IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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今回は一夏君の出番は少ないのですよ。


陽炎 ~ 頂願 ~

Laura View

 

「はれ?

此処何処?」

 

「む、ようやく起きたのかシャルロット」

 

私が起きてから暫く経ってからシャルロットも目を覚ましたようだった。

まだ意識がボンヤリとしているのか、目が右往左往している。

…兄上が手刀で気絶させたようだったが、一晩丸々眠らせるとは見事な技だ。

アレはヴィラルドが教えた技だったか。

まだあの大男は使っているのか?

とんでもない奴だ。

 

「すでに朝食の準備はしている、ルームサービスだがな」

 

「気が利いてるね、ラウラ」

 

だが支払はお前持ちだ、ここまで運んだ手間を考えれば当然の話だがな。

朝食はガッツリと食べるのは兄上の流儀らしいが、私は一週間すべてのメニューを兄上に決められている。

それだけを食し、私の朝食は終わった。

 

「いただきま~す」

 

シャルロットが朝食を食べている間に私は出かける準備をする。

きっと兄上はまだあの家に居るのだろう。

寝坊はしていないとは思うが気がかりだ。

ぜひとも行ってみよう。

 

「シャルロット、私は兄上の家に行ってみる、チェックアウトは任せたぞ!」

 

「ちょっ、待ってよラウラァ!?え!?支払は僕になってる!?ひどいよぉっ!」

 

 

 

Lingyin View

 

「いい加減に起きなさいよセシリア!」

 

いつまでもグースカと寝ているセシリアを叩き起こす。

兄貴に押し付けられたとはいえ、こればっかりはどうしようもなかった。

どんな夢見てるんだか知らないけど、とっと起きなさいよ!

 

「…もう、食べられませんわ…」

 

「そんなTHE・寝言なんか言ってる場合かぁっ!

チェックアウトの時間が近いのよ!」

 

こうなったら、殺ってやる勢いで!

 

スパパパパパパパパパパパァァンッッ!

 

「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ」

 

往復ビンタでも起きないのコイツ!?

だったらどうやって起こせって言うのよ!?

こんな事ならアタシはシャルロットを預かっておくべきだったわ。

…ん?待てよ?もしかしたら…。

意地の悪い方法を思いつき、アタシは熟睡しているセシリアに耳打ちをした。

 

「一夏が来たわよ」

 

「一夏さん!?

何処!?何処ですの!?

何処に居ますの一夏さん!」

 

うわ、なんて現金な奴だろ。でも起こすのも面倒になってたしいいか。

 

「あ、あら?一夏さんは?」

 

「いつまで夢を見てんのよ?

一夏の作った料理で腹一杯にでもなった?」

 

「よ、よく分かりましたわね」

 

分からないと思うのだろうか…?

コイツ、実は天然?

 

セシリアが朝食を食べる暇なんてそれこそ無い。

チェックアウトギリギリの時間の為、アタシは支払を任せてホテルを飛び出した。

ってーか、くじ引きで一人部屋になったメルクが恨めしい!

 

「アンタ達もチェックアウトしてたのね」

 

「うむ、つい先程にな」

 

「皆さん朝からお疲れみたいですねぇ…」

 

ホテルの前ではラウラとシャルロットとメルクが待ってくれていた。

後は、セシリアが出てくるのを待つだけだった。

 

「鈴さん、支払を押し付けるなんて酷過ぎますわよ…」

 

「寝坊したセシリアが悪いんでしょ、それで、アンタ達はこれからどうするの?」

 

「勿論、一夏のところに行ってみるよ!」

 

シャルロットが即答した。

分かりやすいわね…まあ、一夏は留守にしてると思うけど。

 

「セシリアとラウラは?」

 

「わたくしも一夏さんの所に行きますわ」

 

「同じく、兄上の所に向かう。まだ家に居るだろうしな」

 

全員意見が同じらしい。

まったく、分かりやすいわね。

家に向かったところで意味は無いと思うけど。

まあ、良いわ。タクシーも通りかかってきたところだし、ダメ元で行ってみますか。

 

 

 

 

結果的に言えば、やっぱり留守だった。

シャルロットが幾度も呼び鈴を鳴らしても反応は無い。

ラウラが一夏の家に電話を掛けてるみたいだけど、応答する筈もない。

 

「む…兄上は留守か」

 

「ど、何処に行きましたの!?」

 

「え!?こんな朝早くから外出!?マドカも居ないの!?」

 

「そうみたいね。で、どうするのよ?」

 

行先に関してはアタシは予想がついている。

更識家に行って道場で鍛えているんだろう。

誰にも言わなかったのは、あとを着けられるのを防ぐためね。

この時間から出発したのは、少しでも長い時間を鍛錬に使うためね。

携帯電話の電源まで切っているのは、鍛錬に邪魔が入らないようにするためね。

まったく、考えてるわねぇ。

 

「そうですわ!昨日のスーパーに行ったのかもしれませんわ!」

 

「この近隣にはレゾナンスもあったし、そこかもしれないよ!」

 

金髪の二人は早速出発していく。

…思い込みって凄いわね…。

だけどちょっと待った。

 

「待ちなさいよアンタら二人」

 

二人の肩を掴んで無理矢理止めた。

 

「何ですの?」

 

「一応言っとく、アンタ達二人には悪いけど…まだ諦めてなかったりする?」

 

『何を』とまでは言わない。

言わずとも二人は分かっているだろうから。

 

「鈴はどうなのさ?」

 

「折り合いなら着いてるわよ。

二年も前にね。

セシリア、シャルロット、アンタ達だってあの二人の関係は知ってるでしょ。

言い方は悪いけど…納得しときなさいよ」

 

そこまで言うと二人はうなだれる。

気持ちはアタシだって理解出来る。

二年前には散々泣いたし、八つ当たりだってしたんだから。

 

 

 

で、この場に残ったのはアタシとラウラとメルクの三人だけ。

セシリアとシャルロットは学園に戻るらしい。

 

で、何故かは知らないけど、ラウラは動く気がないのかしら?

 

「ラウラはどうすんの?」

 

「いや、鈴が兄上の居場所について心当たりがありそうな顔に見えたのでな」

 

アタシってそんなに顔に出てる!?

仕方ない、シャルロットとセシリアの金髪コンビ居なくなったし、更識家へと行ってみますか。

 

 

 

 

 

 

 

尾行をされていないかを厳重に確認しながらアタシは更識家に到着した。

門前払いにされる事は無い、過去にもここへは来ていることがあるから、アタシは顔パスだった。

ラウラとメルクは兄貴の知り合いだと言うと、それで顔パスになった。

他国の国家代表候補生も知り合いなのはこの家の人たちも把握しているらしい。

 

久しぶりに来てみたけど、ここは何も変わらない。

テレビとかで見る武家屋敷然としているみたいだった。

「なんだか立派なお屋敷ですねぇ…。

まさに武家屋敷です…」

 

「侘び寂びがあっていいものだ」

 

「アンタらは意味が分かってて言ってるの?」

 

もうこの子供二人はほっとこう。

 

 

 

 

「お、やってるやってる」

 

一角にある道場ではいつも派手な音がしている。

兄貴も今ではすっかり門下生みたいに頑張っているようだった。

両手に刀とナイフを持って縦横無尽に振るっていた。

それに付け加え、蹴りを編みこんでいるから、その動きは止まる事が無い。

弾もあの動きを見てビックリしていたわよね…。

でも、あの時とは兄貴の動きは何段階も変わっている。力強く、そして何よりも速い。

クラス対抗戦でアタシと戦った時よりも、夏休み前にアタシと戦った時よりもさらに迅い。誰にも追いつけない速度で駆け抜けていくような動きは、疾風や颶風をも超越し、雷光をも思わせる。

生まれ変わった新たな機体の為にも、兄貴は生身での戦い方を忘れようとしないんだと思わされた。

 

「そこまで!」

 

試合をしていたのか、合図が入る。

 

兄貴が試合で勝ったらしい。

凄いと正直に思う。

 

「あら、鈴ちゃんも見学?」

 

「楯無先輩…まあ、そんなところです。

なんか楯無さん、やつれてませんか」

 

「そこのところは鈴ちゃんも理解しているでしょう…。

昨晩遅くまで書類仕事をしていてようやく終わったのよ…。

思い出すだけで疲れてくるわ…」

 

ご愁傷様。

でもそれって書類仕事を隠していたから自業自得ですってば。

 

「それにしても…一夏君、すごいでしょう?

早朝からずっと試合を続けているのよ?

今の試合相手は更識家のガードマンの中でもトップクラスの剣術を使うのよ。

そんな人を相手に、スピードと手数だけで圧倒してるの」

 

凄い。

今の一夏は誰よりも早く、速く、そして迅い。

雷をも超えるような速さに見えた。

 

「臨海学校で何があったのかは知らないけど、また一歩成長しているわ。

何時間も刀を振るっているのに、本当に擦り傷の一つも作ってないわ」

 

「…嘘…」

 

相手はガードマンの中でもトップクラスの実力者。

戦い方だって、剣だけじゃない筈。

そんな人を相手にするまででも、何人も戦って来てる筈。

それなのに、今に至るまで無傷だなんて…。

今の一夏なら学年最強だって狙えるんじゃないのかとさえ思う。

でも…一夏のPTSDが克服されたわけじゃない。

まだ…決定的に、そして致命的な欠点を背負っているんだ。

そして、それを支えているのが…。

 

「一夏、お疲れ様」

 

「サンキュ、簪」

 

一夏の恋人である簪の仕事。

 

「兄さん、タオル持ってきたよ」

 

「マドカもありがとう」

 

そして家族の千冬さんとマドカの仕事。

アタシが付け入る隙は無いらしい。

まあ、一夏はアタシを『親友』と言ってくれているから構わないけど。

 

「頑張ってるわね、一夏」

 

「よう鈴、よく俺達が此処に居るって分かったな」

 

「まあね♪

セシリアとシャルロットは見当違いの場所ばかり探していると思うわよ」

 

「振り切ってきたんだ…二人には何も言わずに…」

 

「鈴って時々凄いよね…」

 

『時々』は余計よマドカ。アタシだってその気になればもっと凄い事だって出来るんだから!…多分。

ISの勝負じゃアンタには勝てないけどさ。

それにしても…一夏、アンタは頑張り過ぎじゃないの?

 

「今日一日は鍛錬に使うのね」

 

「ああ、鈴とメルクの特訓はまた後日だ。

IS学園は基本バイトも禁止だってのがつらい話であるよな…」

 

「無理はしないように私から言っているから大丈夫だよ」

 

簪の前で倒れるのは一夏としても避けたいでしょうからね、これなら無理無茶は絶対にやら無さそうだわ。

以前も一夏が倒れた時には簪は泣いてた時もあったから、殊更にね。

 

「じゃあ、アタシは見学させてもらうわね」

 

「私たちも見学です!」

 

 

道場はなんだか汗臭い、けど、換気は全力でやってるみたいだし、ちょっとお邪魔させてもらうわよ。

 

「よし、じゃあ次の人、相手してくれよ」

 

この後も兄貴は圧勝を続けていた。

ただの一つも傷を負わずに。

臨海学校の時に何があったのかはアタシも詳しくは知らない。

けど、兄貴が倒れている間に何かがあったのかもしれない。

機体が生まれ変わり、その直後の戦いでは白銀の福音を圧倒していた戦いを見ていても思った。

今の兄貴は…仲間が傷つくことも、自分が傷ついてしまうことも許せないんだと思う。

 

「兄貴、頑張りなさいよっ!」

 

「おお、出来る限りやってみるさ」

 

せめてアタシは親友の背中を追い続けよう。追いつく事が出来るのかは分からないけど。

 

 

Melk View

 

ラウラちゃんの隣に座り、私もお兄さんの特訓の様子を見させてもらうことにしました。

そこから先はお兄さんの独壇場のようでした。

縦横無尽振るわれる刀とナイフ。

篠ノ之さんを圧倒した私の剣技よりも、やはり…格段に速い。

繰り返し見て学んだ剣技がいくつも繰り出される。

それすらも美しく冴えわたっている。

 

「凄い…お兄さんがまた勝った…」

 

「あれが兄上の本気の剣技なのだな」

 

ドイツに滞在していた間にもラウラちゃんはお兄さんの剣技を繰り返し見ていたのでしょうね。

それはそれで羨ましいです。

 

「再び白星か…私は兄上に既に4つも黒星を押し付けられているからな…」

 

「えっと…ご愁傷様です…」

 

現役軍人や、世界最強を相手に訓練していたらあそこまで強くなれるものなのでしょうかねぇ…。

いえ、それ以上に向上心や努力は本人のものだと思いますけど。

それに私にも剣技を教えてくれたりしてましたから。

 

「あれ?

そういえば虚さんはどこに行ったのかしら?

いつも楯無さんと 一緒に居るのに…」

 

「虚先輩、居ませんねぇ…」

 

「それがね、昨日から本音ちゃんと一緒に浴衣を購入しに行ってるのよ。

今年はどうにも気合いが入ってるみたいなのよね…」

 

あの時に通話していた男性と一緒に夏祭りに行くつもりなんですね、判ります。

鈴さんも納得している顔見たいですし。

 

「そこまで!」

 

試合中断の合図がまたもや入る。

相手をしている人達の頭目の人にすら勝利していたようでした。

 

「ふぅ…ふぅ…ふぅ…150人連続抜き、成、功…と…」

 

そんなにも大勢の人を連続で相手にしていたんですか!?

本当にお兄さんは凄いですね…。

 

 

 

Ichika View

 

とうとうやった…連続150人連続抜き。

これでまた、俺も少しは実力向上したのだろうか…?

そうであってほしい。

 

「一夏、本当にお疲れ様」

 

「ありがとな、簪…」

 

フラフラになった俺の顔を簪がタオルで拭ってくれる。

だがまだ体力の回復には程遠いだろう。

 

「兄さん、お風呂入ってきたら?」

 

「うむ…言っては悪いが…汗臭いぞ」

 

「ですね…」

 

お前らは…人が疲れているときに言いたい放題かよ…。

まあいい、疲れているんだし風呂にゆっくりと入ってくるか。

 

 

 

なお、またも楯無さんの悪戯が企てられていたのは言うまでもなかった。

俺はまたも天井裏から逃げ出すことになったが。

まったく、少しは休ませてくれ。

昨晩は気絶オチだったから碌に寝たような気分じゃなかったってのに…。

 

 

 

 

Out Side

 

「お姉ちゃんにはコレとかどうかな~?」

 

「な、何よこの浴衣は!?

股下が極端に短いし太ももを半分も隠せないじゃない!

しかもノースリーブだし背中は丸見えって…こんなの着て弾君の前にでられるわけないでしょが!

もうこれは浴衣じゃないわよ!水着よ!

私がそんな破廉恥な恰好出来るわけないでしょうが!

もっと普通の浴衣を選びなさい!」

 




傷を多く抱えた

誰にも見せない

だから彼は衣服でそれを隠す

少女は知っていたから触れなかった

でも、許されるのなら、一緒に…

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~流泉~』

一緒に、行こう、ね?

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