良いわけか。

よし!善は急げだ!急行するぞ!」

 

「ちょっと待てぇい!

ソレは一番ダメなパターンだからぁっ!

待ちなさいラウラァッ!

メルクッ!マドカッ!止めるの手伝いなさいよ!

さもないとアンタらも道連れにするわよ!」

 

「んなっ!?」

 

「横暴ですぅっ!」

 

そのままラウラを追ってプールサイドを全力疾走。

プールサイドを走るのって結構危険なのよね、滑ったり、人に直撃したりだとかで。

 

「どわああぁぁぁぁっっっ!!??」

 

ばっしゃあああぁぁぁぁぁぁんんんん!!!!!!

 

余計なことを考えていたのが悪かったのかもしれない、間に合わなかった。

すでにラウラが弾をプールに蹴落としていた。

その隣ではビキニ姿の虚さんが絶句していた。

あ…コレ、冗談抜きでやばいかも…。

 

「…ふむ、良し」

 

「「良し、なわけあるかああぁぁぁぁっっ!!」」

 

「ぬあぁっ!?」

 

今度はアタシとマドカが一緒になって、ラウラを蹴落とす番だった。

 

「なあぁっ!?」

 

「ぶごぉっ!?」

 

そのまま吹っ飛んだラウラが浮かび上がってきた弾に直撃した。

うわぁ…弾、ご愁傷様…。

でも、本当の恐怖はそこからだった。

 

「貴女達、何をしているのか判っているんでしょうね…」

 

真夏の真昼間だというのに…背後から吹雪のような雰囲気が漂ってきていた。

…手遅れだった…色んな意味で…。

だからラウラには辞めろと言ったのに。

なお、メルクもマドカも、虚さんの雰囲気に本気でビビッて腰を抜かしていた。

逃げる云々の話じゃない、生き延びれるかどうかすら怪しくなってきていた。

 

「…覚悟は出来ていますね」

 

疑問形ですらない!?

 

そこから先のことは…正直言って…忘れたい。

 

アタシって…最近不幸体質になってきてるのは…気のせいじゃないわよね…?

 

 

 

 

 

Ichika View

 

「何をやっているんだか、あそこは」

 

簪と一緒にプールで泳いでいたら、奇妙な光景が目に映る。

プールサイドにて正座させられているラウラ、メルク、マドカ、鈴の4人。

そんな4人に説教をしているらしい虚さん。

溺れでもしたのか、俯せでノビている弾の図だった。

こんな所にまで来てお説教をする事になるとは…虚さんも、本当に苦労人なんだなぁ…。

 

「楽しみを邪魔されたんじゃないのかな?」

 

「ああ、ありそうだ。

ラウラがハルフォーフ副隊長に唆され、鈴とマドカが止めようとし、メルクにまで被害が及んだかもしれないな。

今はとばっちりが来ないように逃げておこうか」

 

「あの4人には悪いけどね」

 

っつー訳で退散、退散。安定の逃遁に勤しむとしようかね。

三十六計逃げるにしかずってな。

 

「でも、虚さんの後方を見てみて」

 

「…ん?…ああ、成程な」

 

不埒なことを考えているであろう野郎数人がそこに居た。

昨今の世の中、ナンパをやろうとか考えている香水臭い連中だろう。

その匂いが移るのは嫌だが、説教に集中している虚さんがナンパの被害にあうのを黙って見過ごすわけにもいかないだろう。

ここは簪の手を煩わせるのもよくない、なので。

 

「文字通り、一蹴してくるか。

ちょっと行ってくる、待っててくれ」

 

「いってらっしゃい」

 

虚さんを苦労人なんて評価していたが、俺も同類になってしまっているようだ。

…至極今更過ぎるかもしれないが。

 

「ご退場願おうか」

 

そのナンパ野郎を一瞬で蹴り飛ばしておいた。

まあ、監視カメラの死角だろうからさして問題はないだろう。

 

「まあ、これに懲りてナンパは金輪際辞めておけよ」

 

…なんか見覚えのあるような連中だったが、気のせいだろう。

 

 

 

 

Melk View

 

あ、足が痺れました…。

足元は堅いのに、虚先輩は容赦なく正座を命令してくるわけですから、酷い話です。

私、何もしてないのにぃ…。

 

「よ、ようやく終わったわね…」

 

「あ、足が…」

 

「う、うあああぁぁ…」

 

鈴さんもマドカちゃんもラウラちゃんも似たようなことになっていましたか…。

正座ってキツいです、拷問です、そして横暴です…!

でも、あんな虚先輩に意見を申し立てることなんて出来ませんよ…。

ああ、お日様の光ってこんなにも暖かいものだったんですね…先程までは吹雪いてましたけど。

 

「あれ?兄貴が居ないわよ?」

 

「簪と何処かに遊びに行っているんじゃないのか?」

 

「私達を置き去りにしてか…?」

 

「むしろ気づいたから離れていったんじゃないですか…?」

 

自分で言っててアレですが、なかなかに納得深く思えました。

気づいていたなら、助けてほしかったですけど…。

 

「でも、お兄さんの脚力に追いつける人って居ないですよね…」

 

走るのが凄い早いですからね。

将来はオリンピックにも出るつもりなんでしょうか?

 

どのみち、今日は助けてくれなった理由も聞くに聞けないわけですが…。

 

「あ、足が…」

 

まだ当分は歩くこともできずに生まれたばかりの仔馬のように這って移動するのが限界です…。

 

 

 

 

 

 

Ichika View

 

「まあ、こんなものか」

 

カメラの死角にてナンパをやらかそうとしてた連中をまとめて蹴り倒し、警備員に突き出しておいた。

それにしえもアイツら鍛えがなってないな、俺に一撃入れることすら出来てなかったぞ。

まったく、ナンパだなんてこの女尊男卑の時代にやるだなんて大した度胸だよ。

まあ、俺はそんな風潮は気に入らないがね。

学園の中じゃ、たった一人の男だからな。

 

「お待たせ、簪」

 

「もう終わったんだ…」

 

「雑魚ばっかりだったからな。

じゃあ、改めてプールを堪能してみるか」

 

「うん!」

 




共に過ごす夏休み

そのとある夜

騒がしくも賑やかな場所を一緒に巡り歩く

さあ、一緒に楽しもう

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 騒夜 ~』

相変わらずだな、この場所は

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