IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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皆さんから情報提供がありましたので、それを 今回一夏君へ渡してみようかと思います。


陽炎 ~ 流泉 ~

Ichika View

 

夏休みも終盤に近付きつつあった。

俺はIS学園へ早々と戻り、簪達と一緒に過ごしていた。

やる事と言えば、剣術の訓練に、ISの訓練、課題の復習と文武両道の日々だ。

機体の操縦にも慣れてきた。

この尋常ならざる速度もものに出来た。

ドイツで身に着けた『瞬時加速』等ももこの機体でやってみたが

 

シャルロット曰く

「速過ぎて見えない!」

 

鈴曰く

「このチート野郎!」

 

セシリア曰く

「狙い撃てませんわ!」

 

ラウラ曰く

「止められるかぁっ!」

 

メルク曰く

「イタリアの威厳が…」

 

マドカ曰く

「流石は私の兄さんだ!」

 

簪曰く

「一夏、凄い…」

 

色々と言われたが、この評価を落とさないようにするには、鍛練を繰り返すあるのみだ。

そもそも俺は、銃やライフルとは極端に相性が悪すぎる。

まだ発作を抑え切れない事がある。

左腕に新たに発生した追加装備『雪羅』も慣れる必要があった。

この武装は『零落白夜』の二刀流が可能だが、燃費が倍になるのが悩みだ。

黒翼天から受け継いだ『災厄召雷』での更なる超加速とに、新な仕様能力である『龍皇咆哮』によるエネルギーリカバリーを行う必要がある。

右腕の『龍咬』には幾種もの砲撃兵装が搭載されているが、俺の射撃センスではまだまだ命中率は低い。

脚部の『月光』と『哭龍』に関しては、扱いは結構容易なんだがなぁ…。

 

鈴はチート呼ばわりはするが…俺の相棒だしこの機体はチートなのは認めたくない。

だが、まがりなりにも俺の相棒なんだ、能力を完全に掌握しよう。

ISの操縦に必要なのは、搭乗者の強いイメージだ。

 

 

 

そして、ある朝

 

コンコン

 

部屋でお茶を飲みながらデータ整理をしていた頃、誰かが来訪してきた。

 

「誰だ?」

 

「兄上、私だ。

姉上とマドカも一緒だ」

 

来訪者はラウラのようだった。

この部屋へ来訪してくるのは久しぶりの事だった。

まあ、それはさておき、何の用だろうか。

 

「三人とも、どうしたんだ?」

 

ドアを開き、簪達を招き入れる。

ラウラが俺を兄呼ばわりしているのにはすっかり慣れてしまっている。

あきらめてしまっているのも確かだが。

臨海学校からは、簪を『姉上』呼ばわりだ。

簪もそれにすっかり慣れてしまっているんだろう。

 

「一夏にこれを見せたいと思って…」

 

簪がポケットから取り出したのは、二枚のチラシだった。

一枚は、今年に開設されたウォーターパークだ。

…これに関しては俺はパスだな。

俺自身の都合によるものだが。

傷を指差されるのが辛い。

だが、それは簪も承知しているはずなのだが…何故だ?

 

「簪…悪いんだが、俺は…」

 

「大丈夫、一夏の為に特別なものを用意してるの」

 

「これ!」

 

マドカが鞄の中から取り出したのは…これは何だ?

長袖のシャツかと思ったが、そうでもない。

撥水性も兼ね添えているようだが…?

 

「これを着れば、指差されることもないと思うの」

 

「だから、一緒に行こうよ兄さん!」

 

 

 

『ラッシュガード』

 

上半身だけでなく、体全体をすっぽりと隠すようなウェアだった。

行ってしまえば、俺のISスーツである、『ダイバーモデルベース・カスタム』と似たような感じだ。

 

確かにコレは水着の一部としても使える優れもののようだが…こんなもの、何処で…?

 

「ドイツに行ってた時にシュヴァルツェ・ハーゼの皆と相談したの」

 

「隊員の皆は協力に快諾してくれた。

皆、兄上には世話になっていた、大恩人でもある。

誰もが協力してくれたんだ。

その…傷の事を姉上から教えてもらってからの日々のことも掻い摘んで教えてもらってな…」

 

…まったく…お人よしにも程があるだろう、あいつらは…。

そしてお前らもな…。

俺の体のサイズに関しても、この三人なら容易に知れるだろう。

 

「…プールだとか海だとか…正直に言うと、そういうのとは縁切りすべきだと思っていたんだがな…まだ大丈夫みたいだな。

感謝するよ、このラッシュガード、有難く使わせてもらうよ」

 

この言葉の直後に三人が飛びついてきた。

堪忍してくれ…。

 

 

もう一枚のチラシには…夏祭りのようだ。

色々と屋台が来るのは俺も簪も知っている。

夏休み前から俺と簪とで一緒に行く約束をしていたのだから。。

更には浴衣のレンタルも可能らしいが…俺は浴衣は必要無い、私服でいいだろう。

 

「ウォーターパークはほぼ決定。

簪とマドカはどうだ?」

 

「一夏が行かないなら、私も行かない」

 

「私もだ、兄さん」

 

二人には苦労をかける。俺の都合を知っているから殊更に。

 

「一緒に行こう、ね?」

 

こういう風に簪に頼まれた俺には断る理由も、断るすべも無い。

 

 

「判ったよ、簪。

じゃあ、この日の予定としては…このレジャーに行って、夜は夏祭りに行くようになるか」

 

「承知した」

 

外出届けは…部屋のパソコンからやっておけば良い。

簪とマドカ、ラウラのも一緒にやっておこう。

 

「では、これにて失礼する」

 

「ああ、じゃあ当日の朝に学園側のモノレール駅でな」

 

ラウラから夏祭りのチラシを受け取り、改めてその風景を想像してみる。

…なかなかな面白そうだ。

 

「簪もマドカには感謝が絶えないな…」

 

俺がそんな風にぼやいている最中、当の二人はと言えば…。

 

「マドカ、浴衣を用意しないとね」

 

「虚先輩からカタログを借りていたんだ、さっそく見てみよう!」

 

その気になっているようだ。

この様子をみているのもなかなかに悪くない。

だが、よくよく考えれば話の中心は俺なのだから客観的になるのもあまりよくないだろう。

 

「浴衣か…」

 

二人はどんな浴衣を着るつもりなんだろうな。

いずれにしても、よく似合いそうだ。

 

 

 

Laura View

 

姉上は兄上の上半身に刻まれた傷跡を目撃した事が有ったらしい。

恐らく、兄上が姉上の実家に世話になっていた頃だろう。

私も兄上の傷を知っている。

あくまで書面で、だが。

二年前、兄上がドイツから日本に帰国した後に医療施設へ問い合わせ、カルテを見せてもらった。

両肩と腹部の銃創をその際に知った。

そして臨海学校の時に、新たに刻まれた傷跡を直接見てしまった。

本人が気にしてしまうのも仕方ないといえる。

兄上が常日頃から重ね着をし続ける理由を改めて実感してしまった。

アレでは薄着になるどころか、プールや海に行こうなどとも思わないだろう。

改めて同情した…。

だが、今回は、それを打破する切っ掛けになってくれればとも思う。

 

「さて、私もカタログを見て浴衣なるものを調達せねば…」

 

私はこの辺りは情報に疎い。

頼れるのは…ルームメイトくらいしか居ない、か。

やれやれ、兄上ではないが、私ももう少し交友範囲を広げるべきだろうか。

 

 

 

Kanzashi View

 

一夏は傷跡を気にし続け、服で隠し続けていた。

それを繰り返して二年間が経過していた。

だから、プールや海に出かけても、いつも岸から見ているだけ。

だけど、今回からは違うと思う。

あれをドイツで見つけたのは偶然だったけど。

これで一夏も傷跡を見られる心配をせずに居られると思う。

…本音を言ってしまえば、一緒に楽しみたいだけなんだけど。

 

 

 

Madoka View

 

鈴やメルクと一緒に虚先輩に頼んでカタログを見せてもらい、浴衣を購入する。

私が選んだのは、虚先輩からの薦めで蝶の刺繍が施されたものだった。

ご丁寧にも帯にも蝶の刺繍。

…絶対に『サイレント・ゼフィルス』から連想したんだろうなぁ…。

コレはコレで気に入っているけど。

 

鈴は浴衣も帯もピンクだった。

なんか子供っぽい…。

 

メルクは浅黄色の浴衣に同じ色の帯を選んでいた。

桜色の髪によく映える色だと思うけど。

 

虚先輩は、藍色の浴衣に白の帯をえらんでいた。

これで夏祭り当日にはあの(・・)弾と楽しむつもりでいるらしい。

私は兄さんと簪の邪魔になったりしないようにラウラやメルクに鈴と一緒に祭りを廻ってみよう。

邪魔が入っても、兄さんなら大丈夫だろう。

シャルロットやセシリアと遭遇してもあの二人も折り合いはついているだろうから。

問題は…楯無先輩くらいかな…。

 

 

 

Ichika View

 

プールだとか海だとかにはもう縁が無いだろうし、辛うじて残っていた縁も完全に絶つべきではなかろうかとも思っていたが…その心配は無いらしい。

これを態々見繕ってくれたみんなには感謝が絶えない。

 

「…こういうのも悪くはない、か…」

 

これなら傷跡を見られる心配は無い。

…多少目立ってしまうのは問題かもしれないが…。

 

とはいえ、浴衣のような薄着ができないのは相変わらずだがな。

 

さて、出かける準備をしておくかな。

とは言っても、用意するものなどそこまで有るわけでもない。

水着(ラッシュガード)とタオルと財布くらいだろう。

…準備とも言えねぇ…。

久々に…夏真っ直中だというのにそこまで悪い気分でもなかった。

さて、今日の残る時間は剣術の特訓に使い切ってしまおうか。

 

 

 

翌日

 

「あれ?

マドカはどうしたんだ?」

 

学園側のモノレール駅に集合するように言っておいた筈だが、マドカの姿が何処にも無かった。

 

 

「メルク達と一緒に出掛けるって言ってたよ」

 

…気を遣ってくれたらしい。

いつものことながら気のまわる妹だ

マドカがいい子でホントに良かった。

 

「それと、虚さんなんだけど、いつも以上に気合が入ってたよ。

あれ、絶対にお化粧してたね」

 

…そこまで気合を入れるとは…恐らくあの(・・)弾と逢えるのを楽しみにしていたんだな…。

まあ、なれない事をする訳だから、失敗の一つや二つはあるかもしれないけど 、それはそれでいい思い出になってくれればとさえ思う。

 

「じゃあ、俺たちも行くか」

 

「うん!」

 

モノレール駅に集まりはしたものの、今回も例によって例の如く、バイクで移動することにした。

これも簪からの要望だ。

さて、行くとするかな。

 

 

 

Dan View

 

く~っ!

とうとう来た!

俺にもとうとう春が来た!

今は夏真っ盛りだが気にしない!

今までずっと文通だとかメールばかりだったが!

 

ようやく!

 

とうとう!

 

やっとの事で!

 

久しぶりに!

 

虚さんと逢えるんだ!!

 

「いいからとっとと逢いに行きなよ。

今朝だけで、しかも駅前で電車に乗らずにいつまで有頂天になってんのさ。

見てくれが痛い人だよ、不審者だよ」

 

「うっせぇよ数馬っ!

いつまで経っても独り身の奴が言っても痛くもねぇぜ!」

 

「…見ててすこぶる腹が立つな…まだ正式にコクる度胸も無いのにプールや夏祭りに誘うとか順序が逆だろ。

一夏を見習いなよ、更識さんを大切にしてて不快にさせるような事を一切してないんだし、聞いた話じゃ、交際どころか婚約だよ?

しかもこの二年間で。

それに比べて弾はどうなのさ?

二年も文通、メール止まり、それでいてこういう事には誘えるくせに告白が出来ないって、完全に下心だけが先に飛び出してるヘタレじゃないか」

 

「お前さっきから言い過ぎだろう!?

オレになにか恨みでもあるのかよ!?」

 

そこまで言われたさすがのオレでも冗談抜きで凹むぞ!?

今回のプールや夏祭りに誘うだけでどれだけ度胸が要ると思ってんだよ!?

あの日は緊張しすぎて前日も翌日もメシが喉を通らなかったし、興奮しすぎて三日間は眠れなかったんだからな!?

 

「恨み、ねぇ…。

夏休みの課題がなかなか終わらなくて貴重な時間をつぶしてくれたのは誰だっけかねぇ?」

 

「お、Oh…。

ってそれはお前もだろうがぁっ!

騙されねぇぞっ!」

 

よくよく考えれば俺もお前も夏休みの課題にかなり苦労させられただろうがぁっ!

へっ!だがオレは男としてのアドバンテージは数馬よりも上だ!

この夏休みで男として成長して見せるぜ!

 

「いいからとっとと行きなよ。

それとも駅員呼んで、丸一日缶詰にでもなる?」

 

「ならねぇよ!」

 

なんでコイツはさっきからオレを罵倒してきてんだよ!

 

色々とカチンとくるものがあるが、程好く電車が来た。

ホームの暑苦しさからようやく解放されるようだ。

電車の中は涼しくて最高!

 

「じゃあな数馬!

俺は今日を境に大人への階段を歩みだすぜ!」

 

「ヘタレのくせに?」

 

うっせぇよっ!

 

だが言い返すこともできなかった。

それは何故か?

目の前で電車の扉が閉じたからだ。

言い返すべき言葉も言えずに俺はそのまま電車に揺られることになった。

最後に見た数馬(アホ)のドヤ顔が非常に腹立たしかった。

おのれ数馬!

新学期に入ったら早々にジャーマンスープレックスだからな!

 

「…とはいえ、俺もそろそろコクる度胸を持てるようにならないとな…」

 

数馬の言うところにも頷かずにはいられない。

…仕方ない、コブラツイストにまけてやるか。

 

 

 

 

Ichika View

 

簪と一緒にウォーターパークに来て案内板を見たが…話に聞いていた以上に広いのがよく判った。

 

駐輪上にバイクを停め、入場してから更衣室に。

そこで俺は上下両方ともに着替えた。

簪達からもらったラッシュガードに…。

 

「着心地は…そんなに悪くはないな」

 

上は首元まで隠せるし、手首付近も同じく。

左手には相変わらず手袋を着用。

下に関しても足首付近まで隠せる。

露出しているのつま先から足首まで、そして右手と首から上だけだ。

ダイバースーツとさほど変わりはないようだ。

これなら妥協は出来そうだ。

…プールというのはずいぶんと久しぶりだ。

準備運動をしてから楽しむとしよう。




それもまた一つの思い出

そこから先に紡がれるのは新しい始まり

長いようで短かった夏

満点の星空の下、一緒に歩こう

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 繋手 ~』

やぁってやるぜええぇぇぇぇぇっっっ!!!!

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