IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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皆はどんな料理を作ってくれたのでしょうね。

セシリアだけハブられていますが…。


陽炎 ~ 夏夜 ~

Ichika View

 

セシリアを肩に担いで運び、その間に皆は支払を済ませる。

材料を見て各々がどんなメニューを考えてみようかと思ったが、辞めておく。

楽しみは後に取っておくものだ。

 

「ラウラ、何処に行っていたんだ?」

 

買い物の途中、ラウラは急に姿を消していた。

物騒なことにはならないとは思うが、少々心配をしていた。

蒟蒻を探してくると言って姿を消したきりだったからな。

 

「蒟蒻を探していたんだ、クラリッサから教えてもらった料理を作ってみようと思ってな」

 

副隊長から料理を伝授、か。

…ダメだ、殊更に心配になってきた。

蒟蒻を使って何を作るつもりなのかは知らないが…。

そもそも左目をふさいでいる状態で包丁を使えるものなのだろうか?

それも含めて心配だ。

 

「材料のカットなら問題はいらない。

蒟蒻とてコレで捌いて見せよう」

 

そう言ってラウラが見せたのはドイツ軍御用達のコンバットナイフ。

それで野菜を切るつもりらしい。

問題ないとは言うが…問題しかなかった。

頭が痛い。

 

「ラウラ、ちゃんとした包丁を使え」

 

「大丈夫だ、鹿とてコレで捌けるんだ、切れ味には何の問題はない」

 

問題はそこじゃねぇよ。

だが野菜を切る技術には問題は無さそうだし、包丁を使えるように料理を教えてみるかな。料理の腕もそこそこ自信があるみたいだし、それに関してはセシリアみたいな過剰なものでもないみたいだ。

 

 

セシリアを肩に担いだまま俺たちは帰路に着く。

それぞれ料理をするのが楽しみなんだろう、顔が綻んでいる。

この調子なら料理もいいものを作れそうだ。

俺も何か作ろうかとは思ったのだが、昼に蕎麦を作ったのだからとストップを掛けられたのが少しばかり悔しい。

織斑家の台所は俺の独壇場だったのだが、今ではマドカや簪も出入りしている。

今後も今回のような機会があれば友人が出入りするのかもしれない。

まあ、それも悪くなさそうだ。

簪の調理は順調だ、醤油や味醂を使って程よい香りが漂ってくる。

マドカはスーパーに入る直前に叫んでいたシーフードサラダを作っているんだろうな。

シャルロットが作っているのは何だろうか?

フランスの料理には詳しくはないから予想しづらい。

鈴は…これまた分かりやすい、豚バラ肉の生姜焼きだな。

 

「兄上、完成したぞ!」

 

「ん?これは?」

 

ラウラが作ったものは至ってシンプルだった。

シンプル・イズ・ベストと言っても差し支えは無さそうだった。

温めた蒟蒻、茹でた鶏卵、ハンペンを串に刺したもの。

漫画とかでよく見る『おでん』だ

 

「『おでん』だ」

 

…やはりラウラはクラリッサ・ハルフォーフ副隊長からの洗脳をマトモに受けてしまっているようだ。

たったこれだけのものを『料理』と言うのだから。

 

「『おでん』だ」

 

「繰り返さなくていい、理解はしている」

 

ラウラにはちゃんとした料理を教えてやる必要がありそうだ。

 

 

 

「で~きた!」

 

次に仕上がったのはシャルロットだった。

居間に持ってきたのは鍋だった。その中身に入っているのは

 

「お母さん直伝、『ポトフ』だよ」

 

「これはまた美味そうだ」

 

「見た目も華やかだ、流石だシャルロット」

 

ラウラにまで誉められ、シャルロットはご満悦だ。

ポトフは俺も挑戦したことのない料理だ、今度調べてみるか。

 

 

「はいは~い、おまちどうさま~♪アタシ特製の豚バラ肉の生姜焼きよ~♪」

 

生姜焼き特有の香りが漂う。これは白米が欲しくなってくるな。

 

「ラウラ、つまみ食いはしちゃダメ!」

 

「…む…」

 

ラウラは軍人としては優秀なんだが…メンタル面は子供のようだった。

鈴やマドカとはまた違った方向で目を離しておけないな。

当面はシャルロットに世話を任せておくべきだろうか。

頼んだぞルームメイト。

 

 

「兄さん、出来たぞ!」

 

「私も完成!」

 

「完成です!」

 

マドカと簪とメルクが最後にキッチンから飛び出してきた。

マドカはやはりシーフードサラダだ。

海藻を水で戻しただけでなく、マグロやサーモンなどをこれまた丁寧にスライスしてのせている。

更にはエビをボイルしたものも入っているので、見た目も華やかだ。

 

簪が作ってくれたのは、日本お馴染みの料理、肉じゃがだ。

じゃが芋に十分に味が染み込むまでコトコトと煮込むのがコツだ。

 

メルクが作ったのはパスタだった。

アサリ、イカ、エビ、カニ、ムール貝、ホタテなどをトマトソースを使って調理している。

イタリアの港町で名が知られている魚介とトマトソースのパスタである『ペスカトーレ』のようだ。

珍しい料理だな。

 

「この料理も美味そうだ。これで全員の料理が揃ったな、じゃあ実食を始めようぜ」

 

 

 

Kanzashi View

 

人数分の取り皿を用意して早速食事に入ることにした。

その瞬間に

 

「わたくしも料理をぉぉ!」

 

…セシリアが目覚めた。物凄いタイミングだった。

 

「あ、あら?此処は…一夏さんの家」

 

「私の家でもあるんだが?」

 

マドカのセリフはもっともだったけれど、事態が呑み込めていないのかマドカの言葉が耳に入っていないらしい。

 

「わたくしたち…スーパーに出向いていた筈ですのに、何故?」

 

…なんて言えば良いんだろう、一夏が気絶させただなんて言っても絶句してしまうだけだろうし…。

一夏に視線を向けてみる、彼は目で『任せろ』と言ってくる。

 

「貧血で倒れたんだろ、あれだけ大きな声を出していたんだ、貧血起こしたって思っとけ」

 

堂々と大嘘を言っていた。

これで信じるのだろうか?

 

「でしたら…誰が此処までわたくしを運んでくださったのですか?やはり一夏さんが?」

 

「ああ、肩に担いで帰った。

シャルロットと同じような感じでな」

 

…シャルロットもあんな風に担がれたことがあったんだ…。

仰向けの姿勢で肩に担がれてたけど…体は痛くないのかな?

背骨とかに悪いと思うんだけど…。

 

「…そ、そうでしたの…わざわざ運んでくださって感謝しますわ」

 

「ねえ簪、ただ単に一夏の評判が悪くなるかもしれなかっただけよね、アレって」

 

「うん、だと思う」

 

嘘も方便とはよく言ったものだと思う。

これでもセシリアの中では一夏の株価が急上昇したんだろうなぁ。

 

 

そんなこんなで実食に移る。

 

ラウラのおでんは本当にシンプルだったので、一人一本を食べることになった。

でも、皆は辛子は苦手だったので、一夏以外は使わなかった。

 

メルクが作ってくれたペスカトーレはみんなからしても珍しいらしく、貝の身をトマトソースに浸して食べたりするとまた美味しかった。

魚介類とトマトソースの組み合わせは一夏にとっても意外だったらしく数秒ではあるが動きが止まっていたのには驚かされた。

 

シャルロットが作ったポトフは何だか優しい味がした。

胡椒が少しだけ効いていて、食欲が湧いてくる。

 

マドカのシーフードサラダは、特製のドレッシングを使うことで、また深い味わいに変化する。

うん、とても美味しい!

 

鈴が作ってくれた豚バラ肉の生姜焼きは、白米が欲しくなる。

そう思った矢先にご飯を一夏が用意してくれる。

ご飯と一緒に食べるとまた美味しく感じた。

 

私が作った肉じゃがも、皆には大好評だった。

ついついお代わりを要求してくる人(特に一夏)が居るから、すぐにお鍋の中身が空っぽになった。

でも…そのあとのマドカのセリフが新たな諍いの原因になってしまうとは思わなかった。

 

「ねえ簪、美味しい肉じゃがを作れる女性はと嫁入り先に困らないって話を聞いたことがあるんだけど、それって本当なの?」

 

そう、その一言で空気が凍りついた。暖かいお茶を飲んでいた筈なのに…。

シャルロットとセシリアの視線が冷たくなって私に突き刺さった。

…正直、怖い。

 

「あれ?私、何か余計な事を訊いちゃった?」

 

「…だな…さて、どうしたものか…」

 

そんな事を言う暇があったら助けて…。

 

「セシリア、シャルロット、ちょっと待った」

 

不意に立ち上がったのは、私の隣に座っていた一夏だった。

 

 

 

Ichika View

 

さて、立ち上がったまでは良いんだが…どう言って聞かせるべきかな。

ここから先は何も考えてなかったな。

どうしようかなぁ…。

でもこのままじゃ簪が泣いてしまうだろうし、そればかりはお断りなんだよなぁ。

 

「いつからか語られ始めた日本の風習の一つだ。

こういう話は各地にあるぞ、『味噌汁』だとか『漬物』だとか他には…そうだな、『カレー』とかな。

そもそも好みの味は人によって千差万別だ、特定の料理だけを食べるわけでもないんだからな、よくある話のひとつでしかないんだ」

 

 

まあ、俺は肉じゃがは好きだけどな。

それに簪が作ってくれた肉じゃがになると、優しい味がするから正直に言うと好みの味だ。

 

「でしたら一夏さんは今回、簪さんが作った肉じゃがはどうでしたの?」

 

ぐおっ!?そこを突いてきやがったか…!

 

「一夏は何度もお代わりしてたよねぇ…?」

 

シャルロットも何やら顔が笑っていても目が笑っていない。凄ぇ芸達者だな。

…これ以上は面倒だ、この事態を片付けるには事の発端であるマドカに…。

 

「私、お風呂入ってくるね!」

 

…視線を合わせた直後に逃げられた。ならばラウラ!

 

「もうそろそろ行かなければホテルにチェックイン出来そうにないな、兄上、これにて失礼する」

 

「アタシも行くわ!」

 

「私もです!

すみませんお兄さん!

後片付けを押し付けるようなことになっちゃって!」

 

ラウラ、鈴、メルク、お前たちも逃げるのか…?

で、目の前には黒い微笑みを浮かべるシャルロットとセシリアの二人が迫る。

俺に『恐怖』の感情が戻ってなくてよかった、そうでなければ、足が竦んで動けなかっただろう。

 

つまり、こういう場合は…非常に失礼だとは思うが

 

「二人とも、足元に蜘蛛が居るぞ」

 

「ええぇぇぇっ!!??」

 

「い、いやあぁぁぁぁっっ!!!!」

 

二人が悲鳴をおげている合間に手刀を首に振り下ろした。

 

「やれやれ、面倒だった…」

 

それにしてもこの二人、ちゃんと訓練を受けているのかどうか怪しくなってきたぞ…?

いくら動転していたからと言って、俺の接近に気付かない、一瞬で気絶させるのも容易だし…。

これが代表候補で大丈夫なのか、フランスとイギリスは…?

 

そして気絶させた二人を鈴とラウラに押し付けた。

二人から妙な視線を向けられたのは…気のせいではないだろう。

メルクは苦笑をしているだけだったが…まあ、いいか。

明日は早朝から家を空けるとしよう。

まあ、鈴なら俺が向かう場所はわかるだろうけれども。

 

「なんだか騒がしかったね、一夏」

 

「だな、この家にあれだけの人数が集まったのは久しぶりだった」

 

最後に集まったのは…鈴が中国に帰る直前だったな。

あの時には皆が揃って集合写真を撮った。俺と簪を中心にして、千冬姉、鈴、弾、数馬、虚さん、のほほんさん、楯無さん、皆で撮った写真は今も大切に飾っている。

俺としても大切な思い出だ、絶対に忘れないだろう。近いうちにまた皆で写真を撮ってみよう。

 

もっとも、カメラのフレームに全員が収まりきるかどうかはまた別の問題になってくる。

まあ、その時がいつになるのかも判ったものではないけどな。

その時には俺は写真の片隅にでも移っていよう。

 




皆で過ごすのも悪くはない

だが、二人きりの時間も悪くはない

それも時と場合と状態にもよるのだが

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 酔娘 ~』

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