IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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みなさん声を揃えてどうぞ!
「その場所変わって一夏君!」

もしくは
「一夏君のラッキースケベ!」

そして
「自然に惚気てるね一夏君」


陽炎 ~ 酔娘 ~

Ichika View

 

「兄さん、簪~、お風呂あがったよ~」

 

マドカが風呂から出てきて冷蔵庫に直行する。

目的は毎日の如く牛乳だろう。

だが、幾ら家の中でもバスタオル一丁で歩き回るのは辞めてもらいたい。

目のやり場に困る、そして簪が俺の背中をつねっているのだから、俺にはどうしようもない。

 

「マドカ、寝間着をとっとと着ろ」

 

「え~、折角の実家なんだし、私と兄さんの間柄だから大丈夫でしょ~」

 

俺の精神が現在ガリガリと削られているんだ。

少しはこっちの身にもなれ。そしてとっとと服を着ろ。

 

「これが簪だったらどうするのかな~兄さん?」

 

「あぅ…っ!?」

 

なんつー切り返しをしてくるんだ、マドカは。

簪が真っ赤になってるぞ、俺の背中を抓ったままの状態で。

痛い、痛い、痛い、痛い、そろそろ離してもらえませんか簪さん?

だが、マドカと同じ格好をしている簪を想像してしまった。

いやいやいやいや、心頭滅却!

簪からの評価を落としてしまうわけにはいかない、こういう時には…どうするべきか。

 

「いや、簪はそんなことをしないだろ」

 

ギリギリギリギリ

 

痛い、痛い、痛い、痛い!

簪さん?

言いたいことがあるなら言ってもらえませんか?

『拳で語れ』だなんて俺には無理ですからね。

だから背中を抓るのを辞めてもらえませんか?

しかも両手でやってますよね?

痛いですからもう辞めてくれ!

そしてマドカ!

お前は絶対に楽しんでるだろ!?

顔を真っ赤にしているのは羞恥からか怒りによるものなのか…?

…多分、前者だな。

そう思おう、思うべきだ、べきであってほしい。

 

「…私もお風呂に入ってくる」

 

「ごゆっくり…」

 

俺はそのまま見送ることにした。

今頃俺の背中には抓られた跡が残っているかもしれない。

別に確認するつもりは無いが。

しかし…簪がマドカのマネをしたりしないだろうな…不安だ。

 

「じゃあ私は先に部屋に戻るね!」

 

「いいからとっとと服を着ろ」

 

バスタオルのまま二階に上っていくマドカから視線を外し、居間に目を移す。

…アイツら…後片付けをほっぽって行きやがったか。

そして片付けるのは俺なんだよな、まあ、仕方ないけど。

ちゃっちゃと片付けるとしようか。

受け皿にナイフにフォーク、箸に鍋と洗うものは多いが、俺にとっては慣れた作業だ。

洗剤を適量使い、洗い物を片付け、布巾で綺麗に拭いては戸棚に戻していく。

こういう事も千冬姉は苦手だったんだよなぁ。

家事全般を教えようと思ったけど、ちゃんと覚えきれるのだろうか。

もしかしたら、今後は俺が扶養するようになったりして

 

「いやいや、考え過ぎか」

 

食器の片付けも終えて、テレビの電源を入れてみる。

この時期にはお似合いのホラー話をやっているようだ。

こういうのは簪は苦手だったな。

 

「更識家に下宿させてもらっていた時には、こういう番組を見てたら簪が半泣きになってチャンネルを変えてたっけな。

懐かしいなぁ…」

 

別のチャンネルを確認してみよう。

…最初に目に映ったのは天気予報、ここら辺は…快晴か。

これまた助かった。

 

「い、一夏ぁ…」

 

簪の声が聞こえてきた。声がするのはバスルームの方だ。

そういえば入浴中だったんだな。

だが何故だろうか?

声が随分と弱弱しい。

 

「どうした?」

 

「バ、バスタオル、無い?」

 

 

…Whats?

バスタオル?何故?

よもやまさかの簪さんもバスタオル一丁に挑戦ですか?

あまりの事態に俺は頭を抱えることになった。

まさか簪がマドカのマネをしようなどとは…

 

「あ、あのなぁ、簪…」

 

「ち、違うから!

マドカのマネじゃないから!

着替えをマドカの部屋に置きっぱなしにしちゃったの!

さっきまで着てたものも洗濯機に入れて…その…着るものが無くて…」

 

うっかりしてしまっていた、と。そういう事か。

簪もこういう時があるんだなと思うと、少しだけ表情が綻んだ。笑いをかみ殺しておかないとな。

扉一枚の向こう側、脱衣場では簪が真っ赤になっているかもしれない。

 

「ちょっと待ってろ、マドカに言って簪の着替えを持ってきてもらうから…と、思ったんだが、もう10時過ぎてるからマドカも眠ってるか。

分かった、バスタオルを持ってくる」

 

俺が簪の着替えを持って来ようものならヤバイ事になりそうだし、ここはバスタオルを持ってくるとしよう。

えっと…バスタオルは、と。お、有った有った。

 

「持ってきた、開け…るわけにはいかないな、ドアの前に置いておくからな」

 

「ありがとう、一夏」

 

バスタオルを床に置き、俺はその場を離れる。

マドカもそうだが、簪が体を冷やしてしまうのを看過出来るわけも無い。

なので俺は一旦部屋に戻り、別の上着を用意する。

 

「簪!」

 

居間に戻ると、簪はバスタオル一丁で冷蔵庫に直行していた。

…うん、風呂上りに牛乳を飲むのは知ってます。

俺も何回か見た事があるから。

それでもバスタオル一丁で部屋を歩く簪は見たことがなかった。

 

「ふぅ…冷えてて美味しい…あ、一夏、牛乳もらったよ」

 

「…ああ、それは分かったし、構わない。

だが目のやり場に困るからこのジャケットを羽織るなりしてもらえないか?」

 

「あぅ…そうでした…」

 

ジャケットを羽織っている間は俺も目を反らす。

心頭滅却、鋼の精神を持て!

 

「い~ち~かぁ~♪」

 

…嫌な予感がした。

背中に軽い衝撃、そして物凄い柔らかい感触、そして背後から細い腕が回され、俺の首元をぎゅぅっと抱きしめてくる。

後ろにいるのは簪を於いて他には居ない。そしてこの柔らかい感触は簪の…って、うわぁっ!?

 

「えへへ~、い~ち~かぁ~、あったか~い…」

 

今、千冬姉はこの家には居ない。それだけが救いだ。

だが…簪のこの状態って…間違いなく酔っ払っている。

なんでだ?原因は冷蔵庫から取り出して飲んでいたものだが…牛乳の筈。

もしかして間違えて牛乳以外のものを飲んでしまった、とかか?

えっと…

 

Q.冷蔵庫には何が入っている?

A.食料品と飲料品

 

Q.飲料品とは?

A.俺はミネラルウォーターと牛乳とお茶しか買いません

 

Q.ほかに飲料品を買ってくる人はいますか?

A.居ます、マドカと千冬姉です

 

Q.どんな飲料品ですか?

A.マドカは牛乳、千冬姉は…

 

「カクテルか…!」

 

それこそ時折に千冬姉はカクテルを買ってくる。

いつもはビール派なのに…。

そういえば今日のお昼に冷蔵庫に瓶に入った何かを入れていたが、アレがカクテルだったのか…!

 

簪が誤ってそれを飲んでしまったんだろう。

非常にヤバイ状況です!

メーデー!

緊急事態です!

至急救援をお願いします!

なんて現実逃避したところで目の前ならぬ背後の状況が変化するなんてことはあり得ないわけで、ってどうしろってんだよ!?

それにしても…簪はアルコールに弱かったんだな…新しい発見…って現実逃避している場合じゃないだろ俺!?

 

「…許せ、簪!」

 

「…うぁ…」

 

手刀を簪の首元に振るう。

これにて本日四回目だ。

慣れたものだ。

しかし、問題は此処からだった。

 

「…外れない…」

 

簪の両腕が固まっているかのように動かない。

…もしかして一晩中このままですか?

『そういう事』を知らないわけじゃない。

だが酔って眠った相手を襲うのはただの馬鹿野郎だ、俺はそんな事はしない。

…なので…

 

「よいしょっと」

 

そのまま負ぶって二階に運ぶことにした。マドカは無理に起こすと怒るから、俺の部屋に運ぶほか無かった。

だが運んだ後はどうする?

…簪の腕が外れないんだ、同じベッドで眠る他に無いだろう。

千冬姉、今度からは自分の部屋にクーラーサーバーを用意してくれ、そうでないと俺がとんでもないことになってしまいますから。

 

「…このまま一晩過ごせってか?

耐えてやろうじゃねぇか…最終手段を使ってでもな!」

 

最終手段、自分の首に手刀を振り下ろして自ら気絶するという何とも馬鹿馬鹿しい手段だった。

絶対に誰もマネをしないでほしい。

 

 

 

Kanzashi View

 

「はれ?…此処、どこ?」

 

目がボンヤリとする。目の前には見覚えのある黒い髪。見覚え、というか見慣れた人が居た。つまり…一夏が。グッスリと眠ってる、よね?

 

「何だかスースーする…」

 

今度は自分の格好を見てみる。一夏のジャケットに…バスタオル。…バスタオル!?

 

「~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!????????????」

 

WHY!?

な、なんで!?なんでこんな恰好で私は寝てるの!?

それも一夏に抱きつくような形で!?

もしかして私と一夏は…あぅ…し、してない、よね?

まだしてないよね!?

バスタオルはしてるけど乱れてないし、か、体だってどこも痛くないし!

で、でも!

なんでこんな恰好をしてるの私は!?

き、昨日の夜は…牛乳を飲んで…一夏にジャケットを貸してもらって…なんでそこから先の事を何も覚えてないの!!!???

 

「あ、あぅ…」

 

思考がショートしてきた…

 

 

 

 

Ichika View

 

…目が覚めたが…起きても大丈夫なのだろうか?何やら背後で簪がショートしているようだが…いや、どのみち起きなければいけないんだ、ごまかすのは此処で終わらせてしまおう。

 

「くぁ…よく寝た…」

 

そう決めてから、とっとと起きることにした。

 

「いいいいいいいいい一夏!?なななななななななな何がどどどどどどどどどどどうなってるの!?」

 

まあ、その姿じゃ当然の疑問だよな。

ジャケットを羽織らせるまでは良かったが、それまでバスタオル一丁だったんだからな。

説明しないと混乱はいつまで経っても治らないだろう。

今後、簪とぎこちない関係だなんて俺は嫌なんだし。

 

「簪、昨晩牛乳と間違えて千冬姉のカクテルを飲んでたんだよ。

それで酔っ払って寝たんだ。

部屋へ運ぼうと思ってたら後ろから抱きつかれて離してくれなくてな。

で、今に至る訳だ」

 

「そ、そうなの!?」

 

「俺は簪には嘘は言わない」

 

その言葉は本当だ。

だとしても、だ。この状態はヤバイだろう。

しかも簪は思考回路がショート寸前だ。

先ほどから慌ただしく両手をバタバタと動かしている。

その結果、お互いの指先が触れただけでも簪は

 

「ヒャワワアアアァァァァッッ!!??」

 

パニックに陥った。

だが、暴れすぎたのが仇になったのだろう。

体に巻きつけたバスタオルが限界を迎え

 

バサリ

 

バスタオルが落ちた。

 

…三度目の修羅場だった…。

 

「ひああああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!??」

 

「う、うお!?」

 

やべ…見てしまった…。

だが時既に遅し。

上から下まで(・・・・・・)見てしまった。

 

「す、すまん…」

 

今になってようやく回れ右。

数秒後、簪が布団の中にこもる音がした。

 

「み、見た…!?」

 

「…すまん…上から下まで全部見た…」

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」

 

背後には半裸ではなく全裸の簪が居る。

ならどうする?

俺は自分の着替えを鷲掴みにしてとっとと部屋を抜け出すしかない。

移動した先でそそくさと着替えてしまう。

そのまま朝食準備に入った。

我ながら凄ぇ鋼鉄メンタルだと思う。

IS学園での生活にすっかり慣れてしまっているようだ。

女子と相部屋になっても何事もなかったかのように…今回は振る舞えてなかったかな。

朝食は…トーストにするか。

ドリンクは牛乳でいいかな。

間違ってもカクテルには手を出さない。

俺には見分けがついている。

フライパンに油を落とし、それを広げる。

そこにハムと卵を入れる。

俺特製のハムエッグだ。

トースターにパンを入れて、きつね色の焼目がついたら皿に載せる。

後は…茹でキャベツも一緒にしてこれにて完成だ。

 

「おはよ~、兄さん」

 

「お、おはよう…一夏…」

 

「二人とも、おはよう。

朝食の準備は出来てるぞ、冷めないうちに食べてくれ」

 

マドカはまだ寝ぼけ眼、簪は顔も耳も首まで真っ赤だ。

先ほどの件が相当に恥ずかしかったと見える。

…悪いことをしてしまったと本気で思う。

目が合うと…

 

「~~っっ!!」

 

真っ赤になって反らす。

…おいおい…。

 

「…簪と兄さん、何かあったの?」

 

「無いから!

特に何もなかったから!」

 

そこまでこっぴどく否定されてもな…。

ってーか、臨海学校でも似たようなことがあったんだが…それに関しても口を閉ざしておくべきだろう。

よし、俺と簪の間だけの秘密にしておこう。

 

それで、いいか

今日はもうこの家を空けるつもりなんだし。

 

 

朝食を食べ終えてからは、衣服の整理をしてから出かけることになった。

出かける先は更識家の道場だ。

今日も鍛えてもらうとしようか。

 

 

 

Kanzashi View

 

これは今回が初めてというわけじゃない。

臨海学校でも同じようなことがあった。

あのときには本音の悪戯で全裸を見られてしまったけれど、今回は私のミスだった。

一夏が言うには、千冬さんのカクテルを誤って飲んでしまった後、そのまま寝てしまったらしい。

しかも、一夏に抱きつくような形で…。

 

「私、どれだけ寝相が悪いんだろう…?」

 

臨海学校や、学園ではそんな事はなかった筈なのに…。

気の緩みだとか、そんな類のものなのだろうか…?

どのみち、一夏に悪いことをしてしまった…。

というか15歳で男の子に全裸を見られてしまうだなんて…

 

「あぅ…お嫁にいけない…」

 

「安心しろ、貰い手なら此処に居る」

 

そう言って一夏は私の頭をやさしく撫でてくれていた。

でも…やっぱり恥ずかしい…!




刃を振るう

両手の重みは決意の重み

今日も今日とて彼はそれを振るい続ける

ただ一点の高みを目指し続けて

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 頂願 ~』

そんなTHE・寝言なんか言ってる場合かぁっ!

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